福岡地方裁判所 平成6年(行ウ)27号 判決 1995年9月27日
福岡県筑紫野市大字武蔵四八二番地の二
原告
アンデルセン薬局有限会社
右代表者代表取締役
高野英子
右訴訟代理人弁護士
丸山隆寛
同
藤井信孝
福岡県筑紫野市大字二日市七〇八番地五
被告
筑紫税務署長 三島孝司
右指定代理人
大西勝滋
同
阿部幸夫
同
福岡久剛
同
岡本修一
同
石橋一男
同
田島敏行
主文
一 原告の請求をいずれも棄却する。
二 訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第一請求
被告が原告に対して平成五年三月二二日付けでした平成四年八月一九日から同年一〇月三一日までの課税期間分の消費税についての更正処分及び過少申告加算税賦課決定処分を、いずれも取り消す。
第二事案の概要
本件は、被告が原告の消費税の還付を求める確定申告に対して更正処分及び過少申告加算税賦課決定処分をしたため、原告が右各処分の取消しを求めた事案である。
一 争いのない事実等
1 当事者等
原告は、平成四年八月一九日、医薬品小売、保険調剤等の営業を目的とする有限会社として設立された。
原告は、平成四年一〇月一五日、建物を一三三九万九〇二九円で取得して消費税四〇万一九七〇円を、同月三一日、車両を一〇二万七一八五円で取得して消費税三万〇八一五円をそれぞれ支払い、また、同年八月一九日から同年一〇月三一日までの課税期間(以下「本件課税期間」という。)に貯蔵品の購入、販売費及び一般管理費に係る消費税として六万四五六七円を支払った。
2 本件各処分
原告は、平成四年八月三一日、消費税法(以下「法」という。)九条一項本文の適用を受けない旨を記載した消費税課税事業者選択届出書(乙一)を提出したうえで、法定申告期限内である平成五年一月四日、本件課税期間分の消費税につき、被告に対し次のとおり確定申告をした。
課税標準額 〇円
消費税額 〇円
控除対象仕入税額 四九万七三五二円
控除不足還付税額 四九万七三五二円
差引税額 〇円
資産の譲渡等の対価の額 二〇万五九一九円
課税資産の譲渡等の対価の額 〇円
これに対して、被告は、平成五年三月二二日、以下の内容の更正処分(以下「本件更正処分」という。)及び過少申告加算税額を四万九〇〇〇円とする過少申告加算税賦課決定処分(以下「本件賦課決定処分」という。)をした(甲一。以下、本件更正処分と本件賦課決定処分をあわせて「本件各処分」という。)。
課税標準額 〇円
消費税額 〇円
控除対象仕入税額 〇円
控除不足還付税額 〇円
差引税額 〇円
納付すべき税額 四九万七三〇〇円
3 異議申立て
原告が、平成五年四月一二日、被告に対し、本件処分についての異議申立てをしたところ、被告は、同年五月二八日付けでこれを棄却する旨の決定をした。
4 審査請求
原告が、平成五年六月一六日、国税不服審判所長に対し、本件処分についての審査請求をしたところ、同所長は、平成六年六月二三日付けでこれを棄却する旨の裁決をし(乙二)、右裁決書謄本は、同年七月六日、原告に送達された。
5 関係法令
(一) 消費税法関係
法三〇条一項によれば、消費税の納付税額は、課税期間中の課税標準額に対する消費税額から、その期間中の課税仕入れ(法二条一項一二号)及び課税貨物(法二条一項一一号)(以下、あわせて「課税仕入れ等」という。)に係る消費税の合計額を控除して計算するが、課税期間における課税売上割合(課税資産の譲渡等の対価の額の合計額が資産の譲渡等の対価の額の合計額に占める割合をいう。法三〇条六項)が九五パーセントに満たないときは、同条二項により、課税期間中の課税仕入れ等について、課税資産の譲渡等にのみ要するもの、課税資産の譲渡等以外の資産の譲渡等にのみ要するもの及び課税資産の譲渡等とその他の資産の譲渡等に共通して要するものにその区分が明らかにされている場合には、一号イ及びロに規定する方法(以下「個別対応方式」という。)により、それ以外の場合には、二号に規定されている方法(以下「一括比例配分方式」という。)により、控除対象仕入税額を計算する。
ただし、同条四項によれば、同条二項一号に当たる場合でも当該事業者の選択により一括比例配分方式によることができる。
一括比例配分方式による控除対象仕入税額の計算は、当該課税期間中の課税仕入れ等に係る課税仕入れ等の税額の合計額に課税売上割合を乗じて計算する方法による(同条二項二号)。
また、法三三条によれば、事業者が、調整対象固定資産(法二条一項一六号)の課税仕入れ等の税額につき一括比例配分方式等の比例配分法(法三三条二項)で仕入控除税額の計算を行った場合(全額を仕入控除税額として控除した場合を含む。)において、その計算に用いた課税売上割合がその取得した日の属する課税期間以後三年間の通算課税売上割合と比較して著しく異なるときには、その仕入れ等の日の属する課税期間の開始の日から三年を経過する日の属する課税期間(以下「第三年度の課税期間」という。)の末日において当該調整対象固定資産を保有している場合に限って、第三年度の課税期間において、仕入控除税額について調整を行うこととされている。
(二) 国税通則法関係
(1) 更正
税務署長は、納税申告書の提出があった場合において、その納税申告書に記載された課税標準等又は税額等の計算が国税に関する法律の規定に従っていなかったとき、その他当該課税標準等又は税額等がその調査したところと異なるときは、その調査により、当該申告書に係る課税標準等又は税額等を更正する(国税通則法二四条)。右更正は、税務署長が更正通知書を送達して行なう(同法二八条一項)。
右更正通知書に記載すべき事項は、同法二八条二項に定められており、そのうち同項三号イからハまでについては以下のとおりである。
イ その更正前の納付すべき税額がその更正により増加するときは、その増加する部分の税額
ロ その更正前の還付金の額に相当する税額がその更正により減少するときは、その減少する部分の税額
ハ 純損失の繰戻し等による還付金額に係る五八条一項(還付加算金)に規定する還付加算金があるときは、その還付加算金のうちロに掲げる税額に対応する部分の金額
右イないしハは、同法三五条二項二号において、かっこ書きで「更正により納付すべき税額」とまとめられ、納税者は、右税額を更正通知書が発せられた日の翌日から起算して一月を経過する日までに納付しなければならないとされている(同条二項)。
(2) 過少申告加算税の賦課
期限内申告書(還付請求申告書を含む。)が提出された場合において、修正申告書の提出又は更正があったときは、当該納税者に対し、その修正申告又は更正に基づき国税通則法三五条二項の規定により納付すべき税額に一〇パーセントの割合を乗じて計算した金額に相当する過少申告加算税が課される(同法六五条一項)。
二 争点
1 本件更正処分の違法性の有無
(ある課税期間における課税売上割合が九五パーセント未満の場合に、調整対象固定資産の仕入れに係る消費税額を、その仕入れをした日の属する課税期間において全額控除することが許されるか否か。)
(一) 原告の主張
法三〇条一項によれば、固定資産と一般消費財とを問わず、課税仕入れに係る消費税額は、原則として仕入れた日の属する課税期間において、仕入税額控除の対象とされる。
また、法三三条一項によれば、仕入税額控除を比例配分法により計算している場合には、調整対象固定資産の仕入れをした日の属する課税期間の課税売上割合が九五パーセント以上であっても、また、それ未満であっても、調整対象固定資産について、その後の年度における課税売上割合の変動などの所定の要件を満たす限り、第三年度の課税期間において、仕入れに係る消費税額を調整することとされている
したがって、本件課税期間における建物、車両等の仕入れに係る消費税額四九万七三五二円については、いったん本件課税期間において全額控除し、その後、課税売上割合の変動があれば、第三年度の課税期間(平成五年一一月一日から平成六年一〇月三一日まで)において所要の調整を行えば足りる。
以上により、原告が控除対象仕入税額が四九万七三五二円である旨申告したのに対して、控除対象仕入税額を〇円とした本件更正処分は違法である。
(二) 被告の主張
原告の本件課税期間の課税売上割合は〇パーセントであり、九五パーセントに満たないので、法三〇条二項によれば、本件課税期間の課税仕入れ等に係る消費税を全額控除することはできない。
原告は、一括比例配分方式を選択しており、右方式によると、原告の課税売上割合は〇パーセントであるから、控除対象仕入税額も〇円となる。
また、法三三条は第三年度の課税期間における調整の規定であって、原告が主張するような調整対象固定資産を仕入れた日の属する課税期間における調整の規定ではないので、本件課税期間においては、当該調整対象固定資産についての控除税額の調整を行うことはできない。
したがって、控除対象仕入税額を〇円とした本件更正処分は適法である。
2 本件賦課決定処分に固有の違法性の有無
(本件において、過少申告加算税の算出の基礎となる「更正に基づき同法(国税通則法)三五条二項の規定により納付すべき税額」(同法六五条一項が存在するか否か。)
(一) 原告の主張
消費税は、課税期間中の課税資産の譲渡等の対価の額(課税標準額)に税率を乗ずることにより得られる売上税額から、課税期間中の仕入れに含まれていた税額、すなわち仕入税額その他を控除することによって算出される(法四五条、三〇条一項)。したがって、消費税の納税義務の成立は課税資産の譲渡のときである。
原告には、本件課税期間において課税資産の譲渡がなく、もともと消費税の納税義務自体がなかったのであるから、本件更正処分により還付金の額は減少したものの、右還付金額の減少に対応する消費税額はない。また、本件更正処分によっても、原告の還付請求が否認されただけであり、そのことにより消費税につき「納付すべき税額」が新たに発生するものではない。
したがって、本件において、国税通則法六五条一項にいう「納付すべき税額」は存在しないはずである。
以上により、原告の消費税還付申告に対して、被告が過少申告加算税を賦課したことは違法である。
(二) 被告の主張
国税通則法六五条一項によれば、期限内申告に対する更正等があった場合には、「同法三五条二項の規定により納付すべき税額」に一定の割合を乗じた額の過少申告加算税が課されるものとされる。
そして、右「同法三五条二項の規定により納付すべき税額」とは、本件のように更正がなされた場合には、更正通知書に記載された同法二八条二項三号イからハまでに掲げる金額ということになるから(同法三五条二項二号)、法二八条二項三号ロに規定されるとおり、「その更正前の還付金に相当する税額がその更正により減少するときは、その減少する部分の税額」についても、過少申告加算税賦課の基礎となる税額として予定されていることになる。
また、そもそも過少申告加算税の制度は、申告納税制度の下において、適正な申告をしない納税者に対して一定の制裁を加えることによって申告秩序の維持を図ることを目的としたものであるから、税額を過少に申告した場合のみならず、本件のように過大な還付請求を申告した場合にも当然に適用される。このことは、国税通則法六五条一項が「期限内申告書」に「還付請求申告書」が含まれることを規定していることからも明らかである。
以上のように、本件賦課決定処分は、本件更正処分によって減少した還付金に相当する税額を基礎として過少申告加算税を賦課したものであり、「同法(国税通則法)三五条二項の規定により納付すべき税額」が存在するから、なんら違法ではない。
第三争点に対する判断
一 争点1について
1 法三〇条は、一項において、課税期間の課税仕入れ等に係る消費税額(全額)を控除することを定めつつ、二項において、その例外として、課税期間における課税売上割合が九五パーセントに満たない場合には、個別対応方式又は一括比例配分方式により控除すべき課税仕入れ等の税額を計算することを定めているところ、本件の場合、原告の本件課税期間の資産の譲渡等の対価の額は二〇万五九一九円、本件課税期間の課税資産の譲渡等の対価の額は〇円であって、課税売上割合は〇パーセントとなり、九五パーセントに満たないので、法三〇条二項が適用されることは明らかである。
2 また、法三三条は、調整対象固定資産の仕入れに係る税額控除の調整に関する規定であるが、それは調整対象固定資産を仕入れた日の属する課税期間から起算して第三年度の課税期間において調整することのみを定めており、それ以外の課税期間、殊に原告の主張するような当該仕入れが行われた日の属する課税期間における調整を認めておらず、他にそのような調整を認めた規定は存しない。
3 以上のように、原告の主張する調整対象固定資産の仕入税額控除の方法は法の根拠を有しないものであって、争点1に関する原告の主張は理由がない。
二 争点2について
1 期限内申告書が提出され、その後更正があった場合の過少申告加算税は、その更正に基づき国税通則法三五条二項の規定により納付すべき税額を基礎として賦課される(同法六五条一項)。そして、同法三五条二項二号は、同法二八条二項三号イからハまでに掲げる金額を「更正により納付すべき税額」とし、同号ロが「その更正前の還付金の額に相当する税額がその更正により減少するときは、その減少する部分の税額」と規定していることは前述のとおりである。
2 ところで、原告は、本件課税期間において原告には課税資産の譲渡がなく、もともと消費税の納税義務がなかったのであるから、本件更正処分による還付金の減少に対応する消費税額はない等の主張をするが、国税通則法三五条二項二号、二八条二項三号ロは、還付金が「国税に関する法律の規定による国税の還付金」であり(同法二条六号)、これに対応する国税の存在が予定されているところから、「還付金の額に相当する税額」の減少分を「納付すべき税額」としているのであって、この場合の「還付金の額に相当する税額」は、還付を受ける者を納税義務者とする税に係る場合が通常であるとしても、右規定の趣旨からすると必ずしも右の場合に限定されると解する必要はない。そして、法は、課税仕入れ等に係る消費税額の控除を認め(三〇条一項)、それが当該課税期間の課税資産の譲渡に係る消費税額を越える場合には、申告によりその控除不足分に相当する消費税を還付することを認めているが(五二条一項)、その還付を受ける者は右課税仕入等をした事業者であって、同税の納税義務者ではないところ、右還付申告が過大であった場合には、税務署長が更正により還付申告をした事業者に過大分の金額の納付を求めるべきことは当然であって、法が消費税の納税義務を負わない者に対して同税の還付を認めた以上、同じく同税の納税義務を負わない者に対して更正により、実質的には右還付金の返還であるところの減少した還付金に相当する同税額の納付を求めることは、法が当然に許容し、予定しているものと解すべきである。
3 したがって、被告が本件処分において、国税通則法六五条一項の「更正に基づき三五条二項の規定により納付すべき税額」を本件更正処分により減少した還付金の額に相当する税額である四九万七三五二円とした上で、過少申告加算税四万九〇〇〇円(同法一一八条三項により「納付すべき税額」の一万円未満の端数を切り捨てた額の一〇パーセント)を賦課したことに違法はなく、争点2に関する原告の主張は理由がない。
三 なお、原告は、過大な還付請求の申告により、現実に還付がなされた場合とそうでない場合とでは、申告納税制度により保護されるべき国家、社会の利益に対する侵害の程度に明らかな差異があるので、両者に対する取扱いを区別すべきであり、本件では、原告は現実に還付を受けていないので、過少申告加算税を賦課すべきでない旨主張する。
しかし、国税通則法六五条一項は、還付請求申告書が提出された場合において更正があったときは所定の計算方法による過少申告加算税を課すべきことを定めており、現実に右還付請求申告書のとおりの還付がなされたか否かを区別していない。
また、過少申告加算税の制度は、申告納税制度の下において、適正な申告をしない納税者に対して一定の制裁を加えることによって申告秩序の維持を図ることを目的としたものであるところ、過少な税額の申告又は過大な還付金の申告がなされているかぎり、現実に過少の税額の納税又は過大な還付金の還付がなされたか否かにかかわらず過少申告加算税を賦課することは、右申告秩序維持の目的に沿うものである。
以上により、過大な還付請求が申告された場合に、現実に還付金の交付がなされなかったとしても、過少申告加算税を賦課することは相当であり、原告の主張は採用できない。
四 さらに、原告は、原告が平成五年四月二一日付けで行った還付金充当(甲二)は、それに先立つ同年三月二二日の本件更正処分(甲一)によって消滅したはずの原告の還付金請求権と、もともと発生していない原告の消費税の納税義務とを充当関係に立たせようとするものであって、法的には全く説明のできない処分であり、かかる還付金充当の不可解さこそが、本件過少申告加算税賦課に関し被告において法令の解釈適用を誤ったことを象徴的に表すものである旨主張する。
そこで、検討するに、甲第二号証(国税還付金充当通知書)によれば、被告は、平成五年四月二一日付けで、原告の還付金請求権(還付金額四九万七三五二円)を、本件更正処分により納付すべき税額四九万七三〇〇円及び本件賦課決定処分により納付すべき税額の内金五二円の合計四九万七三五二円に充当した旨の通知をしたことが認められるところ、一般に還付請求申告書の提出により発生する還付金請求権が、その更正処分により消滅することを明示した規定はなく、また、本件更正処分により生じた「国税通則法三五条の規定により納付すべき税額」の納税義務は、原告に対する還付金の存在を前提として、その返還を求めることを実質とするものであるから、両者を対当額で充当関係に立たせることはなんら不合理ではない。したがって、被告の右還付金充当手続は、原告の主張するような、本件賦課決定処分における違法性を象徴するものと解することはできない。
五 以上のとおりであるから、被告の本件各処分は適法であり、本件各処分の違法性に関する原告の主張はいずれも理由がない。
(裁判長裁判官 寺尾洋 裁判官 長谷川浩二 裁判官 河村隆司)