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福岡地方裁判所 平成7年(わ)8245号 判決 1995年11月20日

裁判所書記官

佐藤雅幸

国籍

韓国

住居

福岡市東区若宮一丁目二二番二七号

会社役員

新井健一こと朴敬喆

一九五二年六月二一日生

主文

被告人を懲役二年及び罰金一億円に処する

右罰金を完納することができないときは、金二五万円を一日に換算した期間、被告人を労役場に留置する。

この裁判確定の日から四年間右懲役刑の執行を猶予する。

理由

(罪となるべき事実)

被告人は、福岡市博多区千代五丁目二一番五号等において、新井工業、新建工業及びライフワーク企画等の名称で、鳶・土木工事請負業及び労働者派遣業等を営んでいたものであるが、実際の所得金額に関係なく、ことさら過少な所得金額を記載した所得税確定申告書を作成、提出して自己の所得税を免れようと企て、売上金の一部を他人名義の定期預金等にするなどして所得を隠匿した上、

第一  平成二年分の総所得金額が二億二八五六万八七六二円(なお、これは一時所得としての四七一万九五五〇円を除いた金額である。別紙一の1の修正損益計算書・自平成2年1月一日至平成2年12月31日参照)で、これに対する正規の所得税額が一億〇九六二万八〇〇〇円であったにもかかわらず、平成三年三月一三日、福岡市東区千早六丁目二番一号所在の香椎税務署において、同税務署長に対し、平成二年分の総所得金額が四〇一万七六〇〇円で、これに対する所得税額が二六万〇五〇〇円である旨の虚偽の確定申告書を提出し、もって、不正の行為により、右正規の所得税額との差額一億〇九三六万七五〇〇円(別紙二の1の脱税額計算書・平成2年分参照)を免れ

第二  平成三年分の総所得金額が、二億六〇〇六万六四五〇円(別紙一の2の修正損益計算書・自平成3年1月1日至平成3年12月31日参照)で、これに対する正規の所得税額が一億二五三八万九五〇〇円であったにもかかわらず、平成四年三月一〇日、右香椎税務署において、同税務署長に対し、平成三年分の総所得金額が四二五万六七五〇円でこれに対する所得税額が二七万三一〇〇円である旨の虚偽の確定申告書を提出し、もって不正の行為により、右正規の所得税額との差額一億二五一一万六四〇〇円(別紙二の2の脱税額計算書・平成3年分参照)を免れ

第三  平成四年分の総所得金額が、三億〇一六七万五四五一円(別紙一の3の修正損益計算書・自平成4年1月1日至平成4年12月31日参照)で、これに対する正規の所得税額が一億四六一五万七五〇〇円であったにもかかわらず、平成五年三月一五日、右香椎税務署において、同税務署長に対し、平成四年分の総所得金額が五〇一万九六〇〇円で、これに対する所得税額が三九万八八〇〇円である旨の虚偽の確定申告書を提出し、もって、不正の行為により、右正規の所得税額との差額一億四五七五万八七〇〇円(別紙二の3の脱税額計算書・平成4年分参照)のうち、被告人の妻・奥田木代香名義で確定申告して納税した六万一九〇〇円を控除した一億四五六九万六八〇〇円を免れ

たものである。

(証拠の標目)

判示全事実について

一  被告人の当公判廷における供述

一  被告人の検察官に対する供述調書三通(検乙四、二二、三一号)

一  被告人の大蔵事務官に対する質問てん末書二二通(検乙三、七ないし一三、一五ないし一八、二〇、二一、二三ないし三〇号)

一  被告人提出の上申書二通(検乙一四、一九号)

一  奥田木代香(検甲七八号)、陣内芳之(検甲七九号)及び新里良雄(謄本・検甲八四号)の検察官に対する各供述調書

一  大蔵事務官作成の「脱税額計算書説明資料(損益科目)」と題する書面(検甲一号)、査察官調査書五九通(検甲二ないし三一、三三、三五ないし三九、四五ないし五一、五四ないし五七、六六ないし七七号)及び領置てん末書(検甲八五号)

判示冒頭の事実について

一  被告人の検察官に対する供述調書(検乙二号)

一  被告人の大蔵事務官に対する質問てん末書二通(検乙一、六号)

判示第一の事実について

一  大蔵事務官作成の査察官調査書三通(検甲六三ないし六五号)

一  平成二年分の所得税の修正申告書写し(弁三号)

一  押収してある平成二年分の所得税の確定申告書一枚(新井健一分、保険料領収証添付、平成七年押第一二五号の1)

判示第二及び第三の各事実について

一  幸野俊の検察官に対する供述調書(検甲八〇号)

一  大蔵事務官作成の査察官調査書四通(検甲四〇、五二、五三、五八号)

判示第二の事実について

一  大蔵事務官作成の査察官調査書(検甲三四号)

一  平成三年分の所得税の修正申告書写し(弁四号)

一  押収してある平成三年分の所得税の確定申告書一枚(新井健一分、生命保険料控除証明書添付、前同押号の2)

判示第三の事実について

一  被告人の検察官に対する供述調書(検乙五号)

一  下條喬(検甲八一号)及び森下典子(検甲八二号)の検察官に対する各供述調書

一  大蔵事務官作成の査察官調査書九通(検甲三二、四一ないし四四、五九ないし六二号)

一  平成四年分の所得税の修正申告書写し(弁五号)

一  押収してある平成四年分の所得税の確定申告書一枚(新井健一分、前同押号の3)及び同平成四年分の所得税の確定申告書一枚(奥田木代香分、前同押号の4)

(法令の適用)

罰条(判示第一ないし第三) いずれも所得税法二三八条一項(なお、罰金については、情状により、同条二項を適用)

刑種の選択(判示第一ないし第三) いずれも懲役刑と罰金刑の併科を選択

併合罪の処理

1  懲役刑につき 平成七年法律第九一号による改正前の刑法(同法律附則二条一項本文による)四五条前段、四七条本文、一〇条(犯情の最も重い判示第三の罪の刑に法定の加重)

2  罰金刑につき 前同刑法(前同)四八条二項

労役場留置(罰金刑につき) 前同刑法(前同)一八条

刑の執行猶予(懲役刑につき) 前同刑法(前同)二五条一項

(量刑の理由)

本件は、いわゆるバブル経済の波に乗って事業を拡大してきた被告人が、平成二年分から平成四年分までの所得税の確定申告をするに当たり、実際の総所得金額よりも著しく少ない所得金額を申告して多額の所得税を免れ、これにより留保した資金を他人名義や架空名義の定期預金等にしていた事案であるが、その逋脱税額は合計で三億八〇一八万円余にも上がるだけでなく、逋脱率も九九・七パーセントを超えており、極めて悪質な犯行といわざるを得ない。また、被告人は、事業の拡大資金を留保するために本件各犯行に及んでおり、その犯行の動機は自己中心的で身勝手なものであって、被告人の納税意識の欠如は顕著である。これらの事情に加え、本件のような逋脱事犯については、一般納税者の法感情や一般予防の見地、さらには同種事案との刑の権衡も無視できないことをも併せ考えると、被告人の刑事責任は重いというべきであって、被告人に対しては、懲役刑の実刑をもって臨むことも十分考えられるところである。

しかしながら、本件各犯行における脱税の方法をみとる、被告人は、収入等をそのまま帳簿等に記載するなど、その経理の方法は単純であって、ことさら巧妙な手口を用いて所得を隠ぺいしようとしたものではない。また、事件発覚後は、本件各犯行に及んだことを反省し、税理士の指導を受けながら捜査に協力するとともに修正申告をし、本件各犯行によって免れていた平成二年分から平成四年分までの所得税のほか、消費税、市県民税、事業税、さらにこれらの税に対する重加算税、延滞税等についても、その納税に努力し、これまでに総額八億二三五〇万円余を完納している上、今回摘発を免れた昭和六三年分及び平成元年分についても自発的に修正申告をしてその納税を終えている。さらに、これまでの反省に立って、平成五年一〇月二六日には事業を法人化するとともに、コンピューターを導入するなどして経理処理の改善を図ってきたことからすると、再犯の恐れは乏しいと考えられる。そのほか、被告人にはこれまで前科前歴は全くなく、脱税の点を除けば、真面目に事業に取り組んできたと認められること、被告人には扶養すべき妻子があることなど、被告人のために酌むべき事情も認められる。

これら本件に表れた諸般の情状を総合考慮し、被告人に対しては、主文程度の懲役刑及び罰金刑を科した上、今回に限り右懲役刑の執行を猶予するのが相当であると判断した。

(検察官工藤恭裕、主任弁護人三浦邦俊各出席

求刑 懲役二年六月及び罰金一億三〇〇〇万円)

(裁判長裁判官 川口宰護 裁判官 稗田雅洋 裁判官 青木孝之)

別紙一の1

修正損益計算

<省略>

別紙一の2

修正損益計算

<省略>

別紙一の3

修正損益計算

<省略>

別紙二の1

<省略>

別紙二の2

<省略>

別紙二の3

<省略>

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