福岡地方裁判所 平成7年(行ウ)21号 判決 1998年3月25日
原告
A
原告
B
原告
C
右三名訴訟代理人弁護士
石井将
被告
国
右代表者法務大臣
下稲葉耕吉
右指定代理人
富岡淳
同
林田雅隆
同
泉宏哉
同
久埜彰
同
荒木康徳
同
有田憲市
同
神代博高
同
石村俊彦
主文
原告らの請求をいずれも棄却する。
訴訟費用は原告らの負担とする。
事実及び理由
第一請求
一 被告は、原告Aに対し、金三七五万二二七六円及び右内金一七三万八二七八円に対する平成七年一〇月一四日から、右内金二〇一万三九九八円に対する同九年二月一八日からそれぞれ支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
二 被告は、原告Bに対し、金二四八万一四〇〇円及び右内金一一二万〇三一四円に対する平成七年一〇月一四日から、右内金一三六万一〇八六円に対する同九年二月一八日からそれぞれ支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
三 被告は、原告Cに対し、金二六四万〇一七七円及び右内金一〇四万三六七八円に対する平成七年一〇月一四日から、右内金一五九万六五〇一円に対する同九年二月一八日からそれぞれ支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
第二事案の概要
本件は、郵政省職員として郵便局に勤務する原告らが、簡易保険証書等を騙取したとして各々起訴され、それぞれ起訴休職処分が発令されるとともに、給与について「今後休職の期間中、俸給、扶養手当、調整手当、住居手当、初任給調整手当、夏期手当、年末手当及び隔遠地手当のそれぞれ一〇〇分の六〇を支給する」との人事異動通知書が交付されたが、被告が、原告らに対する夏期手当、年末手当、業績賞与の各支給を保留したので、原告らが、被告に対し、右保留の取扱いには違法があると主張し、それぞれ右各手当の六〇パーセント(ただし、一審の有罪判決に対する控訴のため、原告秋吉については平成八年二月二一日から、原告板倉については同年一一月七日から、それぞれ三〇パーセント)に相当する金員の支払を求めている事案である。
一 争いのない事実
1 本件起訴休職処分に至る経過
(一) 原告Aについて
原告Aは、昭和四〇年四月、小倉郵便局(平成二年七月二日、北九州中央郵便局に改称)集配課に採用され、平成元年四月、同局保険課主任に発令されたものであるが、部外者と共謀し、入院保険金を詐取する目的で、右部外者が既に法定の保険金最高限度額一〇〇〇万円の簡易保険に加入しており、新たに加入できないことを知りながら、姓名等を変えて新たな簡易保険契約の加入申込をして簡易保険契約を締結させ、簡易保険証書を騙取し、また、右により不正に加入した保険契約により入院保険金合計二八五万円を騙取した等として、平成六年六月二九日、詐欺罪で福岡地方裁判所小倉支部に起訴された。
そこで、北九州中央郵便局長は、同年七月一日、原告Aに対して起訴休職処分を発令し、「国家公務員法第七九条第二号により休職を命ずる(起訴)今後休職の期間中俸給、扶養手当、調整手当、住居手当、初任給調整手当、夏期手当、年末手当及び隔遠地手当のそれぞれ一〇〇分の六〇を支給する」との異動内容を記載した人事異動通知書を交付した。
(二) 原告Bについて
原告Bは、昭和三二年一二月、八幡郵便局保険課に採用され、平成四年二月、北九州中央郵便局保険課主任に発令されたものであるが、部外者と共謀し、同人が入院中である上、既に法定の保険金最高限度額一〇〇〇万円の簡易保険を締結していることを知りながら、この事実を秘して、保険契約を締結させ、簡易保険証書を騙取したとして、平成六年八月一八日、詐欺罪で福岡地方裁判所小倉支部に起訴された。
そこで、北九州中央郵便局長は、同月二四日、原告Bに対して起訴休職処分を発令し、右(一)と同内容の人事異動通知書を交付した。
(三) 原告Cについて
原告Cは、昭和四一年四月、福岡西郵便局(現早良郵便局)集配課に採用され、同六二年八月、小倉郵便局(現北九州中央郵便局)保険課主任(現総務主任)に、平成三年四月、佐伯郵便局保険課課長代理に、同六年四月、折尾郵便局保険課課長代理に、それぞれ発令されたものであるが、小倉郵便局在職中、部外者と共謀し、右部外者が既に法定の保険金最高限度額一〇〇〇万円の簡易保険を締結していることを知りながら、別人を装って保険契約を締結させ、簡易保険証書を騙取したとして、平成六年九月二六日、詐欺罪で福岡地方裁判所小倉支部に起訴された。
そこで、九州郵便局長は、同月三〇日、原告Cに対して起訴休職処分を発令し、前記(一)と同内容の人事異動通知書を交付した。
2 原告らの給与についての取扱い
郵政省においては、昭和五九年度の年末手当以降、各年度の依命通達により、「基準日から支給日までの間において失職(国家公務員法第三八条第一号に該当する場合を除く。以下同じ。)した者若しくは懲戒免職にされた者又は失職若しくは懲戒免職に該当することが確実と見込まれる非違が支給日以前においてある者」に対する夏期手当、年末手当及び業績賞与については、本省でのせん議を経て支給の可否を決するとの取扱いを行っている。
右1の各起訴休職処分後における原告らの給与のうち、俸給、調整手当及び住居手当については、その一〇〇分の六〇が支給されており、初任給調整手当及び隔遠地手当については、原告らがその支給条件を備えていないことから支給されていないものであるが、夏期手当、年末手当及び業績賞与については、郵政本省でのせん議を経た上で、本件起訴に係る非違行為の有無が確定するまでその支給が保留されることとなった(以下、夏期手当、年末手当及び業績賞与に関する被告の右取扱いを指して「本件支給保留」という。)。
本件支給保留の対象となった原告らの夏期手当、年末手当及び業績賞与のうち六〇パーセント(ただし、有罪の一審判決に対する控訴のため、原告秋吉については平成八年二月二一日から、原告板倉については同年一一月七日からそれぞれ三〇パーセント)に相当する金額は別紙<略>のとおりである。
二 争点及びこれに関する当事者の主張
1 夏期手当及び年末手当に関する本件支給保留の取扱いが適法か否か
(被告)
(一) 郵政省は、関係労働組合との間に「休職者の給与に関する協定」を締結しており、右協定では起訴休職の場合に職員に対して所定給与種目の一〇〇分の六〇以内が支給されることとなっているが(四条)、実際に給与が支給されるには、当然にそれぞれの給与について支給条件が備わっていることが必要である。
夏期手当及び年末手当については、支給の都度依命通達が発出されるとともに、関係労働組合との間で、「平成○年度における夏期手当等の支給に関する協定」、「平成○年度における年末手当等の支給に関する協定」を締結しており、右各協定一条によれば、「休職にされている者」は支給範囲から除外されている。
また、支給保留の取扱いは、昭和五九年度年末手当以降行われているものであり、組合員に支給保留者がいた場合には、その都度、当該労働組合に対して該当者のリストを交付し、組合もこれを了承している経緯がある。
(二) 通達「職員の休職等の取扱いについて」においては、「扶養手当、調整手当、住居手当、初任給調整手当及び隔遠地手当について、支給を受けない場合は、当該手当の発令は要しないが、これらの手当は、個人又は地域により支給の有無が異なり、これを区別して発令すると事務処理が煩さになることも考えられるので、これらの手当については、支給対象の有無にかかわらず発令しても差し支えない。」とされているところであり、本件通知書に記載があるからといって、当然に全ての手当について支給されるものではない。
(三) 原告A及び原告Bに対しては、本件通知書を交付する際、北九州中央郵便局総務課長東田正彦が「非違行為者については、年末手当等のいわゆるボーナスと年度末手当は、本省個別せん議事項となるので、非違行為の有無が確定するまで支給は保留されます。無罪となれば追給されます。」と説明しており、原告Cについても、平成六年の年末手当の支給に際し、折尾郵便局課長代理服部道義から原告Cに差し出した平成六年一二月六日付け信書において、「年末手当の件ですが、郵政局からの連絡により、一二月九日は支給しないことになりました(本省で支給の可否について審議中です)」と連絡している。
(原告ら)
(一) 通達「休職者の給与について」によると「起訴による休職」者について、「職員が刑事事件に関し、起訴されたために休職にされたときは、その休職期間中、所定給与種目のそれぞれ百分の六十以内を支給すること」とされ、右所定給与種目に夏期手当及び年末手当を含まないとする規定はないのであるから、給与準則上、起訴休職者に対する夏期手当及び年末手当は、一〇〇分の六〇以内で支給することが義務付けられているのである。
したがって、行政庁の内部指示の性格しかもたない郵政大臣官房人事部長等の依命通達によって、しかも、個別の裁量によって、起訴休職者に対する支給の有無及び範囲を決定することは許されるべきではない。
(二) 労働組合との協定においては「休職にされている者」が支給範囲から除外されているが、原告らに対する被告の取扱いは「不支給」ではなく「支給保留」であり、右協定は本件支給保留の根拠とはならない。
また、夏期手当等も労働基準法上の賃金に変わりはなく、その点では手当の額、支給の可否を確定すべきものである。将来一定の結論が出ないと支給の可否が確定できないというのは、賃金の全額直接払原則に抵触する。
起訴休職処分において、それと連動して夏期手当等を「不支給」と決定しておけば、将来無罪が確定すれば、起訴休職期間中の減額給与を含め、損害賠償の対象となるのに対し、支給保留となれば、起訴休職期間が二年を経過すれば、手当請求権が時効により消滅することとなり、不当である。
(三) 以上のとおり、被告の支給保留の取扱いに根拠がない場合、本件通知書に行政処分の形式で夏期手当及び年末手当の一〇〇分の六〇を支給すると明記し、これが原告らに交付された以上、被告はこれに拘束されて所定の手当を支払うべきである。
2 業績賞与に関する本件支給保留の取扱いが適法か否か
(被告)
業績賞与は、職員の能率向上による企業経営の改善によって収入が予定より増加し、又は経費を予定より削減したときに、大蔵大臣の承認を得て、その収入増加額又は経費の節減額の一部に相当する金額を当該年度の予算に定められた給与総額の枠外において、特別の給与として年度末に支給するものであることから、休職者に対する給与の支給対象とはしていないものである。
平成六年度における業績賞与は、「平成六年度末における業績賞与等の支給について(依命通達)」を根拠として支給されるが、原告らについては、夏期手当及び年末手当同様、本省においてせん議の上、支給が保留されているものである。
右の取扱いは平成七年度における業績賞与についても同様である。
(原告ら)
本件支給保留の取扱いに根拠がないことは、夏期手当及び年末手当の場合と同様である。
第三争点に対する判断
一 郵政事業職員に対する給与支給
1 支給の一般的根拠
郵政事業に勤務する職員の給与については国の経営する企業に勤務する職員の給与等に関する特例法(以下「給与特例法」という。)が適用され、同法四条は「国の経営する企業の主務大臣又は政令の定めるところによりその委任を受けた者は、その企業に勤務する職員に対して支給する給与について給与準則を定めなければならない。」と規定しているところ、同条に基づいて郵政事業職員給与準則(以下「給与準則」という。)が定められている。
また、国家行政組織法一四条二項は「各大臣、各委員会及び各庁の長官は、その機関の所掌事務について、命令又は示達するため、所管の諸機関及び職員に対し、訓令又は通達を発することができる。」と規定するところ、郵政大臣が所管の機関又は職員の職務運営の基本に関する事項について発する命令である公達は右にいう訓令に該当し、郵政大臣がその権限において通達すべきところを、自己の名ではなく部下の事務次官、局長等に命じてその名で発せられる命令である依命通達は右にいう通達に該当するが、依命通達も郵政大臣の権限において発出されるものであることから、依命通達も訓令に準ずるものとして解釈すべきものである。
2 起訴休職者に対する夏期手当及び年末手当の支給
(一) 給与準則と休職者の給与に関する特別の定め
給与準則四条は「昭和二十九年六月一日以降において特別の定をするものについては、前各条の規定にかかわらず、その定めるところによる。」と規定しており(<証拠略>)、休職者の給与に関しては、通達「休職者の給与について」(昭和三五年一二月二七日郵給第四九八号)が右にいう特別の定めに当たる。
右「休職者の給与について」記4は、起訴による休職について、「職員が、刑事事件に関し、起訴されたために休職にされたときは、その休職期間中、所定給与種目のそれぞれ百分の六十以内を支給すること。」と定めているところ、記2(1)及び同3(2)によれば、右所定給与種目には俸給、扶養手当、調整手当、住居手当、初任給調整手当、夏期手当、年末手当、寒冷地手当及び隔遠地手当が含まれる(<証拠略>)。
右通達記4の文言上「百分の六十以内を支給すること」とされていること並びに所定給与種目の中に扶養手当、調整手当、住居手当等支給要件を充たさなければ支給されない性質の手当も含まれていることからすれば、右の定めは所定給与種目の支給割合の上限を包括的に画するものであって、右各給与種目の支給に関する別個の具体的な定めを排除する趣旨とまでは解せられない。
(二) 職員の休職の取扱いと休職者の給与に関する別の定め
職員の休職の取扱いについては「郵政省職員休職規程」(平成三年五月一日公達第三五号)が定めているが、同規程六条は休職者の給与について「休職者の給与は、その休職者の所属する機関において支給する。休職者の給与は、別に定めるところによる。」としており、右にいう別の定めである「郵政省職員休職規程の運用について(依命通達)」(平成三年五月一日郵人人(ママ)第四号)は、記第六条関係2(1)において、起訴による休職の場合の支給基準について「職員が起訴により休職にされた場合においては、その休職の期間中、原則として、第一審判決確定の日までは、俸給、扶養手当、調整手当、住居手当、初任給調整手当、夏期手当、年末手当、寒冷地手当及び隔遠地手当のそれぞれ一〇〇分の六〇を支給し、本人が控訴し、又は控訴されたときは、移審の効果の生じた日から判決(上告し、又は上告された場合は上告審判決)確定の日までは、所定給与種目のそれぞれ一〇〇分の三〇を支給する。」と定めている(<証拠略>)。
前記通達「休職者の給与について」が給与特例法及び給与準則を受けたものであることからすれば、右依命通達記第六条関係2(1)は前記通達記4を前提とした具体的な定めと解釈するのが合理的であるから、起訴休職者に対しては右各手当の一〇〇分の六〇が支給されることが原則であると解するのが相当である(以下、右原則を指して「支給原則」という。)。
(三) 休職者に対する夏期手当及び年末手当の支給保留
給与準則の適用を受ける郵政職員に対する平成六年度の夏期手当については「平成六年度における夏期手当等の支給について(依命通達)」(平成六年六月二三日郵人要第一八号)が発出されており、記第二(3)で基準日現在の休職者に対する支給額について定め、支給原則を前提としているが、記第九1は「次の一に該当するものに対する夏期手当については、個別に支給の可否をせん議するので、速やかに該当者の取扱いについて上申すること。」とした上で、同(1)(非違行為者)として「基準日から支給日までの間において失職した者若しくは懲戒免職にされた者又は失職若しくは懲戒免職に該当することが確実と見込まれる非違が支給日以前においてある者」を挙げている(以下、記第九1の定めを「支給せん議規定」という。<証拠略>)。
平成六年度の年末手当についても「平成六年度における年末手当等の支給について(依命通達)」(平成六年一二月二日郵人要第五二号)が発出されており、夏期手当と同様の支給せん議規定が置かれている(<証拠略>)。
夏期手当及び年末手当の支給については、昭和五九年度の年末手当以降、各年度ごとに右と同様の依命通達が発出されており、平成七及び八年度の依命通達にも同様の支給せん議規定が置かれている(<証拠・人証略>、弁論の全趣旨)。
(四) 郵政省と労働組合の協定
郵政省と全逓信労働組合、全国特定局労働組合及び全国郵政労働組合は、「休職者の給与に関する協定」を締結しており、右協定四条は「職員が刑事事件に関し起訴されたために、休職にされたときは、その休職期間中、所定給与種目のそれぞれ一〇〇分の六〇以内を支給する。」としているところ、同協定二条及び三条によれば、右にいう所定給与種目には俸給、扶養手当、調整手当、住居手当、初任給調整手当、医師初任給調整手当、夏期手当、年末手当、寒冷地手当及び隔遠地手当が含まれる(<証拠略>)。
他方、郵政省が全逓信労働組合及び全日本郵政労働組合と締結している「平成六年度における夏期手当等の支給に関する協定」及び「平成六年度における年末手当等の支給に関する協定」各一条(1)アによれば、休職にされている者は夏期手当及び年末手当の支給範囲から除外されており(<証拠略>)、平成七年度及び八年度の右各手当に関する協定においてもその内容は変わっていない(<証拠略>、弁論の全趣旨)。
(五) 支給原則と支給せん議規定の関係
前記(三)のとおり、各年度ごとの夏期手当及び年末手当の支給についての各依命通達は支給原則を前提としているが、前記(四)のとおり、右各手当の支給内容は各年度ごとに組合と締結される協定に基づいて決せられるため、起訴休職者に対する支給条件を含む右各手当の支給に関する事項は、各年度ごとの依命通達をもって定めるのが合理的であること、及び、右各年度ごとの組合との協定において、起訴休職者が夏期手当及び年末手当の支給対象から除外されていることを考慮すれば、右各依命通達による支給せん議規定は、支給原則に反するものではないと解釈するのが相当である。
3 起訴休職者に対する業績賞与の支給
平成六年度の業績賞与等の支給については「平成六年度末における業績賞与等の支給について(依命通達)」(平成七年三月二三日郵人要第八八号)が発出され、夏期手当及び年末手当と同様、基準日現在の休職者に対する支給を予定しながらも、支給せん議規定が置かれ(<証拠略>)、平成七年度の業績賞与に関する依命通達にも同様の支給せん議規定が定められている(弁論の全趣旨)。
業績賞与について支給原則を根拠付ける定めが存在しないこと、及び、業績賞与は、職員の能率向上による企業経営の改善によって収入が予定より増加し、又は経費を予定より削減したときに、大蔵大臣の承認を得て、その収入増加額又は経費の節減額の一部に相当する金額を、当該年度の予算に定められた給与総額の枠外において、特別の給与として年度末に支給されるという性質の手当であることからすれば、右業績賞与の支給根拠は各年度ごとの依命通達にあり、起訴休職者に対する支給の可否に関しては右依命通達の定める支給せん議規定の適用があるというべきである。
二 本件支給保留の適法性
1 原告らに対する各手当の支給根拠
前記争いのない事実のとおり、原告らは郵便局に勤務するとともに起訴休職処分を発令された者であるから、同人らに対する夏期手当及び年末手当の支給根拠は、前記「郵政省職員休職規程の運用について(依命通達)」記第六条関係2(1)ということになり、支給原則が妥当する(前記一2(二)職員の休職の取扱いと休職者の給与に関する別の定め)。
他方、原告らに対する業績賞与の支給根拠は各年度ごとに発出される依命通達にある(前記一3起訴休職者に対する業績賞与の支給)。
2 支給せん議規定
(一) 支給せん議規定の解釈
前記一2(五)のとおり、支給せん議規定は給与準則の枠内で解釈可能であるから、右規定が給与特例法に違反するとは認められず、支給せん議規定自体に違法はないと解するのが相当である。
支給せん議規定によれば、せん議は夏期手当、年末手当及び業績手当の支給の可否についてなされるものであるが、その対象となる職員は非違行為者であり、郵政本省において非違行為の事実を認定することができる場合が前提とされている。
失職若しくは懲戒免職に該当することが確実と見込まれる非違行為の有無が刑事裁判の結果にかかることとなる起訴休職者の場合、右刑事裁判の判決確定までの間は非違行為の有無が確定できないこととなるが、無罪推定のはたらく起訴休職者に対する手当を一律不支給とすることは相当でないが、他方、各手当には賃金とは異なった功労又は褒賞の要素もあることを考慮すると、非違行為の不存在が確定できない状態で常に手当を支給することも相当であるとは思われない。
また、手当の支給を保留するとの取扱いをした場合は、具体的な手当請求権が発生していない以上、その行使ができないのであるから、手当請求権の消滅時効が進行しないことは明らかである。
右の各事情を考慮すれば、失職又は懲戒免職に該当することが確実と見込まれる非違行為の有無が刑事裁判の結果にかかることとなる起訴休職者に対する夏期手当、年末手当及び業績賞与の支給を保留する取扱いには一定の合理性があり、支給せん議規定の解釈として認められると解するのが相当である。
(二) 本件支給保留の取扱い
原告らに対する起訴罪名は詐欺罪であって(争いのない事実)、懲役刑のみを法定刑とする同罪により有罪となれば、国家公務員法三八条二号及び七六条により失職することが確実であり、原告らに対する夏期手当、年末手当及び業績手当については、郵政本省においてせん議の上、本件支給保留がなされ(<証拠・人証略>)、右取扱いについては原告A及び同Bに対して口頭で(<証拠略>)、同Cに対しては書面で(<証拠略>)それぞれ告知されているというのであるから、本件支給保留の取扱いに違法は存しない。
3 休職に関する辞令形式
休職に関する辞令形式については、「職員の休職等の取扱いについて」(平成三年一一月二六日局人考査第一一〇二号)第五条関係(休職発令)(6)イが「給与種目のうち、扶養手当、調整手当、住居手当、初任給調整手当、隔遠地手当について、支給を受けない場合は、当該手当の発令は要しないが、これらの手当は、個人又は地域により支給の有無が異なり、これを区別して発令すると事務処理が煩さになることも考えられるので、これらの手当については、支給対象の有無にかかわらず発令しても差し支えない。」としているが(<証拠略>)、夏期手当、年末手当及び業績賞与については直接に定めるところがない。他方、本件通知書には俸給並びに右各給与種目のほか、夏期手当及び年末手当が記載された上、原告らに交付されている(争いのない事実)。
しかしながら、夏期手当及び年末手当については、支給原則を前提としつつも、支給せん議規定の例外が存することは、前記一2(五)(支給原則と支給せん議規定の関係)のとおりであるから、個人によって支給の有無が異なりうることとなり、その限りにおいて、右「職員の休職等の取扱いについて」第五条関係の趣旨は夏期手当及び年末手当にも妥当するものというべきであり、前記2のとおり、支給せん議規定の合理的解釈として本件支給保留の取扱いが認められる以上、夏期手当及び年末手当についてその支給の有無にかかわらず辞令上記載したとしても、右記載の故に本件支給保留が違法となるとは解されない。
4 せん議の対象
その他、原告らは、同人らを被告とする各起訴が不当である旨、及び、右不当な各起訴を前提として決定された本件支給保留も不当である旨を主張するが、前者については、原告らを被告人とする刑事事件の継続(ママ)する受訴裁判所において審理されるべきものであり、後者についても、本件支給保留のためのせん議では、原告らが各手当の支給日以前の非違行為を公訴事実として起訴されていること、及び、前記2(二)のとおり、起訴罪名との関係で原告らが有罪となれば失職が確実と見込まれることを検討すれば足りるのであるから、原告の右各主張は本件の結論に影響を及ぼさない。
三 結論
以上のとおり、本件支給保留の取扱いを違法とすべき事情は存しないから、原告らの請求はいずれも棄却されるべきである。
(裁判長裁判官 草野芳郎 裁判官 岡田治 裁判官 杜下弘記)