福岡地方裁判所 平成8年(ワ)542号 判決 1998年4月22日
原告
中嶌三千男
右訴訟代理人弁護士
山本一行
同
深堀寿美
同
小島肇
被告
株式会社ミック
右代表者代表取締役
大山永吉
右訴訟代理人弁護士
塚田武司
同
林桂一郎
主文
原告の請求をいずれも棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第一請求
一 原告が、被告に対し、雇用契約上の権利を有する地位にあることを確認する。
二 被告は、原告に対し、金二四〇万四七五八円及び平成八年四月からこの判決確定に至るまで毎月末日限り金四〇万〇七九三円の割合による金員を支払え。
三 被告は、原告に対し、金四三万円及び平成八年七月からこの判決確定に至るまで毎年七月末日限り金四八万五〇〇〇円、毎年一二月末日限り金四三万円の割合による金員を支払え。
第二事案の概要
本件は、被告から諭旨解雇処分を受けた原告が、同処分が無効であるとして雇用契約上の権利を有する地位にあることの確認を求めるとともに、賃金及び賞与の支払を求めた事案である。
一 争いのない事実等
1 被告は、クレーン車約四五〇台を所有し、これを運転操作する従業員(オペレーター)を使用して、主としてクレーンのオペレーター付きリース事業を営む株式会社であり、名古屋に本店があるほか、福岡市に九州支店を有している(争いのない事実)。
原告は、平成三年九月一六日被告に雇用され、クレーンのオペレーターとして、被告の九州支店(当時は福岡営業所)に勤務していた(争いのない事実)。
2 被告は、平成七年八月二九日懲戒委員会を開催し、原告を諭旨解雇とすることと決し、同年九月一日原告に対し、同月四日付けで左記処分理由により諭旨解雇処分(以下「本件諭旨解雇」という。)にする旨を通知し、同月四日原告に対し、解雇予告手当金三七万八三〇〇円を支払った(争いのない事実、<証拠略>)。
記
(一) 平成七年三月一四日から三隅火力にて勤務していたが客先の指示を守らず、安全遵守義務を怠り平成七年八月八日客先からの厳重な抗議を受け、運転の交代を行うこととなった。
このことは重大な就業規則違反であると共に、会社の信用を著しく失墜させ、多大な損害を与えた行為である。
(二) 過去目黒川荏原池作業所、県立スポーツセンターでの勤務においても就業規則違反や同様の指摘を受け、再三にわたり戒告したにもかかわらず改悛の情なきものと判断され、厳重な処罰が至当とした。
3 被告において、賃金は、毎月一五日締め、当月末支払であり、原告の賃金の本件諭旨解雇前三ヶ月間における平均総支給額は、月額四〇万〇七九三円である。また、被告は、原告に対して平成六年一二月に四三万円、平成七年七月に四八万五〇〇〇円の賞与をそれぞれ支払っている(争いのない事実)。
二 争点
本件の主たる争点は、本件諭旨解雇の有効性であるが、特に、懲戒事由該当事実の存否、諭旨解雇処分の相当性を基礎づける他の就業規則違反事実の存否が具体的争点となる。
三 被告の主張
1 懲戒事由(三隅火力発電所事件)
原告には、次のとおり懲戒事由が存するから、本件諭旨解雇は有効である。
(一) 原告は、平成七年三月一四日から島根県三隅火力発電所の工事現場に五五トンクローラークレーンのオペレーターとして派遣され、勤務していたが、同年八月八日午前一一時ころ、大成建設株式会社(以下「大成建設」という。)の下請業者である福井建設の現場監督から、クレーンの操作を依頼されたところ、原告が、「俺は今日の作業予定は鉄筋相伴になっとるんや、お前何考えとるんか。」と乱暴な口調で怒鳴ったことがきっかけで、右現場監督と口論になり、原告がクレーンから降りて殴り合いそうな状況になった。
(二) 右事件に引き続き、原告がクレーンで鉄筋加工ヤードを移動する際、クレーンの旋回範囲内立入禁止バリケード(クレーンの四方にパイプを取り付けた上その先端にロープを張る等して危険範囲を表し安全を確保するもの)が移動経路上に置いてあったA型バリケード(クレーン等の移動経路の幅員を定め、作業員の通路と画するため設置されているもので一体の長さが約五メートルのもの)に接触しそうになったので、現場の他社の職人がA型バリケードを片づけようとしたところ、原告は、クレーンについていた外部マイクを通して「それは片づけなくていいよ。大成が取り付けうと言ったから付けたまでで、当たって壊れようが関係ない。」と言って、A型バリケード三本を倒しながら移動していった。
(三) 前記(一)、(二)の状況を見ていた大成建設の現場副所長岡部(以下「岡部副所長」という。)が、昼休み時間に被告の現場責任者馬見塚剛(以下「馬見塚」という。)を呼び、「お前のところのオペレーターは安全の意識が全くないので、すぐオペレーターを交替するか、機械をすぐ解体して持って帰れ。」と言い、安全指示書を渡した。
馬見塚は、直ちに被告の九州支店長である桑原幸治(以下「桑原支店長」という。)に報告し、その指示により原告をクレーン乗務からはずし、被告の九州支店担当取締役である杉本常務及び被告の広島営業所長は、翌日、大成建設の現場所長をそれぞれ訪れて謝罪し、安全指示書の遵守を誓った。以上の事実は、懲戒事由を定める就業規則三八条イ(二四条ハ、二五条ロ)、ニ、タに該当する。
2 本件諭旨解雇の相当性
前記1の懲戒事由自体が悪質かつ重大であるのみならず、原告はそれまでに以下のような就業規則違反行為を繰り返し行い、これらに対して戒告処分や上司からの注意を再三受けていたにもかかわらず、右懲戒事由該当行為を行ったのであるから、本件諭旨解雇には相当性がある。
(一) 荏原池作業所での行為
原告は、東京都品川区の目黒川荏原池作業所に派遣されて作業中の平成五年九月下旬ころ、原告が暴言をはいてチームワークを乱す旨の発注先現場主任からの苦情を受けた桑原支店長から、「職場での礼儀には心してくれ、交替も考えなければいけない、今後二度とトラブルがあったら替える。」旨の厳重な注意を受けた。
ところが、原告は、同年一二月に同現場で暴言をはく等トラブルを起こし、発注先現場主任と被告現場管理者との協議により原告を交替させざるを得なくなり、被告は、同月一八日原告に対し交替を命じ、作業途中で帰社させた。そして、被告は、原告に対し、平成六年一月三一日付けで戒告処分をなし、同年二月二日戒告通知書を交付した。
(二) 県立スポーツセンターでの行為
原告は、福岡市博多区東平尾公園内の県立スポーツセンター工事現場に派遣されて作業中の平成六年六月三日、当日の作業終了後発注先に作業伝票へのサインを貰いに行ったところ、担当者が不在のため翌日にしてもらいたい旨言われたことから、「残業なんかするか。」と怒鳴った。
このため、被告は、発注先の信用を失い、直ちにクレーンを解体して撤去することを求められ、やむなく同月七日に解体して撤去したが、右工事は契約金二〇〇〇万円であったのに工期の三分の二を残していたため、この分の売上が減少するという損失を蒙った。
(三) シーホークホテル建設現場での行為
原告は、福岡市中央区のシーホークホテル建設現場に派遣されて作業中の平成六年六月一七日、被告の九州支店の配車係に対し、「貴様こっちへ来い、俺をこんな壊れたクレーンに乗せるのか、明日からクレーンに乗車しない。」と怒鳴った。
この件について、被告は、原告から始末書を徴するとともに、原告が対人関係に習熟するよう注文先との打ち合わせ等現場以外の仕事に従事させた。
四 原告の反論
1 三隅火力発電所事件について
(一) 福井建設の現場監督とのトラブルは、右現場監督が、行程会議で決まり、かつ、当日の朝礼でも確認していた作業内容を無視した物言いをし、クレーンを降りてロープを張っていた原告に殴りかかりそうになったため、馬見塚が右現場監督を制止したものである。
(二) ロープを張らずに作業をしているクレーンが多かった中、原告も、当日の行程の都合及び移動路のA型バリケードに接触する可能性があったことから旋回範囲内立入禁止バリケードを付けずに作業していたところ、大成建設の者からA型バリケードに当たってもいいから旋回範囲内立入禁止バリケードを付けるように言われたので、これに従いロープを張って作業をしていた。この時、ロープがA型バリケードに引っかかりA型バリケードを倒してしまったが、当日の作業内容から考えると、元に戻しても同じことの繰り返しになると思い、倒れたA型バリケードを元に戻そうとしていた他社の職人に対して、そのままでよい旨答えただけである。
2 荏原池作業所の件について
原告が、この作業所において、暴言をはいたり、チームワークを乱した事実はない。原告は理由の説明なく被告から交替を命じられたため、帰社しただけである。戒告通知は、既に処分書が掲示されている中、被告の杉本常務から、オペレーターを交替した以上、会社として処分を出さなければいけない、これは形式的なもので、給料や勤務状態には関係がないと説明を受けたから受領したものである。
3 県立スポーツセンターの件について
被告主張の事実は存しない。原告は、残業で遅くなった前日分の作業伝票のサインも併せて貰いに行ったところ、現場責任者から前日分は知らないからサインしないと言われたため、「残業をしてもサインが貰えないなら残業はできません。」と当然のことを言っただけで、怒鳴っておらず、その後もこの発言が問題になったことはない。
被告がクレーンを解体して現場から引き上げたのは、交通事故に遭った原告に代わり現場に出た被告のオペレーターがクレーンの操作を誤り、フックを地面に落とす事故を起こしたことが原因である。
4 シーホークホテルの件について
原告が、被告の九州支店配車係に電話をしたのは、翌日が指定休日(現場作業が休みの場合は休日となるが、現場作業が行われる場合には出勤を要し、その代わり会社から別の日を休日として指定されることになる日)であったためと、シーホークホテルで乗務していたクレーンのコンピューターが故障しており、安全性に疑問があったため、できるだけ右クレーンに乗りたくないとの気持ちから、休暇取得を申し出ただけである。ところが、配車係から一方的に怒鳴られたので原告も大きい声で応対したのである。
この件で原告が始末書を書いたのは、桑原支店長が高圧的な態度で始末書を書くことを要求し、クレーンに乗せてもらえず、残業手当等が減少していたことから、クレーン乗務を願って仕方なく書いたものである。
5 原告には被告が主張するような懲戒事由は存在せず、いずれも諭旨解雇の原因となりえない。にもかかわらず、被告が解雇処分を行ったのは、現場でのトラブルや作業行程の遅滞を現場の作業員に責任転嫁する被告会社の体質から、権利主張が多く、被告の御用組合である全ミック労働組合を脱退し、新組合を結成する行動に出ていた原告が責任転嫁の標的とされたものであり、本件諭旨解雇は無効である。
第三争点に対する判断
一 懲戒事由の存否について(三隅火力発電所事件)
1 証拠(<証拠・人証略>)によると、次の事実が認められる。
原告は、平成七年三月一四日から島根県三隅火力発電所の工事現場に派遣され、クレーンのオペレーターとして勤務していた。
同年八月八日、大成建設の下請業者である福井建設の現場監督が、原告のクレーンが休止中であると考え、原告に作業を手伝ってもらいたい旨打診したところ、原告は、「俺は今日の作業予定は鉄筋相伴になっとるんや、お前何考えとるんか。」と怒鳴ったため、これに憤慨した現場監督と言い争いになり、暴力沙汰になりかけた。
原告は、同日、現場作業場内では原則としてクレーン周辺の安全確保のためクレーンの旋回範囲内の立入りを禁止する表示並びにこれを防ぐためのロープ及びパイプを利用したバリケードの設置(旋回範囲内立入禁止バリケード)を指導されていたのに、旋回範囲内立入禁止バリケードを付けずに作業していたところ、現場の管理者から同バリケードを付けるよう指示され、同バリケードを設置したが、クレーンの移動の際、作業員を安全に通行させるために安全通路を確保しているA型バリケードに右旋回範囲内立入禁止バリケードが接触しそうになった。他の会社の職人がこれに気付き接触を避けるためA型バリケードを移動させようとしたところ、原告は、クレーンの外部に取り付けられたマイクを通して、「それは片付けなくていい、大成が取り付けうと言ったから付けたまでで、当たって壊れようが関係ない。」と言い、A型バリケードを三体程倒しながらクレーンを移動させた。
これを見ていた大成建設の現場責任者岡部副所長は、馬見塚に対し「お前のところのオペレーターは安全の意識が全くないではないか、すぐあのオペレーターを交替させるか、それとも機械を解体して持って帰れ。」と言い、原告が旋回範囲内の安全確保に関する問題意識を欠いているので、その是正を命じる安全衛生指示書を出した。このため、被告は、岡部副所長に謝罪し、今後従業員への安全教育を徹底し、安全衛生指示書を守ることを誓約し、原告を被告の九州支店に帰社させた。
2 右事実によると、原告の福井建設現場監督に対する対応は、就業規則(<証拠略>)二五条ロにいう「常に品位を保ち、会社の名誉を害し、信用を傷つけるようなこと」に該当し、また、原告がA型バリケードを倒しながら移動していった行為は、同条ロ及び同二四条ハにいう「機械・器具、その他の設備は大切に取扱い」の双方に違反する行為であり、就業規則三八条の懲戒事由に該当するといえる。
3 原告は、大成建設の現場管理者がA型バリケードに当たってもいいから旋回範囲内立入禁止バリケードを付けるよう指示したこと、両者が接触して転倒する毎に立て直していては作業が全く進まないこと等を主張するが、仮にそのような事情があったとしても、その回避策につき現場監督者に指示を求めるなど適切な対応をせずに、安易にバリケードを倒しながら移動したことの責任が軽くなるものとはいえない。
二 被告は三隅火力発電所における行為以前にも就業規則違反の事実があったことを主張するので、この点について検討する。
1 荏原池作業所の件について
証拠(<証拠・人証略>)によると、原告は、平成五年三月から東京都品川区所在の目黒川荏原池作業所でクレーンのオペレーターとして勤務中、大成建設の担当者との作業打合せで、自分の意見が通らなかった場合に、机を叩いて「表に出ろ。」等の不穏当な発言をすることが再三あり、トラブルが絶えなかったこと、同年一二月中旬ころ、原告と同じく被告から現場に派遣されていた嶋田と共同作業をしていた際、作業ペースの違いに苛立ち、「ばかやろう、早くしろ。」と怒鳴ったため、嶋田から、危険だから原告を他の人と交代させてくれと言われたこと、同月一八日、関係者から右事実の報告を受けた桑原支店長は、原告を被告の九州支店(当時は福岡営業所)に帰社させたこと、被告は、平成六年一月三一日、原告の行為は被告の信用を失墜させるものであり、今後このようなことが発生した場合は厳重に処分するとして、原告を戒告処分としたことが認められる。
右事実によれば、原告は、荏原池作業所における発言等により関係者、同僚の信頼を失い、これに対する処分として交替を命ぜられ、戒告処分を受けたのであるから、原告の行為は、就業規則二一条にいう「互いに協力してその職責を果たさなければならない」規定に違反し、同二五条ロにいう「会社の名誉を害し、信用を傷つけるようなこと」に該当するというべきである。
これに対し、原告は、暴言等の不穏当な発言は一切なく、単に帰社命令に応じて交替したものであり、戒告処分については、原告が被告の九州支店に戻ったところ既に社内に処分内容が掲示してあり、被告の杉本常務から形式的なものだから等と言われたことから受け取った旨主張するが、前記戒告書の文言及び原告が従来の労働組合を御用組合と考え反発してこれを脱退した直後の時期(原告本人)になされた処分であることを考慮すると、原告の右主張は採用することができない。
2 県立スポーツセンターの件について
証拠(<証拠・人証略>)によると、原告は、平成六年四月から福岡市博多区東平尾公園内の県立スポーツセンターの建設工事現場でクレーンのオペレーターとして勤務していたが、平成六年六月三日、現場責任者による作業員の作業時間、残業時間の確認、承認を目的とする作業伝票へのサインの受領を翌日にまわした原告が、当日分と前日分とをまとめてサインしてもらうため現場責任者にその旨申し出たところ、右責任者が残業を現認、把握していないことを理由に前日分のサインを断ったことから、原告は、大声で「残業なんかするか。」と怒鳴ったこと、そのため、前田建設の担当者が立腹し、「現場をたたんで帰ってくれ。」と言われ、桑原支店長と原告は現場事務所で前田建設の担当者に陳謝したことが認められる。
被告は、現場からクレーンを解体撤去して契約額の三分の二に相当する売上の減少があったと主張するが、撤去の原因は他のオペレーターが六月四日のクレーン作業中にフックを落下させるという事故を起こしたこと(<証拠略>)が強く影響していると考えられ、原告の暴言が主要な原因であったということはできない。
しかしながら、このような暴言はそれ自体で会社の信用を傷つけるものであり、就業規則二五条ロに該当するというべきである。
3 シーホークホテルの件について
証拠(<証拠・人証略>)によると、原告は、平成六年六月九日から福岡市中央区のシーホークホテル建設現場でクレーン作業に従事していたが、以前から右現場のクレーンはコンピューターが故障して安全性に疑問があり、右クレーンへの乗務を避けたい気持ちを持っていたこと、原告は、六月一七日、翌日が指定休日だったため、休みを取ろうと考え、被告の北九州支店の配車係に電話をしたところ、応対した配車係と代替作業員の確保等に関して言い争いとなり、大声で「貴様こっちへ来い、俺をこんな壊れたクレーンに乗せるとか、俺は明日からクレーンには乗らんぞ。」と怒鳴ったこと、右問題に関して桑原支店長から始末書の提出を指示され、言い争いに至る経過と反省の言葉を記したものを桑原支店長に提出したこと、同支店長が始末書の内容が不十分と判断し再度の提出を指示したこと、原告は、差し戻された始末書の末尾に深く反省している旨及び今後更に迷惑を掛けた場合には退職することを内容とする文章を付け加えて桑原支店長に提出したことが認められる。
右事実によると、原告が、自ら、あるいは相手方の言葉に呼応して、大声で怒鳴った行為は、就業規則二一条にいう「互いに協力してその職責を果たさなければならない」規定に違反するというべきである。
三 本件諭旨解雇が懲戒権の濫用となるかについて判断する。
前記一に認定した懲戒事由に前記二で認定した原告のこれまでの就業規則違反行為を併せて検討するに、原告の各行為はいずれも全く理由もなくなされたものではなく、そこに至った原告の心情は理解できないものでもない。
しかしながら、原告の行為は、いずれの場合も暴言等によって取引先や同僚に不快感を与えたというにとどまらず、関係者の協力を必要とする危険なクレーン作業においてチームワークを乱すものであり、事故を招来する原因となりうるものであって、放置できるものではない。原告は平成六年一月三一日に戒告処分を受けて以来、二度とこのような行為を繰り返さないようにと何度も注意され、原告自身も誓約しながら、三隅火力発電所事件を起こしたものであり、責任は重大である。また、被告の下請的作業受注者としての立場からすれば取引先に対する被告の信用を失わせるものであり、営業活動に与える影響も少なくない。
以上によれば、懲戒委員会の議を経てなされた原告に対する諭旨解雇処分は懲戒権を濫用したものとはいえず、被告のなした本件諭旨解雇は有効というべきである。
四 よって、原告の請求はいずれも理由がなく、棄却を免れない。
(平成一〇年三月一八日口頭弁論終結)
(裁判長裁判官 草野芳郎 裁判官 和田康則 裁判官 石山仁朗)