大判例

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福岡地方裁判所 昭和23年(ワ)187号 判決

原告 牟田トヨ

被告 藤山眞子

一、主  文

被告は原告に對し金千円を支拂うべし。

訴訟費用は原被告の平分負担とする。

二、事  實

原告訴訟代理人は、被告は原告に対し金三万円を支拂え。訴訟費用は被告の負担とする。との判決を求め、その請求原因として、原告は昭和十四年五月八日訴外牟田常美と婚姻し、爾來平和な家庭生活を營んできた。ところが鉄道職員である常美は、同二十年十一月頃から当時鉄道省鳥栖管理局に事務員として勤務してゐた被告と情交関係を結ぶようになり、その後一ケ月に数回各所で兩人は密会し、或は被告は度々原告の家を訪ねてきたりして益々情交を深めていたが、其の後遂に姙娠するに至り同二十二年一月初め常美の実母であるツタの住所佐賀縣神崎郡背振村に同居を迫り、同年三月二十日、同所で男子を分娩しその子を一美と命名し、常美と協議の上、原告等の戸籍に庶子として入籍し其の後も関係を続けた原告は給料生活者の家庭の主婦として一家の切り盛りを爲し円満な家庭を営んできたのであるが、前述のように被告の爲に家庭の平和は蹂躙され、夫の愛情を奪はれ、苦悶懊惱すること三年、以てその精神上の打撃は甚大である。如何なる方法を以てするも到底回復し難いのであるが他に方策がないので茲に慰藉料として金三万円を訴求するため本訴を提起した次第である。と述べ、被告の答辯に対しては、被告と常美との間に被告主張のような調停が成立したこと、及その成立の際原告が出頭してゐたことは認めるが調停を諒承したものではない。その余の答弁事実は否認すると述べた。<立証省略>

被告は、原告の請求棄却の判決を求め、答弁として被告が原告の主張日時頃当時医道職員であつた牟田常美と情交関係を結び、昭和二十二年三月二十日庶子男一美を分娩して常美の籍に入れたことは認めるが、その余の原告主張事実は否認する。被告は常美が妻は既に離別しているから必ず結婚すると豫約して被告に情交を迫つたので被告はその言を信じ結婚を條件として常美の要求に應じ関係を続けていた。ところが被告はその後常美には未だ妻があることを知つたので之を難詰し、婚姻豫約の履行を迫つていたが、常美はその都度近く妻と離別することになつているからしばらくまつてくれとのみ弁解して被告との関係を解消しようとしなかつたので女の弱さから関係を絶つことが出来なかつた。かくて被告は一美を分娩後は、常美の実母の許に身を寄せ常美の実母の許に身を寄せ常美の扶助によつて生活していたが後には常美が被告等をすてゝ顧りみなくなつたので被告は佐賀家事審判所に婚姻豫約不履行による損害並に慰藉料請求等の調停を申立て昭和二十三年六月七日同審判所で一、庶子男一美は被告が引取り養育し、親権者、監護者を被告とすること、二、常美は被告に対して慰藉料並養育料として金四万五千円を昭和二十三年六月三十日迄佐賀家事審判所に於て支拂ふこと等の事項を内容とする調停が成立しこの調停成立の際には原告も立會つて調停條項を諒承している。而してこの調停に基いて被告は一美を引取り既に調停事項を履行してゐるのに常美は慰藉料養育料の支拂をしない。叙上の事実から見れば常美と被告との情交によつて結局精神的苦痛を蒙つたのは寧ろ被告であつて原告は常美の妻として常に夫たる常美に協力する義務を負ふものであるから被告に対する常美の慰藉料、養育料支拂については原告に協力する責務こそあれ、被告に対し精神上の打撃を訴えて賠償を要求するは当らない。殊に前叙の如く調停で常美の義務を承認しているに於ては尚更である。而して妻としては夫の不貞行為を数年間看過し得ないのが通例であつて、之を看過した原告は妻として夫を満足せしめ得ない缺陥があるか、或は夫の行為を容認したかの何れかであつて夫の不倫行為による精神的苦痛を夫以外に訴える原告の請求は不当であると述べた。<立証省略>

三、理  由

原告と牟田常美とが昭和十四年五月八日婚姻したことは成立に爭いのない甲第一号証によつて認められ牟田常美と被告とが昭和二十年十一月頃から情交關係を結び同二十二年三月二十日被告は男子を分娩しその子を常美が認知したことは当事者間に爭いがない。而して被告は右常美に妻があることを知り乍ら同人との関係を続けたものであることは被告の認めるところであるから被告は原告の妻の権利即ち夫に対し貞節を要求しうる権利を侵害したものであつて、之により原告が蒙つた精神上の苦痛を慰藉する義務があること勿論である。よつて慰藉料の額について考えるに証人佐野久子の証言及口頭弁論の全趣旨により認められる被告が常美と関係を結ぶに至つたのは常美が被告に対し同人は既に妻を事実上は離婚して居り將來被告と婚姻する意志あることを告げたので被告が之を信じたことによるものであること(右認定に反する常美の証言は措信せず)並に常美が其の後原告を離婚することを眞けんに考慮した事跡は認められず却つて常美の證言により認められる如く常美は被告が懷胎した後分娩前である昭和二十二年一月頃被告との関係を断つ決心をしたが其の後も被告との関係を継続し昭和二十三年六月調停成立によつて被告と完全に関係を絶つに至つた事実に証人藤山一の証言を綜合すれば被告は常美に対し誠実な愛情を傾けたに対し常美の被告に対する態度は終始妾に対するそれと殆んど択ぶところなく、被告は常美のほしいままな愛慾の犠牲と断ずるも過言でないこと、原告本人訊問の結果により明かな如く原告は昭和二十一年十月に至つて常美と被告間の斯る関係を知り乍ら其の後前記調停成立に至るまで常美に対する離婚請求或は被告に対する慰藉料請求等の措置に出でず、証人松田金造、眞木博の証言により認めらるる如く原告は右調停成立の際之に立會い調停成立を寧ろ悦んでいた(之に反する常美の証言、原告本人の供述は信用しない)こと其の他諸般の事情を斟酌して原告の受けた本件権利の侵害に基く損害は金千円を以て賠償せられうるものと認められるから、原告のその余の請求は理由がないものとして之を棄却すべく訴訟費用の点に付ては民事訴訟法第八十九條、第九十二條を適用し主文の通り判決する。

(裁判官 丹生義孝)

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