大判例

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福岡地方裁判所 昭和24年(ワ)2号 判決

原告 小林光雄

被告 山本久吉

一、主  文

被告は原告に対し金二千二百五十円及びこれに対する昭和二十二年十一月一日より完済に至るまで年五分の割合による金員を支拂うべきである。

原告その余の請求を棄却する。

訴訟費用はこれを四分し、その一を被告、その余を原告の負担とする。

本判決中原告勝訴の部分に限り仮に執行することが出来る。

二、事  実

原告訴訟代理人は、被告は原告に対し金二十八万四千八百八十一円二十五銭及びこれに対する昭和二十二年十一月一日より完済に至るまで年五分の割合による金員を支拂わねばならぬ、訴訟費用は被告の負担とするとの判決並びに担保を條件とする仮執行の宣言を求むる旨申立て、請求原因として、原告は被告に対し、昭和二十二年八月一日三相変圧器(油付)五キロ五台、七・五キロ十台、十キロ、十五キロ、二十キロ各五台、納入期限を同月十五日迄の約にて注文し、同時に代金の半額金二十一万五千円を前渡し同月十二日亞鉛引鉄線八番線百米突巻四十五瓲を納入期限同月二十二日迄の約にて注文し、同日代金の半額金二十二万五千円を前渡し、同月二十日單相変圧器油付三キロ、五キロ、十キロ、十五キロ、二十キロ各五台宛を納入期限同月三十日迄の約にて注文し同日金五万円を前渡し、同月二十二日丸源丸鋸四十二吋二枚を原告宅に直送する約にて注文し金七千二百五十円を前渡した。よつて原告が被告に対し交付した前渡金は合計金四十九万七千二百五十円である。原告は被告と合意の上同月二十二日右前渡金の内金四万三百六十八円七十五銭を変圧器油及変圧器運賃に充当し、同年九月八日内金十一万七千円を三相変圧器五キロ二台、七・五キロ二台、十キロ五台分の代金に充当したが其後被告に対し残品引渡の履行を催告しているうち被告に誠意なくその履行の困難であることが判明したので、同年十月頃、未履行の分につき前記賣買契約を合意解除した。しかるに被告は同年十月十九日前記丸鋸前渡金の中五千円を、同月二十五日変圧器及亞鉛引鉄線の前渡残金の内金五万円を返済したのみである。そこで原告は被告に対し前渡残金二十八万四千八百八十一円二十五銭及びこれに対する契約解除の日の後である昭和二十二年十一月一日より完済に至るまで民法所定の年五分の割合による遅延利息の支拂を求めるため本訴に及ぶと陳述し被告主張の抗弁事実を否認し、株式会社大華洋行は本件取引当時にはいまだ存在せず、その後昭和二十三年六月に設立登記されたものであり、しかも本件取引は右会社に継承されなかつたのであるから原告個人の取引である。東京機工株式会社はその実体は存しないのであつて被告はただ右会社の名稱を使用しているに過ぎないのであるから被告は右会社の代表者としてではなく被告個人として本件取引をしたのである。仮りに被告に於て右会社を代表して取引をしたのであつても、契約解除後、被告は原告に対し本件取引につき個人として責任を負うべき旨確約したと陳述した。<立証省略>

被告訴訟代理人は、原告の請求を棄却する、訴訟費用は原告の負担とするとの判決を求め、答弁として原告主張の事実は否認する。もつとも株式会社大華洋行より東京機工株式会社に対し、原告主張の日に、その主張の如き物品の注文があり、その主張の如き前渡金が交付され右両者間の計算関係が原告主張の通りであることは之を認める。仮りに本件取引が原被告間になされたものであるとしても、本件契約当時、変圧器及び亞鉛引鉄線は重要資材として配給統制品であつたところ本件契約は統制法令に違反して行われたものであるから原告の主張する前渡金は不法の原因のために給付したものというべく從つて原告はその返還請求権を有しない。そこで被告は原告の請求に應ずる義務はないと述べた。<立証省略>

三、理  由

本件取引が原被告の間に行われたものであるかどうかについて考えてみるに成立に爭のない甲第二、第三号証、並びに原告本人訊問の結果を綜合すれば本件取引は株式会社大華洋行と東京機工株式会社との間の取引を原被告に於て代表してなしたものではなく、原告と被告との個人間の取引であつたことを認めることができる。右認定に反する証人奥野繁一の証言は措信し難く乙第一号証の一、二、乙第二号証の一乃至三、乙第三号証の一乃至四、乙第四号証、乙第五号証の一、二の記載によるも右認定を左右するに足りない。そして原告が被告に対し、原告主張の各日時に於て、その主張の如き物品を注文しその主張の如く前渡金合計金四十九万七千二百五十円を交付したこと、被告は、原告主張の如く右契約の一部を履行した結果前渡金の内金四万三百六十八円及び金十一万七千円をその費用並に代金に充当したこと、被告が原告主張の通り丸鋸の前渡金の内金五千円、鉄線代金の内金五万円を原告に支拂つたこと、右前渡金の残金が金二十八万四千八百八十一円二十五銭であることは当事者間に爭のないところである。ところで証人小林健三、小島貞彦(第一、二回)の各証言並びに原告本人訊問の結果を綜合すれば昭和二十二年十月頃原被告合意の上右契約のいまだ履行せられない部分を解除し被告は原告に対し前渡金の残金の支拂をなすべく約したことが認められる。

本件取引物件中変圧器並びに亞鉛引鉄線は統制品であることを前提とする被告の主張につき審究するに、本件取引の目的となつた変圧器及び亞鉛引鉄線が取引当時臨時物資需給調整法に基づく指定生産資材割当規則附表第一に掲げられた指定物資であつたことは右法令により明かである。ところで、右臨時物資需給調整法並びに同法に基く指定生産資材割当規則の立法主旨は、政府が産業の恢復及び振興のため特に供給の不足する物資を指定して所定の條件を以て割当てる場合の他は一般の自由な取引を禁ずるにあるから、同法並びに同規則は公の秩序に関する強行規定であることは明かであり從つて同法並びに同規則に違反してなされた取引によつて給付したものの返還は許されないと言わねばならない。

然るに本件変圧器並びに亞鉛引鉄線の取引は、同規則所定の割当証明書なくして契約されたものであることは証人小島貞彦(第一回)小林健三の各証言により明かである。よつて原告の給付した前渡金中右物品に関する部分の返還は許されないものというべきである。右変圧器は昭和二十四年九月三十日通商産業省令第五十二号により、右亞鉛引鉄線は同年十二月二十九日農林通商産業省令第十号を以て夫々右指定物資より除外されたけれどもかゝる禁止規定の廃止されたことは、廃止以前になされた給付の原因の不法性に何等の消長を及ぼさないものと解すべきである。それゆえ被告は前記前渡金中丸源丸鋸四十二吋二枚分につき給付を受けた金七千二百五十円のみにつき支拂の責を負うべきであるが被告が内金五千円を返済したことは当事者間に爭のないところであるから結局被告は原告に対し残金二千二百五十円を支拂うべき義務あるものとする。

以上の次第であるから原告の本訴請求は右金二千二百五十円及びこれに対する契約解除の日の後である昭和二十二年十一月一日から民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支拂を求むる限度に於て理由ありとして認容し、其の余は理由なしとして棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第九十二條本文、仮執行の宣言につき同法第百九十六條第一項を適用して主文の通り判決する。

(裁判官 川淵幸雄)

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