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福岡地方裁判所 昭和24年(行)145号 判決

原告 倉石正夫

被告 田川税務署長

一、主  文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

二、請求の趣旨

原告訴訟代理人は第一、被告の原告に対する昭和二十四年一月三十日決定の贈與税金五十一万四千二百二十五円の内金四十万円については原告は同年三月五日原被告間の公法上の契約により、昭和二十五年から昭和二十八年まで、毎年二月二十八日に金十万円づつ年賦延納する権利あることを確認する。第二、被告が昭和二十四年十月二十五日なした右贈與税年賦延納許可の取消処分はこれを取り消す。第三、訴訟費用は被告の負担とするとの判決を求めた。

三、事  実

被告は原告がその長男に当る倉石正義に建物二むねおよび土地五筆を贈與したことに対し、昭和二十四年一月三十日金五十一万四千二百二十五円の贈與税を賦課したが、原告において、これを一時に納付することを困難とする事情があつたから、その頃被告に対し右贈與税の年賦延納許可申請をしたところ、同年三月五日、被告において、本件贈與税の内金十一万四千二百二十五円はこれを昭和二十四年二月二十八日までに納付すること残額金四十万円の納付については、前記倉石正義において保証書を差し入れ、かつ贈與財産に抵当権を設定すること等の條件で、昭和二十五年から昭和二十八年まで毎年二月二十八日に、それぞれ金十万円づつ各分納することを許可したので、ここに原被告間に右贈與税の年賦延納に関する公法上の契約が成立した。そこで原告は右約旨に從つて、昭和二十四年二月二十八日に金十一万四千二百二十五円を納付し残額四十万円の納付については倉石正義をして保証をなさしめ、かつ贈與財産につき抵当権を設定せしめる等誠実に債務を履行した。しかるに被告は同年十月二十五日一方的に前記贈與税の年賦延納許可を取消した。しかしながら上叙の如くすでに公法上の契約が成立ししかも原告において誠実に債務の履行をなしているのであるから被告の側においても、また誠実にその債務を履行すべきことは当然のことであつて、原告の側に何等契約違反の事実もないのにかかわらず一方的に贈與税の年賦延納許可を取り消すことは違法にして無法たるを免れない。よつて原告は直ちに福岡国税局長あて審査請求書を提出したがその裁決をまつている間にいつ差押を受け公賣処分に附せられるやも計りがたくかくては將來回復すべからざる損害を被るので、行政事件訴訟特例法第二條の規定に從いその裁決をまたず原被告間の公法上の契約により原告は本件贈與税につき年賦延納する権利あることの確認を求める。しかしもし仮に右取消が無効にあらずとするも少くとも違法にして取消を免れないものである。本件贈與税の年賦延納が契約に基くものにあらずとするも一たん與えた許可を取り消すは、これ又違法であるから前記贈與税分納許可取消処分の取消を求めるため、本訴請求におよんだと陳述し、被告の答弁に対し被告は、当事者の契約によつて贈與税の年賦延納に関する決定をなし得ないというけれどもこのような考え方は專政主義時代の議論であつて租税の基本的な法律関係が国家と国民との間の債権債務の関係であることは疑のないところであるから租税徴收権はもとより公法上の権利ではあるが金銭債権なる点においては私法上の一般債権と性質を同じくし從つて当事者の契約により租税の年賦延納を約定しうることは当然のことである。又被告の主張する如く贈與税について年賦延納が許されないものではない。贈與税は廣義の相続税の一種であり流通税たるの点においては狹義の相続税と性質を同じくしこのゆえに旧相続税法(明治三十八年法律第十号)はその第十一條において特定の贈與を遺産相続とみなす規定を設けていたのであるから現行相続税法(昭和二十二年法律第八十七号)が特に贈與税年賦延納を禁ずる旨の規定を設けない以上は当然その延納は許されているものと解すべく現行相続税法第五十一條に、いわゆる相続税というのが廣義の相続税と指称していることは明らかである。仮にそうでないにしても贈與税の年賦延納については右規定を準用するのが当然であるしこうして贈與税の年賦延納が許されないとしても一定の行政処分が国民に利益を與えるものであるならばこれを取消すことは国民の既得権を侵害することになるからこのような場合にはたとえその行政処分が違法であつても公益上ぜひとも取消さねばならぬ程の重大なる瑕疵がない以上はその取消をなすことは許されないものというべくこのような何等の瑕疵もないのになされた本件許可取消処分の違法であることは明らかである。しかも税務署長たる被告が一たん許可をしておきながら後日何等の事情の変更もないのにその取消をなすことは、いわゆる信義誠実の原則禁反言の法則の適用上到底許さるべきことではないと陳述した。

被告指定代理人は主文同旨の裁決を求め答弁として原告主張の事実は原告の法律上の見解ないし認定の点を除きその余の外形的な事実はすべて爭わない。ところで原告は租税の年賦延納の申請をあたかも契約の申込、これに対する許可処分を承諾であるかの如く誤解しこの申請と許可により公法上の契約が成立すると考えているのであるがこれははなはだしいびよう見である。大体租税の延納申請に対する許可は税務署長が法律の規定に從い独自の権限に基いてなすところの行政処分であり申請の性質は、この行政処分の発動を要求する申立に外ならないのであるから税務署長が租税の年賦延納を許可したからといつて、これにより公法上の契約が成立する道理がないのである。そうだとすれば原告がその主張のごとき契約により本件贈與税の年賦延納をなす権利あることの確認を求めることの理由のないこと明らかであつて又税務署長たる被告において後日前記許可処分の取消をなしたからといつて別段契約違反の問題を生ずる余地もない訳であるからこの契約違反の点において本件許可取消処分が違法にして無効又は少くとも取り消し得べきものとの主張もまた何等理由なきものといわざるを得ない。しこうして租税はすべて一定の納期に金銭をもつて一時に納付するを原則としただ法律に特別の規定の存する場合に限り例外としてその延納が許されるものであるところ、相続税については現行相続税法第五十一條にその年賦延納に関する規定があるけれども贈與税については何等の規定も存しないので贈與税の年賦延納は法律上許されないものと解するの外なく從つて本件において原告のなした贈與税の年賦延納申請それ自身不適法のものであり又税務署長たる被告としてもかかる申請に対し許可処分をなすことも法律上不能のことであるからたとえ被告が贈與税の年賦延納の許可処分をなしたればとて法律上何等の効力をも生ずる由がないのである。しかりとすれば税務署長たる被告がその本來の権限に基き本件許可処分の無効なることを確認する意味において、その取消をなすことはもとより当然のことであつて何等の違法もない。以上の理由により、原告の本訴請求は第一、第二ともいずれも理由なきものとして棄却を免れないと陳述した。

四、理  由

原告主張の外形的事実は被告の爭わないところで、本件の主要な爭点は(一)法律上当事者の契約により、租税の年賦延納に関する約定をなし得るか(二)現行相続税法(昭和二十二年法律第八十七号)上贈與税の年賦延納が許されるか(三)贈與税の年賦延納が認められないとしてこの場合においても税務署長が一たんその許可をなした以上はその取消処分をなすことを得ないかということである。よつてまず(一)の爭点につき考えるにこの点につき原告の主張するところは、租税に関する基本的法律関係は国家と国民との間の公法上の債権債務関係であつて租税徴收権は公法上の権利ではあるがその金銭債権なる点においては私法上の一般債権と性質を同じくするから從つて当事者の契約により租税の年賦延納等納税義務者の負担の軽減をなし得るのは当然であるというにある。なるほど金銭給付としての租税を中心とする基本的法律関係が公法上の債権債務関係であり租税徴收権なるものが、一つの金銭債権であることは原告主張の通りであるが、さればといつて租税徴收権は公法上の権利であつてもとより新法上の一般債権と全く同一のものという訳ではなくその間自ら性質上の差異が存するから、当事者の契約によつて租税の年賦延納をなし得るか否かは租税徴收権が私法上の一般債権と区別せらるる特質を明らかにすることが必要であつて租税徴收権が一種の金銭債権であるということから直ちに当事者の合意によつて処分され得るものと解すべきでない。それでは租税徴收権にはどのような特質があるかというに第一は租税が国家の財政権に基き收入の目的をもつて国民に対し無償かつ強制的に徴收される金銭給付であること次には納税義務の成立およびこれに基いて負担すべき義務の内容がすべて当事者の契約によつて定めらるることなく一に法規又は行政行爲によつて確定せられることつまり納税義務がそれぞれの租税実体法規の定める課税要件の完成によつて成立しその法規に從つて負担すべき義務の内容および範囲が定められ印紙税の如くこれを確定するにつき別段の行政行爲を必要としないものもあるが通常は税務署長の賦課処分によつて確定し法律に定められた納期において又は課税原因の発生することに納付せらるるを原則とするのであつてその成立につき当事者の合意を必要とするものでも又契約によつてもその負担すべき義務の内容範囲が確定せらるべきものでもないということ第三には納税義務履行の面においては国税徴收法が特別の強制執行手続を定め又それぞれの租税法が国民に対する各種の公法上の義務を負担せしめる等租税徴收権確保のための権力的手段を講じておりこれ等納税義務履行の面における法律関係は国家と国民との間における権力服從の関係として規律せられているということである。しこうしてこのように公法上の権利である租税徴收権には私法上の一般債権には存しない特質があり、これらの点から考えるならば当事者の契約によつて自由に租税の年賦延納等納税義務者の負担の軽減をなし得ないことはむしろ当然といわなければならない。しかりとするならば当事者間の契約により原告が本件贈與税の年賦延納をなす権利あることの確認を求める原告の第一の請求は既にこの点において理由なきことは明らかであるのみならず元來贈與税の年賦延納は後記説明のごとく法律上許されない無効のものであるからこの意味においても原告が本件贈與税の年賦延納の権利あることの確認を求める請求はその理由がない。それで次に贈與税の年賦延納が現行税法上許されるか否かを案ずるに贈與税については税法上には現行法においても旧法と同様相続税法中にその規定が存するところ現行相続税法には相続税の年賦延納に関する規定はあるが、贈與税については何等の規定も存しないので、贈與税の年賦延納は法律上許されないものと解するの外はない。この点につき原告は現行相続税法には特に贈與税の年賦延納に関する規定はないが、もともと贈與税なるものは廣義の相続税の一種であり、いわゆる流通税たるの点において狹義の相続税と性質を同じくし旧相続税法(明治三十八年法律第十号)第十一條では特に贈與を遺産相続とみなす旨の規定を設けていた、故に現行法上、特に贈與税の年賦延納を禁ずる旨の規定がない以上は、贈與税についても、やはり年賦延納が認められる旨主張する。しかしながら贈與税の年賦延納が認められるか否かは一に現行相続税法がこれをどのように規定しているかによつて決せらるべき問題であつて贈與税が廣義の相続税の一種であるか否か流通税たる点において狹義の相続税と性質を同じくするか否かを論定することによつて決定せらるべきことではない。又旧相続税法第十一條には特定の贈與を遺産相続とみなす旨の規定があつたがこれは遺産相続に因る相続財産に対し相続税を賦課する以上はこれと同視し得べき特定の贈與財産に対しても相続税を賦課するのが合理的であるということから遺産相続と同視し得べき特定の贈與財産に対し特に相続税を賦課するために設けられた規定であつて、なにも贈與税がすべて相続税と同一原則に從うものであるという当然のことを宣言したものではないのみならず、旧相続税法を全面的に改正し、すべての贈與財産に対し狹義の相続税とは独立して贈與税を賦課する規定を設けた現行相続税法の下においては旧相続税法に特定の贈與を遺産相続とみなす旨の規定があつたからといつて当然贈與税につき年賦延納が認められると解し得ざることもち論である。又原告は相続税法第五十一條の規定にいわゆる相続税とは贈與税を含めた廣義の相続税を指すと主張するが、現行相続税法の各規定をし細に檢討してみると、現行相続税法が相続税というときは常に狹義の相続税を指称し贈與税を含める廣義の意味に解すべきものと認められるものがなく特に前記第五十一條の場合に限り、廣義の相続税を意味するものと解することは困難である。しこうして租税の年賦延納等、納税義務者の負担の軽減は特に法律に規定の存する場合に限り例外として認められるものでつまり法律に特に規定のない限りは租税の年賦延納は認められないのであつて單に贈與税が流通税たるの点において狹義の相続税と性質を同じくするということだけの理由から、直ちに贈與税の年賦延納について狹義の相続税の年賦延納に関する前記第五十一條の規定を準用することは許されないものと解するのが相当である。しからば贈與税の年賦延納は法律上許されないものと解すべく從つて税務署長がたとえこのような年賦延納許可処分をなしたとしても何等法律上の効果をも生ずるに由なきものというべきである。しかるに原告は贈與税の年賦延納が相続税法上許されないとしても税務署長において一たんその許可をなす以上、その処分に公益上これを取り消さねばならぬ程の重大なる瑕疵ある場合の外はその取消をなすことを得ない旨主張するが、このような法律上許されない許可処分は前述の如く單に行政処分たる形式をそなえるにとどまり、実質的には何等の法律的効果をも生ぜざる無効のものであるから税務署長においてかかる処分あることを発見したときは必要に應じ何時にてもその行政処分の無効なることの宣言をなす意味においてこれが取消処分をなすことはまさに当然の措置というべきであると同時にかかる意味における取消である以上これに信義誠実の原則、禁反言の法則を適用して、その取消を違法とする余地のないことも恕説を要せずして明らかである故原告の第二の請求もまた理由なきものといわねばならない。

よつて原告の本訴請求は爾余の判断をまつまでもなくいずれも失当としてこれを棄却すべきものとし訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八十九條を適用し主文の通り判決する。

(裁判官 野田三夫 入江啓七郎 眞庭春雄)

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