福岡地方裁判所 昭和24年(行)45号 判決
原告(参加被告) 山崎直記
被告(参加被告) 筑紫村農地委員会
当事者参加人 山崎新
一、主 文
原告の被告に対する請求はこれを棄却する。
本件参加申出はこれを却下する。
訴訟費用は原告と被告との間に生じた部分は原告の負担とし、参加申出に因り生じた部分は当事者参加人の負担とする。
二、事 実
原告訴訟代理人は被告が昭和二十三年九月十一日別紙目録記載農地について爲した、買收計画はこれを取消す。訴訟費用は被告の負担とするとの判決を求め、その請求の原因として、別紙目録記載の本件農地は登記簿上は原告の所有物件として、登載せられてはいるが、その実、昭和十五年十一月中原告からその四男の当事者参加人に贈與したるものであるところ、被告は昭和二十三年九月十一日右農地を原告の所有と誤認し、原告がその住所のある市町村の区域内において所有する小作地の面積と自作地の面積との合計が中央農地委員会の定める面積を超える小作地であるとして、これを買收する旨の計画を樹て同月十二日その旨の公告をした。よつて原告は右買收計画は所有者を誤つた違法ありとして、その取消を求める爲、直に被告に対して異議の申立をなしたが棄却されたので、更に法定期間内たる同年十月十一日福岡縣農地委員会に対し、同様の趣旨で訴願を提起したところ、同委員会においても本件農地の所有者は原告であり、その主張の如く当事者参加人に贈與せられた事実は認め難い、これに加えるに原告と当事者参加人とは同一の世帶に在りて生活を同じくしているから、本件買收計画には違法の廉はないという理由で同年十一月十一日付訴願棄却の裁決を爲し、昭和二十四年三月三日その裁決書を原告に交付した。然しながら本件農地は前記の通り、既に原告から当事者参加人に贈與せられたもので原告の所有ではないのであるから、これを原告所有農地として爲された本件買收計画の違法であることは明白である。よつて原告は本件買收計画の取消を求める爲本訴請求に及んだと陳述し、参加申出に対し、当事者参加人請求通りの判決を求め、その主張事実は全部これを認めると述べた。(立証省略)
被告指定代理人は原告の訴を却下するとの判決を求め、その理由として、行政事件訴訟特例法第五條第四項、第五項、自作農創設特別措置法第四十七條の二の規定によれば農地買收計画の取消を求める訴の出訴期間は、訴願の裁決を経た場合には、その裁決のあつたことを知つた日から一ケ月と定められているところ、原告は昭和二十四年三月三日裁決書の交付を受けたのであるから、特別の事情なき限り同日裁決のあつたことを知つたものというべく、從つて本訴はその後一ケ月以内にこれを提起すべきにも拘らず、原告が本訴を提起したのは右出訴期間を経過した同月五日であることは本件訴状押捺の受付日付印によつて明であるから、本訴は既にこの点において不適法といわなければならないと述べ、本案につき主文第一項同旨並びに訴訟費用は原告の負担とするとの判決を求め、答弁として、原告主張の請求原因事実中、別紙目録記載の本件農地が登記簿上原告の所有物件として登載せられている事実、被告が昭和二十三年九月十一日、本件農地を原告が自作農創設特別措置法第三條第一項第三号の規定に基く制限を超えて所有する小作地と認め、買收する旨の計画を樹て、同月十二日その旨の公告を爲した事実、原告がその主張日時それぞれ被告及び福岡縣農地委員会に対し異議又は訴願を申立てたが、原告主張日時いずれも棄却せられ、その主張日時裁決書の交付を受けた事実は、いずれもこれを認めるがその余の事実はこれを否認する。原告は本件農地は昭和十五年十一月中当事者参加人に贈與せられたものである旨主張するけれども、その理由のないことは、本件農地が依然として登記簿上原告の所有物件として登載せられている事実及び原告自ら本件農地の小作料を收納し、その公租公課を負担する等実質的にも所有者として行動し來つた事実に徴し疑のないところであつて、むしろこれ等の事実に徴すれば本件農地が原告主張の如く贈與せられたものではなく、依然として原告の所有であつたこと明である。仮りに原告主張の如く本件農地が当事者参加人に贈與せられたものであるとしても、その所有権移轉登記が爲されていない以上は、これを以て登記の欠缺を主張するにつき正当の利害関係を有する被告には対抗し得ないものと解すべきのみならず、原告と当事者参加人とは同一世帶に在りて生活を同じくする者であるが故に自作農創設特別措置法第四條第一項の規定に從ひ、原告の所有小作地と合算して保有面積を算出することになるから結局はその超過部分の小作地は買收を免れないものというべく、從つて被告の爲した本件買收計画には原告主張の如き違法の廉はないといわざるを得ない。よつて原告の本訴請求は理由なきものとして棄却せられ度いと陳述し、参加申出に対し、主文第二項同旨並びに訴訟費用中本件参加申出によつて生じた部分は当事者参加人の負担とするとの判決を求め、その理由として当事者参加も一種の訴の提起であるから一般の訴と同様訴訟要件を具備することを要するものと解すべきところ、本件参加申出は行政事件訴訟特例法第二條のいわゆる訴願を経由せず直に提起せられたものであるから、既にこの点において訴訟要件を欠く不適法のものというべきのみならず、自作農創設特別法措置法第四十七條の二の規定による出訴期間を遵守せざる不適法のものである。又行政事件訴訟特例法第六條第一項の規定によればいわゆる抗告訴訟についてはその請求と関連する原状回復損害賠償その他の関連請求に係る請求に限り、特にこれを併合することが許されるものなるところ、本件参加申出の趣旨とするところは本件農地が当事者参加人の所有なることの確認を求めるというにありて本件買收計画の取消を求める原告の本訴請求とは何等の関連性なきが故に、斯くの如き参加申出は前記法條の律意に徴し到底許されないものと解すべきであると述べた。(立証省略)
当事者参加代理人は原告に対し、本件農地が当事者参加人の所有であることを確認する。原告は当事者参加人に対し所有権移轉登記手続をしなければならない旨被告に対し本件農地が当事者参加人の所有であることを確認する。被告が昭和二十三年九月十一日本件農地について爲した買收計画はこれを取消す旨、並びに訴訟費用中参加申出によつて生じた部分は原告及び被告の負担とするとの判決を求め、参加申出の理由として、陳述したところは農地買收処分は国家がその公権力に基き強制的に農地の所有権を取得するところの行政処分に外ならないのであるから、私法上の取引の安全を企図する民法第百七十七條の規定はその適用がないと解するを相当とすべきである。原告と当事者参加人とは被告主張の如く、決して世帶を同じくするものではないと述べた外、原告の請求原因事実と同趣旨の事実により茲に前記参加申出の趣旨の通り判決を求めると言うにあつて参加申出が不適法であるとの被告の主張に対し、登記簿上の所有者で且本件買收計画の相手方である原告が、既に適法なる訴願の裁決を経た上で、本件取消訴訟を提起し現に当該訴訟が繋属している以上は、眞の所有者たる当事者参加人がこれに参加するにつき、更めて訴願の裁決を経る必要はないものというべく、而して参加申出は適法に訴訟が繋属する限り、何時にてもこれを爲し得るのであるから、参加申出については被告主張の如き出訴期間の制限はないものと解するを相当とし、又本件農地が当事者参加人の所有であることの確認を求める請求も、必ずしも本件買收計画の取消請求と関連性がない訳ではないから本件参加申出を不適法とする被告の主張は理由がないと述べた。(立証省略)
三、理 由
まず本訴は出訴期間経過後に提起せられた不適法の訴である旨被告が主張するので調べるに、原告が本件裁決書の交付を受けたのは昭和二十四年三月三日であること当事者間に爭がないのでこれを眞実と認めるべきであるから原告は反証なき限り、同日本件買收計画に対する訴願につき裁決のあつたことを知つたものと認むべく、從つて右買收計画の取消を求める本件訴訟は行政事件訴訟特例法第五條、自作農創設特別措置法第四十七條の二の規定に依りその後一ケ月内に、すなわち本訴においては同年三月四日より起算し一ケ月の期間の末日たる同年四月三日が日曜日に当るので翌四日までにこれを提起すべきところ、本件訴状に押捺の受付日附印の記載に依れば同年四月五日に本件訴状が受付けられたこととなつている故に本訴は出訴期間経過後に提起せられたものと認むべきが如くである。然しながら眞正に成立したものと認める甲第二、第三号証及び証人松尾参三郎の証言に本件訴状の日附が昭和二十四年四月四日となつている事実を綜合するときは、本件訴状は原告より本件訴訟の委任を受けた弁護士松尾参三郎が同年四月四日これを当廳に提出したことを認めることができると同時に、右の如く同訴状にその翌四月五日付の受付日附印が押捺せられているのは四月四日に本件訴状が提出せられたのに拘らず事務上の手違の爲同日これが受付の手続を爲さず、翌五日に至つてその受付手続を爲すに際し、誤つて同日提出せられたものとしてその日の日附印を押捺せられたものと認められる。それで本訴は前記受付日附印の記載に拘らず出訴期間内たる同年四月四日に提起せられた適法の訴であるといわねばならない。
よつて本案につき按ずるに被告が昭和二十三年九月十一日本件農地を原告の所有と認め、原告が自作農創設特別措置法第三條第一項、第三号の規定による制限を超えて所有する小作地なりとして買收する旨の計画を樹て、翌十二日その旨の公告を爲した事実、原告がその主張の日時それぞれ被告及び福岡縣農地委員会に対し、異議又は訴願を申立てたが、原告主張の日時いずれも棄却せられ、その主張の日時裁決書の交付を受けた事実はいずれも当事者間に爭がない。そこで本件農地が原告主張の如く原告から当事者参加人に贈與せられたものであるか否かの点について調べるに、証人武井廣、近藤庫人、波多江可能、鶴崎文彦、山崎忠の各証言に原告本人尋問の結果を綜合すれば、原告の四男に当る当事者参加人の縁談が始まつた昭和十五年十月頃に原告から主だつた数名の親族に相談した結果、將來当事者参加人も分家させねばならぬであろうから、財産分けとして原告所有の山林三町歩位と田畑一町歩位とを当事者参加人に贈與しようということについて話がまとまつたことはこれを認めるに難くないのであるが、更に進んで右話の趣旨を具体化し、原告から当事者参加人に対し確定的に本件農地を贈與する旨を約した事実に至つては前顕各証人の証言及び原告本人尋問の結果、その他原告の提出援用に係るすべての証拠によるも未だこれを確認するに足らない。却つて成立に爭なき乙第三号証、第六号証、当裁判所が眞正に成立したものと認める乙第五号証の一乃至三に証人天本茂、斎田不二夫、山内岩吉の各証言及び前顕各証拠を綜合すれば原告としては前記認定の話の趣旨に從い何時かわ、当事者参加人に山林、田畑を分け與えようと思ひながら、そのまま時を過すうち終戰後農地改革が叫ばれるようになつたので、急いで本件農地を当事者参加人に分け與えようと思つたが、当時既に農地所有権の移轉については地方長官の許可を要する等その実現が極めて因難であつた事情から、遂にその目的を果し得ざる中に本件買收計画となつた事実を認めるに難くないので、本件農地の所有者は依然として原告であると認めるの外はない。然れば本件農地を原告の所有と認めて爲された本件買收計画には原告主張の如き違法の廉は存しないからこれが取消を求める原告の本訴請求は爾余の判断をまつまでもなく理由なきものとして棄却を免れない。
次に本件参加申出の適否について調べるに、行政廳の違法なき処分の取消又は変更に係るいわゆる抗告訴訟は、常に行政廳を被告となすべきであるのに抗告訴訟たる当事者参加は行政廳を被告とする外、行政廳でない原告をも併せて被告とすることになる。然るに行政事件訴訟特例法第六條の規定に依れば、抗告訴訟には処分の取消又は変更を求める請求と関連する請求に係る訴に限つて、これを併合することができることになつている。それで本訴の原告を被告とすると請求が、本訴の被告に対する処分の取消又は変更を求める請求と関連する場合でなければ、抗告訴訟たる当事者参加は許されないものと解せねばならない。然るに本件参加申出の趣旨とするところは本訴原告に対しては、本件農地が当事者参加人の所有であることの確認を求めると共に、その所有権移轉登記手続を求め、本訴被告に対しては同様所有権の確認を求めると共に、本件農地の買收計画の取消を求めるというにあるが、右の本訴原告に対する本件農地の所有権確認とその所有権移轉登記手続を求める請求は、本訴被告に対する本件農地の買收計画の取消を求める請求と何等の関連性もない。すなわち本件買收計画に原因するものでもなければ、又本件買收計画の取消又は変更が先決問題となつている場合でもないこと明であるから本件参加は前記説示の理由により許されないものといわねばならない。仮りに本件参加が許されるものとするも、元來当事者参加は一種の訴の提起に外ならないのであるから、一般の訴の提起と同様それ自体訴訟要件を具備すべきこと、すなわち、本訴被告に対し本件買收計画の取消を求める訴については、行政事件訴訟特例法第二條の規定に從つて、いわゆる訴願の裁決を経ることを要すること勿論であるところ、当事者参加人が本件参加申出を爲すにつき、本件買收計画に対する訴願の裁決を経ていないことは弁論の全趣旨に徴し明であつて、特に訴願の裁決を経ないで参加申出を爲し得べき事由については何等その主張も立証もないので、この関係において本件参加申出はその訴訟要件を欠くものというべきのみならず、又仮りに本件参加申出を爲すについては、本件農地の買收計画に対する本訴原告の提起せる訴願の裁決を経たるを以て足るものとするも、なお本訴原告に対し、その裁決書の交付のあつたのは前記の如く昭和二十四年三月三日であるところ、本件参加申出のあつたのは、同年七月三十日であること当裁判所に顕著なことであるから、本件参加は本訴被告に対し本件買收計画の取消を求める訴の関係において、いわゆる出訴期間を遵守しないものであること明である。以上の如く本件参加申出は不適法のものであるから、到底却下を免れない。
よつて訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八十九條を適用し主文の通り判決する。
(裁判官 野田三夫 入江啓七郎 矢頭直哉)
(目録省略)