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福岡地方裁判所 昭和24年(行)85号 判決

原告 谷山栄蔵

被告 福岡県知事

一、主  文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

二、事  実

原告代理人は被告が昭和二十三年十月十五日付原告に対して爲した第一種事業税賦課処分の無効なることを確認する。訴訟費用は被告の負担とする趣旨の判決を求めその請求の原因として、被告は原告の昭和二十二年度中における仕事を地方税法第六十三條第二項第八号にいわゆる請負業に該当すると認め昭和二十三年十月十五日付その所得について第一種事業税を賦課し同月十七日その旨令書を原告に交付した。然しながら第一種事業税の課税物件は地方税法第六十三條第二項各号に定める事業所得であつて、このような事業外の所得については事業税を賦課し得ないものであるところ、原告はいわゆる日傭大工で同年度中請負業その他事業税の対象となるが如き如何なる事業をも営んだことはないから從つて原告に対する前記課税処分は明に違法にして、無効たるを免れないものである。すなわち、原告は年來の大工職ではあるが常に日傭の方法で仕事を爲している者であつて、昭和二十二年度中は久留米市元町のライオン製藥株式会社に日給の日傭大工として雇傭され、その間壁板の修理や物置台等その他営繕の仕事に從事したのであるが、原告が請負業その他事業税の対象となるような事業を営まなかつたことは、これ等の事実自体に徴し証明されるところである。要するに本件第一種事業税の賦課処分は課税物件の存せざるところに課税した違法があるというべく、このような瑕疵はいわゆる無効原因たる瑕疵と解すべきであるから、茲に原告は右課税処分の無効確認を求めるため本訴請求に及んだと陳述し、被告の答弁に対し、原告が本訴を提起するにつき被告に対し適法なる異議の申立をしていないことは認めるが、行政処分の無効確認の訴を提起するについては、いわゆる訴願前置主義の適用を受けないものと解すべきである。又原告がその受取つた賃金から源泉徴收を受けた事実のなかつたことは認めると述べた。(証拠省略)

被告代理人はまず訴却下の判決を求めその理由として原告の本訴請求は要するに本件課税処分は事実の認定に錯誤があつて無効であるからその無効確認を求めるというに在るのであるが、このような場合でも、矢張地方税法第二十一條の規定に從い、異議申立等所定の訴願手続を経なければ出訴権はないものと解すべく、本訴は右の如き訴願手続を経ることなく直に提起されているのであるから既にこの点において違法たるを免れないものであると述べ本案につき主文同旨の判決を求め答弁として原告主張の請求原因事実中、被告が原告の昭和二十二年度における仕事をいわゆる請負業に該当するものと認め、その所得について、昭和二十三年十月十五日付第一種事業税を賦課し同月十七日その旨令書を原告に交付した事実、原告が年來大工職である事実は認めるがその余の事実はこれを否認する。原告は本訴において、自分は日傭大工であつて、請負業は勿論、第一種事業税の対象になるような如何なる事業をも営んだことはない旨主張するが、大体地方税法第六十三條第二項第八号にいわゆる請負業というのは或る仕事の完成を約し相手方がその仕事の結果に対し報酬を與える関係に在るすべての業種を指すものと解すべく、原告は、その自陳する如く年來大工を業とし特別の技術と労力により自己の生産要具を使用し家屋の建築等の仕事を完成しその結果に対して、相手方から報酬を得る者であるから、その業種からみて一つの請負業者とみるべきである。然のみならず原告は昭和二十二年度中久留米市古瀬工場の内部普請を永野佐一郎と共同で請負つた事実があり、或は同市原古賀町松竹樓主古賀国治の注文により家屋の修理の請負を爲し、又昭和二十四年三月頃福岡縣久留米財務事務所に自身出頭した際、請負を爲したことを承認した事実があり、又ライオン製藥株式会社における仕事も廣い意味で請負に該当すると認められるのであつて、これ等の事実から推して、原告主張の理由なきことは明であり、このことは原告がその受取つた報酬金から源泉徴收を受けた事実のなかつたことからも窺える。仮りに原告が眞実請負業を営んだことがないとしても、行政処分が当然無効である場合はその処分に重大且外観上明白な瑕疵がある場合に限るものと解すべきところ、右は本件課税処分の重大且外観上明白な瑕疵に該当するものとは認められないから、從つてその無効確認を求める本訴請求は矢張り理由がないことになる。

以上の理由により本訴請求は理由がないからこれを棄却され度いと陳述した。(証拠省略)

三、理  由

被告はまず訴却下の判決を求める旨主張するが、原告の本訴請求は要するに原告に対する本件事業税の課税処分の無効なることの確認を求めるというに在り、無効確認訴訟を提起するについては、異議申立、その他訴願手続を経る必要はないものと解すべきであるから右被告の主張は理由がない。よつて本案について考えるに原告の主張するところは、自分は日傭大工であつて第一種事業税の対象となるような請負業を営んだ事実はない。つまり原告に対する本件第一種事業税の賦課処分は課税物件の存せざるところに課税した違法があり、右はいわゆる無効原因たる瑕疵に該当するというに在る。

ところで、行政処分の如何なる瑕疵が無効原因たる瑕疵であり、如何なるものが、取消原因たる瑕疵に過ぎないかは、極めてデリケートな問題ではあるが、結局行政処分に重大且明白な瑕疵が存する場合に限りその処分は無効であり、然らざる場合は仮りに違法原因たる瑕疵があるとしてもそれは取消原因たる瑕疵に過ぎないものというべく、その何れか区別し難い場合には、むしろ、取消原因たる瑕疵と認めるのが相当である。

それでは原告に対する本件第一種事業税の賦課処分に右にいう無効原因たる瑕疵が存するか否かが問題であるが、原告が年來大工を業とする者であることは当事者間に爭がなく、現状において、大部分の大工が多少に拘らず労働要具を所有し、何時でも独立の事業者として働き得る可能性と能力があり又多数の大工が実際仕事をしている実情から考えて、独立して大工、左官等の仕事に從事する者は一つの小事業者と推定することができるし、又実際多数の大工がいわゆる手間請の方法で仕事をしていることは成立に爭なき乙第二号証の二の記載によつても窺われるところである。

それで、これ等の事情からみて被告が原告の仕事を請負業に該当するものと認めたことは相当の理由があるものというべく、從つて原告がたとえ、その主張する如く日傭大工であつたとしても、これに対する本件の課税処分の瑕疵は、いわゆる無効原因たる瑕疵には、該当しないものと解すべきである。

然らばこれを無効原因たる瑕疵に該当するとして、本件課税処分の無効確認を求める本訴請求は爾余の判断を要せず理由なきものといわなければならない。

よつて、本訴請求はこれを棄却すべきものとし訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八十九條を適用し主文の通り判決する。

(裁判官 丹生義孝 入江啓七郎 眞庭春夫)

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