福岡地方裁判所 昭和25年(行)161号 判決
原告 大久保勇太郎
被告 行橋税務署長
一、主 文
原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
二、事 実
原告代理人は、被告が原告に対し昭和二十五年三月二日附為した所得税金二万六千四百円の賦課処分を取消す。訴訟費用は被告の負担とするとの判決を求め、その請求の原因として原告は漁業を営む者であるところ、被告は昭和二十四年度において原告に金十三万二千五百円の所得ありとして、原告に対し請求の趣旨に記載した通りの課税処分をした。しかしながら、原告の同年度における総収入は金二十万七千四百八十円十九銭、その必要経費(マニラロープ、石油、針金、網、その他漁業を営むにつき必要なる資材の購入費等)は合計金二十万八千八百十五円三十七銭であつて、差引金千三百三十五円十八銭の欠損となつている。それで前記課税処分は課税標準となるべき所得のないところに課税された違法があることになる故、同年三月二十五日原告から福岡国税局長に対し審査の請求を為したのであるが、その後三ケ月を経過しても何等の決定がないので、ここに原告は被告に対し、前記課税処分の取消を求めるため、本訴請求に及んだと陳述した。(証拠省略)
被告指定代理人は主文同旨の判決を求め、答弁として原告主張事実中、原告が漁業を営むこと、被告が昭和二十四年度において原告に金十三万二千五百円の所得ありとして請求の趣旨に記載した通りの課税処分をしたこと及び原告がその主張日時その主張の如く審査請求を為したが未だに決定のないことはいずれも争わないが、その余の事実はすべてこれを否認する。原告の昭和二十四年度における水揚高その他の収入は合計金四十万円に近いものと認められ又その必要経費も原告主張の如く多額なものであつたとは考えられないが、仮にその主張通りであつたにしても、約二十万円近い所得があつたものと認められるから従つて被告の為した昭和二十四年度における原告の所得の見積りは、その実際の所得よりもむしろ遙かに下廻るものであつたというべきであつて、本件課税処分が課税標準となるべき所得なきところに課税されたとして、その取消を求める本訴請求は何等の理由がないと陳述した。(証拠省略)
三、理 由
よつて按ずるに、課税標準となるべき所得の存在については課税権者の側において、その存在を合理的に首肯せしめるに足る一応の立証を為すべき義務があると解すべきところ、成立に争のない乙第一号乃至第十四号証に証人岸本信雄、池田桂太郎、岩本邦未、田島潔、富田正憲、大久保富祐治の各証言を綜合し仔細に検討するときは、昭和二十四年度において、課税標準となるべき原告の所得が少なくとも金十三万二千五百円以下ではなかつたという事実が証明されたものということができる。原告は同年度において総収入金二十万七千四百八十円十九銭、必要経費金二十万八千八百十五円三十七銭、差引金千三百三十五円十八銭の欠損があつた旨主張し甲第一、二号証第三号乃至第六号証の各一、二によれば、昭和二十四年度における原告の稲童浦漁業協同組合に対する水揚高が合計金一万五百八十九円稲童浜第一漁業協同組合に対するそれが合計金九万五千百七円九十七銭自家販売が合計金八万六千七百八十三円であつた旨が記載され、又原告が前記稲童浦漁業協同組合から配給を受けた資材の合計は金五万八千八百三円、稲童浜第一漁業協同組合からのそれが合計金十五万十二円三十七銭ということになつているので、これ等の数字のみについて考えるときは、原告の前記主張事実を認め得べきが如くであるが、しかし前顕各証拠によればこれ等水揚高の数字は単に原告が漁業組合に供出した分だけであつて、魚獲高の全部を示すものではなく、実際にはこの外なお相当量の魚獲があり、その或るものは闇に流れ、或は自家用に消費されたであろう事実を窺うことができ又必要経費のうち金一万五千二百六十六円四十一銭が重複計算されていることが明かであつて、これ等の諸事情を考え合せるならば、前記甲号各証のみによつては未だ前記認定を覆して原告主張事実を認めるには足らぬものというべく、しかも前顕各証拠によつて認め得る原告方が雇人を含め十人以上の中流の生活を営む家庭であること、当時行橋方面における生活費の一人平均が金千円程度であつたこと、昭和二十四年度において、原告とほぼ条件を同じくする他の漁業者が金十七万円程度の所得があつたこと、同年度において原告方が特に他の漁業者より魚獲高が少なかつたという特殊事情が認められないこと、昭和二十五年と昭和二十四年度とを比較しその魚獲高に差して変動がなく、原告の昭和二十五年度における魚獲高が組合に対する水揚量だけで合計金四十万円を超えていること等の諸事実は、前記認定の正当性を裏書するに足る証左ということができる。以上認定に反する原告本人尋問の結果(第一、二回)及び証人大久保フユの各証言は信用できず他に右認定を左右するに足るものはない。
以上説明の通り、被告が昭和二十四年度における原告の所得を金十三万二千五百円と認めたことは洵に相当であつたというべきであつて、本件課税処分が課税標準となるべき所得なきところに課税されたとしてその取消を求める本訴請求は理由なきことに帰するからこれを棄却すべきものとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八十九条を適用し主文の通り判決する。
(裁判官 入江啓七郎)