大判例

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福岡地方裁判所 昭和26年(ワ)381号・昭26年(ワ)472号 判決

被告(反訴原告)は原告(反訴被告)に対し福岡市荒戸町二十八番地の一所在家屋番号西通町五四番の五木造瓦葺二階建店舗兼居家一棟建坪九坪、二階五坪の家屋を明渡し、且昭和二十六年五月十日以降右家屋明渡済に至る迄一ケ月金三千円の割合に依る金員を支払わねばならない。

反訴原告の請求はいずれもこれを棄却する。

訴訟費用は本訴及び反訴共全部被告(反訴原告)の負担とする。

此の判決は第一項に限り原告(反訴被告)において家屋明渡の点につき金五万円、金銭給付の点につき金五千円の担保を供するときは仮にこれを執行することができる。

二、事  実

原告(反訴被告以下原告と略称する)訴訟代理人は本訴につき主文第一項記載同旨及び訴訟費用は被告の負担とするとの判決並びに担保を条件とする仮執行の宣言を求め、反訴につき主文第二項記載同旨及び反訴の訴訟費用は反訴原告の負担とするとの判決を求め、本訴請求原因並びに反訴に対する答弁として原告は昭和二十六年三月二十四日福岡地方裁判所昭和二十五年(ケ)第一三八号不動産競売事件において主文第一項記載の家屋の競落を許可せられ、同日その代金を支払つてこれが所有権を取得し同年五月九日右競落許可決定に基いて右家屋に対する所有権取得登記手続が完了されたのであるが、被告(反訴原告以下被告と略称する)は原告に対抗し得べき何等の権利もないのに引続き該家屋に居住している。かくして被告は故意又は過失に依り原告の所有権を侵害しこれが為原告は右家屋の使用収益を妨げられ、よつてその相当賃料たる一ケ月金三千円の割合に依る損害を蒙つているので原告は被告に対し所有権に基いて右家屋の明渡を求め、且その所有権取得の登記をした日の翌日である昭和二十六年五月十日以降右家屋明渡済に至る迄一ケ月金三千円の割合に依る損害金の支払を求める為本訴に及んだものである、而して前記競売事件においてはその手続はすべて適法に行われたものである、仮に手続上多少の瑕疵があつたとしてもそれは既に右競売手続の終了に依つて治癒せられたものである、また仮に右競売手続において第三取得者である被告の親権者の表示を欠いでおり、右は競売手続の終了によつて治癒せられないものであるとしても右競売事件においてはその被告宛の書類は被告の両親がこれを受領しているので実際上未成年者たる被告の保護に何等欠くるところはないから未だこれのみを以て該競売手続を無効ならしめる程度の瑕疵があるとはいえない、これは被告に対する抵当権実行の通知についても同様である。その他原告の主張に反する被告の主張事実は全部これを否認すると述べた。<立証省略>

被告訴訟代理人は本訴につき原告の請求を棄却する、訴訟費用は原告の負担とするとの判決を求め、反訴として福岡地方裁判所昭和二十五年(ケ)第一三八号不動産競売事件において主文第一項記載の家屋につき為した競売手続は全部無効であることを確認する。原告は被告に対し前記競売事件の昭和二十六年三月二十四日付競落許可決定を原因として前記家屋につき為された福岡法務局同年五月九日受付第七二三九号所有権取得登記の抹消登記手続をしなければならない、反訴訴訟費用は原告の負担とするとの判決を求め、本訴に対する答弁並びに反訴請求原因として原告がその主張の日その主張の如く本件家屋の競売手続においてこれが競落を許可せられたこと、及び原告主張の日右競落許可決定に基いて原告の右家屋に対する所有権取得登記が為されたことは認めるが、右競売手続は全部無効である。すなわち右競売手続は訴外鶴田融資株式会社が訴外内藤俊雄に対する債権の弁済を得る為に被告所有の本件家屋につき抵当権の実行を為したものであるが、(一)債権者が第三取得者に対して為す抵当権実行の通知は第三取得者に対する意思表示であるから、その通知が適法に相手方に到達したときから効力を生じ、適法に通知が相手方に到達しないときは債権者は競売申立を為すことはできないにも拘らず、原告が右競売申立について為した抵当権実行の通知は未成年者で而も意思無能力者である被告に対しなされたものであるから民法第三百八十一条による抵当権の実行の通知としての効力を生じない。(二)右不動産競売申立及び福岡地方裁判所がなした昭和二十五年十一月三十日付右不動産競売開始決定及びこれに次で為された不動産競売開始決定の通知、競売期日の通知、配当期日の通知はすべて被告宛に為されており、(三)また右競売手続において債務者である訴外内藤俊雄は大分県臼杵市港町本通りに居住しているに拘らず、同人が居住していない福岡市荒戸町二十八番地の一同人宛の右各通知が為され、而も配当期日の通知は同人に対しては全く為されていないのである、従つて以上の手続は法律上無効であり、これ等無効の手続によつて為された競売申立登記、執行吏の競売、原告の競落申立、競落許可決定の言渡等一連の無効は前記競売手続全部の無効を招来するものであるから原告は前記競落に依り本件家屋の所有権を取得したものではなく、右家屋は依然として被告の所有に属すべきであるから被告としては原告に対し何等本件家屋を明渡すべき筋合のものではなく、従つて右家屋に居住しているからといつて損害賠償をする義務は毛頭ないのである。然るに原告は右競落に依つて本件家屋の所有権を取得したと主張するので被告は右競売手続の無効確認並びに右競落による所有権取得登記の抹消を求める為反訴請求に及んだと述べた。<立証省略>

三、理  由

先ず原告の本訴請求につき考察するに原告が昭和二十六年三月二十四日福岡地方裁判所昭和二十五年(ケ)第一三八号不動産競売事件において主文第一項記載の家屋の競落を許可せられたこと及び同年五月九日右競落許可決定に基いて原告の右家屋に対する所有権取得登記手続が完了されたことは当事者間に争がない。

被告は右競売手続全部の無効を主張しその理由として(一)原告が第三取得者たる被告に対して為す抵当権実行の通知は無能力者である被告に対しなされたものであるから民法第三百八十一条による抵当権の実行の通知としての効力を生じないと主張する。而して被告が未成年者であることは当事者間に争のないところであり、且成立に争のない甲第二号証に依れば債権者たる原告から本件家屋の第三取得者である被告に対する抵当権実行通知書が被告宛に送達されたことは十分認められるところであるが、抑々民法第三百八十一条は抵当不動産の第三取得者をしてその不知の間に滌除権行使の機会を失うことなからしめんが為に設けられた規定であるけれども、滌除制度は結局抵当附不動産の売却せられる機会を多からしめ、不動産取引の運行を容易ならしめんとする公益的理由に基くものたることも疑問の余地なきところであるが故に、本件の如き既に競売手続が完結せられ、当該不動産の帰属が公の機関の行為によつて確定せられた以上、該手続を経て物権を確定的に取得したと信ずる人々即ち競落人の為にその動的安全を保障する必要性に対し第三取得者に認められた滌除権と雖もその適用を制約せらるべきであるから、単に民法第三百八十一条による通知に前敍の如き瑕疵があつたからといつて該競売手続が無効であるとすべからざること極めて明白であり、従て被告の右主張は理由がない。次に被告は(二)右競売手続における不動産競売開始決定及び同決定の通知、競売期日の通知、配当期日の通知はいずれも未成年者である被告に対して為されているからすべて法律上無効であると主張する、而していずれも成立に争のない甲第三乃至第六号証、同第八乃至第十一号証に依れば右被告主張の事実を認めるに足るが同時にまた前記甲第四号証、同第六号証、同第九号証、同第十一号証に依れば右各通知はいずれも被告の親権者である戸井房一又は戸井カツノによつて受取られたことを認めることができる。従つて実質上何等未成年者である被告の保護に欠くるところがなかつたことが認められるので未だ以て前敍の如き単に形式的な手続上の瑕疵のみの存在を理由にすべてのこれ等の手続否ひいては競売手続の全部を無効ならしめるものとは到底解することができないから被告の右主張も採用の限りでない。被告は更に(三)右競売手続においては債務者である訴外内藤俊雄に対してはその現実の住所以外の場所に必要な通知がなされ而も配当期日の通知は全く為されていないから該手続はすべて法律上無効であると主張するが右事実を立証するに足る何等の証拠もない。

よつて右競売手続は全部無効であるとの被告の主張はいずれの点よりするも理由がないから右競売手続は結局適法であつたことに帰し、従つて原告は本件家屋を適法に競落し、その正当な所有者となつたものであるから被告において原告に対抗し得べき権利の存在につき何等の立証のない限り原告が被告に対し所有権に基き右家屋の明渡を求めることは理由があるといわねばならない。

果して然らば右家屋につき原告の所有権取得登記後も依然として被告が右家屋に居住することは反証なき限り被告の故意又は過失に基くものと認むべきであり、且右家屋の相当賃料が一ケ月金三千円であることは被告の争わないところであるから原告は被告の右家屋の占有により右同額の損害を蒙つたものと認むべく、従つて原告が被告に対し右所有権取得登記の日の翌日である昭和二十六年五月十日以降右家屋の明渡済に至る迄一ケ月金三千円の割合に依る損害金の支払を求めることも理由があることになる。

よつて原告の本訴請求はすべて正当としてこれを認容すべきものである。

次に反訴請求について考察するに被告の競売手続無効の主張のすべて理由のないことは曩に本訴において説示したところであり、従つて被告の所有権取得登記抹消の請求も理由がないこと明白であるから被告の反訴請求は固より失当として棄却を免かれない。

よつて訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八十九条、仮執行の宣言につき同法第百九十六条を各適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 野田三夫)

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