大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

福岡地方裁判所 昭和26年(行)17号 判決

原告 出光興産株式会社

被告 福岡県知事

一、主  文

被告が原告に対し昭和二十六年三月十四日附別紙目録記載物件の取得について為した過年度追徴不動産取得税金四十九万五千円の賦課処分を取消す。

訴訟費用は被告の負担とする。

二、事  実

原告訴訟代理人は主文同旨の判決を求め、その請求の原因として、原告は昭和二十四年二月二十八日株式会社三井本社からその所有であつた別紙目録記載物件(以下石油タンクという)をその敷地、建物並びに附属設備と共に代金四百五十五万円を以て譲受けこれが所有権を取得した。そして被告から右土地及び建物の取得につき不動産取得税が賦課されたので、直にその全額を納付した。然るに被告はその後昭和二十六年三月十五日、石油タンクを不動産取得税の対象となる独立の不動産と認め、これが取得当時の時価を金四百九十五万円と評価の上、新に原告に対し過年度追徴不動産取得税としてその十分の一に当る金四十九万五千円の賦課処分をした。しかしながら右課税処分には次に述べる通り違法の廉があり到底違法にして取消を免れない。すなわち(一)石油タンクは独立した不動産には該当しない。というのは現在の法制の下において動産不動産の区別が為されている理由は、封建時代における如く、不動産が動産より経済的に重大な価値があるからだというのではない。それは主としてその物の上に存する権利の得喪変更が不動産的公示方法すなわち登記又は判例の認める明認方法によらしめられているか、それとも動産的公示方法すなわち占有によらしめられているかという公示方法の異なる点に求められているのであるからこれ等の観点から考えてみるならば、動産不動産の区別は結局においては取引社会の通念に従いそれが不動産的な取扱を要求されているか、その権利の得喪変更につき不動産的公示方法が考えられているかどうかという点に在ると解さねばならない。そうすれば石油タンクの如きは取引社会の通念において、不動産的な取扱が要求されている訳でもなければ、その権利の得喪変更につき不動産的公示方法も存しないのであるから従つてこれを現行法上の独立した不動産と認め難いことは明である然りとすれば本件課税処分は独立の不動産でないものの取得につき不動産取得税を賦課した違法があるということになる。(二)仮りに(一)の見解が容れられないとしても、石油タンクは本件不動産取得税の対象となるべき不動産には該当しないと解すべきである。何故ならば、福岡県税賦課徴収条例(昭和二十三年八月一日福岡県条例第三十六号)第五十九条には「不動産取得価格の算定は、次に掲げる価格又はその合計額による。一土地の価格二家屋(畳、建具その他の造作を含む。)の価格 三立木(竹材を含む。)の価格 四門、塀、垣、庭園、その他附属築造物の価格」と規定されているところ、これ等の規定から考えるならば、不動産取得税の対象となるべきものが、土地並びにその附属物及び家屋並びにその従物に限られる趣旨であることが明であるからである。そうすればそのいずれにも該当しない石油タンクの取得につき課税するということは、いわゆる租税法定主義に違反するものといわねばならぬ。(三)仮りに(二)の主張も亦理由がないとしても、本件課税処分は、明に、石油タンクの時価の算定を誤つている。すなわち石油タンクは前記の如く、もと株式会社三井本社の所有に属し、持株整理委員会の監督の下に原告に売却されたものであるが、売却直前同委員会が日本勧業銀行に委嘱して厳正公平に評価せしめた当時の時価は、ポンプその他の附属品を含め金二百八十万千百四十八円ということであつた。従つてこれ等のポンプその他の附属品を除外すれば当時における石油タンクそのものの時価はこれよりも遙かに下廻るものであつたことが明であつて、被告がいわれなくその取得当時の時価を金四百九十五万円と算定し一方的にこれを原告に押付けようとしているのは、到底承服し難いところである。以上の次第であるから原告は直に被告に対し違法なる本件課税処分の取消を求めるため、異議の申立に及んだが被告は今日まで何等の裁決を為さないので本訴請求に及んだと陳述した。(証拠省略)

被告訴訟代理人は「原告の請求を棄却する」「訴訟費用は原告の負担とする」との判決を求め、答弁として原告主張事実は原告が本件課税処分の違法事由として主張している(一)(二)(三)の点を否認しその余はこれを争わない。而して(一)石油タンクは、土地の定着物であり且経済的にも独立して権利の目的たり得るものであるから、いわゆる不動産に該当することは明である。(二)然りとすれば石油タンクが地方税法(昭和二十三年法律第百十号)にいわゆる不動産取得税の客体たり得ることは当然のことである。(三)石油タンクの時価は、これと同種の貯油施設の建造費を基準として、これから原価償却費(原価償却年数は三十年とし、石油タンクの経過年数十二年分を控除した。)と、石油タンクの空襲に因る被害額とを控除し、なおその六割ということで算定されたのであつて、毫も不当の廉はないと陳述した。(証拠省略)

三、理  由

石油タンクが独立の不動産に該当するか否かの争点につき按ずるにこれを決するについては、まず石油タンクが土地の定着物と解されるか否か、次に取引社会において、これを独立の不動産として取扱う慣行乃至要求が在るか否か等諸般の事情を明にしなければならないと思われるので順次検討することにする。

一、石油タンクは土地の定着物であるか、

検証の結果に証人大成利雄の証言を綜合すると、石油タンクは、別段大規模な基礎工事によつて土地に附着せしめられているものではなくて、ただ少しく平坦にもり上げられた砂の上に、そのまゝ据えられた巨大なドラム罐の如きものである事実が明であるので、定着物の観念を土地と物理的に結合している物というように解するとすれば、石油タンクは既にこの点において、不動産には該当しないということになろう。然しながら定着物の観念は、必ずしも土地の物理的な附着物とは同意義ではないのであつて、土地と離れてはその物の効用の考えられないもの、換言すると一定の土地に附着していることによつて初めてその効用が考えられ、一定の土地に附着せしめられて使用されることがその物の取引上の性質とせられるものをいうと解するのが相当であつて、それが土地と物理的に結合しているか否かは定着物の観念を定める一資料に過ぎないと認むべきである。つまり土地と物理的に結合せしめられている物がすなわち定着物だというのではなく、その観念は一定の土地に附着せしめられて使用されることが、その物の取引上の性質とせられるか否かによつて決せられるというのである。それで取引の通念上一定の土地に附着せしめられて使用されることがその物の性質であると認められるところの、たとえば建物の如きものは、この意味で土地の定着物と観念せられ、又機械の如きものは、それが大規模な基礎工事によつて土地と附着せしめられることにより、初めて土地に附着せしめられて使用されることが、その取引上の性質とせられる。つまり土地に附着していることによつて初めてその物の効用が考えられるようになるから、この意味で土地の定着物と観念されると解すべきである。然るときは石油タンクは、前記の如く物理的には土地に結合せしめられている訳ではないが、検証の結果と証人大成利雄の証言によれば、それは実に巨大な鋼製丸型貯油施設であつてそれ自体の重量により、少しく砂中にめり込んでおり、その位置を変動せしめんとするも到底不可能である事実が認められるのであつて、一定の土地を占拠しこれに附着していることによつて初めてその効用が考えられ土地に附着して使用されることがその取引上の性質とすると解されるから、この意味で矢張り土地の定着物と観念して何等差支えがないといわねばならぬ。

二、石油タンクは現行法上独立の不動産と認められるか、

石油タンクが土地の定着物と認められることは前記の通りであるが、しかし現行法上定着物すなわち独立の不動産と解すべきではなく、独立の不動産であるか否かは、更にその場所と時代における取引の通念に照し、そこにこれを独立の不動産として取扱う慣行乃至要求が在るか、又その物の上に存する権利の得喪変更につき独立した不動産的公示方法が在るか否かの観点から合理的に決せらるべきことである。というのは動産不動産の区別は絶対的客観的なものではなく、立法的によつては建物を独立の不動産と認めないものもあれば、又取引社会の推移に伴いそれが新な不動産の種別や取引の形式を生ぜしめることによつて、不断に変遷を免れないと考えられるからである。このことは植栽にかゝる樹木の集団が土地の定着物でありながら、かつては独立の不動産と認められなかつたに拘らず、取引社会の推移によつて独立の不動産として取扱われるようになり、続いて天然林に及び、更に個々の樹木についても当事者がこれを物権的に処分しようとするときには、その生育する土地から離れた独立の物となり、単に当事者間で所有権移転の効力を生ずるに止まらず、これについていわゆる明認方法を講ずることにより、第三者にも対抗することができるという原則が認められるに至つた変遷の跡に徴し窺い得るであろう。然るに石油タンクは、その上に存する権利の得喪変更について何等の不動産的公示方法の存しないのは勿論、現在の社会取引の通念に照し、不動産的取扱を受けておらず、又取引社会においても未だ不動産的取扱の慣行もなければ、その要求も存しないことが明であるから、現行法上これを以て独立の不動産とは認め難いといわねばならぬ。

而して行政法上の不動産の観念と民法上のそれとは、これを別異に解すべき根拠はない。むしろ前者は後者の観念を借用して、これをその観念としていると解されるから、石油タンクが独立の不動産と認められない以上は、従つて亦不動産取得税の対象となる不動産にも該当しないと解さねばならぬ。然るときは石油タンクを独立の不動産と認めて為された本件課税処分は爾余の判断を俟つまでもなく既にこの点において失当たるを免れないというべきである。

よつて本訴請求を理由ありと認めて認容し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八十九条を適用し主文の通り判決する。

(裁判官 入江啓七郎)

(別紙目録省略)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!