福岡地方裁判所 昭和26年(行)24号 判決
原告 吉田久七
被告 福岡県知事 外二名
一、主 文
原告の請求は、いずれもこれを棄却する。
訴訟費用は、原告の負担とする。
二、事 実
原告訴訟代理人は「被告福岡県知事杉本勝次(以下被告知事と略称する。)が別紙第一目録記載の(一)乃至(三)の農地につき、昭和二十二年十一月十九日附買収計画に基きなした買収処分の無効であることを確認する。被告石田一郎は原告に対し同目録記載の(一)(二)の農地につき、福岡法務局東郷出張所昭和二十五年一月二十八日受付第一三九号を以てなされた所有権取得登記の抹消登記手続をなし、且つ金九万四十円及び金三千二百八十九円を支払え。被告石田繁春は原告に対し同目録記載の(三)の農地につき、福岡法務局東郷出張所昭和二十五年一月二十八日受付第一三九号を以てなされた所有権取得登記の抹消登記手続をなし、且つ金六千二百二十一円及び金二百六十四円九十三銭を支払え。訴訟費用は被告等の負担とする。」との判決並に金員支払の部分につき担保を条件とする仮執行の宣言を求め、その請求の原因として、前記(一)乃至(三)の農地は元訴外吉田篤夫の所有に属し、昭和十二年五月十一日同訴外人死亡の結果訴外吉田昌彦が家督相続により右各農地の所有権を取得した(昭和二十二年一月二十八日登記)が、原告は昭和十五年七月二十五日右吉田昌彦より右各農地を買受け、これが所有権を取得するに至つた。しかるに右吉田昌彦はこれが所有権移転登記に応じない為、原告は昭和二十一年三、四月頃右吉田昌彦に対し右各農地の所有権移転登記手続並に引渡請求の訴訟を福岡地方裁判所に提起した(同裁判所昭和二十一年(ワ)第一五号事件)結果、原告請求どおりの判決言渡があり、右判決は確定したので、昭和二十二年三月二十六日これが所有権移転登記を完了した。ところで右農地の内(一)(二)の農地は昭和二年頃より被告石田一郎が又(三)の農地は昭和十二年頃より被告石田繁春がそれぞれ耕作していたものであるところ、訴外赤間町農地委員会は右両被告の遡及買収の請求により昭和二十年十一月二十三日現在の事実に基き本件各農地の所有者を訴外吉田昌彦の先代吉田篤夫とし、不在地主の所有の小作地として昭和二十二年十一月十九日これが買収計画を樹立し、訴外福岡県農地委員会は右計画を承認し、被告は右計画に基き、本件各農地につき買収処分をなした。而して右(一)(二)の農地は被告石田一郎に、(三)の農地は被告石田繁春にいずれも昭和二十二年十二月二日附で自作農創設特別措置法(以下自創法と略称する。)第十六条の規定に基き売渡され、同二十五年一月二十八日その旨の所有権移転登記がなされた。しかしながら本件各農地は前叙のとおり昭和十五年七月二十五日以降原告の所有するところであるから、訴外吉田篤夫を所有者とし(しかも同人は買収基準日当時においては死亡している。)てなされた本件買収計画は無効というべく、右無効な買収計画に基き又買収令書の交付もなされずに行われた本件買収処分は重大な瑕疵があるものとして無効というべきである。よつて原告は被告知事に対し右買収処分の無効の確認を求めるものである。而して右買収処分が無効である以上その後になされた被告石田一郎、同石田繁春に対する売渡処分も亦当然無効というべく、従つて同人等において本件農地の所有権を取得するいわれがないのに拘らず被告石田一郎は前記(一)(二)の農地、被告石田繁春は前記(三)の農地につき昭和二十二年十二月二日以降法律上の原因なくしてそれぞれ別紙第二目録記載の計算書のとおりの利益を取得し、よつて本件農地の所有者たる原告に対し同額の損失を及ぼしたものであるから、原告は被告石田一郎に対し右金九万四十円、被告石田繁春に対し右金六千二百二十一円の返還を求める。又原告に対し被告石田一郎は前記(一)(二)の農地に対する昭和二十三年一月一日より昭和二十五年十二月三十一日までの小作料別紙第三目録記載のとおり合計金三千二百八十九円、被告石田繁春は前記(三)の農地に対する昭和二十一年一月一日より昭和二十五年十二月三十一日までの小作料別紙第三目録記載のとおり合計金二百六十四円九十三銭の支払をしないから、同被告等に対しそれぞれこれが支払を求める。と述べた(立証省略)。
被告知事指定代理人は「原告の請求を棄却する。訴訟費用は、原告の負担とする。」との判決を求め、本案前の主張として、原告主張の同人と訴外吉田昌彦との間の訴訟はいわゆる「なれあい」訴訟で本件農地につき原告主張の売買が原告と訴外吉田昌彦間になされた事実はない。従つて原告は本件農地の所有権者ではなく、本訴を提起する法律上の利益を何等有しないものというべきである。と述べ、本案につき答弁として、本件農地の買収計画は改正前の自創法(昭和二十一年法律第四十三号)附則第二項の規定により昭和二十年十一月二十三日現在の事実に基いて当時の登記名義人吉田篤夫を所有者として買収計画が樹立されたものであるが、たとへ当時同人は既に死亡して居たとしてもその効力は家督相続人訴外吉田昌彦に対して及ぶものであつて本件買収計画を無効とすべき瑕疵はなく、従つて右買収計画に基き被告知事のなした買収処分も亦有効である。と述べた(立証省略)。
被告石田一郎、同石田繁春両名訴訟代理人は「原告の請求を却下する。訴訟費用は原告の負担とする。」との判決を求め、本案前の主張として、原告は被告知事に対する本件農地買収処分の無効確認請求と被告石田一郎、同石田繁春両名に対する所有権移転登記抹消登記手続並に不当利得等返還請求を併合訴求しているが、行政事件訴訟特例法第六条によれば関連請求の併合は同法第二条の抗告訴訟のみに限られること明かであり、行政処分の無効確認を求めるいわゆる公法上の権利関係に関する訴訟については併合請求できないものと解すべきであるから、原告の右被告両名に対する本件請求は不適法として却下さるべきものである。と述べ、本案につき「原告の請求を棄却する。」との判決を求め、答弁として原告が昭和十五年七月二十五日訴外吉田昌彦より本件農地を買受けたとの原告主張事実は否認する。右各農地の昭和二十年十一月二十三日現在の所有者は訴外吉田昌彦で被告石田一郎、同石田繁春は共に昭和二十一年度まで右各農地の小作料を同訴外人に支払つてきたものである。而して被告石田一郎、同石田繁春は自創法第十六条に基き右各農地の売渡を受けたもので本件農地売渡処分無効の確定しない以上右被告両名はその所有権取得登記を抹消する義務を有しない。又被告両名は適法に買収された本件農地の売渡を受けたのであるから何等不当の利得を受けているものではない。と述べた(立証省略)。
三、理 由
先ず原告の被告知事に対する請求につき考察するに、本件農地がいずれも元訴外吉田篤夫の所有に属していたことは当事者間に争がなく、右訴外人が昭和十五年五月十一日死亡し、同日訴外吉田昌彦が家督相続によりこれが所有権を取得したことは被告知事の明かに争わないところである。
原告は昭和十五年七月二十五日訴外吉田昌彦より本件農地を買受け、これが所有権を取得した旨主張し、甲第一乃至第三号証、第五号証の一、第十五、第十六号証の各記載及び原告本人訊問の結果(第一、二回)は右原告主張に副うものであるけれども、証人吉田純策の証言により成立を認められる乙第十二号証、証人吉田純策、吉田良恭、井上はるの各証言を綜合すれば、原告が本件農地を買受けたと称する頃売主の吉田昌彦は五六歳位の幼児であり(そのことは原告本人も自供しておる。)吉田純策はその後見人であつたのに同人は何等本件農地の売買に関与したことなく又そのことにつき親族会議も開催されたことなく右甲第五号証の一の判決は本件農地の自創法による買収を免れる為原告と訴外吉田昌彦間になされた「なれあい」訴訟の結果によるものであつて、真実原告主張の売買がなされたものでないことが認められ、この認定に対比すると、前顕甲第一乃至第三号証、第十五、第十六号証の各記載及び原告本人訊問の結果(第一、二回)は措信できず、他に原告主張事実を肯認するに足る証拠はない。
しからば原告は本件農地の所有権者でなくその他被告知事が本件農地に対しなした売渡処分の無効確認を求めるにつき法律上の利益を有するものと認められないから原告の被告知事に対する本訴請求は権利保護の利益のないものとして、これを棄却することとする。
次に原告の被告石田一郎、同石田繁春に対する請求につき考察するに、右被告両名は本案前の主張として、行政処分の無効確認訴訟には関連請求の併合訴求をなし得ない旨主張するが、行政処分の無効確認の訴についても行政事件訴訟特例法第六条を準用するを相当と解すべきであり、原告の被告知事に対する買収処分無効確認請求と被告石田一郎、同石田繁春に対する本件請求とが関連するものであることは原告の主張自体に徴し明かであるから、原告の右被告両名に対する本訴請求は適法であつて、右被告両名の主張はこれを採用しない。
そこで更に進んで本案につき考えるに、原告の右被告両名に対する本訴請求は原告が本件農地につき所有権を有することを前提とするところ、前示認定のとおり原告は本件農地につき所有権を有しないのであるから、原告の右被告両名に対する本訴請求は爾余の点の判断をまつまでもなく失当として、これを棄却すべきである。
よつて訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八十九条を適用し、主文のとおり判決する。
(裁判官 鹿島重夫 大江健次郎 武居二郎)
(目録省略)