福岡地方裁判所 昭和27年(行)16号・昭27年(行)21号 判決
原告 川上徳衛 外一一四名
被告 福岡市長 外二名
一、主 文
原告等の訴を却下する。
訴訟費用は原告等の負担とする。
二、事 実
原告等訴訟代理人は、第一次的請求として被告福岡市福岡保健所同福岡市博多保健所が、昭和二十七年六月二十四日原告等に対してなした「食品衛生法第二十四条により、昭和二十七年七月一日以降飲食店営業を禁止する。」旨の行政処分が無効であることを確認する。被告福岡市長は原告等に対し、飲食店営業の許可を与えなければならぬ義務のあることを確認する。訴訟費用は被告福岡市長の負担とする。との判決を、第二次的請求として、被告福岡市福岡保健所同福岡市博多保健所が昭和二十七年六月二十四日原告等に対してなした「食品衛生法第二十四条により、昭和二十七年七月一日以降飲食店営業を禁止する。」旨の行政処分はこれを取消す。被告福岡市福岡保健所同市博多保健所はいずれも原告等に対し、飲食店営業の許可を与えなければならぬ義務あることを確認する。訴訟費用は、右被告両名の負担とする。との判決を求め、その請求の原因として、原告等はいずれも福岡市に居住し、同市内に於て移動飲食店(通称屋台)営業に従事しているものであるが、昭和二十五年七月七日福岡市移動飲食業組合を結成した上、食品衛生法第二十一条に基き、被告福岡市長に対し飲食店営業の許可を申請したところ、被告福岡市福岡保健所(昭和二十六年八月一日以降福岡市博多保健所を設置し従来福岡市福岡保健所の管轄区域であつた博多区域を管轄せしむることとす。)から、原告等の営業施設に、便所、水道の設備がないとの理由で右申請を却下された。
よつて原告等は被告福岡市福岡保健所及同福岡市博多保健所と懸命の折衝を繰返した結果、昭和二十六年八月二十日頃、右福岡市福岡保健所より、原告等に於て施設を改造し、同所の検査に合格すれば原告等の営業の継続を認めるとの達しがあつたので、原告等は被告福岡市長宛、営業許可申請をすると共に不如意な手許より無理算段して、平均約一万五千円を投じて、要求通りの改造をなし、同所の検査をまつていた所、同保健所はその後一ケ月も経過しない中に、原告等の改造施設の検査並に、合否の決定を拒否し、原告等の営業許可の問題を、福岡市厚生委員会に委ねた。よつて原告等は更に同委員会と、折衝の結果、同年十月頃に至り福岡市当局は昭和二十六年十一月以降、六ケ月間は原告等の転業の為、その営業を継続することを黙認する。との申入をなすと共に、六ケ月を経過するも転業できぬ原告等については、更にその期間を延長すると確約したので原告等はこの申込に応じた。然るに、被告福岡市、福岡、博多両保健所は、昭和二十七年五月に至り、前年の内約を無視し、約旨の期限を経過したと称して、同年六月二十四日原告等各人に対し、食品衛生法第二十四条により、同年七月一日以降原告等各人の飲食店営業を禁止する旨の行政処分をなした。然し乍ら右行政処分は次の如き、重大且明白なる瑕疵があり無効たるを免れない。即ち
食品衛生法第二十四条による行政処分をなす権限は、保健所を設置する市に於いては、市長に専属することは同法第二十九条の二本文に明定する所であり保健所法第一条、同法施行令第一条により、福岡市は保健所を設置する市に指定されているから前記食品衛生法第二十四条による処分をなす権限は、被告福岡市長に専属するものである。
而して保健所が食品衛生に関して有する権限は、「衛生上の試験及び検査に関する事項」に止ることは保健所法第二条第九号に明定する所であるから、被告両保健所が同法第三条により被告福岡市長の委任を受けたとするも、右は同被告の有する衛生上の試験及び検査に関する事項に限らるべく、右の事項を越える事項については、同被告として授権不能であるといわねばならない。
従つて、被告両保健所がなした本件営業禁止処分は、仮令被告福岡市長の授権に基きなされたものであるとするも、右授権にして、保健所法第二条第九号、第三条に反し無効である以上、結局権限なき行政庁のなした行政処分として無効たるを免れない。
仮に右無効確認の主張が理由がないとしても、右行政処分は次の点に於て、違法であり取消を免れない。即ち
一、原告等は昭和二十五年七月組合を結成以来、常に被告両保健所と連絡をとり、その指示要求に基き、それぞれ平均約一万五千円を投じて、営業施設である屋台を衛生的に改造し、水タンク一斗以上の容量あるものを備えつけ、食物は金網に入れる等の設備をなし、業者は各自検便をうけ、洗滌水にはラバラツク液を使用する等衛生的操作の訓練を重んじ、食品衛生には可及的万全を期してきたもので、原告等の営業施設は食品衛生法第二十条の基準に合致するものというべく、営業許可を受けうる資格あること、既に許可を受けている東京、京都、熊本等の業者に比し勝るとも劣らないものがあるにも拘らず、右の事実を無視し、原告等の営業施設が許可基準に合格しないとの理由でなされた本件営業禁止命令はこの点に於て違法として取消を免れない。
二、仮に百歩を譲り、原告等の営業施設に多少、食品衛生法第二十条の基準に合しない点があるとするも、水道、便所の設置等、屋台の性質上不能な事項を除き、その瑕疵は微々たるものであり、而も原告等は組合を通じて、保健所の指示要求に忠実に従つてきたこと、その営業が不衛生なものは忽ち脱落するという、自然淘汰の烈しい顧客相手の職業であること、及び原告等はいずれも引揚者、戦災者、夫亡人等、一日働かざれば一日餓ゆる現況にあるものであること等の諸事情に鑑みるとき、被告等に於て何等原告等の生活保障、転業斡旋、或は転業資金の貸付等、転業に付最も基本的な裏付もなく、施設改善命令等の軽微な行政処分で充分目的を達しうる程度の微々たる瑕疵を取り上げて、原告等に対し最も致命的な、営業禁止処分をなしたことは、食品衛生法第二十四条の法規才量を誤つた違法があり、本件処分はこの点に於ても違法として取消を免れない。
三、更に本件営業禁止処分は、原告等の有する営業の既得権即ち現在保有する労働の機会を奪はれず、之による生存権を否定されないという基本的人権を侵害するものとして、憲法第二十七条、第二十五条に違反し、この点に於ても違法として取消を免れない。
よつて、第一次的請求として右営業禁止処分の無効確認を、第二次的請求として、右処分の取消を求めると共に、原告等の営業施設は優に営業許可を受けうる基準に達していること前段陳述の通りであるに拘らず被告等は原告等の営業許可申請に対し、荏苒日を空しうして、何等の処分をもなさないので、同被告等は原告等に対し飲食店営業の許可を与へなければならぬ義務あることの確認を被告福岡市長に対しては右第一次的請求に被告福岡市福岡保健所、同福岡市博多保健所に対しては右第二次的請求に併せ求めて、本訴に及ぶと述べた(立証省略)。
被告等訴訟代理人は原告等の請求はいづれも棄却する、訴訟費用は原告等の負担とするとの判決を求め、答弁として原告等主張の請求原因事実中、原告等が福岡市に於て移動飲食営業をなし、福岡市移動飲食業組合に所属していること及び、被告福岡市、福岡、博多両保健所が昭和二十七年六月二十五日、原告等に対し、同年七月一日以降営業を禁止する旨の書面を交付した事は認めるが、その余の事実は否認する。本件営業禁止命令は地方自治法第百五十三条第一項及び、保健所法第三条に基く、福岡市保健衛生事務委任規則(昭和二十四年福岡市規則第十九号)により、適法に市長から委任を受けた福岡、博多両保健所のなした行為として有効である。又、飲食店営業が許可営業であることは、食品衛生法第二十一条第一項に明定する所であるが、原告等は、右営業許可申請書を提出したこともなく況んや営業許可を受けたこともないから、原告等の営業は、違法な無許可営業であつて、之を禁止することは適法である。
而も、原告等の施設は法令に定める、許可基準を遙かに下廻るものであり、且、移動飲食店(屋台)は如何に施設改善をなすも、法令の要求する許可基準に達しないことは明白である。以上の次第であつて、本訴請求は理由なきものであるから、請求棄却の判決を求める。と述べ、猶本件の営業を禁止する旨の書面に食品衛生法第二十四条によりとあるのは同法第二十一条第一項の誤記であると附陳した(立証省略)。
三、理 由
よつて審按するに飲食店営業か許可営業たることは、食品衛生法第二十一条第一項に明定する所であり、原告等が無許可営業者であることは、原告等の自認するところであるから、かゝる無許可営業者に対してなされた、本件営業禁止は、単に違法なる原告等の営業行為を猶将来に向つても継続することに対する警告的意味を有するに過ぎないもので原告等に対して新に、権利を剥奪し、義務を課するという様な形成的効力を有するものではない。従つて斯る行政行為はこれが無効確認を求むべき利益のないのは勿論之を取消すも、何等の実効性のないもので、行政事件訴訟特例法第一条に所謂行政庁の違法な処分と謂ふことは出来ない。されば結局本件処分の無効確認及び之が取消を求むる訴は、いずれも行政訴訟の対象たる行政処分を欠くからいずれも不適法として却下を免れない。
次に、進んで、第一次的及第二次的訴の内営業許可を与えなければならぬ義務あることの確認を求むる部分に付按ずるに、行政庁に作為を命ずる如き裁判を求むる行政訴訟は現行憲法の採用する三権分立の原則上許されない事は明らかであり、行政庁に作為を命ずると同様の結果を生ずる様な行政上の確認訴訟も亦、行政庁に於て、行政処分を求める申立を受理し乍ら荏苒日を空しうして、何等の処分をなさないというが如き、特殊例外の場合を除き、許されないと解するを相当とする所、成立に争のない甲第一号証及び乙第一号証、並びに証人山下豊、税田三喜男、大原五十彦、山本熊吉(後記措信できない部分を除く)の各証言を綜合すれば、原告等がその所属する福岡市移動飲食業組合を通じて、昭和二十五年八月三十一日及び昭和二十六年八月二十日の二回に亘り、被告福岡市長宛、移動飲食店営業許可に関する嘆願書を、関係行政庁に対する無許可営業の取締緩和、乃至は黙認を求める趣旨で提出した事が認められるが、右嘆願書を目して適式な営業許可申請書と認めることはできず、右嘆願書と同時に許可申請書を提出した旨の証人山本熊吉の証言及び、許可申請をなした旨の原告本人川上徳衛本人尋問の結果は前掲各証拠に照し、たやすく措信できないし、他に、右認定を左右する証拠はない。
さすれば、原告等は被告福岡市長に対し適式な営業許可申請をなしていない事に帰するとともに被告福岡市福岡保健所、同福岡市博多保健所に対してはいづれも適式の営業許可の申請の為されたことは何等原告等の主張立証しないところであるから、原告等の本訴請求については前段説示の特殊例外の場合に該当しないものと断ずるの外なく、従つて行政庁に作為を命ずると同様の結果を生ずる如き、確認判決を求める原告等の本訴もまた行政訴訟の対象たる行政処分を欠くものとして却下すべきものである。
よつて行政事件訴訟特例法第一条民事訴訟法第八十九条第九十三条を適用して主文の通り判決する。
(裁判官 高次三吉 大江健次郎 今富滋)