福岡地方裁判所 昭和27年(行)6号 判決
原告 帆足一呂
被告 筑紫村長
一、主 文
本件訴中固定資産税の賦課処分の取消を求める部分(第一次的請求)は、これを却下する。
原告の請求中家畜税の賦課処分の取消(第一次的請求)及び無効確認(予備的請求)、並びに、固定資産税の賦課処分の無効確認(予備的請求)を求める部分は、これを棄却する。
訴訟費用は、原告の負担とする。
二、事 実
原告訴訟代理人は、第一次的に「被告は原告に対してした(イ)昭和二十四年度分の家畜税(税額金百円)、(ロ)昭和二十五年度分の固定資産税(税額金千九百十六円)、(ハ)昭和二十六年度分の固定資産税(税額金二千五百三十二円)の各賦課処分は、いずれもこれを取消す。」第二次的に、「右各賦課処分は、いずれも無効であることを確認する。」との趣旨並びに、「訴訟費用は、被告の負担とする。」との判決を求め、その請求の原因として次のとおり述べた。
(1) 被告は、さきに原告に対し、(イ)昭和二十四年度分家畜税として金百円を納入すべき旨、次いで、昭和二十五年度分固定資産税として金千九百十六円を納入すべき旨、更に(ハ)昭和二十六年度分固定資産税として金二千五百三十二円を納入すべき旨記載の徴税令書を交付して、それぞれ賦課処分をした。
(2) しかし原告は、所有田畑合計二反一畝の耕作によつて家族四名の世帯の生計を維持しているが、昭和二十年四月応召以来栄養失調に陥り、その後現在まで病気勝ちの身であり、それに長女帆足イキノも昭和二十三年丹毒にかかつて入院して以来今に至るも健康でなく、二人分の医薬費用も多額にのぼり、現に負債もあつて、日々苦しい生活を送つており、殊に所得税も免除を受けている位である。それ故前記の各税額は、全額免除されないまでもこれを半減するのが相当であつて、被告が原告に対して行つた右各賦課処分は、税法を貫く課税の基本原則を無視し、原告の生活権を蹂躙するところの天下り割当を強行したものといわなければならない。
(3) よつて原告は、右各徴税令書の交付を受ける度毎に、被告に対し適法に異議の申立をしたが、被告は、その後現在に至るもこれに対し何等の決定もしないまま、漫然原告の財産に対し差押処分に及んで右各税の強制徴収の手段に出たから、右違法の各賦課処分の取消を求むべく、もし右取消請求が認容されないならば、右各賦課処分がいずれも重大且つ明白な瑕疵があつて無効であることの確認を求めるため、本訴に及んだ。
なお、被告の本案前の抗弁に答えて次のとおり述べた。
(1) 原告が被告から昭和二十五年度分の固定資産税の第一期分の徴税令書の交付を受けたのは、昭和二十六年五月十日のことである。それ故、原告がこれに対し異議の申立をしたのは、被告が主張するとおり同月二十六日であるが、右異議の申立は、前記徴収令書の交付を受けた日から三十日以内になされたものであるから、何等そこに被告が指摘するような期間不遵守の瑕疵は存しない。
(2) また、昭和二十六年度分の固定資産税についても、原告が被告から第一期分の徴税令書の交付を受けたのは、同年五月十日頃であるから、これに対する異議の申立は、被告が主張するとおり同年六月四日にこれをしたのであるが、右徴収令書の交付の日から三十日を経過していないから、期間の点に瑕疵はない(立証省略)。
被告訴訟代理人は、本案前の抗弁として、主文第一項同旨の判決を求め、その理由として次のとおり述べた。
(1) 原告は、被告に対し昭和二十五年度分及び昭和二十六年度分の各固定資産税の賦課について異議の申立をしたが、右各申告は、いずれも不適法である。すなわち(イ)原告は、昭和二十五年分の固定資産税の第一期分の徴税令書の交付を遅くとも同期分の納期限である同年八月三十一日までには受けているはずであるが、それから三十日を経過した後である昭和二十六年五月二十六日に異議の申立に及んだものである。(ロ)また原告は、昭和二十六年度分の固定資産税の第一期分の徴税令書の交付を同年四月二十日までに受けているはずであるが、それから三十日を経過した後である同年六月四日に異議の申立に及んだものである。従つてこれらの異議の申立は、地方税法第三百七十条第一項に定められた期間経過後になされたものであるから、不適法であるといわなければならない。
(2) かりに前記(1)(ロ)の異議の申立が法定期間内になされたとしても、被告は昭和二十六年六月二十八日これに対する決定をし、翌二十九日には原告に対して右決定の通知書を郵便で発送したのであるから、原告においても翌三十日には右通知を受けてこれを知つたものといわなければならないのに、それから六箇月を経過した後である昭和二十七年四月一日に至つて、県知事に対する訴願を経ることなく本訴の提起に及んだのは、不適法であるといわなければならない。
(3) 要するに、本件訴中、被告が原告に対してした昭和二十五年度分及び昭和二十六年度分の各固定資産税の賦課処分の取消を求める部分は、訴願前置主義違反乃至は出訴期間徒過の故を以て不適法と断ずべきであるから、これが却下の判決を求める次第である。
次いで、本案につき「原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とする。」との判決を求め、答弁として次のとおり述べた。
(1) 原告が請求の原因として主張する事実中、被告が原告に対し原告主張のような趣旨内容の各賦課処分をしたことはこれを認める。
(2) 次に、原告の家族が四名であることは、これを認めるが原告がその主張のように貧困であることは、これを否認する。原告は、田二反三畝二十三歩、山林一反、畑三反二畝八歩、宅地四百五坪余、木造瓦葺二階建居宅(建坪三十四坪)一棟及び木造瓦葺平家建物置(建坪十坪)を所有している外、国所有の田二反九畝二十八歩を小作し、なお長女帆足イキノは、さきには福岡放送局に後には日本炭礦株式会社に勤務し、一年に六万円乃至七万円の収入をあげており、家庭内の生活状態は、村でも中流である。
(3) なお、被告が原告に対して賦課した昭和二十四年度分の家畜税の税額金百円は、筑紫村税徴収条例第三十一条の二により、原告が同年四月一日現在農耕専用の牛一頭を所有していたという事実に基き適法に算出されたものであつて決して違法のものではない。
(4) また、昭和二十五年度分の固定資産税の税額金千九百十六円も、原告所有の土地及び家屋の土地台帳乃至家屋台帳に登録されている賃貸価格を基準として、地方税法第四百十二条、第四百十三条により算出された課税標準から割り出されたものであつて、被告において法に基かず勝手に算出したものではない。
(5) 更に、昭和二十六年度分の固定資産税の税額金二千五百三十二円も、同法に基き算出された原告所有の土地及び家屋の評価額に基き適法に割り出されたものであつて、被告において恣意的に算出したものではない(立証省略)。
三、理 由
まず、原告の請求中昭和二十四年度分の家畜税の賦課処分の取消又は無効確認を求める部分について判断する。原告は貧困であるにもかかわらず、被告が原告に対し昭和二十四年度分の家畜税の税額が金百円であるとして、これが賦課処分をしたのは違法であると主張するが、筑紫村税徴収条例第三十一条の二によれば、家畜税は、年税として四月一日現在における牛馬に対しその頭数を課税標準として、一頭につき金二百円、但し農耕専用の牛馬については一頭につき金百円という定額によりその所有者にこれを課することになつていて、家畜の所有者の経済状態は、課税に影響を及ぼすものでないから、原告が貧困であるからといつて、これに対する右家畜税の賦課処分が当然に違法のものとなるいわれは存しない。従つて原告の請求中右賦課処分の取消又は無効確認を求める部分は、主張自体理由がないものといわなければならない。
次いで、原告の請求中昭和二十五年度分及び昭和二十六年度分の各固定資産税の賦課処分の取消又は無効確認を求める部分について判断を進める。
被告は、本案前の抗弁として右取消請求訴訟は、訴願前置主義違反乃至は出訴期間従過の故を以て不適法であると主張するので、まずこの点につき判断する。
地方税法第三百七十条第一項本文によれば、固定資産税の賦課を受けた者は、徴税令書の交付を受けた日(納期を分けた場合においては、第一期分の徴税令書の交付を受けた日)から三十日以内に市町村長に異議の申立をしなければならないことになつている。しかるに、成立につき争いのない乙第一号証、並びに、証人田中一刀の証言を綜合すれば、原告が被告から昭和二十五年度分の固定資産税の第一期分の徴税令書の交付を受けたのは、遅くとも同年八月末日までであることが窺われるけれども、この固定資産税の賦課について原告が被告に異議の申立をしたのは、昭和二十六年五月二十六日であることは、当事者間に争いのないところである。それ故右異議の申立は、前記規定で定められた期間が経過した後になされたものであるといわねばならず、しかもこの期間の徒過については何等訴願法第八条第三項にいわゆる「宥恕スヘキ事由」を窺うことはできないから、右異議の申立は、不適法であつたと認めるの外はない。行政事件訴訟特例法第二条によれば、原則として行政庁の違法な処分の取消又は変更を求める訴は、その処分に対し法令の規定により訴願、審査の請求、異議の申立その他行政庁に対する不服の申立のできる場合には、これに対する裁決、決定その他の処分を経た後でなければ、これを提起することができないことになつているがかかる訴の提起が適法であるためには、前審手続たる行政庁に対する不服の申立も亦適法なものでなければならぬことはいうまでもない。従つて、前記昭和二十五年度分の固定資産税の賦課処分の取消を求める訴は、本案に関する判断を俟つまでもなく、不適法なものと断じなければならない。
更に、成立につき争いのない乙第六号証、並びに前記証人の証言を綜合すれば、原告が被告から昭和二十六年度分の固定資産税の第一期分の徴税令書の交付を受けたのは、遅くとも同年四月末日までであることが窺われるけれども、この固定資産税の賦課について原告が被告に異議の申立をしたのは同年六月四日であることは、当事者に争いのないところである。それ故この異議の申立も、前年度分の固定資産税の賦課についてのそれと同様、前掲地方税法の規定で定められた期間が経過した後になされたものであるといわなければならない。しかし、右申立の期間徒過の程度が比較的僅少であることは、否めないところであるし、成立につき争いのない乙第六号証によれば、被告は、同月二十八日、右異議の申立に対し実体上の審理をした上、これを理由がないものとして却下する旨の決定をしたことも認められるから、右の事実に徴し原告がかように期間を徒過したことについては、何等かの「宥恕スヘキ事由」があつたものと推認するのが相当である。従つて、右昭和二十六年度分の固定資産税の賦課に対する異議の申立は、前年度分のそれとは異り、期間徒過の故を以て不適法であるとはいえない。ところで地方税法第三百七十条第五項によれば、固定資産税の賦課についての異議の申立に対する市町村長の決定に不服がある者は、その決定の通知を受けた日から三十日以内に、道府県知事に訴願し、又は裁判所に出訴しなければならないことになつている。しかるに前記証人の証言によれば、原告が前述の昭和二十六年六月二十八日附異議申立却下決定の通知を受けたのは、遅くとも、決定があつてから程経ぬ同月末日頃であることが窺えるけれども、本件訴状に押捺されている当裁判所の受理印によれば、原告が本訴を提起したのは、昭和二十七年四月一日であることが明らかであり、それ以前において原告が右却下決定を不服として県知事に訴願した事実は、これを窺うことができない。従つて、前記昭和二十六年度分の固定資産税の賦課処分の取消を求める訴も、右規定で定められた出訴期間が経過した後に提起されたものであるから、本案に関する判断を俟つまでもなく不適法なものといわなければならない。
よつて、以下右各固定資産税の賦課処分の無効確認を求める予備的請求について判断する。原告は、貧困であるのにかかわらず、被告が原告に対し昭和二十五年度分の固定資産税の税額が金千九百十六円であり、昭和二十六年度分固定資産税の税額が金二千五百三十二円であるとして、これが賦課処分をしたのは、重大且つ明白な瑕疵があるから無効であると主張する。しかし、地方税法中の固定資産税に関する規定によれば、昭和二十五年度分の固定資産税の税額は、同法第四百十二条、第四百十三条により、同年四月一日現在で土地台帳法による土地台帳又は家屋台帳法による家屋台帳に登録されている賃貸価格を基準として一定の算式により算出された課税標準からこれを計算すべきものであり、昭和二十六年度分の固定資産税の税額は、地方税法第三百四十二条第二項により、同年一月一日現在における固定資産の価格で固定資産課税台帳に登録されたものを課税標準として、これを計算すべきものであつて、納税義務者の貧富の程度は、課税額に影響を及ぼすものではない。それ故、原告がその主張のように貧困であるからといつて、同人が地方税法第三百六十七条による固定資産税の減免を受けた者でない限り、これに対する右各固定資産税の賦課処分が当然に違法のものとなるいわれの存しないことは、前に家畜税の賦課処分に関して説明したところと同様である。しかるに原告が同規定による右税の減免を受けた者である旨の格別の主張立証は存しないから、右各賦課処分に重大且つ明白な瑕疵があるものとして、その無効の確認を求めることは、主張自体理由がないものといわなければならない。
してみれば、本件訴中固定資産税の賦課処分の取消を求める部分(第一次的請求)は不適法であるからこれを却下することとし、原告の請求中、家畜税の賦課処分の取消(第一次的請求)及び無効確認(予備的請求)を求める部分、並びに固定資産税の賦課処分の無効確認(予備的請求)を求める部分は、これを棄却することとし、なお、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八十九条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判官 鹿島重夫 大江健次郎 戸根住夫)