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福岡地方裁判所 昭和31年(行)14号 判決 1960年4月28日

原告 有限会社 米七商店

被告 福岡国税局長

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

(原告の主張)

原告訴訟代理人は、

一、被告が昭和三一年二月二九日附にて原告に対し、それぞれ左記審査決定額を以てなした法人税審査決定を取消す。

(イ)  昭和二六年六月三〇日から昭和二七年二月二九日までの事業年度分、法人税審査決定額二四一、四〇〇円

(ロ)  昭和二七年三月一日から昭和二八年二月二八日までの事業年度分、法人税審査決定額四六七、六六〇円

(ハ)  昭和二八年三月一日から昭和二九年二月二八日までの事業年度分、法人税審査決定額五〇七、七二〇円

二、訴訟費用は被告の負担とする。

との判決を求め、その請求の原因として、

第一、

(一)  原告は、昭和二六年六月三〇日設立し、同年七月一日より営業(呉服類販売業)を開始した有限会社であつて、毎年一回、二月末日決算までを各事業年度として、右設立営業開始以来政府の承認を得て、法人税の申告につき青色申告をしてきたものである。

(二)  原告は、昭和二六年度、二七年度、二八年度とも所定の期間内に、左記のとおり真実に基き誠実に、その所得金額及びこれに対する法人税額につき確定申告をした。

(イ) 昭和二六年六月三〇日から昭和二七年二月二九日までの事業年度分(昭和二六年度と略称する。)

(1) 所得金額 〇円 損失 五二六、四〇〇円

(2) 法人税額 〇円

(ロ) 昭和二七年三月一日から昭和二八年二月二八日までの事業年度分(昭和二七年度と略称する。)

(1) 所得金額 一〇、一三〇円

(2) 法人税額      〇円

(ハ) 昭和二八年三月一日から昭和二九年二月二八日までの事業年度分(昭和二八年度と略称する。)

(1) 所得金額 一一、〇五〇円

(2) 法人税額      〇円

(三)  ところが所轄行橋税務署長は右各申告に対しそれぞれ、昭和三〇年二月七日、左記の如き理由を以て不当に過大な額により課税標準及び法人税額の決定をなした。

(イ) 昭和二六年度分

(1) 所得金額          八〇二、五〇〇円

(2) 法人税額          三三七、〇五〇円

(3) 過少申告加算税額       一六、八五〇円

(4) 該決定により納付すべき税額 三五三、九〇〇円

(5) 決定の理由

売上洩認定            一、〇一五、八二六円

仕入架空               二二三、一一〇円

棚卸運賃加算洩             九〇、〇六八円

(ロ) 昭和二七年度分

(1) 所得金額        一、二三八、八〇〇円

(2) 法人税額          五二〇、二九〇円

(3) 過少申告加算税額       二六、〇〇〇円

(4) 該決定により納付すべき税額 五四六、二九〇円

(5) 決定の理由(△印は減算すべきものと認定した分)

売上洩認定     一、三一六、五五四円

棚卸諸掛加算洩      九二、八五二円

その他の加算洩      四八、五一四円

事業税引当       △九六、三〇〇円

利子税引当       △四〇、九七九円

棚卸諸掛加算洩追認   △九〇、〇六八円

(ハ) 昭和二八年度分

(1) 所得金額        一、〇九六、一〇〇円

(2) 積立金額又は同族会社の留保金額 五一〇、八〇〇円

(3) 法人税額          四八五、九〇〇円

(4) 過少申告加算税額       二三、〇〇〇円

(5) 該決定により納付すべき税額 五〇八、九〇〇円

(6) 決定の理由(△印は減算すべきものと認定した分)

売上洩認定   一、三〇一、〇二六円

棚卸諸掛加算洩    九六、六九一円

その他の加算洩       四二五円

事業税引当    △一四八、六五〇円

その他      △一六四、三〇六円

(四)  よつて原告は、右決定処分を不服として、行橋税務署長に対し、昭和三〇年三月五日再調査の請求をなした。(原告は同年三月一二日同税務署長より再調査請求等補正指示書の送達を受けたので、その頃該指示により再調査請求書の補正をした。)

(五)  その後右は法人税法第三五条第三項により所轄の福岡国税局長に対する審査の請求とみなされ、昭和三〇年八月以降福岡国税局所属の協議団の調査協議が行われた上、右に対し昭和三一年二月二九日福岡国税局長は左記の如く原処分たる前示決定の一部を取消す旨の審査決定をなし、その決定の通知は同年三月一日原告に送達された。

(イ) 昭和二六年度分

区分

原処分

審査の決定

一部取消額

所得金額

八〇二、五三九円

五四七、五一五円

二五五、〇二四円

法人税類

三三七、〇五〇円

二二九、九五〇円

一〇七、一〇〇円

過少申告加算税額

一六、八五〇円

一一、四五〇円

五、四〇〇円

税額合計

三五三、九〇〇円

二四一、四〇〇円

一一二、五〇〇円

(ロ) 昭和二七年度分

区分

原処分

審査の決定

一部取消額

所得金額

一、二三八、八〇〇円

一、〇六〇、五八五円

一七八、三〇八円

法人税額

五二〇、二九〇円

四四五、四一〇円

七四、八八六円

過少申告加算税額

二六、〇〇〇円

二二、二五〇円

三、七五〇円

税額合計

五四六、二九〇円

四六七、六六〇円

七八、六三六円

(ハ) 昭和二八年度分

区分

原処分

審査の決定

一部取消額(△印が原処分より増額認定の分)

所得金額

一、〇九六、一七二円

一、一二三、八九六円

△二七、七九六円

留保金額

五一〇、八〇〇円

二四三、五〇〇円

二六七、三〇〇円

法人税額

四八五、九〇〇円

四八四、一七〇円

一、七三〇円

過少申告加算税額

二三、〇〇〇円

二三、五五〇円

△五五〇円

税額合計

五〇八、九〇〇円

五〇七、七二〇円

一、一八〇円

しかして、右各審査の決定の理由はいずれも、「原告の審査請求について、請求の趣旨、提出にかかる資料その他経営の状況等を勘案して審査すると、行橋税務署長の行つた原決定には一部誤りがあるからこれを取消す、よつて認定の所得金額及び法人税額は右のとおりである。」というにあつて、右一部取消の部分以外は原処分たる行橋税務署長の決定処分を正当とし、原告のなした審査の請求を理由ないものとして棄却する旨の審査の決定である。

(六)  前示行橋税務署長のなした原処分たる決定処分につき福岡国税局長のなした前示各審査の決定はいずれも原告の所得を不当に過大に認定したことによる違法な処分であつて、原告はその取消を求めて本訴に及ぶ。

第二、

(一)  被告は、原告会社の仕入高について、法人税確定申告書の添付書類及び原告会社備付の諸帳簿書類に記載の仕入金額はいずれも事実仕入金額と相違し、従つて課税標準につき原告の申告に誤りがあるとしている。被告の掲げる別表第四、損益計算書によれば、仕入高につき、

(イ) 昭和二六年度の原被告各主張の差額二二、二九〇円は原告会社の仕入過大計上によるもの、

(ロ) 昭和二七年度の原被告各主張の差額三九、〇三三円は原告会社の仕入過少計上につき加算すべきもの、

(ハ) 昭和二八年度の原被告各主張の差額三九、六一五円は原告会社の仕入過少計上につき加算すべきもの、と主張しているが、原告会社の仕入高の計上は、仕入先より送荷があつた都度一々仕入先より送付の仕切書と送荷とを引合せて受取つた事実を基として現実の仕入高を記帳計上したものであつて、原告会社の申告においてこれを過大に計上したり脱漏したりした事実はない。その仕入先及び仕入高は別表第一の一、二、三に原告主張の分として各記載のとおりである。

(二)  被告はまた、原告会社の売上高の計上につき誤りがあるとしている。即ち、被告は原告会社の諸帳簿、書類を基礎として算出した売買差益率は低率に過ぎるものであり、従つて売上金額についての原告会社の記帳に誤りありとの推定を主張するが、原告会社においては、売上の都度一々現実に売上げた金高を計算機(ナシヨナル金銭登録機)によつて計上したものであり、その取扱に当らせていた店員に不正を行つた疑はない。その売上高の詳細は別表第三、売上高調のとおりである。

これに対し、被告の算定方法は、先ず売買差益率を算出し、それによつて売上高を推算する方法によつたものであつて、右差益率算出の方法としては、原告会社が販売する各商品別につきその一部を抽出し、いわゆる抜取調査の方法によつて売値札と仕入高を対照し、よつて得た差益率に基き全販売商品につきいわゆる荒差益率を算出するという極めて疎略なものであり、決して事実に即する合理的なものではない。

しかして右荒利益率の算出にあたつて被告も一定の値引率等による修正を行つているが、原告会社が薄利多売主義をとつていたこと、商店としての位置が地の利を得ていなかつたため各季節の終りには投げ売りを行つていた事実、破損汚染品や適期を過ぎた商品についての値引、万引による欠損などを現実に考慮に入れないところの単なる推定に基く値引率であつて、よつて得た差益率は現実に合わない不当なものである。

又被告は、原告会社の代表者とその家族の名義による預金及び貸付金につき、これが原告会社の売上金として記帳されるべきものを、この様な形式を以て簿外に入金として処理されていると主張するが、これは被告の調査不十分による誤解であつて、各年度とも原告主張の預金及び貸付金に対してはこれに見合う個人としての収入源がある。

よつて、被告が主張する売上高推計は何等の根拠もない不合理なものである。

(三)  なお原告は、別表第四記載の科目中、各年度につき繰越商品高、期末棚卸高、営業費、営業外損金、営業外利益がそれぞれ被告主張の額であることについて争わない。

(原告の立証省略)

(被告の主張)

被告指定代理人等は、

原告の請求はいずれもこれを棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

との判決を求め、答弁として、

第一、

(一)  原告請求原因(一)の事実は認める。

(二)  原告が昭和二六年度、二七年度、二八年度の各事業年度につき、それぞれその主張どおりの確定申告をなしたことは認めるが、右各申告が真実に基き誠実になされたことは否認する。

(三)  原告の右各申告に対し、行橋税務署長が原告主張の日その主張の如くそれぞれ課税標準及び法人税額につき決定処分をなしたことは認めるが、該決定処分が不当に過大な金額によるものであるとの点は争う。

(四)  原告がその主張の日、主張の如く再調査の請求をなし、且つ同請求につき補正手続をとつたことは認める。

(五)  原告請求原因(五)の事実はすべて認めるが、福岡国税局長のなした本件各審査の決定が原告の所得を不当過大に認定した処分であるとの点は争う。

第二、

(一)  被告調査の結果によれば、原告会社の昭和二六年度、二七年度、二八年度の各事業年度についての法人税確定申告書の添付書類及び原告会社備付の諸帳簿書類に記載の仕入金額はいずれも事実仕入れ金額と相違し、従つて課税標準の計算に誤りがあると認められた。

即ち、被告において原告会社の取引先を調査した結果と原告会社の記帳額とを対比すれば、

年度

原告会社仕入記帳金額

被告調査仕入金額

差額

昭和二六年度

一四、六九四、八七四円

一四、六七二、五八四円

仕入過大記帳二二、二九〇円

〃二七年度

一五、七七七、三一五円

一五、八一六、三四八円

仕入過少記帳三九、〇三三円

〃二八年度

一五、二三九、五八二円

一五、二七九、一九七円

仕入過少記帳三九、六一五円

であつて、右昭和二六年度の差額は、原告会社において仕入金額を過大に計上しているものであり、昭和二七年度及び二八年度の右各差額は仕入金額計上漏のものであり、その詳細は別表仕入明細表(別表第一の一――昭和二六年度分、同表第一の二――昭和二七年度分、同表第一の三――昭和二八年度分)記載のとおりである。

(二)  次に、原告会社の諸帳簿、書類のみを基礎として算出すれば売買差益率は、

昭和二六年度  八、七%

昭和二七年度 一三、一%

昭和二八年度 一四、三%

となるところ、原告会社が販売した各商品別の一部を各々抽出し、その差益率に全販売商品に対する各商品の販売割合を乗じて全体の差益率を算出すると、別表第二(差益率表)のとおり

昭和二六年度 二三、一〇%

昭和二七年度 二四、四五%

昭和二八年度 二五、五九%

となること、

及び、原告会社の代表者とその家族等の名義の預金及び貸付金が相当多額にあるのに対し、これに見合うところの個人収入と認められる分は少額に過ぎず、各年度毎にそれぞれ右を対照して差引いた額、即ち、

昭和二六年度分 一、〇一四、七九七円五五銭

昭和二七年度分 一、九一三、一七〇円一二銭

昭和二八年度分 一、二八一、〇九九円〇八銭

は原告会社の売上金の記帳漏の分を、この様な簿外預金等の形式を以て処理したものであることが充分推認されること、によつて、売上金額についての原告会社の記帳も誤りであることが容易に推認される。

(三)  よつて被告は、その調査によつて認定した各年度の前記仕入高を基にしてこれから期末棚卸高を差引いて算出した売上原価に対し、前示売買差益率を値引等による減率を以てそれぞれ修正した荒利益率(別表第二参照)

昭和二六年度  一八、三% (値引等による減率四、八%)

昭和二七年度 一九、九六% (同右     四、四九%)

昭和二八年度  一九、五% (同右     六、〇九%)

による計算を施して(その算式は、売上高=売上原価/1-荒利益率)推計した売上高に基き右各事業年度の総益金(営業外利益については原告主張の額をすべて是認)を算出したうえ(別表第四、損益計算書参照)、総損金については同別表の各損金科目記載のとおり原告主張の額を是認し(但し、昭和二七年度、二八年度の営業外損金についてのみ、それぞれ同表記載のとおり減価償却費の誤りを訂正のうえ是認)、同別表の被告主張欄の如く差引計算のうえ、左のとおり各年度の所得金額を認定した。

(イ) 昭和二六年度

総益金  一一、四七六、三四四円(内、営業外利益二、一一四円)

総損金  一〇、七九六、九一〇円

差引所得    六七九、四三四円

(ロ) 昭和二七年度

総益金  一九、五五七、五五〇円(内、営業外利益一、五九六円)

総損金  一七、九九二、九七六円

差引所得  一、五六四、五七四円

(ハ) 昭和二八年度

総益金  一八、七八五、八〇九円(内、営業外利益三、八〇九円)

総損金  一七、六三七、五七六円

差引所得  一、一四八、二三三円

従つて、右差引所得額の範囲内において、原告会社の所得金額を

(イ) 昭和二六年度分   五四七、五一五円

(ロ) 昭和二七年度分 一、〇六〇、五八五円

(ハ) 昭和二八年度分 一、一二三、八九六円

と認定し且つこれを課税標準としてそれぞれ原告主張の税額を決定した被告の本件各審査の決定には何等の違法もないから、原告の請求は失当である。

(被告の立証省略)

理由

一、原告が、昭和二六年六月三〇日設立、同年七月一日営業開始、呉服類販売業の有限会社であつて、毎年一回、二月末日決算までを各事業年度として、右設立営業開始以来政府の承認を得て、法人税の申告につき青色申告をしてきたものであること、原告が昭和二六年度、二七年度、二八年度の各事業年度につき、それぞれその主張どおりの確定申告をなしたこと、原告の右各申告に対し行橋税務署長が原告主張の日その主張の如き内容を以てそれぞれ課税標準及び法人税額につき決定処分をなしたこと、この決定処分に対し原告がその主張の日、主張の如く再調査の請求をなし、且つ同請求につき補正手続がとられたこと、右再調査の請求が法人税法第三五条第三項により所轄の福岡国税局長に対する審査の請求とみなされ、原告の手続を経て、右につき昭和三一年二月二九日福岡国税局長の審査の決定が原告主張の内容を以てなされ、該決定の通知が同年三月一日原告に送達されたことは、いずれも当事者間に争がない。

二、そこで、係争の三事業年度につき行橋税務署長のなした原処分たる決定処分に対し被告福岡国税局長のなした本件各審査の決定が、いずれも原告の所得を不当に過大に認定したことによる違法な処分であるか否かが本件の争点となる。

しかも、所得計算の基礎となる損益の科目中、繰越商品高、期末棚卸高、営業費、営業外損金、営業外利益については、係争の三事業年度ともその金額が別表第四において被告が主張するとおりであることにつき当事者間に争がないから、結局本件の争点は、原告会社の所得算定の基礎としての「仕入高」と「売上高」の各認定につき被告の審査決定に過誤があるか否かに局限される。

三、よつて先ず「仕入高」の点について判断する。

この点に関する当事者双方の主張の異同は、別表第一、仕入明細表(同表の一――昭和二六年度、同表の二――昭和二七年度、同表の三――昭和二八年度)に示すとおりである。

ところで、後記の如く原告が被告主張の仕入高を明かに争う分以外は、右仕入明細表中一見原被告間の主張額に差異があるように対照記載されているものでも、「原告会社の仕入記帳額」と「被告主張額」とが一致する分にあつては、当事者の主張額の差は原告において当該仕入分につきその荷具運賃等を別に計上し仕入金額に含めていないのに対し被告がこれを含めて掲げていることによる差であつて、それ等の差額の合計は右各表の各年度別末尾欄に△印を附して一括計上してある金額に含まれ、結局これ等の仕入先の分はその仕入金額が「原告会社の仕入記帳額」に相当することにつき当事者の主張に差異なく、従つて原被告間の各年度別総仕入高の主張の差額、即ち

仕入高

年度

原告主張額(円)

被告主張額(円)

差額(円)

昭和二六年度

一四、六九四、八七四

一四、六七二、五八四

二二、二九〇

昭和二七年度

一五、七七七、三一六

一五、八一六、三四八

三九、〇三三

昭和二八年度

一五、二三九、五八二

一五、二七九、一九七

三九、六一五

は右の各仕入先の分について生じたものでないことが弁論上明かであるから、本件仕入高に関する争点は右の分を除いたものに局除される。

この点に関し原告は、仕入金額の計上は仕入先より送荷があつた都度一々仕入先より送付の仕切書と送荷とを引合せて受取つた事実を基にして現実の仕入高を記帳計上したものであつて、原告の申告には右につき過大計上も計上漏も存しないと主張するが、原告会社の仕入記帳には次のとおり過誤があり、被告がその調査に基いて主張する金額が正当であると認められる。即ち、

(一)  昭和二六年度仕入分につき

(イ)  株式会社塚本商店の分において、

原告主張額 一、〇三三、九八三円五〇銭(荷具運賃とも)

被告主張額 一、〇〇七、一八三円五〇銭

差引       二六、八〇〇円

の差額があり、成立に争ない甲第一〇号証、証人田中日出男の証言によつて真正に成立したものと認められる乙第二号証の一には原告の主張に副う記載があるけれども、同証言によつて成立の認められる乙第三号証の一に対比すれば、右甲第一〇号証、乙第二号証の一には記載に過誤があり、被告主張の仕入金額が事実に合うことが認められる。

(ロ)  春江織物株式会社の分において

原告主張額 一八七、五七一円(荷具運賃とも)

被告主張額 一八六、六七一円

差引        九〇〇円

の差額があり、前示甲第一〇号証、右田中証人の証言によつて成立を認め得る乙第二号証の二には原告の主張に副う記載があるけれども、同証言によつて成立を認める乙第三号証の二に対比すれば、右甲第一〇号証、乙第二号証の二には記載に過誤があり、被告主張の仕入金額が事実に合うものと認められる。

(ハ)  有限会社勝間商店の分において

原告主張額 二五八、九八〇円(荷具運賃とも)

被告主張額 二六四、三九〇円

差引      五、四一〇円

の差額があり、前示甲第一〇号証、右田中証人の証言によつて成立を認め得る乙第二号証の三には原告の主張に副う記載があるけれども、右田中証言によつて成立を認め得る乙第三号証の三に対比すれば右甲第一〇号証、乙第二号証の三には記載漏があり、被告主張の仕入金額が事実に合うものと認められる。

(ニ)  株式会社建部商店の分について

原告主張額 二八一、二七四円(荷具運賃四、七一一円とも)

被告主張額 二六三、九八一円

差引     一七、二九三円

の差額は、前示田中証人の証言及び同証言によつて成立を認め得る乙第一四号証、前示甲第一〇号証によれば昭和二六年六月三〇日仕入分の品代及び荷具運賃に相当することが明かであつて、原告会社としての営業前(即ち個人企業当時)の仕入分として被告がこれを仕入高に計上しないことが正当であり、この点に関する証人有松敏男、証人高野正太郎の各証言は措信し難く、その他この認定を覆すに足る証拠は存しないから、結局この分についても被告の主張額が事実に合うものと認められる。

(ホ)  丸紅株式会社京都支店の分において

原告主張額 七〇二、二五二円(荷具運賃七、〇七八円とも)

被告主張額 七一八、七五二円

差引     一六、五〇〇円

の差額につき、原告は、「これは昭和二七年一月一〇日仕入の名入風呂敷の代金に相当する額であつて広告宜伝用の品代として営業費に計上すべきものであるのを、被告が誤つて仕入額に計上したことによる差額である。」と主張するが、この点の証拠である前示甲第一〇号証及び前記田中証人の証言によつて成立を認め得る乙第一九号証によれば、当該仕入についても他の仕入品と差別のない記帳方式のとられていることが認められ、これ等の証拠からは、それが一般の仕入品とは別な広告宜伝用のものとして仕入れられたことは認め難いところ、青色申告による者が右の如き事実を主張して所得の認定を争う場合には、その証憑を挙げてこれを証明する必要あるものというべく、この点に関し原告から何等の立証もなされない本件としては右の主張事実を認定するに由なく、結局この仕入先の分についても被告の主張する仕入額を事実に合うものと認めるの外ない。

(ヘ)  大統株式会社の分において

原告主張額 四五七、七八九円(荷具運賃四、六六〇円とも)

被告主張額  一五、二九四円

差引     五七、五〇五円

の差額につき原告は、「昭和二六年六月三〇日仕切の品代及び荷具運賃計四四五円を被告が計上漏とし、一方当事業年度中の返品代金計五七、九五〇円を被告が控除漏としていることによる差である。」と主張するが、前示甲第一〇号証及び右田中証人の証言によつて成立を認め得る乙第一八号証に照して検討すれば、被告の計上並びに右主張額には何等の過誤もないことが認められ、原告の右主張は採用できない。

(二)  昭和二七年度仕入分につき

(イ)  丸紅株式会社京都支店の分において

原告主張額 一、三四〇、七九七円(荷具運賃とも)

被告主張額 一、三七九、八三一円

差引       三九、〇三三円

の差額があり、成立に争ない甲第一一号証、前示田中証言によつて成立を認め得る乙第五号証には原告の主張に副う記載があるけれども、同証言によつて成立を認め得る乙第六号証に対比すれば、右甲第一一号証、乙第五号証には記載に過誤があつて結局被告主張の仕入金額が事実に合うものと認められる。

(三)  昭和二八年度仕入分につき

(イ)  株式会社塚本商店京都支店の分において

原告主張額 一、三四八、三〇六円(荷具運賃とも)

被告主張額 一、三五八、三〇六円

差引       一〇、〇〇〇円

の差額があり、成立に争ない甲第一二号証、前示田中証人の証言により成立を認め得る乙第八号証の一には原告の主張に副う記載があるけれども、同証言によつて成立を認め得る乙第九号証の一に対比すれば、右甲第一二号証、乙第八号証の一には記載に過誤があり、被告主張の仕入金額が事実に合うものと認められる。

(ロ)  西沢清商店の分において

原告主張額    三三、七一〇円(荷具運賃とも)

被告主張額    六二、四二〇円

差引       二八、七一〇円

の差額があり、前示甲第一二号証、前示田中証人の証言によつて成立を認め得る乙第八号証の二には原告の主張に副う記載があるけれども、同証言によつて成立を認め得る乙第九号証の二に対比すれば、右甲第一二号証、乙第八号証の二には記載に過誤があり、被告主張の仕入金額が事実に合うことが認められる。

(ハ)  株式会社山本今男商店の分において

原告主張額   三八五、一一〇円

被告主張額   三八六、〇一五円

差引          九〇五円

の差額があり、前示甲第一二号証、証人小柳健郎の証言によつて成立を認め得る乙第八号証の三には原告の主張に副う記載があるけれども、係示田中証人の証言によつて成立を認め得る乙第九号証の三に対比すれば、右甲第一二号証、乙第八号証の三の記載に過誤のあることが認められ、被告主張の仕入金額が事実に合うものと認められる。

以上各認定に反する証人有松敏男の証言は前顕諸証拠に照して措信し難く、係争三事業年度につき仕入高に関する右の認定を動かすに足る証拠は他に存しない。

よつて、係争三事業年度の原告会社の所得算定の基礎たる各「仕入高」については、被告の認定に過誤の存することは見出し得ない。

四、次に「売上高」の点について判断する。

この点に関しても、取引の証憑がよく保存され、その記帳が誠実に整備されている限り、実額調査の方法によつてその額を確定すべきであるが、本件においては、証人貞光只七の証言(第一、二、三回)と成立に争ない甲第一三号証によれば、原告会社の売上記帳には、係争三事業年度とも相当の記帳漏のあることが認められる。証人田畑小次郎、同高野正太郎、同有松敏男、同米原七之助の各証言並びに原告代表者本人尋問の結果中には売上に関する記帳が正確に行われていた旨の供述部分があるが、これは右貞光証人の証言に照して措信し難く、その他右認定を動すべき証拠は存しない。

よつて原告会社の売上記帳は信憑性が認められないものというべく、このように売上記帳の脱漏がある場合にこれを補充すべき証憑資料の提出が申告者たる原告の側からなされない限り、被告が売上高確定の方法として推計の方法をとることは止むを得ないことであり、右推計の方法が被告主張のとおりに行われたことは、証人大庭稔、同池田尚男の各証言及び前示貞光証人の証言(第一、二、三回)並びに右各証言によつて成立を認め得る乙第一〇号証、第一一号証の一、二、第一二号証の一、二、第一三号証、第二〇号証の一、二を綜合してこれを認めることができるところ、これ等の諸証拠に徴して考えればその方法並びに算式はすべて合理的で妥当なものというべく、よつて算出された数額に誤りのないことが認められる。

原告は、被告の右推計に用いられた荒利益率が正当な値引率等による修正を施されていないことを指摘するが、原告が主張するような特段の値引原由たる事実を認めて以て被告主張の値引率等を動かすべきものとする証拠並びに理由は存しない。

従つて、「売上高」についても係争三事業年度とも被告の認定に過誤はないものといわねばならない。

五、よつて、各年度とも別表第四の被告主張欄のとおり損益差引計算のうえ、被告主張のとおり原告会社の所得金額を認定し、且つ右金額の範囲内において課税標準たるべき所得金額を決定し、以て原処分たる行橋税務署長の決定を一部取消しそれぞれ原告主張の税額を決定した本件各審査の決定には何等所得を過大に認定した違法は存しないから、その取消を求める原告の本訴請求はすべて失当として棄却すべく、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 安倍正三 宇野栄一郎 前田一昭)

(別紙省略)

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