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福岡地方裁判所 昭和33年(ワ)243号 判決 1958年12月09日

原告 行方成佶 外一六名

被告 国

主文

被告が原告等に対してなした昭和三十一年一月二十日付出勤停止及び同年七月十日付解雇の処分はいづれも無効であることを確認する。

訴訟費用は被告の負担とする。

事実

原告等訴訟代理人は、主文と同旨の判決を求め、その請求の原因として、

一  原告等はいづれも板付空軍基地における米駐留軍労務者として被告に雇入れられたものであり、被告は原告等の雇傭者として原告等を米駐留軍の使用に供していたものであるが、被告は原告等全員に対し、昭和三十一年一月二十日付で出勤停止、次いで同年七月十日付で解雇の処分をそれぞれ言渡した。しかして被告が右出勤停止及び解雇を言渡した根拠は、原告等が「日本人及びその他の日本在住者の役務に対する基本契約」及び「同附属協定第六十九号」(以下「労務基本契約」及び「附属協定」と略称する)に基づく「保安上の理由」に該当するというのである。

二  しかしながら右出勤停止及び解雇の処分は次のような理由によつて無効である。

(一)  右出勤停止及び解雇は、労務基本契約及び附属協定により定められた人事権制限の基準に違反する。

すなわち労務基本契約及び附属協定によつて、被告は保安上危険な労務者を出勤停止または解雇に処する権限を確認されているが、その反面では保安上危険でない労務者を出勤停止もしくは解雇してはならないと言う自己制限をうけているのであつて、その意味では、右労務基本契約及び附属協定は駐留軍労務者の身分に対する保障的役割を果しているものというべきである。したがつて被告が保安上危険でない労務者を保安上の理由と称して出勤停止もしくは解雇すれば、そのような出勤停止や解雇は、労務基本契約及び附属協定によつて設定された人事権制限の基準に違反するものとして無効といわねばならない。ところで原告等はもともと米駐留軍の保安にとつて危険な人物ではないし、また米駐留軍の保安に危険を及ぼすような行為をしたこともないのであるから、かような原告等に対し、被告が「保安上の理由」ということで出勤を停止し、且つ解雇したことは前記労務基本契約及び附属協定による人事権制限の基準に違反し無効である。

(二)  原告等に対する出勤停止及び解雇は、労働契約を支配すべき信義則に違反し、且つ人事権の濫用である。

前記の如く原告等は、何等保安上危険な事由もないのに保安上危険だという理由によつて、出勤停止及び解雇を言渡されているが、このことは被告もしくは原告等の使用主である米駐留軍の主観的判断によつて原告等が職を失い、路頭に迷わなければならないということに帰着し、労働契約関係における信義誠実の原則に違反するばかりでなく、人事権の甚しい濫用であつて無効といわねばならない。

(三)  原告等に対する出勤停止及び解雇は不当労働行為である。

前記のとおり米駐留軍の保安にとつて何等危険のない原告等に対し、被告から出勤停止及び解雇の言渡しがなされた真の理由は、原告等が全駐留軍労働組合(以下全駐労と略称する)板付支部の組合役員もしくは熱心な組合活動家として組合運動をしていたことにある。被告及び米駐留軍は、かねてから原告等の活溌な組合運動を嫌つていたが、組合運動に熱心な原告等を職場から排除すべく本件処分に及んだもので、原告等の組合運動の主要なものを列挙すると次のとおりである。

(イ)  行方成佶

昭和二十八年二月十一日に全駐労福岡地区本部板付支部(以下板付支部または支部と略称する)に加入し、支部委員をしたことがあり、本件出勤停止処分当時は支部執行委員、支部運輸分会副会長、支部青年文化部長を兼ね、支部におけるコーラス部、読書会、福岡映画協会(以下福映協と略称する)に所属し、それらの中心的な活動家であつた。

(ロ)  林源四郎

昭和二十八年二月十八日に板付支部に加入し、支部執行委員、福岡地区本部執行委員、全駐労中央委員をしたことがあり、本件出勤停止処分当時は、支部委員、支部運輸分会書記長、コーラス部長を兼ね、福映協、幻燈班、読書会などにも関係していた。

(ハ)  吉村孝雄

昭和二十八年三月五日に板付支部に加入し、本件出勤停止処分当時は、サプライオフイス分会青年文化部長をつとめ、女子組合員が多くて組合活動に困難な同職場で熱心に組合活動に従事し、またコーラス部に属し、福映協の幹事もしていた。

(ニ)  福元(旧姓上野)邦子

昭和二十八年三月五日に板付支部に加入し、サプライオフイス分会青年文化部の女子部責任者となり、コーラス部、福映協に所属し、読書会などにも参加していた。

(ホ)  松山貞雄

昭和二十八年二月十一日に板付支部に加入し、表面的な組合役職にはつかなかつたが、平時においても斗争時においても、常に組合員の先頭に立つて活動していた。

(ヘ)  山下佳助

昭和二十八年二月十一日に板付支部に加入し、本件出勤停止処分当時は板付支部運輸分会機関紙編集部員で、青年文化部、コーラス部に所属していた。

(ト)  福元久雄

昭和二十八年二月十一日に板付支部に加入し、本件出勤停止処分当時は、支部幻燈班副班長、支部運輸分会機関紙編集部員を兼ね、青年文化部、コーラス部、読書会に所属していた。

(チ)  大津山宏

昭和二十八年二月十一日に板付支部に加入し、熱心に組合活動を行い、とくに昭和三十年十一月の食堂関係ウエイトレスの人員整理のときには、率先して反対斗争を展開し、本件出勤停止処分当時は、青年文化部、コーラス部に所属していた。

(リ)  古賀増男

昭和二十八年二月十一日に板付支部に加入し、本件出勤停止処分当時は、板付支部運輸分会機関紙編集部長で青年文化部、コーラス部、福映協に所属していた。

(ヌ)  荒木照男

昭和二十八年三月五日に板付支部に加入し、支部執行委員、福岡地区本部委員、中央代議員をしたことがあり、本件出勤停止処分当時は、青年文化部読書会の責任者で、コーラス部にも所属していた。

(ル)  井上富士男

昭和二十八年三月十四日に板付支部に加入し、支部執行委員、軍直対策部長をしたことがあり、本件出勤停止処分当時は、支部委員をしていた。

(ヲ)  松尾明

昭和二十八年二月十一日に板付支部に加入し、その所属するAIO(設営隊)塗装分会は比較的組合活動の不活溌な分会であつたが、終始右分会の組合活動の中核となつて活動し、その組織の維持発展に努力していた。

(ワ)  五島昭一

昭和二十八年三月五日に板付支部に加入し、支部執行委員として教育宣伝部副部長を担当したり、中央代議員をしたことがあり、本件出勤停処分当時は、支部委員であり、且つPOL分会(板付飛行場の燃料関係の職場の分会)機関紙の編集責任者であつた。

(カ)  坂本東吉

昭和二十八年六月十一日板付支部に加入し、支部委員をしたことがあり、春日食堂分会結成(昭和二十八年六月)以来、同分会長として同分会における組合運動を指導推進してきた。

(ヨ)  鳥井敬之

昭和二十八年六月十一日に板付支部に加入し、春日食堂分会青年文化部長として軍直接雇傭女子従業員の多い同食堂内の組合運動の中核となつてこれを指導し、本件出勤停止処分当時は支部青年文化部幻燈班長であり、且つコーラス部、読書会に所属していた。

(タ)  吉浦良徳

昭和二十八年二月十一日に板付支部に加入し、本件出勤停止処分当時は、運輸分会委員、同分会青年文化部長をしており、コーラス部、読書会に所属していた。

(レ)  川満礼子

昭和二十八年三月十四日に板付支部に加入し、原告福元邦子と共にサプライオフイス分会婦人部の中核として活動し、コーラス部に所属していた。

以上が原告等の全駐労板付支部における主要な組合活動であるが、原告等のこのような熱心な組合運動が米駐留軍の甚しく嫌忌するところとなり、やがて「保安上の理由」に藉口した本件出勤停止及び解雇処分となつて現われたのである。したがつて原告等に対する被告の出勤停止及び解雇の決定的動機をなしているものは、原告等の正当な組合運動そのものである。かような出勤停止及び解雇が不当労働行為として無効であることはいうまでもない。

以上いづれの点からみても原告等に対する本件出勤停止及び解雇の処分は無効であるから、その無効確認を求めるため本訴に及んだ。

と述べた。(立証省略)

被告指定代理人は「原告等の請求を棄却する。訴訟費用は原告等の負担とする。」との判決を求め、答弁として、

一  請求原因一の事実は認める。

二  請求原因二の主張については次のとおり争う。

(一)  請求原因二の(一)の主張について。

本件出勤停止及び解雇の処分は、労務基本契約及び附属協定に違反しない。

本件処分は、附属協定第六十九号「在日米軍の保安に関する協定」第一条a項の(3)に定める基準に該当するものとして、附属協定の手続にしたがつてなされたものである。しかして日米安全保障条約第三条に基づく行政協定、労務提供のための基本契約及び附属協定の規定によると、いわゆる保安解雇については、保安基準に該当するか否かの判断は、終局的に米駐留軍の主観的判断に委ねられているのであつて、米駐留軍において保安基準に該当するものと判定して労務者の解雇を求めた場合、日本側はこれに従い解雇せざるを得ないのである。本件処分は右のような附属協定の手続にしたがつてなされたものであるから、労務基本契約及び附属協定に違反しない。

(二)  請求原因二の(二)の主張について。

本件処分は信義則に違反し、解雇権の濫用にわたるものではない。

本件処分は前記のとおり、米駐留軍において附属協定第六十九号第一条a項の(3)に定める基準に該当するものと判断し、日本政府はその判断に拘束される関係から附属協定の手続にしたがつてなしたものであつて、かような契約上の立場にある米駐留軍労務者は一般の雇傭契約における労務者に比べ不安定な地位にあるものといわねばならない。したがつて右のような特殊の契約に基づく本件処分は信義則に違反したり、解雇権の濫用にわたるものでもない。

(三)  請求原因二の(三)の主張について。

原告等の組合運動の経歴については知らないが、本件処分は純粋に「保安上の理由」に基づくものであつて、原告等の組合運動を理由としたものではなく、したがつて不当労働行為にはならない。

すなわち米駐留軍においては、労働組合運動が健全な労働関係を維持して行く上に必要であるとの充分な認識を有し、組合活動に対して支配介入するようなことがあれば、軍の方針として速かに排除措置を講じているほどであつて、組合運動における活溌な活動家の故をもつて軍が原告等を解雇し、ひいては組合を圧殺せんとするが如き意図は毫も存在しない。本件処分は純粋に「保安上の理由」に基いてなされたもので、不当労働行為の介在する余地は全くない。

しかして前記のとおり附属協定第六十九号に基づく保安解雇における保安基準該当の事実については、専ら米駐留軍の主観的判断のみに基いてなされ、これが具体的事実を明示することを要しないし、又その立証責任も被告にはない。

しかしながら、米駐留軍のとつた本件処分の措置について、何等具体的事実を証明しない場合、本件処分が原告等の組合活動に決定的動機を有するかの如き不当な誤解を避けるため、敢えて保安基準該当の事実があつたことを主張する。すなわち、昭和三十二年三月四日付調労発第二八〇号をもつて調達庁労務部長より福岡県知事にあてた附属協定第六十九号第五条D項の措置としてとられた調達庁長官の意見書を内容とする回答書によれば、本件原告等(松山貞雄、松尾明、坂本東吉、五島昭一、井上富士男の五名を除く)の保安基準該当の容疑事実が明らかにされている。被告(国)側の調査結果にして既に保安基準該当の事実を明らかにしたのであるから、米駐留軍のとつた本件処分が保安容疑に基いてなされたものであることは毫も疑を容れる余地なきところである。なお右に除外された五名については、調達庁の調査の結果、一応保安基準該当の容疑事実を発見し得なかつたとするにとどまり、米駐留軍側のなした調査結果が果して右事実を発見したか否かを判定する資料とはなし難い。寧ろ右五名についても米駐留軍においては独自の調査に基いて、容疑事実を明らかにした上で、本件措置に出たものと見るのが、その手続の厳正公正さから見て至当であろう。のみならず前記五名は、従来原告等主張のように組合活動を活溌に推進したと認定するに足りる何等の事跡なく、この事実ありとして立証の用に供された甲号各証は、組合内部における分会長その他の証明書の形式をとつているのであるから、その信憑力は大いに疑問視されなくてはならない。

以上を要約すれば結局本件処分は原告等のいづれに対しても何等不当労働行為を成立せしめる余地はない。

と答えた。(立証省略)

理由

一  原告等十七名がいずれも板付空軍基地における米駐留軍労務者として被告に雇傭され、被告は原告等の雇傭者として原告等を米駐留軍の使用に供していたこと、及び被告が原告等全員に対し「日本人及びその他の日本在住者の役務に対する基本契約」及び「同附属協定第六十九号」(以下「労務基本契約」及び「附属協定」と略称する)に基づく「保安上の理由」に該当するとして、昭和三十一年一月二十日付で出勤停止、同年七月十日付で解雇の処分をそれぞれ言渡したことは当事者間に争がなく、いづれも成立に争のない乙第三号証の一乃至十七によると、右出勤停止は前記附属協定第三条にしたがつてなされたこと、及びこれまた各成立に争のない乙第四号証の一乃至十七によれば右解雇は前記附属協定第一条a項の(3)に定める基準に該当するとしてなされたことが認められる。

二  そこで右出勤停止及び解雇の処分が無効かどうかについて判断を加える。

(一)  先ず右出勤停止及び解雇が労務基本契約及び附属協定に定められた人事権制限の基準に違反するかどうかについて検討するに、いずれも成立に争のない甲第二、第三号証によると、

前記附属協定とは、労務基本契約第七条に規定する「契約担当官(アメリカ合衆国代表者)において契約者(日本政府機関である調達庁)が提供したある人物を引続き雇傭することが米国政府の利益に反すると認める場合には即時その職を免じ、スケジユールAの規定によりその雇傭を終止する」との一般条項を具体化して、解雇の基準並びにその手続を規定したものであるが、それによると、先ず第一条a項において保安基準として、(1)作業妨害行為、牒報、軍機保護のための規則違反またはこのための企画もしくは準備をなすこと、(2)アメリカ合衆国の保安に直接的に有害であると認められる政策を継続的に且つ反覆的に採用し、もしくは支持する破壊的団体または会の構成員であること。(3)前記(1)号記載の活動に従事する者または前記(2)号記載の団体もしくは会の構成員とアメリカ合衆国の保安上の利益に反して行動をなすとの結論を正当ならしめる程度まで常習的あるいは密接に連繋すること、の三基準が定められており、同条b項、第三条、第五条c項乃至e項において、日本側の提供した労務者が第一条a項に規定する保安基準に該当するとアメリカ合衆国側が認める場合には、米軍側の通知に基き、最終的な人事措置の決定があるまで当該労務者が施設及び区域に出入することを直ちに差止めるものとし(出勤停止)、右人事措置の実施細目として、(イ)米軍の指揮官が労務者が保安上危険であるとの理由で解雇するのが正当であると認めた場合には、当該指揮官は米軍の保安上の利益の許す限り解雇理由を文書にしたゝめて労務管理事務所長に通知し、所長は三日以内に該指揮官に対しそれに関する意見を通知する。(ロ)当該指揮官は更に検討した上嫌疑に根拠がないと認めた場合には、その者を勤務状態に復帰せしめるが、なお保安上危険であると認めた場合には上級司令官に報告する、(ハ)上級司令官は調達庁長官の意見をも考慮の上審査し、保安上危険でないと認めれば復職の措置を、保安上危険であると認めれば解雇の措置をとるよう当該指揮官に命ずる、(ニ)上級司令官より解雇の措置をとるよう命ぜられた当該指揮官は労務管理事務所長に対して解雇を要求する、(ホ)労務管理事務所長は当該労務者が保安上危険であることに同意しない場合でも、解雇要求の日から十五日以内に解雇通知を発しなければならないと規定されていることが認められる。しかして右の各規定に、いづれも成立に争のない甲第一、第二十二号証、乙第五号証の一乃至十七及び前掲乙第三、第四号証の各一乃至十七の各記載を照合すると、原告等全員に対する出勤停止及び解雇の言渡しは附属協定に規定する叙上一連の手続にしたがつてなされたものであることが窺われる。

ところで右に認定したところからすれば、附属協定は米駐留軍労務者の解雇の基準並びに手続を定めたものであるから、右協定中の保安基準及びこれに関する人事措置についての規定は単に契約の当事者たる日本政府とアメリカ合衆国(米軍)の間における契約としての効力を有するに止まらず、一般の就業規則に定めた場合と同様、駐留軍労務者と日本政府、米軍間においても拘束力を有するものというべく、したがつて駐留軍労務者を保安解雇するには当然右協定に定めるところに依拠しなければならないと解するのが相当である。しかしてさきに認定したような附属協定の規定の仕方からすれば、元来保安解雇は米軍の保安のためになすもので、その保安基準自体が終局的にはアメリカ合衆国側の認定を尊重せざるを得ない建前になつているところからして、結局保安基準該当の有無についての判断は米軍側の主観的判断に委ねられているものといわざるを得ない。

したがつて米軍において、原告等を附属協定第六十九号第一条a項所定の保安基準に該当するものと判断して出勤停止及び解雇処分がなされていること前示のとおりである。以上これをもつて直ちに労務基本契約及び附属協定に定められた人事権制限の基準に違反し無効であるとはいい得ないのであるから、この点に関する原告等の主張は理由がない。

(二)  次に前記出勤停止及び解雇が原告等の主張するように労働契約を支配すべき信義則に違反し、且つ人事権の濫用であるかどうかについて検討する。

原告等のこの点に関する主張の根拠は、要するに、保安上危険でない原告等が単に米軍側の一方的な主観的判断によつて失職し、路頭に迷わざるを得ないとするのは労働契約上の信義則に違反し、且つ人事権の濫用に該るということに帰着するが、仮令原告等が客観的には保安上危険でないとしても、さきに認定したように米軍側の主観的判断に基き、本件出勤停止処分が附属協定第三条に従つてなされ、最終的な解雇処分が附属協定第一条a項の(3)に該当するとしてなされた以上、前段説示したところから明らかなようにこれをもつて直ちに一般の労働契約と同様の意味において信義則に違反し、人事権の濫用であると即断するわけにはゆかない。蓋し駐留軍労務者の雇傭契約上の地位は一般のそれとは趣を異にし、著しく不安定な立場にあり、特に保安解雇における保安基準該当の有無については終局的には米軍の主観的判断に委ねられ、日本側としてはその判断に拘束されざるを得ないからである。

したがつて原告等のこの点に関する主張もまた失当たるに帰する。

(三)  最後に本件出動停止及び解雇が不当労働行為に該当するか否かについて判断する。

いづれも成立に争のない甲第十乃至第十二号証、第二十四号証の一乃至十五、証人吉田貞郁の証言により、いずれも真正に成立したものと認められる甲第四乃至第九号証、第十四乃至第二十一号証に証人吉田貞郁の証言を綜合すれば、

原告行方は昭和二十八年二月全駐留軍労働組合福岡地区板付支部(以下単に板付支部と略称する)に加入し、支部委員をしたことがあり、本件出勤停止処分を受けた当時は支部執行委員、支部運輸分会副分会長、支部青年文化部長を兼ね、後に示すように支部における組合活動の一環として青年文化部のもとになされているコーラス部、読書会、福岡映画協会(以下福映協と略称する)に所属していたこと、原告林は昭和二十八年二月板付支部に加入し、支部執行委員、福岡地区本部執行委員、全駐労中央委員をしたことがあり、本件出勤停止処分当時は支部委員、支部運輸分会書記長、コーラス部長を兼ね、福映協、幻燈班、読書会などにも関係していたこと、原告吉村は昭和二十八年三月板付支部に加入し、本件出勤停止処分当時はサプライオフイス分会青年文化部長をつとめ、特に女子組合員が多くて組合活動に困難な同職場で熱心に組合活動に従事し、コーラス部に所属し福映協の幹事もしていたこと、原告福元(旧姓上野)邦子は昭和二十八年三月板付支部に加入し、サプライオフイス分会青年文化部の女子部の責任者としてコーラス部、福映協に所属し、読書会などにも参加していたこと、原告松山は昭和二十八年二月板付支部に加入し、表面的な組合役職にはつかなかつたが、平時においても斗争時においても常に組合員の先頭に立つて活動していたこと、原告山下は昭和二十八年二月板付支部に加入し、本件出勤停止処分当時は板付支部運輸分会機関紙編集部員で、青年文化部コーラス部に所属していたこと、原告福元久雄は昭和二十八年二月板付支部に加入し、本件出勤停止処分当時は、支部幻燈班副班長、支部運輸分会機関紙編集部員を兼ね、青年文化部、コーラス部、読書会に所属していたこと、原告大津山は昭和二十八年二月板付支部に加入し、熱心な組合活動を行い、特に昭和三十年十一月の食堂関係ウエイトレスの人員整理反対斗争には率先活躍し、本件出勤停止処分当時は、青年文化部、コーラス部に所属していたこと、原告古賀は昭和二十八年二月板付支部に加入し、本件出勤停止処分当時は、支部運輸分会機関紙編集部長で青年文化部、コーラス部、福映協に所属していたこと、原告荒木は昭和二十八年三月板付支部に加入し、支部執行委員、福岡地区本部委員、中央代議員をしたことがあり、本件出勤停止処分当時は、青年文化部読書会の責任者でコーラス部にも所属していたこと、原告井上は昭和二十八年三月板付支部に加入し、支部執行委員、軍直対策部長をしたことがあり、本件出勤停止処分当時は支部委員をしたこと、原告松尾は昭和二十八年二月板付支部に加入し、その所属するA・I・O(設営隊)塗装分会は比較的組合活動の不活溌な分会であるが、終始右分会の組合活動の中核となつてその維持に努力していたこと、原告五島は昭和二十八年三月板付支部に加入し、支部執行委員として教育宣伝部副部長を担当したり、中央代議員をしたことがあり、本件出勤停止処分当時は支部委員であり、且つPOL分会(板付飛行場の燃料関係の職場の分会)機関紙の編集責任者であつたこと、原告坂本は昭和二十八年四月板付支部に加入し、支部委員をしたことがあり、同年六月春日食堂分会結成以来同分会長として組合運動を指導推進してきたこと、原告鳥井は昭和二十八年四月板付支部に加入し、春日食堂分会青年文化部長として軍直接雇傭女子従業員の多い同食堂内の組合運動の中核となつてこれを指導し、本件出勤停止処分当時は支部青年文化部幻燈班長であり、コーラス部、読書会に所属していたこと、原告吉浦は昭和二十八年二月板付支部に加入し、本件出勤停止処分当時は運輸分会委員、同分会青年文化部長をしており、コーラス部、読書会に所属していたこと、原告川満は昭和二十八年三月板付支部に加入し、前記福元邦子と共にサプライオフイス分会婦人部の中核として活動し、コーラス部に所属していたこと、以上のように原告等はいずれも熱心に活溌な組合活動をなし、その殆んど全部が板付支部青年文化部において読書会、コーラス部、福映協などに所属し熱心にサークル活動に従事していたこと、右サークル活動は昭和二十九年中三度のストライキを契機に組合員たるの故をもつて不利益な取扱を受ける者が出たことなどから、組合活動が萎縮し組合の弱体化を招いたもので、その挽回のため組合の主軸として青年層を結合しようという目的のもとに、第十八回支部委員会において執行部の提案した昭和三十年度運動方針案に特に青年文化活動が挿入され、右運動方針案は第三回支部定期大会で可決され、こゝに青年文化部の結成をみたが、その後青年文化部は組合活動の重要な一環として原告等の努力により活溌に推進され、本件出勤停止処分を受ける直前にはその効果も著明で組合の強化と拡大に大いに寄与していたこと、板付基地においては従前からも再三米軍が組合活動を嫌忌しこれを圧迫していると思われるような事態がみられたが、右の青年文化部の活動が活溌化するにつれて米軍関係者、特に直接労務者と接触する末端部分の関係者においてこれに対する関心が強くなり、昭和三十年十二月二十日原告林ほか数名が、翌二十一日原告行方ほか数名がO・S・I(犯罪特別調査局)の調査を受け、青年文化部のサークル活動の実体について尋問されたが、その約一ケ月後に本件出勤停止処分がなされたこと、他方組合側は昭和三十年十二月二十一日付で右O・S・Iの調査は組合活動に対する支配介入であるとして春日原渉外労務管理事務所長に対して文書による抗議をなし、その回答を求めたところ、軍側の調査が組合に対する支配介入であると考える、責任は日本政府側が負う、思想調査のかゝる行為は中止させる等の解決方を同所長及び組合執行委員長名義で確認する旨の確認書も作成されたが、それにもかゝわらず右O・S・I調査から引続いた本件出勤停止処分によつて原告等の組合活動が事実上抑制され、一般組合員に組合活動に対する畏怖心を生じ、組合活動は動揺、沈滞してしまつたこと及び本件出勤停止処分や前記O・S・Iの調査については第二十四回国会の参議院において右の各措置が労働組合法第七条違反の疑があるとして論議されたことなどを認めることができる。成立に争のない乙第二号証(証人堀田誓司の証人調書)中右の認定に反する部分は直ちに信用できないし、他に叙上認定に積極的に牴触する証拠はない。

そうだとすれば、本件出勤停止及び解雇については、特に原告等の右に認定した如き組合活動が、その理由となつたものでないことが特に明らかにならない以上、右認定の諸事実に照らし、これらの処分は専ら原告等の組合活動をその決定的理由としてなされたものと一応推認せざるを得ない。もとより保安解雇(保安上の理由による出勤停止を含む、以下同じ)自体としては、保安基準該当の事実が客観的に存在しなくとも、その事実があつたとする米軍の主観的判断で足りることはさきに説示したところから明らかであるが、このことは保安解雇が単に法律上の積極的要件を充足する意味において有効か否かを判定する場合として首肯し得るにとどまり、その反面解雇が不当労働行為を構成するか否かの判定に当つては、自ら別個の見地に立つてその成否を判定すべきであり、解雇が前述の意味において有効であるからといつて、直ちに不当労働行為の成立を否定する理由となすに足りないことはいうまでもないところである。

この点について被告は、米駐留軍においては労働組合運動が健全な労働関係を維持して行く上に必要であるとの充分な認識を有し、組合活動に対して支配介入するようなことがあれば軍の方針として速やかに排除措置を講じているほどであるとし、かえつて原告等には積極的に保安基準(附属協定第一条(a)項の(3))該当事実が存在する旨主張している。なるほどいずれもその記載内容から真正に成立したものと認められる乙九号証の一乃至三によると、米極東軍司令部の一般的方針として、出来るだけ現地の労働慣行を尊重し、労働者には組織して意見を述べる権利を民主主義固有の権利として認めているこことが窺えるけれども、右のような一般的方針自体をもつて本件出勤停止及び解雇が不当労働行為でないとする理由とはなし得ないし、又成立に争のない乙第十号証の一、二及びその記載内容から右乙第十号証の二(英文)の訳文であることが認められる同号証の三によれば、本件出勤停止及び解雇後の昭和三十一年八月二十六日、二十七日両日行われたストライキ参加者に対して不利益な取扱をなした米軍下士官が一応戒告処分を受けたことを認めることができるが、この事実の発生は本件出勤停止及び解雇がなされた後、これをめぐつての争が世上に喧伝されていた頃のこと(このことは当庁昭和三十一年(ヨ)第二〇二号出勤停止の効力停止の仮処分申請事件等に徴し当裁判所に顕著な事実である)であつて、この一事をもつて本件出勤停止及び解雇が不当労働行為でないとする理由とはなし難いこと多言を要しない。更に成立に争のない乙第一号証記載の原告等が積極的に保安基準に該当したとある部分(原告等のうち松山、松尾、坂本、五島、井上の五名を除く)は証人菊池水雄の証言を参酌するにしても甚だ漠然としている許りでなく、右記載は単に調達庁の意見に過ぎず、然も右証人に対する反対尋問によつて明らかにされたようにこれまた本件出勤停止及び解雇が不当労働行為にあたらないとする資料とはなし難く、以上いずれもさきに説示した推定を覆えすに足る心証を惹かないし、他にこれを打破るほどの資料も存しない。(なお、いずれもその記載内容から真正に成立したものと認められる乙第六第七号証の一、二、乙第八号証の一乃至三は、本件出勤停止及び解雇について組合運動とは関係がない旨を記載した米軍関係者からの手紙が中心になつているもので、さきに掲げた本件出勤停止に至るまでの経過と照合しても、前記推定を覆えすほどの資料とはなり得ないこと多言を要しない)。

してみれば結局本件出勤停止及び解雇処分はいずれも労働組合法第七条第一号に規定する不当労働行為となすのほかはなく、したがつて右出勤停止及び解雇の処分は無効であつて、この点に関する原告の主張は理由があるといわなければならない。

よつて原告等の本訴請求はすべて正当として認容することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八十九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 川井立夫 村上悦雄 麻上正信)

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