福岡地方裁判所 昭和33年(ワ)842号 判決 1959年6月26日
原告
国
代表者法務大臣
愛知揆一
指定代理人検事
小林定人
同
法務事務官 林正治
同
大蔵事務官 田中貢
東京都中央区室町一丁目二番地の三
被告
日本タイプライター株式会社
代表者代表取締役
本間治
訴訟代理人弁護土
高良一男
右当事者間の昭和三十二年(ワ)第八四二号詐害行為取消等請求事件について当裁判所は次のとおり判決する。
主文
訴外合名会社村上堂が昭和三十一年二月二日別紙第一目録記載の動産並びに別紙第二目録記載の債権を被告に譲渡した行為はこれを取消す。
被告は原告に対し金六十万四千五百八十八円およびこれに対する昭和三十二年九月二十六日から完済まで年五分の割合による金員の支払をせよ。
訴訟費用は被告の負担とする。
この判決は第二項に限り仮りにこれを執行することができる。
事実
原告指定代理人は主文第一ないし第三項と同旨の判決及び主文第二項について仮執行の宣言を求め、その請求原因として
一、大分市大字大分八百二十三番地の訴外合名会社村上堂(以下「村上堂」と略称する)は昭和三十一年二月一日現在において昭和三十年度法人税(昭和二十九年一月一日より同年十二月三十一日までの事業所得に対するもの)金百三十五万九千七十円、同無申告加算税、金三十三万九千七百五十円合計金百六十九万八千八百二十円を滞納している。
二 しかるに村上堂は昭和三十一年二月一日前記法人税の滞納処分による差押を免れるため故意にその全資産である別紙第一目録記載の動産並びに別紙第二目録記載の債権を被告会社に譲渡した。
三 よつて原告は国税徴収法第十五条にもとずき前記国税額の範囲内で別紙第一目録記載の動産(価額合計金五十三万百八十三円)並びに別紙第二目録記載の債権(合計金七万四千四百五円)の譲渡行為を取消すとともに、被告会社が引渡を受けた動産は被告会社の商品と混合し識別できず、或は売却される等してその返還を求めることができず、他方譲渡を受けた債権はすでに被告人会社において取立を了しているから、これ等に代えて右動産の合計価額たる金五十三万百八十三円並びに債権額合計金七万四千四百五円の総計金六十万四千五百八十八円及びこれに対する本件訴状送達日たる昭和三十二年九月二十六日から完済まで民事法定利率年五分の割合による遅延損害金の支払並びに債権額合計金七万四千四百五円の総計金六十万四千五百八十八円及びこれに対する本件訴状送達日たる昭和三十二年九月二十六日から完済まで民事法定利率年五分の割合による遅延損害金の支払を求めるため本訴に及んだ
と述べ、
立証として甲第一ないし第八号証を提出し、証人蓮沢弘、同此本正則(第一回)の各証言を援用し、乙号各証の各成立を認めた。
被告訴訟代理人は「原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とする。」との判決を求め、筈弁として
原告主張の一の事実は不知、二の事実を否認する。
被告会社は村上堂に対し終戦前より被告の製品たるタイプライター同附属部品を販売していたものであるが、昭和三十一年二月一日現在売掛金として合計金八十七万九千八百八十五円の債権をもつていた。この売掛金は多年の取引により漸次累増し滞つていたものであるが、右同日被告は村上堂と代物弁済契約をなし、これにもとずき即日原告主張の動産価額合計金五十三万百八十三円並びに債権合計金七万四千四百五円の引渡並びに譲渡を受けたのであり、なお残金二十七万五千二百九十七円をもつているのである。
従つて被告、村上堂間の前記代物弁済契約は正常な取引にもとずく売掛金の回収行為であると述べ、
立証として乙第一、第二号証の各一、を提出し、証人白井吉太郎、同此本正則(第二回)、同油谷義雄の各証言を援用し、甲第一ないし第七号証の各成立を認め、第八号証の成立は不知と答えた。
理由
一、訴外合名会社村上堂が昭和三十一年二月一日被告会社に対し別紙第一目録記載の動産(価額合計金五十三万百八十三円)並びに別紙第二目録記載の債権(合計金七万四千四百五円)を譲渡したことは、被告も明かに争わないのであるから、これを自白したものとみなすべきである。
二、しかして成立に争のない甲第一号証によれば村上堂は前記日時現在昭和三十年度法人税(昭和二十九年一月一日より同年十二月一日までの事業所得に対するもの)金百三十五万九千七十円、同無申告加算税金三十三万九千七百五十円合計金百六十九万八千八百二十円をその指定納期である昭和三十一年一月二十七日を経過し滞納していることを認めることができる。
三、そこで村上堂の前記譲渡が、その国税の滞納処分による差押を免れるため故意になされたものであるか否かについて検討する。
成立に争のない甲第二、四、五号証、第七号証に証人蓮沢弘、同此本正則(第一、二回)、の各証言、同白井吉太郎、同油谷義雄の各証言の一部を綜合すれば、次の事実を認定することができる。
大分税務署は村上堂に対し、昭和三十年度法人税(無申告加算税を含む)について、昭和三十一年十一月頃、村上堂が昭和二十九年にその所有の不動産を売却して得た利益に対し相当額の課税のあることを予告した上、同年十二月二十八日頃法人税課税決定の通知をなしたが、この通知を受けた村上堂の代表社員たる白井吉太郎は同月末頃被告会社福岡支店長油谷義雄および同支店次長園田一郎に対し右法人税課税決定通知のあつたことを知らせた。
一方訴外村上堂は当時経営状態が悪化し国税の滞納分その他被告会社、西日本相互銀行等に対する負債を加えて凡そ四百八十二万円の負債があり、破産にひんしその再建が困難視されており、被告会社に対し金八十万円を下らぬ債務を負つていたため、被告よりかねて営業について指示監督を受けていたが、昭和三十一年一月十五日頃前示油谷義雄は被告会社の村上堂に対する債権取立のため村上堂の全資産をもつて被告会社の債権の代物弁済に充てる案をもつて村上堂を訪れ、その案の実施を強く要求した。その際油谷は村上堂の経理税理関係について日頃その相談を受けている税理土の訴外此本正則に対し「村上堂の経営がこんなに悪いのにどうして此のような多額の法人税が課せられるのと」と尋ねたので同人からも村上堂の負担する国税、その他の債務等につき詳細に説明した。その後前示のごとく村上堂が被告会社に昭和三十一年二月一日に被告会社に対し譲渡した動産及び債権は村上堂の全資産であつたため、結局本件譲渡行為の結果、村上堂は無資力となり、以後休業状態となり負債のみを有じている。
以上の事実を認めることができ、この認定に対する証人白井吉太郎、同油谷義雄の各証言部分はいずれも措信できないし、他にこれを覆すに足りる証拠もない。
右の前示と一、二の事実とを合せて考えるときは、村上堂は法人税の滞納処分による差押を免れるため故意にその全資産を被告に譲渡したものであるというべく、国に対する詐害行為を構成するものといわなければならない。
四、なお証人蓮沢弘の証言によれば、被告会社が村上堂より引渡を受けた動産は被告会社の商品と混合しその識別は不能であり或はすでに売却されており、また譲渡を受けた債権はすでに被告会社において取立済であるごとが明らかである。
五、よつて国税徴収法第十五条に則り村上堂の被告会社に対する動産債権の譲渡行為の取消を求め、加えて右動産、債権の代償としてその総額金六十万四千五百八十八円およびこれに対する本件訴状送達日の翌日であること記録上明らかな昭和三十二年九月二十六日から完済まで民事法定利率年五分の割合による遅延損害金の支払を求める原告の本訴請求はいずれも理由があるのでこれを認容し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八十九条を、仮執行の宣言につき同法第百九十六条を適用して主文のとおり判決する。
(裁判官 藤野英一)