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福岡地方裁判所 昭和34年(わ)1283号 判決 1960年1月16日

被告人 高山すゞ子こと藤野悟

昭一三・一二・一一生 無職

主文

被告人を懲役三月に処する。

但し本裁判確定の日から二年間右刑の執行を猶予する。

訴訟費用は被告人の負担とする。

理由

(罪となるべき事実)

被告人は昭和三十四年十月二十日午後十時三十五分頃福岡市春吉九番丁福仁旅館路上において常習として性交類似行為をする売春の目的をもつて通行中の二宮昭雄の身辺につきまとい「遊びませんか、八百円でいゝよ」等と申し向け、同人を売春の相手方になるよう勧誘したものである。

(証拠の標目)(略)

(法令の適用)

被告人の判示所為は福岡県条例昭和二十七年第三号風紀取締条例第三条第二項罰金等臨時措置法第二条に該当するので所定刑中懲役刑を選択しその刑期の範囲内で被告人を懲役三月に処し、刑法第二十五条第一項により本裁判確定の日から二年間右刑の執行を猶予することとし、訴訟費用は刑事訴訟法第百八十一条第一項本文を適用して全部被告人の負担とする。

(弁護人の主張に対する判断)

弁護人は、

(一)  本件条例第三条第二項は違反者に対し懲役刑を課することまでも規定して居り、かように条例によつて懲役刑を課することは法律によらずに刑罰権を行使するものであり、憲法第三十一条に違反する。又仮りに同条に違反しないとしてもこのような場合には憲法第九十五条に規定する住民投票手続を経ることを要するのに本件条例はかような手続も経ていない。

(二)  本件条例第二条第三条の性交類似行為処罰の対象となるものは女性のみであつて被告人のような男性は処罰の対象にならない。

(三)  被告人は本件条例第三条第一項により勾留されたものであるが右条文の法定刑は罰金刑以下であるのに懲役刑に等しい勾留をなしたのは不当であり、かゝる勾留の下になされた被告人の司法巡査に対する供述調書は不当に長く抑留若しくは拘禁された後の自白であつてこれに証拠能力を認めることは、憲法第三十八条第二項に違反する、

と主張するので以下順次判断を加える。

(一)  本件取締条例は憲法第九十二条第九十四条地方自治法第二条、第十四条に基いて制定された福岡県の条例である。しかして憲法第九十四条は、条例が法律の範囲内において効力を有するものと定める他、規定事項については特段の制限をせず法律の定めるところに委せており地方自治法は第二条においてその処理事項を規定し、第十四条において右の事項につき条例を制定し懲役二年以下の罰則を規定することを認めているのであるから右法律に準拠して前記条例が罰則殊に懲役刑を規定しても憲法第三十一条に違反しない。尤も憲法第七十三条第六号但書は命令に対する罰則の包括的授権を禁じているがその趣旨は行政権の恣意による刑罰権の濫用の防止にあり、当該地方における住民の代表機関である地方公共団体の議会の議決によつて成立する条例に対し、その実効性を確保するために刑罰を定めることを認めることまでも禁止する趣旨ではなく条例は直接に憲法によつて認められた立法方式と考えるを相当する。又憲法第九五条は国会で議決される地方自治特別法に関する規定であるから条例には適用されないと解すべきである。従つてこの点に関する弁護人の主張は採用できない。

(二) 本件条例に所謂「性交類似行為」の主体についてはこれを女性のみに限定していないことは右条文の規定上明らかであり男女双方とも処罰の対象になるものと解すべきであるから右主張も採用できない。(なお本件条例中「性交類似行為」に関する規定は売春防止法附則第四項によつても失効しないものと解する。)

(三)  法定刑が罰金刑以下にあたる罪の被疑者又は被告人でも刑事訴訟法第六十条第三項にあたる場合は別として同条第一項各号の勾留理由が存する場合には適法に勾留しうるのであつて、本件は同条第三項に該当しないから本件被告人に対する勾留は何ら不当でないと解すべきである。又主張にかゝる供述調書は逮捕の翌日録取されたものであつて不当に長く抑留若しくは拘禁された後の自白とは認め難く、しかも被告人は逮捕当初より本件犯行を自白しており他に特別事情も認められない本件においては拘束中の自白であることをもつて当然に任意性がないものと認めることができない。

従つて弁護人の主張はいずれも採用できない。

よつて主文のとおり判決する。

(裁判官 後藤師郎 藤島利行 高橋朝子)

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