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福岡地方裁判所 昭和34年(モ)985号 判決 1960年11月16日

申立人(被申請人) 国

被申立人(申請人) 山下佳助 外一名

主文

当裁判所が昭和三一年一〇月二四日当庁昭和三一年(ヨ)第三二五号賃金支払請求仮処分申請事件についてなした仮処分決定中申請人山下佳助及び同吉浦良徳にかかる部分を取消す。

申立費用は、被申立人等の負担とする。

この判決は、第一項に限り仮に執行することができる。

事実

第一、当事者双方の求める裁判

申立人指定代理人は

「主文第一、二項同旨」

の判決を求め

被申立人等代理人は

「本件申立を却下する。申立費用は申立人の負担とする。」

との判決を求めた。

第二、申立人の主張

一、福岡地方裁判所は、被申立人等他一五名(申請人)と申立人(被申請人)間の昭和三一年(ヨ)第三二五号賃金支払請求仮処分申請事件につき、昭和三一年一〇月二四日被申立人等の申請を認容仮処分決定をなし、申立人は右決定に従い被申立人等に所定の賃金を支払つてきた。

二、申立人と被申立人等の間に雇傭契約が存続しているとすれば、被申立人等はいずれも米駐留軍板付空軍基地第六、一四三部隊輸送中隊輸送課(以下単に春日原モータープールと略称する)のジープ運転手である。

三、昭和三四年四月二七日、米軍は、申立人に対し両者間の基本労務契約に基き、人力定員の変更および減少の理由による人員整理として、右部隊のジープ運転手のうち一七名の解雇を要求した。

四、右基本労務契約に定められた人員整理基準によると整理該当者は職種毎に先任の逆順により選出される。そこで申立人は「ジープ運転手」を単位として在籍者名簿を作成したところ、被申立人山下佳助及び同吉浦良徳が原職にあるならばそれぞれその第一三番目及び第一二番目に位置し、整理対象者に含まれることになつた。

五、そこで、申立人は、被申立人等に対し、昭和三四年五月二六日附解雇通知書をもつて裁判の結果にかかわらず昭和三四年六月二七日以降予備的に解雇する旨意思表示をなし、該通知書は被申立人吉浦に対し同年五月二七日、同山下に対し同年六月二日到達したが、昭和三四年六月七日米軍は申立人に対し、人員整理発効日を同年六月三〇日迄延期する旨要求した関係上、申立人は被申立人吉浦に対し同月二六日、同山下に対し同月二八日その旨さらに契約解除日延期の通知をなしたので被申立人吉浦については同年七月一日、被申立人山下については、同年七月三日それぞれ解雇の効力が発生し雇傭契約が終了したことになる。

六、従つて、前記仮処分決定は決定後に決定の基礎である事実関係に事情の変更が生じたものであるから、民事訴訟法第七四七条第七五六条により仮処分決定の取消を求める。

七、予備的解雇は無効であるとする被申立人の主張は次のとおり理由がない。

(一)  「ジープ運転手」を本件人員整理の単位としたのは、次の理由により適法である。

(1) 労務基本契約細目書II附表IのNo.四〇、番号二二には「自動車運転手」、番号二四には「特殊自動車運転手」がそれぞれ記載されているが「自動車運転手」には包含職種として「トラツク運転手」「ジープ運転手」があり、トラツク運転手、ジープ運転手、特殊自動車運転手の三職種は各独立した同等の職種である。包含職種なる名称を附したのは賃金枠が「自動車運転手」の枠を「トラツク運転手」「ジープ運転手」についても同じように適用する関係を示したものにすぎない。

(2) 「トラツク運転手」「ジープ運転手」は労務基本契約附表においては、賃金枠が同一であるが、現実の給与決定にあたり「トラツク運転手」は「ジープ運転手」より高い給与決定を行つており、両者は給与上も区別されている。それゆえ「ジープ運転手」から「トラツク運転手」になる場合は職種変更として米軍から職種変更要求書が提出され、これに応じて労務者台張の職種欄にその旨記載するなどの必要な手続がとられている。

(3) 前記三職種のいずれを労務者に適用するかは、米軍板付基地当局の労務要求により決まるものであり、該基地において昭和二六年七月以降「ジープ運転手」または「トラツク運転手」という職種を指定して労務者の提供を要求し、爾来、春日原モータープールでは、関係職種として「ジープ運転手」と「トラツク運転手」だけであり、本件解雇当時「自動車運転手」なる職種を適用される労務者はいなかつた。

(4) 人員整理の単位となる職種もまた、米軍当局の指定する職種によつて決まるものであるが、本件人員整理にあたつても、米軍当局が指定した職種は「ジープ運転手」であつた。

(二)  仮りに被申立人等の主張のとおり「自動車運転手」(ジープ運転手、トラツク運転手を含む)を単位としても、被申立人等より採用年次の浅い「トラツク運転手」は、昭和二八年二月七日採用の申立外鴨川清のみであるから、同人を含めてもなお被申立人等は本件人員整理の対象者に含まれることとなる。

(三)  被申立人等に配置転換等の機会を与えなかつたことは認めるが、仮りに右機会を与えていたならば被申立人等は配置転換されたであろうとの点は否認する。配置転換の機会を与えなかつたとしても違法ではないからただちに本件予備的解雇は無効とはいえない。

第三、被申立人等の主張

一、申立人主張の一の事実は認める。

同二の事実は否認する。

同三の事実は不知。

二、四の事実中、整理対象者は職種毎に先任の逆順により選出されること、被申立人等が、申立人作成の在籍者名簿中の番号によればそれぞれ第一三番目と第一二番目にあつたことは認めるがその余の事実は否認する。

三、申立理由五のうち、申立人が被申立人等に対し、申立人主張の日主張のとおりの通知書により解雇の意思表示をし、又その主張の日主張の内容の契約解除日延期の通知をなした事実は認める。

四、本件予備的解雇は次の理由により無効である。

(一)  申立人は、被申立人等がさきに解雇された当時ジープ運転手であつたから、さきの解雇が無効であるならば当然現在なお原職に在籍するものとして本件人員整理のための在籍者名簿を作成している。しかしながら、板付空軍基地においては、従来職種及び職場の変更が屡々行なわれていたから、被申立人等がさきの解雇のときより予備的解雇の時期まで引き続いて職場にいたならば、本件解雇当時は既に他の職種、乃至は職場に変つており、原職たるモータープールのジープ運転手をしていた可能性はきわめて少ない。従つて、被申立人等をいれて本件人員整理名簿を作成すべきではないにかゝわらず、被申立人等がなお原職に留まつているものとして、被申立人等を含めて在籍者名簿を作成し、人員整理の対象としたことは明らかな誤りであるから、本件解雇は無効である。

(二)  本件先任順位の決め方は、労務基本契約前記附表によると「普通自動車運転手」という職種を単位とすべきに拘らず「普通自動車運転手」のなかの「ジープ運転手」を単位にしているのは違法である。「普通自動車運転手」なる職種を単位に先任順をとれば被申立人等は本件人員整理の対象者とはならない。従つて本件予備的解雇は、結局先任順のとり方において前記基本契約の人員整理基準の適用を誤つたものであるから無効である。

(三)  労務基本契約細目書I節人員整理第五項によると、人員整理に際しては希望退職、配置転換等により整理人員を最少限にとどめなければならないのに、被申立人等は配置転換、職種変更の手続上保障された権利行使の機会を与えられなかつたものであり、仮りに右権利を行使する機会が与えられたとすれば、被申立人等は配置転換されたものであるから本件解雇は無効である。

第四、疎明<省略>

理由

一、申立人が申立人主張の仮処分決定に基き、被申立人等に所定の賃金を支払つてきた事実、被申立人等が昭和三一年以前駐留軍労務者として申立人に雇傭され春日原モータープールにジープ運転手をして勤務していたこと、申立人作成のジープ運転手を単位とする人員整理在籍者名簿の第一三番目に被申立人山下、第一二番目に吉浦がそれぞれ位置していること、米軍と申立人間に締結せられた基本労務契約に定められた人員整理基準によると整理該当者は先任の逆順により選出さるべきことが定められていること、並びに申立人が被申立人等に対し申立人主張の日その主張の内容の解雇の意思表示をなし、又その主張の日主張の内容の契約解除日延期の通知をなした事実は、何れも当事者間に争いがない。

二、成立に争いのない甲第一号証、第二号証の一、二、第九号証の各一、二、証人波多野衛、同高田敬蔵の各証言、被申立人両名の各本人尋問の結果を綜合すると昭和三四年四月二七日基本労務契約(アメリカ合衆国政府と日本国政府間に締結された基本労務契約―契約番号DA―九二―五五七―FEC―二八、〇〇〇)に基いて米軍は、人力定員の変更および減少を理由とする人員整理として、春日原モータープール、ジープドライバー一七名の解雇を申請人に要求し、さらに六月一七日解雇の人員を一三名と変更してきた。そこで、申立人は基本労務契約、細目書IH節に定める人員整理の基準に従い、ジープ運転手を単位職種として在籍者名簿を作成し被申立人等に対し本件解雇の措置をとつたことが認められる。

三、つぎに右予備的解雇は無効である旨の被申立人等の主張について判断する。

(一)  被申立人等は、本件在籍者名簿作成に当り、被申立人等がさきの解雇当時より引き続き本件解雇時迄原職に留まつていたものとして、モータープールのジープ運転手の在籍者とした点に違法があると主張し、その根拠として右期間における配置転換職種変更の可能性、必然性を主張し、成立に争いのない甲第一一号証、証人波多野衛、同大井重信、同未次清、同高田敬蔵、同重松鶴来の各証言及び被申立人等の各本人尋問の結果によると、板付空軍基地においては、職場職種の変更が可成り行われ春日原モータープール、ジープ運転手からも、被申立人等がさきに解雇された時から本件解雇当時迄特殊自動車運転手に約一〇名、他に約二名の職種変更者が出ていることが認められるけれども右事実によつてはただ一般的な転職、職場変更の抽象的可能性がうかがわれるに過ぎず、直ちに被申立人等が他の何等かの職場、職種に移るべき具体的可能性必然性があつたものと推認せしめるものとはいえず、他に右事実を認めるに足る証拠は何もない以上、被申立人等の右主張は理由がないものといわざるを得ない。

(二)  先任順のとり方について違法がある旨、被申立人等は主張し先任順決定の単位職種を「ジープ運転手」とすべきか、「自動車運転手」とすべきかについて当事者間に争いがある。甲第一号証の趣旨によると、労務基本契約に定められた人員整理に関する基準は就業規則と同様の効力を有するものと解すべきを相当とし、この規定に違反する解雇は無効と解すべきところ、基本労務契約細目書IH節の各規定の趣旨及び証人大井重信、同末次清、同高田敬蔵、同重松鶴来の各証言並びに被申立人吉浦の本人尋問の結果により認められるモータープールに於ける申立人の云うジープ運転手の職務内容等を綜合すると、本件人員整理の結果減員される職種の決定ならびに、人員整理のための在籍者名簿の作成に当つてはジープ運転手、トラツク運転手を含めて普通自動車運転手として単位職種をとるべきものと解するを相当とする。従つて本件人員整理に当つてはトラツク運転手を含めて先任の逆順により整理該当者を決定すべきことゝなる。そこで、成立に争いのない甲第一二号証によると被申立人等より採用年次の浅いトラツク運転手は申立外鴨川清一人であることが認められる。従つて被申立人吉浦、同山下の順位はそれぞれ第一四番目、第一三番目に上ることになる。ところが、基本契約ならび前掲各証拠と弁論の全趣旨を綜合すると、本件人員整理は職場における必要人員を算定しその余の人員を解雇する趣旨であつたと認められるが、被申立人等は駐留軍側の右職種の在籍人員数には既に解雇者として扱われてこれに計上されていないため、被申立人等が就業していたとすれば余剰人員は前記米軍指定の一三名に二名が増加して一五名となるべきところであつた。

従つて第一四番第一三番にあたる被申立人等はいずれも整理対象者であると認むべきである。右認定に反する証人大井重信の証言は措信しがたく、他に右認定を左右する証拠はない。従つて被申立人等に対する本件解雇が整理基準に反し無効である旨の主張は理由がない。

(三)  被申立人等は本件解雇に当り、労務基本契約細目書IH節第五項に定める配置転換の機会を与えらるべきであつたにかゝわらず右機会を与えられないまゝ、申立人が、本件解雇をなしたのは基本契約に反する旨主張し、右機会を与えなかつたことは当事者間に争いがない。労務基本契約に定められた人員整理に関する基準は就業規則と同様の効力を有することは前記説示のとおりであり、成立について争いのない乙第三号証によると、同契約細目書IH節第五項には人員整理にあたつて整理を最少限度とすべきことを要請し、そのため「人員整理の対象となる労務者をもつて、その先任順に、できる限り欠員をみたすものとする、この場合その労務者は欠員に補充される資格があり且つこれに同意する場合には、同一競合地域内の他の職種への配置、または他の競合地域への転任の措置を受けるものとする(略)」と規定する。従つて先ず他に欠員があり、更に当該労務者に欠員に補充される資格と意思があるときは、申立人は整理対象者にその機会を与うべきものと解するを相当とするところ、他の職場職種の欠員につきその具体的内容、欠員数等を認めることのできる証拠がない以上、被申立人等に対し転職の機会を与えなかつたからといつて、本件解雇が直ちに手続に違法があるとすることはできない。

四、以上のとおり本件予備的解雇が無効であるとの主張はいずれも採用することができず、本件解雇は申立人の主張の日にその効力が生じ当事者間の雇傭契約は終了しているものというべく右事情変更の結果、雇傭契約の存在を基礎とする前記仮処分決定の理由は消滅したものと解すべきである。

よつて前記仮処分決定中被申立人等に対する部分を取消すこととし訴訟費用について、民事訴訟法第八九条、第九三条仮執行の宣言について同法第一九六条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 中池利男 野田愛子 吉田訓康)

【参考資料】

仮処分申請事件

(福岡地方昭和三一年(ヨ)第三二五号昭和三一年一〇月二四日決定)

申請人 行方成佶 外一六名

被申請人 国

主文

被申請人は申請人等に対し、別紙第一目録記載の未払賃金手取合計額の金員及び昭和三十一年九月分の別紙第二目録記載の「平均賃金手取月額」の金員並びに同年十月分以降本案判決確定に至るまで毎月分前記目録記載の「平均賃金手取月額」の金員をその翌月の十日までに各支払わねばならない。

(注、無保証)

(裁判官 亀川清 高石博良 和田保)

(別紙省略)

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