大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

福岡地方裁判所 昭和35年(ヨ)146号 決定 1960年3月28日

申請人 三井鉱山株式会社

被申請人 三池炭鉱労働組合

主文

一、被申請人組合は別紙目録記載の物件に立入り、またはその所属組合員もしくはその他の第三者をして右物件に立入らせてはならない。

二、被申請人組合は申請人会社の指定する職員または従業員が第一項記載の物件内に出入し、もしくは右物件内において申請人会社の業務を逐行することを実力をもつて妨害し、またはその所属する組合員もしくはその他の第三者をしてこれを実力をもつて妨害させてはならない。

三、申請人会社の委任する執行吏は第一、二項の命令の趣旨を公示するため、および第一、二項の命令に違反する行為を排除するため適当な措置を講ずることができる。

(注、無保証)

(裁判官 中池利男 宇野栄一郎 阿部明男)

(別紙省略)

【参考資料】

仮処分申請書

申請の趣旨

一、被申請人組合は、別紙物件目録記載の物件に立入り、又はその組合員、若しくは他の第三者をして立入らしめてはならない。

二、被申請人組合は、申請人会社の命ずる職員又は従業員が別紙物件目録記載の物件に出入し並に右物件を以て申請人会社の業務を遂行する行為を妨害し又はその組合員若しくは他の第三者をして妨害せしめてはならない。

三、申請人会社の委任する執行吏は、前二項の命令の趣旨を公示するため相当の方法を講ずる外、前二項の命令に違反する行為を除去するため適当の措置を講ずることができる。

との裁判を求める。

申請の理由

一、当事者

(一) 申請人会社は肩書地に本店を置き、石炭の採掘販売並びにその附帯事業を行う株式会社で大牟田及び荒尾の両市に跨り、三池鉱業所及び三池港務所の二事業所を有している。三池鉱業所は石炭の生産を、三池港務所は石炭及び諸雑貨の陸上輸送及び港湾荷役をそれぞれ主な業務とするがこのうち三池鉱業所は、本所、三川鉱、四山鉱及び宮浦鉱の四鉱所に分れており、その従業者数は約一万三千名である。

三池港務所は専用鉄道及び三池港を有しその従業者数は約一、三〇〇名である。

而して申請の趣旨記載の物件はいずれも会社の所有に係る施設である。

(二) 被申請人三池炭鉱労働組合(以下三鉱労組という)は前記二事業所の従業員等約一万四千名を以て組織する単位労働組合であつて、全国の石炭鉱業労働者を以つて組織する日本炭鉱労働組合(以下炭労という)及び企業別連合組織である全国三井炭鉱労働組合連合会(以下三鉱連という)にそれぞれ下部組織として加入しており、今日私企業における組合のうち、最も強大にして且つ最も戦斗的といわれる炭労の中にあつて、その中核的存在をなす組合であることはつとに顕著な事実である。

二、紛争経過の概要

企業再建案の実施をめぐり、昭和三十四年七月以降会社と三鉱労組との間に争議状態の続いていることは、すでに公知の事実となつている。

(一) 企業再建案の実施

昭和三十三年以降の石炭業界の不況に加えて、会社特有の「低能率、高賃金」という悪条件に災いされて会社は同年上期以降毎決算期に赤字を出し崩壊寸前の危機に追い込まれて企業再建のため人員削減を含む強力な施策を早急に実施する必要に迫られたこと。

このため会社は昭和三十四年一月三鉱労組に対して第一次会社再建案を提示して交渉の結果同年四月六日一応妥結したが組合の非協力によつて右再建案は所期の目的を達成しなかつたこと。

この間会社は益々窮地に陥り、同年七月から賃金の遅配を余儀なくされたこと。

そこで会社はやむなく同年八月再度三鉱労組に対して第一次案で目標に達しなかつた四、五八〇名の人員整理を含む第二次会社再建案を提示し組合との間で、約三ケ月間に都合二四回の団体交渉を行い組合の理解と協力を求めたが、十一月十二日遂に交渉は決裂し、会社はやむなく十二月十一日一、二七八名(鉱業所関係一、一六三名、港務所関係一一五名)に対して指名解雇の通告を発したこと。

この間十一月十三日から中央労働委員会の斡旋が行われたが二十五日に不調に終つたこと。

組合は終始、企業再建案絶対反対の態度を固執し、炭労の指導のもとに順次斗争を強化して、実力によつて会社に再建案を撤回させようとしてきたこと、これに対して、会社の職員約五、〇〇〇名を以て組織する三井鉱山社員労働組合連合会(以下三社連という)は会社再建の必要を認め、十一月二十二日炭労に対して早期事態収拾措置を要請しその了解を得て十二月七日会社と妥結協定したこと。

等々、会社の企業再建案提示から指名解雇通告前後までの経緯については新聞その他によつてすでに明らかなところである。(御庁昭和三十四年(ヨ)第四八七号立入禁止仮処分申請事件参照)

(二) ロツクアウトの実施

会社の行つた前記指名解雇に対しても、三鉱労組は絶対反対の態度を固執し組合員が希望退職の申出をするのを阻止したため期日までに退職の申出をしたのは僅かに七十六名に過ぎず残りの一、二〇二名については十二月十六日解雇の効力を生じ、会社施設への立入りを禁止された。ところが組合はこれら被解雇者にも平常通りの出勤を命じ、多数の組合員、主婦会の援護のもとに会社施設への強行立入りを敢えてさせたため十六日以降各鉱所に於て職場秩序は紊乱し、又入坑遅延作業放棄が頻発して従来組合の実施してきた毎週火曜、金曜の二十四時間ストライキ及び職場斗争(生産点における対決)と相俟つて、出炭は極度に抑制される結果となつた。

のみならず三鉱労組は会社が人員整理後の生産体制を整えるため申入れた配置転換も昭和三十五年一月七日これを全面的に拒否、または三川鉱本層下終掘に伴う二十一卸への部内移動(これは、今次争議とは無関係の平常業務に属する)についても企反斗争中との一事を以て会社の要求を拒否しはては会社が新職場への就労を命じたのに対して組合員をしてこれを拒否せしめるにとどまらず旧職場への就労を強行させるというまことに不当な争議行為を敢えてしたのであつて、かくては会社は組合のかかる行為が反覆継続せられる限り経営状態は悪化の一途をたどり、状況の好転は全く期待し得ないことが明白となつたので、会社は企業の存立を確保する唯一の緊急手段としてやむなく一月二十五日一番方以降今次争議解決まで三鉱労組に対してロツクアウトを実施することとし、同月二十三日この旨組合に通告した。会社の実施したロツクアウトの対象物件は公共的性格を有する三池港務所及び病院水道施設等を除く会社の諸施設であるが、組合は会社から右通告をうけるや直ちにその所属組合員全員に対して無期限ストライキを指令し、同じく二十五日から全面ストライキに突入した(疏甲第一号証の一、二)。

(三) 三池炭鉱新労働組合の発足

かくして、昭和三十五年一月二十五日以降会社はロツクアウトを、三鉱労組は全面無期限ストライキをそれぞれ実施して、当初ピケをめぐつて多少の紛争は起つたが特筆すべき事件もなくして経過してきた。

ところがロツクアウトを実施してから五十三日目の三月十七日、突如として約三千名の組合員が大牟田市民館に会し三池炭鉱新労働組合(以下新組合という)の結成大会を催し参加した組合員のうち三千六十五名が三鉱労組からの脱退並に新組合への加入の署名をした後、新組合の規約の承認、執行機関の選任等の諸手続を経て、新組合を結成し(疏甲第二号証の一、二)、ここに今次争議は全く新たな段階を迎えることとなつた。新聞その他の報道を総合すると、新組合は当初三鉱労組内に踏み止まつて三鉱労組現執行部の極左的斗争方針は組合員の生活をやがて破滅に導くものであると批判し、組合員大衆の切なる要望を結集して、斗争路線を経済斗争に変更すべきであると考え、中央委員会に於て現執行部の独善的、極左的斗争方針に従うかどうかをこの際組合員全員の無記名投票という民主的方法によつて決すべきであると主張した模様であるが中央委員会に於てはこれが容れられず逆にこのような批判活動をしただけのことが組合の統制に反する利敵行為であると断定して三鉱労組は批判派幹部の除名と批判派組合員への資金カンパの分配停止を以て臨み更には批判派組合員に対し説得と称して猛烈な人身攻撃、吊し上げを敢行するに至つたので、十五日、中央委員会を退場して「刷新同盟」を結成したばかりの批判派は、公然批判活動を開始して僅か二日目にして自己の主張とその生活を守るために、やむなく同志相倚つて新労組結成へと踏み切つたものの如くである。(疏甲第三号証の一乃至三)

三鉱労組は、新組合の発足を以て会社の策動によるものであるかの如くに宣伝しているがこれは全く為にするデマ宣伝であつて新労組の結成に際しての声明書、或はその後頒布せられたパンフレツト等にみられるが如くそれは新組合員等自らの極めて純粋な発意に基きその自主的行動によつて新組合は結成せられたのであつて会社のなんら関知せざるところであつた(疏甲第三号証の四)。越えて三月十九日新組合は会社に対し三月十七日組合員三千七十六名を以て新組合を結成したこと及び新組合の執行機関の氏名がこれこれであることを通告してきたが、同時に新組合に団体交渉権の存在することを確認せよと会社に請求してきた。

会社は結成大会前後の事情及び右通告に鑑み会社と三鉱労組との間の労働協約第一条で会社は唯一交渉団体約款を締結してはいるが、憲法、労組法等の諸法規の精神に照して新組合の団体交渉権を否定できないので、右申入れを承認して直ちに口頭を以て新組合に団体交渉権の存在することを確認した(疏甲第四号証)。

その後三月二十三日新組合はその所属組合員四、六三〇名(結成後五月にして一、五五四名増加している)の組合員名簿を会社に提出すると共に団体交渉の申入れをしてきた。そこで会社は翌二十四日午前二時四十五分新組合と第一回団体交渉をもつたがその結果次の始き協定書が締結された(疏甲第五号証)。

(イ) 会社は新組合が団体交渉の相手方であることを認める。

(ロ) 労働協約を速かに結ぶよう別に団交を行う。

(ハ) 労働協約締結までは労働条件福利厚生などの諸条件は会社と三鉱労組との間の諸協定を準用する。

(ニ) 新組合は今次会社の合理化計画の趣旨に基き具体的事項については双方協議の上再建のため誠意を以て早期解決に努力する。

(ホ) 以上の確認のもとに新組合はその組合員の一切の争議行為を解除し会社は新労組の組合員に対してロツクアウトを解除する。解除の日時その他生産再開に必要な具体的事項については別に協議する。

(ヘ) この協定は調印の日より発効するものとし、今後新たに新組合の組合員となるものにも適用する。

この協定書の締結によつて具体的条件を交渉すれば会社は何時でも生産を再開し得る状態となつたのであるが他方三社連(組合員約五千名)も三月十八日炭労からの脱退を決意しその傘下各職員組合はそれぞれ炭労の斗争方針を批判して炭労脱退を決議すると共に会社再建のため新組合を支援するとの態度を明らかにした(疏甲第六号証)。また三鉱連傘下の組合のうちにも炭労の三池争議支援の統一スト指令を返上する旨決定した組合があるといわれ最近の諸報道を総合すれば炭労の企業整備絶対反対の斗争方針に対する批判はひとり新組合或は職員組合のみならず三鉱連の内部に於ても予想外に強く行われている模様である(疏甲第七号証)。

天下の炭労として自他共に許しまたその中核体として強大な力を誇つた三鉱連がその余りにも戦斗的な斗争方針を今こそ世論からもそしてまたその内部構成員からも批判せられ、非難攻撃の矢表に立たされているといつても決して過言ではあるまい。

(四) 生産の再開

前記協定書調印後新組合と会社は生産再開についての事務折衝を続けてきたが二十六日この交渉は妥結し、会社は三月二十八日午前時より新組合所属の組合員によつて各鉱所一齊に生産を再開することとなつた(ロツクアウトの対象となつていないし、ストライキも行つていない職員組合所属の組合員がこの生産再開に加わることは勿論である)。

ところで新組合及び職員組合所属の組合員による生産再開につき会社は具体的に左の方針を決定した(疏甲第八号証)。

(イ) 宮浦鉱関係

同鉱関係在籍の新組合員(鉱員、以下同じ)は六三七名、職員は一八六名であるから、これをもつて、一日約六七〇トンの出炭をはかると共に鉱山保安の任に当る。

(ロ) 三川鉱関係

同鉱関係在籍の新組合員は一、六四二名職員二四二名であるからこれをもつて一日約一、六五〇トンの出炭をはかると共に鉱山保安の任に当る。

(ハ) 四山鉱関係

同鉱関係在籍の新組合員は一、〇四四名職員一六四名であるから、これをもつて一日約一、二〇〇トンの出炭をはかると共に鉱山保安の任に当る。

一月二十五日ロツクアウトを実施して後二ケ月余を経過して兎にも角にも一日三、五二〇トンの石炭を出炭し得るとは会社は夢想だにしなかつたのであるが、今茲に新組合と職員との協力を得て生産を再開し得る段階に到達したのであるから会社としては国家資源開発のために万難を排してこの計画を達成しなければならない。そしてこの生産再開を契機として総力をあげて会社を再建し、三井鉱山二十万の従業者並にその家族の生活を護り、企業によせられた社会の信頼にこたえなければならない(疏甲第九号証)。

三月二十七日生産再開にあたり新組合所属の従業員四、七九五名に対して就業命令書を発し愈々二十八日から生産を再開することとなつたのである(疏甲第一〇号証)。

三、業務妨害の具体的事実

(一) 三鉱労組の生産再開阻止態勢

三月十七日新組合が結成大会を開催したときこれを知つた三鉱労組の宮川組合長は直ちに「新組合の強行就労は必至だろうがわれわれはあくまで阻止する」旨の談話を発表したが(疏甲第二号証の二)、同日午後の戦術会議で三鉱労組は「会社が生産を再開し、新組合員が就労するときは大衆行動でこれを阻止する」ことを決定し(疏甲第六号証)、また総評及び炭労は三鉱労組を支援するための大量のオルグを派遣することをきめ十七日から十八日にかけて千名を超すオルグが続々と大牟田につめかけて新、旧労組の対立は極度の緊張をみせはじめて社宅街における摩擦は日を追つてはげしくなつてきた(疏甲第一一号証の一、二)。その後三鉱労組の実力による生産再開阻止の態勢は十八日には本部役員会で対策が検討せられたが役員会後ある幹部は報道員に対して「ほんとうに会社が新組合員で生産を再開するならロツクアウトだろうがなんだろうが構内に入つて阻止する。もちろん血で血を洗うようなことも起るだろう」と述べている程であつて、会社の生産再開に当つては、嘗ての王子製紙争議に於けるが如く流血の惨事が発生する危険は極めて大きいといわなければならない(疏甲第一一号証の二)。

更に三鉱労組の前述のような阻止態勢は中央斗争委員会に於ても、また中央委員会に於ても承認せられ、大衆行動による就労阻止は避けられない状態となつた。

現に三月二十三日からは各鉱正門前には多数の三鉱労組組合員やオルグがピケを張り、何時でも新組合の就労を阻止できる態勢を整えて待機しており、新聞に報道せられたところによると、三鉱労組の計画している入門阻止の方法は先づ門前に組合員が坐り込みその前にオルグ団その前には社会党の議員団がそして最前列には総評の顧問団が位置して就労しようとする新組合員を阻止するということである(疏甲第一二号証)。

三月二十五日に至ると、三鉱労組の生産再開阻止の態勢は益々強化せられ同日午前十一時頃には四山鉱正門前に高さ約二米幅約四米の杉の角材で頑丈なバリケードを作つた。また同日午後二時半頃四山社宅では五寸釘を打ち抜いた長さ二米の角材―ハリのヤマと呼んでいる―を道路上にならべて車の通行を阻止するという事件も発生しておりこの角材には縄がつけてあつて運搬自由とのことであるから(疏甲第一三号証)、これが生産再阻止に使用されないとは断言できない。

三月二十六日午前十時半頃三鉱労組は三池鉱業所の本所事務所に約千五百名の組合員やオルグを動員してデモをかけ構内への侵入を制止せんとした会社の職員に対して洗濯デモによつて全治七日間の負傷をさせその洋服をズタズタに切るという暴行傷害事件を惹起しているがその他にも六名の職員も負傷した。被害者の供述によるとデモの先頭に立つて暴行を加えた大衆のなかにオルグの数が多かつたといわれ、これらオルグがその不法行為につき会社から責任追及をうけない点を悪用して生産再開阻止に於て前面に乗り出し積極的な違法行動をとることが十分に予想せられるのである。

このデモ隊は午後〇時三十分頃今度は会社の山の上クラブに押しかけクラブの正門扉を破壊するという暴挙を敢てした。デモ隊は午後一時十五分頃クラブ前を引き揚げたがその足で新組合の事務所前に螺集し気勢をあげて一瞬緊張をみせたが新組合が組合事務所の門扉をとざして相手にならなかつたため不祥事件は起らずに終つた(疏甲第一四号証の一乃至二二)。

この日のデモ及び暴行事件は生産再開近しとみた三鉱労組がその前哨戦を展開したとも解せられ再開当日の物凄さを思うと膚に粟を生ぜさせるものがある。

(二) 三月二十七日一番方における阻止態勢

会社と新労組との交渉は三月二十六日に妥結し愈々二十八日から生産を再開することに決定したがこの空気を察知した三鉱労組は各所のピケを大幅に増加して新組合員の就労を実力で阻止する態勢をかためた。即ち三川鉱にあつては二十六日夜以来正門附近はすでに五、六百名のピケ隊(オルグを含む以下同じ)によつて厳重な監視がなされており新港社宅の周辺は数十名のピケ隊が焚火をしながら監視をし裏門及びボタ捨線の門附近にも数十名のピケ隊が監視の目を光らせている。中でも正門附近のピケ隊は極度の興奮状態にあり午前六時三十分頃従来通りの保安要員が出勤してきてそれが新労組合であると知つてその者に鉢巻をしめろと野次を飛ばし人垣によつてその通行を困難にし新組合所属の保安要員がこのピケの中を抜けて入門しようとすると旧労組のピケ隊は野次を飛ばしながら頭髪をつかむ撲る蹴る等の暴行を加えて数分間にわたつて揉みくしやにして漸く通すという状態であつた。この暴行は何者かが「ピツ」と笛を吹くと突き飛ばす様にして入門させるということであつて明らかに三鉱労組の指揮によつてなされているものである。この暴行のため、新組合員の中には負傷して附近の警察に被害届と保護の願出をした者もあつた(疏甲第一五号証の一)

同日四山鉱に於ても全く同様のピケ隊七、八十名がすでに入門の阻止態勢をかためており午前五時頃入門しようとした職員一名がピケ隊の暴行によつて負傷しており、又、新組合所属の保安要員に対しては「帰れ」とわめきこれを取巻いて暴行を加えこのため数名の新組合員が保安業務につけずに帰宅を余儀なくされた。(疏甲第五号証の二)宮浦鉱にあつても正門及び裏門附近に各百五十名位宛のピケ隊をおき、監視を続けているが保安要員の二番方の入門時新組合所属の組合員三名がピケ隊に入門を阻止されて帰宅するという事件が発生している。(疏甲第一五号証の三)

(三) かくの如く三鉱労組は新組合発足と同時にその就労を実力を以て妨害すると揚言しているばかりでなく数日前からは実力によつて新組合員の就労を阻止するため著々と態勢を整えてきたが三月二十七日に至ると従来通りの保安業務に従事せんとする新組合員に対しては新組合に所属しているという理由だけで暴行まで加えてその入門を阻止しているのであつてかかる事情を総合すれば、三月二十八日の生産再開に当つては三鉱労組はその全力を結集して新組合員が一歩たりとも会社構内へ立入れないようにあらゆる手段を弄して妨害するであろうことは火をみるより明らかである。そして三鉱労組は必ずや口実を設けてロツクアウト中で立入を禁止せられている会社構内へなだれ込み安全灯室或は坑口を占拠してこれを守ろうとする会社及び新組合員職員との間で嘗ての王子争議にみられた如くそこにおそるべき流血の惨事が惹起せられる危険は極めて大である。

新組合はすでに会社との間で一切の争議状態を解除し就労のための諸条件も妥結して、新組合所属の組合員は会社から就業命令をうけて就労せんとしているのであるから三鉱労組からその就労を阻止される理由は全くない。まして職員組合に至つては昭和三十四年十二月七日妥結調印して後は会社からロツクアウトも受けずまたストライキも実施せずに平常通りの作業を続けてきたのであるからその就労を三鉱労組から阻止される理由は全くない。

三鉱労組は三月二十七日生産再開の通告に赴いた会社幹部に対して新組合員の就労を以て三鉱労組に対する「スト破り」と規定しこれを実力で阻止する旨述べていたが前に述べた新組合発足までの事情新組合の所属人員執行機関発足後の活動状況その他の事情を総合すればそれが単なる「スト破り」の集団ではなく憲法並に労働諸法規によつて正当に保護されるべき「労働組合」であることは明白であるから、三鉱労組の右主張は単なる言い掛りにすぎない。まして三鉱労組は「スト破り」の阻止に名を藉りてすでに法の保護をうけるべき新組合の正当な就労を実力によつてそれも暴力も敢て辞さないとの強硬態度を以て阻止せんとしているのであるからそれが違法不当の争議行為として速刻差止めらるべき性質のものであることは茲に改めて述べるまでもないであろう。一方、生産が開始されれば生産をはじめた部内は必然的に保安が確保されることとなり、またその他の部内も前記就業人員のうちから配置することによつて十分保安の責任を果し得るものと、判断せられるに至つたので三月二十七日会社は三鉱労組に対して三月二十八日一番方以降は三鉱労組から保安要員差出しの必要がないことを通告した。然し後述の如く三鉱労組は新組合結成後終始新組合員の就労を実力によつて阻止すると主張し、現に厳重な阻止態勢までも整えているので就労を完全に阻止されるという非常事態の発生することも予想せられこれに対処すべく会社は三月二十七日から約五五〇名の職員及び新組合員をして保安にあたらせることとした。これらの保安要員はすでに坑内にあつて昼夜を分たず保安の維持に従事しているが、この保安業務が会社の予定する前記生産再開までの暫定的措置であることはいうまでもない。

四、仮処分の必要性

(一) 炭鉱保安上の必要性

(1) およそ石炭鉱業は地下数百米の深所において燃焼し易い石炭を掘採するという著しい悪条件下における操業であるから、常に爆発性ガスの発生、自然発火、天磐側壁の崩落、湧水或いは旧坑水の流出等の危険に晒されて居り而も一度かかる事故が発生すればよつて蒙る人命、資源、設備の損害は必ず莫大な額に達し、炭鉱全体が一瞬のうちに全滅してしまう例も決して少くない。

殊に三池炭鉱は三川鉱、宮浦鉱、四山鉱の三鉱所及び南新開竪坑、四山第二竪坑、新港竪坑等の各排気竪坑万田、宮原、横須等の各排水竪坑並に之等各鉱坑に所要大電力を供給するための変電所等が全部有機的に連関一体となつた大規模且つ複雑な構造を有する大炭鉱であつてその内の一ケ所でも事故が発生すればその影響は直ちに炭鉱全域に波及し、三池炭鉱全体が運命を左右する関係にあるから同炭鉱における保安の維持事故発生の防止ということは極めて重大且つ困難な作業である。

今、三池炭鉱における保安業務の内容、規模を略述すれば大様次の通りである。

(イ) 通気関係

炭鉱は地下における作業であるから当然常時坑内に地表の新鮮な空気を吸い入れなければならないがそれと同時に坑内の汚染した空気、有毒ガス可燃性ガスを坑外に排出すると共に、空気の流通により地熱を奪つて坑内温度の上昇を防止しなければならない。若し之を怠れば有毒ガスによる人命の損傷を来すのみならず可燃性ガスが停滞蓄積し僅かの衝撃によつても大爆発を惹起して坑内を火の海に化し人命資源に大損害を来すことは自明のところである。このため三池炭鉱では各鉱所互に坑道を以て連結する延長実に一八〇キロメートル及ぶ入排気坑道に合計五、五一三馬力、総排気量毎分二九、五〇〇立方米の主要扇風機を備付け、いわゆる連合運転状態下に入排気をはかる外、坑道端末の一本坑道には合計一五二台一、一八三馬力の局部扇風機を配して通気の維持に当つているのであつて、之等の排気設備をその時における坑内の温度湿度、ガス量等に照らして最も有効適切なる如く運転し或いは通気の経路を案配するなど常時細心の注意を払い且又その運転に支障を来さしめることのない様常に設備の保守を怠ることは出来ない。

(ロ) 排水関係

三池炭鉱は、地質の特異性よりして平常時においても湧水極めて多く、石炭一屯に対して一五屯乃至一六屯の排水を要する。従つて坑内には八ケ所の主要ポンプ座に合計三九、八七四馬力のタービンポンプを備付け渇水期においても毎分六〇乃至七〇立方米、梅雨期には毎分一〇〇乃至一二〇立方米の湧水を汲み上げ放流している(坑内全般について言えばポンプ設備約二二〇台、総馬力数約五二、〇〇〇馬力に達する。)のであつて仮にも右排水作業が停止すれば溢流水は猛烈な勢力で坑内深層部めがけて奔流し各坑道の地磐を削り支柱を倒して大規模な落磐を誘発するのみならず揚水停止十時間以上に亘れば三池炭鉱の石炭資源はすべて水没してしまつて回復不可能の事態を惹起する。従つて、ポンプ設備の監視保守ということは一瞬も懈怠を許されず常に完全な状態での運転を確保しておかねばならないのである。

(ハ) 電気系統関係

三池炭鉱は極めて近代的設備を完備した大炭鉱であつて平常時における使用電力は動力関係のみでも

主要運搬設備運搬機 約二八、五〇〇馬力

坑内排水設備    約五二、〇〇〇馬力

通気設備      約六、七〇〇馬力

合計        約八七、二〇〇馬力

の大電力を消費し、坑内における配線の延長は動力線約四〇〇キロメートル、電灯線信号線一三七キロメートルの長きに達しているのであつて、之等は坑外変電所より導入されて坑内に網の目の如く複雑多岐な電気系統をなして張りめぐらされて居り、而も坑内の特色としてすべて完全な防爆装置が施されている。

又三池炭鉱全体に工場特設電話設備として合計一、五二〇回線の電話が設置されて居り之によつて坑内外の保安上業務上の指示連絡に宛てている。

このような電気系統及びその防爆装置に故障欠陥を生ずれば忽ち前述の通気排水設備の運転は支障を来すのみならず、電話による内外の連絡も不可能となり、よつて生ずべきガス爆発、水没落磐等々の災害は真に虞るべきものがある。従つて電気系統の完全な作動を常に確保しておくための監視保守の仕事は極めて細心の注意を要するのみならずその作業量も亦尨大なものがある。

(ニ) ガス突出、出水、自然発火等突発事故の関係

以上述べたところは炭鉱において平時四六時中必要な保安設備であるが更に炭鉱においては何時なんどき突如として多量の有毒可燃性のガスや炭粉を噴出して坑内従業者を窒息死せしめたり、ガス爆発炭塵爆発を惹起し或いは多量の地下水が奔出して坑道の破損、落磐、水没を来たし、などして人命資源に甚大な損害を蒙らしめる大事が突発するかわからない。又採掘によつて破砕された石炭は酸素を吸着結合して熱を生じ次第に温度上昇して遂に発煙発火する。一度発火すれば附近の可燃性ガスに引火爆発して大災害を惹き起したり、爆発は免れても忽ちのうちに延焼進展するので広範な区域に亘つて石炭資源を放棄して密閉してしまう外なくなお最悪の場合は、全坑水没という非常手段すら余儀なくされる羽目に陥る。(近くは三菱新入坑の爆発事故が公知のところである。)この様に、ガス突出出水自然発火等の突発事故はその災害はその災害極めて甚大なものであるから平素より通気中のガス量の変化、坑内の温度、地層の状況等を絶えず監視して極力予防につとめなければならないし、万一事故突発の際は直ちに保安管理者、副保安管理者の指揮の下に迅速適切な対策を講じて被害を最少限度に喰止めなければならないのであつて、若し処置を誤まればよつて生ずべき災害は想像も出来ない恐ろしいものである。

現に三池炭鉱では三川鉱二十四昇において昨昭和三十四年三月頃より自然発火の徴候を示し種々対策を講じつつ採炭を続けたが状況ますます悪化して同年十月中頃以降遂に格本的な密閉作業をなす外はない状勢となり、遂に同部内の操業を殆ど全部停止して大規模な砂充填をなすことにより漸く事なきを得たが今日なお当該発火地点は高温を保つていて日夜警戒を怠らないようにしている状態であり又宮浦鉱三十五昇では予め地質調査、先進ボーリング等により警戒していたにも拘らず、昭和三十四年十二月九日突然落磐と共に出水し爾後次第に増量して同月十三日には毎分十九立方米の大量に達し坑道を奔流となつて流れ下り流路に当る坑道はたちまち地磐が洗い去られて枠脚が露出倒壊した結果、落磐相次いで起りために同部内での稼行中の切羽は採掘を中止せざるを得ない状態に陥つたのである。この出水事故に対しては啻に宮浦鉱のみに止らず三池炭鉱全体より十二吋径のパイプ延三千米二五〇キロワツトのポンプ二台を集めて漸く排出の処置を講じたが今日なお水勢は衰えていない有様である。

(ホ) 保安業務の統轄

三池炭鉱では、三池鉱業所本部に保安の最高責任者である保安管理者が常駐して保安業務全般を総括し、その下に三川宮浦、四山各鉱の鉱長採鉱副長鉱業所本部の技術関係各部長等が副保安管理者として保安業務を分掌し、各副保安管理者の下に各種の保安係員がそれぞれの職務の範囲内で保安業務を遂行している。

三池炭鉱は稀に見る優秀な炭層に恵まれ高度に機械化された極めてすぐれた炭鉱であるがそれだけに坑内は隅々まで有機的に整備され全体が厳格な統一の下に互に相連関して秩序正しく作動して始めて炭鉱の保安も維持されるし優秀の実もあげることができるのである。

而して坑内における保安の状況は時々刻々に変化して行くし、又いつ何時突発事故が起らないとも限らないのであるがその対策は単に局所的判断のみならず常に炭鉱全体の保安業務の観点から総合的に判断し処置して行かねばならない。従つて保安管理者、副保安管理者は常に炭鉱の保安状況を正確に把握し得て居り、随時適切な指示命令を発してそれを完全に実施せしめ得る体制が確保されていなければならない。その意味において上は保安管理者を頂点とし、下は一人一人の鉱山労働者に到るまで上下一貫した保安体制が常に完全に維持されていなければならないのであつて万一その一部にでも破綻を生ずれば三池炭鉱は忽ちにして重大な危殆に陥れられると言つても過言ではない(疏甲第一六号証一、二)。

(2) 三池炭鉱における保安業務の大要は右に述べた通りであるが前述した三鉱労組の暴力による会社業務妨害行為並に会社施設内強行侵入行為のために右保安業務は以下述べる如く殆ど遂行不可能の状態に陥入れられることは明らかであつてこのままにして拱手傍観せんか三池炭鉱は回復すべからざる壊滅的大損害を蒙る虞れがあるから直ちに緊急の裁判を以て之を差止める必要がある。すなわち

(イ) 現在三池炭鉱では保安業務に従事出来ている人員の絶対数が全然不足して居り、必要な保安業務が遂行し得ない実情にある。三池炭鉱においては、最も基礎的な保安業務を一応手落ちなく遂行して行くために、少くとも約一、二〇〇名の実員を必要とする。(出勤率を見込めば約一、五〇〇名を用意する必要がある。)而して本年一月二十五日会社が三鉱労組に対してロツクアウトを宣言し同時に三鉱労組も亦無期限全面ストライキに突入して三池炭鉱の採炭稼行が全面的に停止している間は、右保安業務は会社と三鉱労組との間の協定に基く争議行為中の保安要員によつて遂行されて来たが今日に及んで曩に述べたような経緯で新組合が結成されその就労申出に基いて相当部分につき操業を開始する以上は、最早や、全面ストライキ中の三鉱労組に対して保安要員の差出しを求め得べき限りではない。従つて会社としては職制、三鉱職組所属の職員並に新組合所属の従業員によつて一部採炭を行うと同時に当然この要員によつて三池炭鉱全体の保安も維持して行かねばならないのである。

而るに、三鉱労組の暴力による就労阻止の行為に遭遇すれば新組合員は全く会社施設構内に立入り就労することが出来ない状態であるため三池炭鉱の保安業務は専ら職員のみの手で遂行せざるを得ない有様である。而しもともと職員は比較的少数であり、而もそれぞれ自己本来の仕事を持つているのであるから直接坑内の保安業務に充用し得る人数は最大限約五五〇名程度(三川鉱関係二五〇名、宮浦鉱四山鉱関係各一五〇名宛)に過ぎず而も、職員は何と言つても平素の仕事とは異る業務に就くのであるから技術上の知識にはすぐれていても実際の作業には著しく不馴れであることは免れず、結局作業能力から言えば本来所要の労働力の三分の一以下に止ることは已むを得ない。この乏しい人数で前述した如き広大な三池炭鉱全域に亘り複雑多岐な保安状況に対決して無事坑内外の保安を維持して行くことは到底不可能と言わねばならない。

言うまでもなく保安業務は一瞬と雖も停止することは許されず又、一部分と雖も疎りにすることは厳禁であるから之等職員は既に二十七日より坑内に下り切りで昼夜を分たず超人的な重労働に堪えて保安維持に献身している。而しながらいかに超人的な努力を払つても絶対量の差は如何ともなし難く、不本意千万、且、寒心の到りながら現実の問題としては、保安業務は決して十全に遂行されつつあるとは言えないのである。

このため通気関係について言えば坑内のガス発生量温度、湿度等を十分必要なだけ測定し切れず、真実必要適切な通気が維持されているか否か安心出来ないのであつて若し坑内のいづれかに可燃性ガス或いは有毒ガスの発生又は滞溜があるのを発見出来なければ直ちに人命の危険を招来するのみならず大爆発を誘致する危険が絶えず存在し排水関係について言えば主要ポンプ座や局所ポンプの運転障害を完全に把握し得ずして溢水、水没を招来する虞れあり、電気系統の監視保守不充分のために通気排水に支障を来すが如きことが突発すれば三池炭鉱は忽ちにして壊滅的打撃を蒙ること明らかである。のみならず電気系統の防爆装置に破損を生じたのを見落すような場合には坑内ガス、炭塵等は一瞬の電気火花によつても爆発するのであるからこの爆発のため更に電気系統が切断されて通気排水が停廃するような事態に立到ればガスの滞留誘爆溢水落磐相次いで連鎖反応的に続発し、坑外への電話連絡はおろか人車や昇降機による脱出も不可能となり遂には三池炭鉱の全資源、全設備はもとより坑内残留者全員の生命まで根こそぎ奪い去られてしまうという悲惨な大事故すら十分予想されるところである。若しそれガス突出、出水自然発火等の突発事故が発生せんか、それを発見すること自体著しく遅延するであろうし仮に発見したとしてもかかる少人数では何としても対処すべき方法がなくみすみす三池炭鉱が壊滅して行くのを防止し得ないばかりか、之等坑内にある者の生命まで直接の危険に曝されるのである。

又この様な少人数で広大な坑内を奔走しなければならないために職員相互間の連絡すら思うにまかせぬ有様であつていきおい坑外の鉱長室鉱業所本部等保安業務中枢への連絡も極めて困難となり、その結果は、保安業務の中心たる保安管理者、副保安管理者等において坑内の事情を把握することが出来ないで随時適切な処置をとることが全然不可能な実情にあり現実の問題として三池炭鉱全体の保安体制は殆ど麻痺に近い状態にまで追詰められてしまうことは推測に難くない。

現在坑内に止つている職員等は必死となつて保安業務に当つているけれども残念ながら極めて不充分であることは争い難いのみならずこれすら今後なお三日四日と継続し得る訳がない。

若し早急に所要の人員を以て救援しなければ坑内は日ならずして保安零の状態になつてしまう外はないのである。

(ロ) 右に述べたように現在坑内には約五五〇名の職員が立てこもつて保安業務に挺身しているけれども同人等は不眠不休の重労働のため既に甚しく疲労困憊して居りこのまま引きつづき保安業務を遂行して行けば発病、負傷等の身体障害が続発するであろうことは明らかである。会社としては人の生命身体には替え難いから同人等の昇坑休養を促がさざるを得ずさりとて、ここで保安を放棄することは直ちに会社の滅亡を意味することであつて絶対に回避しなければならないことであるから至急にその代替要員を坑内に送り込まなければならないのであつてそのためには現実の虞れとして存在する三鉱労組の妨害行為を予め緊急の裁判を以て差止めておく外はないのである。

(二) 石炭採掘上の必要性

大牟田市には専ら三池炭鉱より採掘する石炭を利用する目的で建設された左の各事業場があり

事業場名称

従業者数

主要製品及び生産高(月額)

三池合成工業(株)三池工場

約一、〇〇〇名

コークス一七、〇〇〇トン、化学薬品二、三四〇トン

分解ガス一〇、〇〇〇トン

東洋高圧工業(株)大牟田工業所

約三、一〇〇名

硫安一九、二〇〇トン

尿素六、六〇〇トン

三井化学工業(株)三池染料工業所

約四、三〇〇名

炭製品一〇、五〇〇トン、工業薬品一、一三〇トン

染料四八五トン、中間物三、一一九トン

三井金属鉱業(株)三池製煉所

約二、五〇〇名

蒸留亜鉛二、七〇〇トン

電気亜鉛七五〇トン

電気化学工業(株)大牟田工場

約一、七〇〇名

カーバイト九、〇〇〇トン

硅素鉄三〇〇トン硅化石灰一五〇トン

三井塩業(株)大牟田工業所

約一二〇名

食用塩(上質塩)二、五〇〇トン

九州電力(株)港発電所

之等各事業所の一日消費量は原料炭燃料炭、無煙炭等全部合計して約四、五〇〇トンを要する。(疏甲第一一号証の一)会社はロツクアウト開始後におけるこれ等関連事業所の所要石炭につき北海道、北九州等に手配して用意し、各事業所自身としても極力手配して自らの手で搬入して賄つて来た。而るところ炭労はこの救援炭を産地運送経路において阻止せんとし、先づ本年三月十八日附炭労中斗指令第二〇三号(疏甲第一一号証の一)によつて炭労傘下全支部の一齊ストライキにより日本中の石炭の産出を止め、更に運搬経路を担当する各労組と連繋して輸送をも停止させるとの方針を打ち出し次いで三月二十四日には大牟田市において炭労国鉄動力車、全日通、全港湾、私鉄、合化労連の「七単産共斗会議」を設置して右救援炭ストツプ戦術を実際に敢行する体制を固めている(疏甲第一七号証)。

従つて今後大牟田地区へは救援炭の導入は断絶されることを覚悟しなければならない状態にあるのである。

而るところ前記一覧表の表示から見ても明白なように之等関連事業場は石炭なくしては一日も操業出来ないものばかりであるのみならず中でも三池合成三井化学等のごとく石炭を使用してコークスを製造している工場は石炭を継続装入出来なければ骸炭炉そのものが破壊されてしまうのであつてその損害は三池合成の場合同工場設置の骸炭炉五十五基につき復旧に要する年月は三ケ年経費は七億円の巨額を要するばかりでなくその間三池合成は完全に操業を停止しなければならないので企業の存立自体が保てなくなつてしまうのであろうし、又三井化学の場合は二十六基の骸炭炉につき四億円の巨費と一ケ年半の長年月を要するのである。又三井金属の場合も水平蒸溜炉十六基竪型蒸溜炉八基その他精製炉揮発炉、熔鉱炉等にいづれも石炭不足のために炉体が崩落し全部の復旧には最短六ケ月の時日と約三億円の費用を要するのである。九州電力の場合は公益事業であるにも拘らず昨今の異常渇水に臨んで大量の電力を発生し得ずその影響は北九州一円の産業に及ぶこと明白である。(疏甲第一八号証の一乃至六)。

かりそめにもかかる非常事態に立到らんか之等関連事業所はすべて致命的な打撃を免れないのであつてその場合三池炭鉱としても取敢ず相当の補償を課せられるであろうことは寧ろ当然ながら、更に進んで大口消費の顧客を喪い業界内の信用を完全に喪失して将来の会社経営に回復し難い大損害を蒙るのである。従つて会社としてはかかる損害を回避するため職制、職員、新組合員の手によつて極力出炭につとめんとするものであるが三鉱労組の妨害行為のため出炭不可能となれば日ならずしてかかる非常事態に陥入らしめられることは明らかであるからあらかじめ緊急の差止めを得なければならぬ必要性があるのである。

(三) 会社経理上の必要性

言うまでもなく会社は倒産の危機に直面したからこそ本件の会社再建案を実施したのであつてその後半年間以上の長期に亘る労働争議の結果現在では一層窮迫の度を加えていることは当然である。この際前述の様な経緯で自覚ある従業員が新組合を結成し就労を申入れて来たのであるから会社として之を受け入れ一日も早く本来の石炭採掘業務を再開し、会社再建の端緒を掴むべきことはまさに焦眉の急と言うべきである。

而るにも拘らず三鉱労組を新組合の組合員による操業再開を実力を以て完全に阻止すべき体制を整えているのであつて新聞報道等によつて伝えられるところを総合すれば到底平穏な就業が期待出来ないどころか却つて会社側職制職員新組合員等は各鉱柵内に立入ることすら不可能と判断せざるを得ない。

而るところ新組合員等は三鉱労組より脱出して会社に対し労務を提供して居るのであつて会社も亦之を拒む何等の理由がないどころかむしろ積極的に就労操業を希望している以上、新組合員が三鉱労組の妨害によつて現実に労働出来なかつたとしても会社は新組合員等に対して賃金全額の支払を免れず他面石炭採掘は全く不可能なのであるから会社としては右支払義務ある賃金の額だけが完全な損失となる訳である。仮に右事態において会社が新組合員等に対して休業を命じ同人等が之に服したとしても、会社が三月二十四日新組合との間に締結した協定書第三項は労働協約が締結されるまでは労働条件等は会社三鉱労組間の協約を準用するものとされており、その準用される協約第四十五条によれば休業補償は健康保険標準報酬日額全額となつているから会社の負担しなければならぬ出捐は実質的に治ど変りがない。(疏甲第一九号証、第五号証)

斯ういう次第で会社としては経理上窮迫を極めている最中において三鉱労組の妨害行為のため折角採掘し得べかりし三五二〇トン概算合計一七六〇万円の石炭を喪うのみならず之に加うるに全く何等得るところなくして新組合員全員に対する賃金を毎日概算合計約四五〇万円の支払を余儀なくされるのであつて右の消極積極両様の損害額は連日実に二二一〇万円の巨額に達するのである。斯くては折角会社が企業再建の端緒として期待した生産再開のため却つて会社経理に決定的打撃を蒙るのみとなり畢竟するところは単に右損害を蒙るというだけでなくて企業そのものが崩壊してしまう羽目に陥ることとなるのである。

五、結語

もとより会社は三鉱労組がストライキ実施中であつてもこれと関係のない会社職制、職員並に三鉱労組から脱退した新組合所属の従業員を以て会社本来の業務を遂行することについては法律上何等の制約もないのであつてこれに対する違法な妨害行為に対しては、その排除を求める権利を有すること明らかであるが叙上縷述して来たように三鉱労組がその組合員又はオルグその他第三者の実力を以て強烈な妨害行為をなし、会社業務の遂行が阻止されるにおいては、会社は直ちに倒産を意味するに等しい回復すべからざる大損害を蒙る危険があり事態の急迫は本案判決確定を待つ暇はないから直ちに仮処分を以て緊急の差止めを得たく本申請に及ぶ次第である。

(別紙省略)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例