福岡地方裁判所 昭和35年(ヨ)177号 決定 1960年5月04日
申請人 三井鉱山株式会社
被申請人 三池炭鉱労働組合
主文
一、被申請人組合は、別紙目録記載の物件内に立入り、又はその所属組合員もしくはその他の第三者をして、右物件内に立入らせてはならない。
二、被申請人組合は、別紙目録記載の物件外において、左記行為を実力をもつて妨害し、又はその所属組合員もしくはその他の第三者をして実力をもって妨害させてはならない。
(1) 申請人会社の指定する従業員(職員、職制並びに三池炭鉱新労働組合員)が右物件内に立入ること。
(2) 右従業員が右物件内において申請人会社の業務を行うこと。
三、被申請人組合は、宮浦鉱選炭場下において、申請人会社の指定する前項記載の従業員が、三池炭鉱専用鉄道(その運行に要する一切の設備を含む)により、石炭、又は悪石の積込、搬出をなす業務を妨害し、又はその所属組合員もしくはその他の第三者をしてこれを妨害させてはならない。
四、申請人会社の委任する執行吏は、第一項の命令の趣旨を公示するため公示札をたてることができる。
五、申請人会社のその余の申請は、これを却下する。
六、訴訟費用は、被申請人組合の負担とする。
理由
第一、申請の趣旨
一、別紙目録記載の物件に対する被申請人組合の占有を解き、これを申請人会社の委任する福岡地方裁判所所属の執行吏の保管に移す。執行吏は、右物件を申請人会社に使用させなければならない。
二、被申請人組合は、前項記載の物件内に立ち入り、もしくは、申請人会社が、これを使用するのを妨害してはならず、又は、その組合員もしくはその他の第三者をして立入らせたり、もしくは妨害させたりしてはならない。
三、被申請人組合は、申請人会社の許可もしくは指示にもとづかないで第一項記載の物件内に立入つているその組合員もしくはその他の第三者を退去させなければならない。
四、被申請人組合は、申請人会社の許可もしくは指示にもとづかないで、被申請人組合又はその組合員もしくはその他の第三者が第一項記載の物件に搬入し又は設置した一切の物件を撤去し、又は撤去させなければならない。
五、被申請人組合は、申請人会社がその指定する職員又は従業員をもつて三川鉱貯炭槽に連続するベルトコンベアー、中央制禦装置、三池港務所貯炭槽、スタツカー、ジブローグー、スクリーン室、船積機並にこれ等の附帯設備(但し第一項記載の物件に属する部分を除く)、又は、三池炭鉱専用鉄道(その運行に要する一切の設備を含む)により、石炭又は悪石を運搬、搬出、貯炭もしくは積込をなす業務を妨害し、又はその組合員もしくはその他の第三者をして、妨害させてはならない。
六、執行吏は、前各項の命令の趣旨を公示するため、および前四項の命令に違反する行為を予防又は排除するため、立札掲示板等を設置し、もしくは、柵、塀等を施す等適当な措置を講じなければならない。
第二、被保全権利
当事者間に争いのない事実および当事者双方の提出した疎明資料により当裁判所の認めた事実関係ならびにこれにもとづく判断は、次のとおりである。
一、当事者間の紛争
(一) 申請人会社は、石炭の採掘、販売ならびにその附帯事業を目的として、東京都中央区に本店、大牟田および荒尾の両市にまたがり三池鉱業所、三池港務所の二事業所を設け、その業務を営む株式会社である。
被申請人組合は、前記二事業所の従業員(職員を除く)をもつて組織する単位労働組合であつて、その組合員数は本件争議突入当時約一四、五〇〇人であつたが、そのご脱退者があり、右脱退者が、昭和三五年三月一七日三池炭鉱新労働組合(現在員五、二二七人)を結成したため現在は約九、三〇〇人である。
(二) ところで、昭和三四年八月以降申請人会社の第二次企業再建案実施をめぐつて申請人会社と被申請人組合との間に激しい紛争が生じ、昭和三五年一月二五日労使互いに工場閉鎖(三池港務所を除く)と全面的無期限一斉ストライキとを敢行し相対峠して現在に至つている。
(三) しかして、三池炭鉱新労働組合(以下新組合という)結成後まもなく、新組合と申請人会社との間に争議を終結して生産を再開する旨の協定が成立したため、申請人会社は、同年三月二八日より申請人会社の職制、職員(以下職員という。三池炭鉱職員労働組合に属しストライキはなされていない。)および新組合所属の従業員(以下新組合員という)により操業を開始することとし新組合員も就労することとなつた。
二、申請の趣旨第一項ないし第四項について(これに附ずいする第六項を含む)
(一) 判断の基礎となる事実
(一) 別紙目録記載の物件(以下三川鉱ホツパーという)は、申請人会社の所有であり、申請人会社は、平常時においては階下に二名、階上に数名の従業員を使用して三川鉱ホツパー(別紙写真のとおり)において、三川鉱選炭場において選炭された三川鉱、四山鉱より採掘された石炭を悪石と精炭とに分類蓄積したうえ、ここより悪石精炭別にそれぞれ三池炭鉱専用鉄道もしくはベルトコンベアーによつて搬出貯炭等の業務を行つている。
ところが、前記のとおり被申請人組合がストライキ状態にあるため、三川鉱ホツパーにおける右業務は職制、職員もしくは新組合員によつて行われることになつている。
(二) しかるに、申請人会社より立入禁止ならびに退去要求がなされているにもかかわらず、被申請人組合は、組合員および他団体オルグ約一〇〇人を昭和三五年三月二七日三川鉱ホツパー周辺の要所に配置したのをはじめとして、四月二一日までは、同所南側及び北西隅に、角材を組合わせこれに有刺鉄線をはつて作つた移動用バリケードを設置し、西側線路上に停車中の人車三輛の連結部分や車体下の空間に有刺鉄線をはつてこれをバリケードに利用し、三川鉱ホツパー一、二号原動機室(別紙目録第二項記載の(1)の建物)東側および南側に建物に接してテントでもつて下屋をおろして小屋を作り、更に三川鉱ホツパー北側にビニールテント小屋をはり、東側三川鉱外柵添に下屋をおろして小屋を作り、右小屋の中およびその周辺に交替制で常時一五〇人位の組合員を常駐させ、二二日以降は前記移動用バリケード並びに有刺鉄線を収去し、三川鉱ホツパーに接着して設置していた前記テント小屋、ビニールテント小屋を収去したうえ、三川鉱ホツパーの南および北側に同ホツパー建物から約三〇乃至五〇米離れて申請人会社主張の別紙目録記載の物件外に小屋を作り、その小屋を中心にしてその周辺に約二〇〇人の組合員を配置し、更に同ホツパー周辺に数名の組合員を監視のため巡回されて、新組合員および職員の同ホツパーへの出入を阻止するために厳重なピケツテイングを張るとともに、必要に応じて随時爆竹を合図にたちまち千人以上の組合員その他の第三者を動員できる態勢を整え且つ操業開始のあかつきはこれを妨害して阻止する意図を有しているほかは次のとおりの状況であつた。
(1) 三月二九日三川鉱ホツパー建物内にある粉炭ベルト、三池中塊ベルト、大中塊ベルトおよび特小塊一号スクリーンの非常スイツチが、組合員の手によつて「オン」の状態より「オフ」の状態に切りかえられ運転できなくなつた。もつとも右スイツチは、四月一三日会社側によつてオンの状態に切りかえられ、一五日に試運転がなされた。
(2) 数名の組合員が、三川鉱ホツパー建物内に見張りのためにしばしば立入つていた。
(3) 四月八日申請人会社は被申請人組合に対し、三川鉱ホツパー周辺のピケツテイングを解きピケ隊員を会社敷地より退去せしめるよう要求したが、同組合は同月九日これを拒否した。
(4) 四月九日職制、職員一一名が、三川鉱ホツパー建物内のベルトコンベアー、スイツチ等の修理、点検ならびに運転をするために同ホツパー建物下の棹取小屋附近まで赴いたところ、同ホツパー附近のピケ隊員は爆竹を鳴らして動員の合図をなし、約五〇〇乃至六〇〇人の組合員が同ホツパーを西、南、北の三方から取りかこむ形で三列位の厳重なスクラムを組んで重厚なピケラインを張り、その最前列の者は旗竿を横にして完全に同ホツパーへの通路をふさぎ、職員等が修理、点検のため同ホツパーへ入ることを阻止した。
もつとも、同月一〇日申請人会社が被申請人組合に対し同ホツパーへ修理、点検等のため立入らせてもらいたい旨要求したところ、被申請人組合はこれを了承していた。
(5) 同月一一日職制、職員一八名が、三川鉱ホツパー前人車線路西側まで赴き同ホツパー内のベルトコンベアー等の修理、点検、試運転を行いたいからピケツテイングを解放してもらいたい旨被申請人組合に申込んだところ、約九〇〇人の組合員が同ホツパーを九日の場合と同様な形で取りかこみ、前面三列は坐りこみ後三列位は厳重なスクラムを組んで重厚なピケラインを張り、同ホツパーへの通路を全く閉そくした。このとき、被申請人組合は、経営者が修理、点検等をするのであればピケツテイングは解かないが同ホツパーへ出入することに対しては妨害する意思はないし、又出入する経営者の安全を保障するが、職員と新組合員が同ホツパーへ出入することはピケ破りであるからピケツテイングでもつてこれを阻止する旨言明し、経営者の同ホツパーへの出入を認めたが、前記職制等は、組合員全部の退去がなければ同ホツパーへはいることができないと回答し、結局修理、点検することなく引きあげていつた。
(6) 四月二四日午後二時二〇分頃職制一九名と職員一名が、三川鉱ホツパーの点検、修理ならびに送炭作業につくため同ホツパー西側広場まで赴き、同所附近でピケツテイングを行つていた組合員、他団体オルグ、炭婦協婦人等約六〇〇乃至七〇〇名に対し、スピーカーで「経営者の手でホツパー作業をはじめるから、事業場外に出て欲しい」旨申入れ、更にピケ隊代表者に対し「ホツパーの点検修理ならびに石炭の搬出をするため今日来ている職制全員と職員一名が作業につくからのいてくれ」と要請したところ、右代表者は「ホツパーの点検、修理については妨害しないが、送炭は経営者がやるのであつてもこれを認めるわけにはいかない」旨回答したため両者間で押問答となり、結局四時一五分頃右話し合いは決裂し、職制等が「それでは作業をはじめるからのいてくれないか」と言つてホツパーの方へ進もうとしたところ、その頃までに一二〇〇人位の数となつていた組合員等は、まず右職制等の直前に約五〇人が二列横隊に、その後方には約二〇〇人が四列横隊に、更にその後方には約二〇〇人が六列横隊に、その列より少し離れた右手には約五〇人が五列横隊になつてそれぞれスクラムを組んで立ちならび、右ホツパー周辺については約六〇〇人が、同ホツパーの西側近くは三列横隊に、北、南側近くは四列横隊となつて、同ホツパーの三方を取りかこむ形でスクラムを組んで立ちならび、同ホツパーの右翼にも約五〇人が、六列横隊でスクラムを組み、この列の前方には炭婦協婦人五〇人が一かたまりとなつて並ぶといつた形の重厚なピケラインを張つて職制等の進路をふさいだため、職制等は、同ホツパーへはいることができないままに引き上げた。
(二) 当裁判所の判断
(一) 前示のような三川鉱ホツパーの位置構造ならびに同ホツパーでの作業状況よりみれば、他団体オルグ其の他の第三者はもとより組合員が、申請人会社の所有する別紙目録記載の物件に立入ることは、たとえピケツテイングを張る目的であつても、申請人会社が右立入を禁じている以上許されないことは多言を要しない。
そこでまず、執行吏保管の申立の当否について判断する。
右認定の事実によれば、組合員及び他団体オルグは三月二七日より四月二一日頃までは三川鉱ホツパー周辺に前記のようなテント小屋を作つて常駐しピケツテイングを張り、同月二二日以降は前示の如く後退したとは云え依然右ホツパーを包囲する隊形で約二〇〇人の組合員が常駐してピケツテイングを張り、数人の組合員が同ホツパー周辺を巡回して監視し、職員及び新組合員の出入を阻止し得る態勢にあり、また経営者が同ホツパー内の諸施設の点検、修理、試運転のため出入することを被申請人組合は認めてはいるが、右出入に際してはピケ隊の許諾を得なければならない現情並びにホツパー建物の構造及び地形をあわせ考えれば、被申請人組合が別紙目録記載物件の占有を取得しているものと認められる。しかし、争議の現情その他諸般の事情を考慮し右物件の占有を執行吏保管に委ねることは必要でないと考える。
次に立入禁止の申立の当否につき考える。
前記認定した事実によれば、組合員並びに他団体オルグは、申請人会社の許諾なくして、三川鉱ホツパー建物内に立入つており、更に被申請人組合が新組合員もしくは職員の同ホツパー内での操業を阻止する旨主張しているところよりみれば、将来においても同ホツパー内に立入り、申請人会社の業務を妨害し、諸施設、機械類もしくは身体に対し侵害を加える危険性が現存するものと解すべきである。
よつて、申請人会社は、別紙目録記載物件の所有権にもとづいて、被申請人組合の右物件への立入禁止を求めることができるものというべきである。
更に、申請人会社は、別紙目録記載の物件内に立入つている組合員の退去および右物件内に持込まれている被申請人組合所有物件の収去を求めているが、前示のごとく被申請人組合は、右物件附近を数名の組合員をして監視のため巡回させているに過ぎず、右物件内に組合員もしくはその他の第三者が立入つて常駐しているとまで認めるに由なく、また四月二二日以降は、右物件内に被申請人組合所有の物件が、設置もしくは放置されているとの点については、これを認めるに足る証拠がない。従つて組合員もしくはその他の第三者の右物件内よりの退去および物件の収去を求める申立は、理由なきものというべきである。
(二) 申請人会社は、争議による業務の正常な運営の阻害は受忍しなければならないが、自己の業務を停止しなければならない義務を有するものではないから、被申請人組合のストライキ中といえども、ストライキによる損害から企業を守るために職制、職員並びに新組合員を以て業務を継続することは自由であると解する。
これに対して、被申請人組合においてもストライキを効果あらしめるために、三川鉱ホツパーでの労務につこうとする新組合員もしくは職員に対し、平和的な説得あるいは団結による示威の方法によつて、相手方に心理的な影響を与えながら、しかも相手方の自由意思によつて出入を決しうる余地を残す程度に働きかけて、就労を自由意思によつて思いとどまらせる程度にピケツテイングを行い、そして就労を中止せしめ、申請人会社の操業に対し打撃を与えることは、正当な争議行為として許されるものというべきである。
しかるに前記認定の事実によれば、被申請人組合は、多人数でもつて厳重にスクラムを組んで人垣を作り、旗竿等をも使用して極めて重厚なピケツテイングを張つて、物理的に三川鉱ホツパーへの通路を閉そくし、職制、職員もしくは新組合員が説得に応じない場合には、右態様のピケツテイングでもつてこれらの者が同ホツパーに立入り就労することを終局的に阻止せんとする態勢で、もしかかるピケツテイングの中を強いて入構しようとすれば暴力行為を招く危険性すら認められ、このように、これらの人々の入構を実力をもつて阻止せんとするピケツテイングは、もはや前示正当なピケツテイングの限界を逸脱したものであつて、右の程度を超える行為は許されないものというべく、従つて、かかるピケツテイングでもつて職制、職員もしくは新組合員の三川鉱ホツパーへの就労を阻止することは、申請人会社が、別紙目録記載の物件を使用して行う業務に対する不法な妨害行為であると共に前示の如く操業開始のあかつきには実力を以てこれを阻止する意図を有していることは、申請人会社の右業務に対する不法な妨害行為のおそれがあるものといわなければならない。してみれば、申請人会社は、右物件の所有権にもとづいて、右妨害行為の排除を求めうるものというべきである。
(三) 被申請人組合は、右に関し、
(1) 申請人会社は、不当に被申請人組合に介入し、被申請人組合の組合員を切崩して新組合を結成させたうえ新組合員を就労させて操業をなしているものであるから、かかる操業は操業権の濫用であつて許さるべきではない、と主張し、乙第九号証には右主張に照応する記載がなされているけれども、右記載は、一つの見解を述べているにすぎないのであるからこれを以て直ちに右事実を認めるわけにはいかず、その他本件に顕われた全疎明資料をもつてしても右主張事実を認めるに足りないので、この点を前提とする法律上の判断を加える必要がない。
(2) 次に、申請人会社の操業は、その大部分は三月二八日三川鉱柵にそつて平穏にピケツテイングを行つていた被申請人組合員に対し暴力をふるい違法にピケツテイングを突破して三川鉱内に入構した新組合員を使用してなされているものであるから、かかる違法な操業は、保護さるべきではない、と主張する。申請人会社の操業が、その大部分において三月二八日三川鉱入構による新組合員によつている場合には、所論のとおり違法にピケツテイング突破が為されたものであるとすれば、申請人会社の操業は保護されないものと考えるべき余地も充分にあるが、申請人会社の現在までの操業が、大部分三月二八日三川鉱入構による新組合員によつているとの事実についてはこれを認めるに足る疎明がないから、右主張もまた採用しえない。
(3) 更に、新組合員は、ストライキ中に被申請人組合の団結を裏切つて、脱退し、被申請人組合の争議権を侵害する目的で就労をなしているいわゆる「スト破り」であるから、これらの者の就労を阻止することは、正当な争議権の行使である、と主張するが、新組合員が、右のような目的で就労を図つているとの点については、これを認めるに足る疎明がないから右主張もまた採用しえない。
三、申請の趣旨第五項について(これに附ずいする第六項を含む)
(一) 判断の基礎となる事実
(一) 申請の趣旨第五項前段の物件(以下送炭ベルト等およびその附帯設備という)は、いずれも申請人会社の所有であつて、申請人会社は、平常時においては従業員を使用して右送炭ベルト等およびその附帯設備を用いて三川鉱ホツパーから精炭を搬出、運搬、貯炭あるいは船積みする等の業務を行つているものであるが、
四月一三日午前二時四五分頃約二〇余名の組合員が、申請人会社において立入禁止の要求がなされているにもかかわらず、前記物件中港駅新ホツパー(港務所貯炭槽)に侵入し、同ホツパー内の電話ターミナルナツト、ヒーターコードを取りはずしし、三号ベルト補助シユート(予備品)の位置を中段から下段へ変え、三号ベルトと六号ベルトの接点のシユートの上にモーターの鉄製カバーを投げ込み、更にホツパー内に箒、スコツプ、スクレパーを投入する等の妨害行為をなして、同日午前六時半頃右新ホツパーより退去した。
(二) 同項後段の三池炭鉱専用鉄道は、申請人会社の所有であつて、申請人会社は、右専用鉄道によつて悪石、精炭等の搬出、運搬、積込、貯炭等の業務を行つているところ、
(1) 申請人会社は、宮浦鉱選炭場下においては、同鉱選炭場より悪石、精炭を直ちにシユートで炭車に積込み搬出する業務を行つているが、申請人会社において立入禁止ならびに退去要求がなされているにもかかわらず、三月二八日より被申請人組合は、宮浦鉱選炭場下の右専用鉄道の粉炭、中塊線路上にむしろ囲い二ケ所を設けて約一五人の組合員を交替制で常時配置し、同所での新組合員もしくは職員、職制の就労を阻止するためにピケツテイングを張つて同所を占拠し、必要に応じて随時組合員その他の第三者を動員できる態勢を整え、同所での業務を妨害している。
(2) 三月三一日右専用鉄道三川信号所において申請人会社従業員三名が、タンク車入替のためのポイント操作に従事しようとしたところ、組合員五名が、これを妨害した。
(3) 四月一一日頃三川鉱汽罐場線第八〇五ポイントの先端に石が挾まれてあつた。
(4) 四月一三日頃港駅第三信号所構内三〇三ポイントの線路間に石が置かれ、同所三四三(イ)のポイントの現地リバーのラツチが外されていた。
(二) 当裁判所の判断
(一) 組合員が、送炭ベルト等およびその附帯設備の一つである港駅新ホツパー内に立入り、妨害行為をなしていたことは、前示のとおりであるが、疎明によれば、組合員が右ホツパーより退去した後に、申請人会社は右ホツパー内に新組合員、職員数名を常駐させて組合員の侵入を監視しており、右侵入後においては組合員の立入はなく立入りの気配も認められないので、右侵入をもつて直ちに将来侵入のおそれありと云うことは出来ない、と共にその外に被申請人組合が、前記送炭ベルト等およびその附帯設備を申請人会社が使用して業務を行うことを妨害するか或いは妨害するおそれがある事実を認めるに足る疎明がないので、申請人会社の送炭ベルト等およびその附帯設備による業務の妨害禁止を求める本件仮処分は失当である。
(二) 宮浦鉱選炭場下の前記専用鉄道路線路上に被申請人組合が、三月二八日以降組合員を常駐せしめ同所で、申請人会社が右専用鉄道を使用して行う業務を阻止するためにピケツテイングを張つていることは前示のとおりであり、組合員もしくはその他の第三者が、申請人会社の所有する専用鉄道敷地内に、申請人会社の許諾なくして立入つて占拠することは、その目的がピケツテイングを行うためのものであつても、同所における申請人会社の専用鉄道による石炭悪石の運搬、搬出、積込等の業務を妨害するものであつて許されないものというべきである。
申請人会社は、被申請人組合は、右宮浦鉱選炭場下ばかりではなく、他の場所においても申請人会社の専用鉄道による業務の妨害をなしている、と主張するが、前記(3)(4)の事実は、被申請人組合によつてなされたものであると認むべき疎明なく、(2)の事実は、疎明によれば、三川鉱ホツパーでピケツテイングを張つていた組合員がたまたま行つたものであり、その後においてもこのような妨害行為がなされているとは認められず、他に申請人会社の右主張事実を認めるに足る疎明はない。
したがつて、被申請人組合は、申請人会社が専用鉄道を使用して行う業務を宮浦鉱選炭場下において、妨害しているにすぎないから、申請人会社は、右限度において専用鉄道の所有権にもとづき、その妨害行為の排除を求めうるものというべきである。
第三、保全の必要性
申請人会社は、右のとおり被申請人組合の立入禁止並びに妨害行為の排除を求める権利を有しているところ、
一、一般に堆積された石炭は、酸化により自然発火を生来するものであるが、後記のとおり搬出不能のため各鉱坑内貯炭ポケツトに集積されている石炭については、現に温度が上昇し、このまま放置すれば、自然発火を惹起し、坑内爆発を引き起す危険性が認められ、
二、次に申請人会社の採掘石炭の各鉱坑内からの搬出運搬貯炭等の業務は、前示のとおり三川鉱ホツパー、送炭ベルト等およびその附帯設備専用鉄道等を使用して行われていたが、前述のように被申請人組合によつて、三川鉱ホツパーならびに宮浦鉱選炭場下における専用鉄道の使用が、妨害されているため、各鉱坑内より採掘される石炭の搬出運搬、貯炭等が、殆んどできなくなり、各鉱採炭現場においては四月一四日までにすでに新組合員および職員合計二〇五六人(職員四四八人、新組合員一六〇八人)が、就労し、同日までに約九八八九トンの石炭を採掘し、更に一日約一四二四トンの出炭が可能となつているにもかかわらず、前記のとおり採掘石炭の搬出不能によつて、貯炭場所が不足し、採炭作業そのものを中止しなければならないような状態に立ち至ると共に、申請人会社は、既採掘炭の換価をなしえないことによる相当額の損害、ならびに、前記新組合員五〇〇〇余人並びにその余の職員等に対し、申請人会社においては採炭しえないにもかかわらず支払わねばならない賃銀相当額の損害、関連事業所に対する補償、業界内での信用の喪失等経営上回復し難い損害を蒙る危険性も認められ、
三、更に前示のとおり三川鉱ホツパーにおける被申請人組合のピケツテイングによつて、暴力行為を招く危険性の存在することさえ認められる。
以上の状況に鑑みるときは、本件については、申請人会社のため主文第一項ないし第四項までに掲げるような仮処分をする必要性があるものと解すべきである。
この点に関し、被申請人組合は、申請人会社の敷地内には貯炭のできる空地が残つている旨主張し、申請人会社の敷地内にかなりの空地のあることは認められるのであるが、そこは正式の貯炭場所として使用されているものでないために貯炭のために坑内より石炭を右空地まで搬出、運搬し、かつそこに貯炭するについては、かなりの困難を伴うことが認められるので、そのことによつて、本件仮処分の必要性の存否が、左右されるものとは解されない。
第四、結論
以上の次第であるから、本件仮処分申請は、前示の限度で理由あるものと認め、申請人会社に五〇〇万円の保証をたてさせて、これを認容し、その余の申請は、これを却下することとし、訴訟費用の負担については、民事訴訟法九二条を適用して主文のとおり決定する。
(裁判官 中池利男 宇野栄一郎 阿部明男)
(別紙)
物件目録
一、土地
(1) 大牟田市西港町二丁目八五番地 宅地 三、一八一坪七合一勺
(2) 同所 七〇番地 雑種地 一反一畝一一歩
(3) 同所 七三番地 雑種地 一反三畝八歩
の内別紙図面朱線を以て囲む部分
二、第一項記載地上の建物・工作物・施設
(1) 大牟田市西港町二丁目、家屋番号二八―四四番
木造スレート葺平家建工場 三二坪四合五勺(コンベヤー原動機上屋)
(2) 大牟田市西港町七〇番地八五番地、家屋番号二八―三八番
鉄筋コンクリート造陸屋根二階建工場 六五坪七合四勺(大中塊貯炭槽)
(3) 同所 同番地、家屋番号二八―三二番
鉄筋コンクリート造陸屋根四階建工場 一七九坪七合六勺(粉炭悪石小塊貯炭槽)
(4) 同所
鉄骨造スレート葺平家建工場 七坪二合二勺(粉炭貯炭槽)
(5) 同所
木造スレート葺平家建工場 一九坪五合四勺(粉炭貯炭槽)
(6) 同所
木造スレート葺平家建工場 一坪五合(ベルトコンベヤー連絡所)
及び之等建物に附帯し又は格納する機械設備一切
三、三川鉱送炭ベルトコンベヤー
(1) 大牟田市西港町二丁目七〇番地八五番地
鉄骨スレート葺平家建工場 四九坪八合三勺(大中塊コンベヤー但し現状塊炭コンベヤー)
(2) 同所 同番地
鉄骨スレート葺平家建工場 三七坪六合一勺(悪石コンベヤー)
(3) 同所 同番地
鉄骨スレート葺平家建工場 四五坪四勺(小塊コンベヤー但し現状中塊コンベヤー)
(4) 同所 同番地
鉄骨スレート葺平家建工場 六一坪八合三勺(粉炭コンベヤー)
及び、之等建物に附帯し又は格納する機械設備一切のうち、第一項表示の地上に架設される部分
(別紙図面、写真省略)