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福岡地方裁判所 昭和36年(ヨ)220号 判決 1963年11月01日

申請人 中村郁夫

右代理人弁護士 諫山博

外三名

被申請人 学校法人福岡電波学園

右代表者理事長 桑原玉市

右代理人弁護士 森静雄

主文

申請人が被申請人に対して雇傭契約上の地位を有することを仮に定める。

申請費用は被申請人の負担とする。

事実

≪省略≫

理由

一、被申請人が福岡電子工業短期大学、福岡電波高等学校等を経営する学校法人であること、申請人が昭和三六年三月当時高校教諭及び短大助手を兼任していたこと、被申請人が昭和三六年三月二八日申請人に対して口頭で同日付をもつて解雇する旨の意思表示をなしたことは当事者間に争いがない。

二、申請人は右解雇が申請人の組合活動を原因とする不当労働行為である旨主張するので先ずこの点について判断する。

(一)  先づ高校の教職員が従来労働組合をもたなかつたこと、昭和三五年九月一〇日頃分会が結成され同月一四日結成通告のあつたこと、申請人がその組合員であつたことは当事者間に争いがなく≪証拠省略≫を綜合すると分会結成の動きは同年八月頃からあり、申請人が右結成の中心的役割を果し、初代分会長に選出されたが、直後分会発展のため分会長に他の先輩教諭を推し自らは書記として組合ニユースを編集配布し、分会の会合や各種団交にも主動的役割を果す等分会の中心的存在として相当活溌な組合活動をしていたことが認められ、他に右認定を左右するに足りる資料はない。

(二)  ところでこれに対する被申請人の日頃の態度について考えると

(1)  ≪証拠省略≫を綜合すると、理事長は右結成通告を受けた際申請人らに対して、「校長の云うことを聞かねば不利なことになる。俺の方が一日遅れたな」「破壊的活動をする団体に加入している者は学校にはおれない」等と発言したことが認められ、右認定に反する≪証拠省略≫は措信できず他に右認定を左右するに足りる証拠はない。

(2)  被申請人が同年九月一六日申請人を高校教諭から解任し短大助手に任命する旨発表したこと、右措置につき分会と団交の結果、昭和三六年一月二〇日に至つて高校教諭と短大助手との兼任とすることで了解がつき、同日その旨発令したことは当事者間に争いがない。

而して≪証拠省略≫を綜合すると、申請人にとつては助手に任命されることは一、〇〇〇円の昇給を伴うもので通常ならば栄転といえるけれども事前に当事者たる申請人に一言の相談もなかつたこと、理事長の側近と目されていた教務課長木下弘文が組合員である熊本司城に対して短大助手と云つても机と椅子があるだけで仕事は何もない、実質は左遷である旨もらした事実のあること、短大と高校は相当の距離があつて日常往復するのは困難であつて申請人が分会のため活動することに支障を来すこと、分会では右のような事実から判断して右措置には反対すべきであるとの結論に達し、その撤回を求めて団交に入つたものであることが認められ、右認定に反する≪証拠省略≫は何れも措信できず他に右認定を左右するに足りる証拠はない。

(3)  分会結成後数日を出ない昭和三五年九月二〇日高校の教師をもつて分会とは別個に碧友会教職員組合が結成されたことは当事者間に争いがなく、≪証拠省略≫を綜合すると、右結成の中心的動きをしたのは何れも理事長の側近と目される前記木下弘文、事務長中村茂らであり、結成の前後を通じて右木下らが分会の組合員に、分会を脱退して右組合に加入するよう慫慂し、特に熊本司城に対しては前記(2)において認定したように申請人の任命がえが実際は左遷である旨述べた際「君も分会に残留していればあのような目に遇う」という趣旨のことをほのめかしたこと、右組合結成後分会の脱退者が急速に増加したこと、を認めることができ、これらの事実を綜合すれば少なくとも右組合の結成は分会の衰微を希望する被申請人の意に副つたものと認定するのが相当であり右認定に反する≪証拠省略≫は措信できず他に右認定を左右するに足りる資料はない。

(4)  また≪証拠省略≫を綜合すると、分会結成直後高校の日高教頭が申請人ら分会幹部を招致して、組合があると銀行融資及び卒業生の就職に悪影響を及ぼすので結成をしばらく猶予するよう勧告している事実も認められ、右認定を左右するに足りる証拠はない。

以上のような事実を綜合すると被申請人は日頃から分会特にその中心的存在である申請人を嫌悪し、その活動を封ずる手段を講じていたことが認定できる。

(三)  被申請人は申請人を解雇したのは申請人が教師としての適格性に欠けるところがあつたからである旨主張するのでこの点につき考えると、≪証拠省略≫を綜合すると、申請人は昭和三三年一二月下旬頃たまたま福岡高等無線電信学校の寮での寮生の忘年会に招かれて、酔余寮生の一人を殴打し、「おれは九大出だぞ。お前達は何だ」等とののしつたので、寮生が憤激し、数人相謀つて申請人に報復しようとしたが、なだめられて大事に至らなかつたこと、又昭和三四年一二月下旬頃短大認可内定の祝賀会からの帰途、酩酊の上一升びんから酒をラツパのみしながら歩き、列車内で腰かけていた乗客の膝に頭をつつこんだりしたことのあつたこと、昭和三六年三月一二日の高校創立最初の卒業式においても、酒に酔つて、特段の理由のないのに来賓安武治郎のネクタイをつかんでゆすぶり「きさま横着な、大平楽に何しとるか。今の社会状勢がどうなつているか知らんのだろう。プールにたたき込むぞ」等とののしつたこと、同人は土地の有力者で日頃から学園の発展に協力していたものであるが、右申請人の行為にいたく憤激して翌日理事長に対してこのままでは学園の発展には協力できない旨申し入れた事件が発生した。

そこで被申請人は同年三月二八日かねてからの両組合との協定に基き人事に関する協議を申し入れ、同日両組合の代表が出席した席上、前記卒業式における事件の概略を述べ、過去の申請人の行動に照し教師としての適格性を欠くから解雇したい旨はかつたところ、碧友会教職員組合の代表約七名は全員直ちに賛成し、分会の代表一名(申請人)は拒否の態度を表明したことが認められ、右認定に反する≪証拠省略≫は採用できず、他に右認定を左右するに足りる証拠はない。

(四)  以上認定のように申請人が飲酒の上失態を演じたことのあることは否定できないところであるが、そのため直接教育に支障を来したこと、失態が度重なる程のものであつたことについてはこれを認めるに足りる資料のないところから考えると、本件解雇の理由が右事実のみであるとの被申請人の主張にはたやすく納得できないものがある。

一方≪証拠省略≫を綜合すると、右卒業式から解雇通告の日までには相当の日時があつたにも拘らず、当事者たる申請人に右事実につき全く弁解の機会を与えなかつたこと、申請人に被害者たる安武治郎に謝罪させる等の方法で円満解決をはかる等の努力をした形跡の認められないこと等が認められ、これらに前記(一)(二)において認定した事実をも綜合勘案すれば、本件解雇は申請人の組合活動がその決定的原因となつたものであると認定せざるを得ない。

したがつて本件解雇は労働組合法第七条第一号に該当する不当労働行為として申請人のその余の主張につき判断するまでもなくその効力は否定さるべきものである。

三、賃金を主な収入源とする賃金生活者にとつて、解雇が無効であるに拘らず被解雇者として取扱われることは特段の事情のない限り著しい苦痛であり、速かにその雇傭契約上の地位が保全されなければ回復することのできない損害を蒙ることは明らかである。

五、よつて申請人の本件申請は正当としてこれを認容すべく、申請費用につき民事訴訟法第八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 江崎弥 裁判官 至勢忠一 諸江田鶴雄)

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