福岡地方裁判所 昭和37年(行モ)2号 決定 1962年10月16日
申請人 松山政雄こと李徳老
被申請人 香春町長
主文
本件申請を却下する。
申請費用は申請人の負担とする。
理由
申請代理人は「(一)被申請人が申請人に対し昭和三七年四月一二日香住衛第一四七号をもつてした申請人が香春町の特別清掃地域内において汚物取扱業をすることを禁止する旨の行政処分は当庁昭和三七年(行)第一二号汚物取扱等禁止の行政処分無効確認等請求事件の判決あるまで、その執行を停止する。(二)被申請人は申請人が前項の地域内において汚物取扱及び取扱業をなすにつき妨害をなすべからず」との裁判を求める旨申立て、その申請理由の要旨は、被申請人は申請人に対し前記申請の趣旨記載の業務禁止の行政処分をしたが、該処分は違法であり、当然無効または少くとも取消されるべきものであるので、申請人は被申請人を被告として右行政処分の無効確認等請求の行政訴訟を提起した。しかるに右処分の執行により申請人は償うことのできない損害を受けることとなり、これを避けるため緊急の必要があるので本申請に及ぶ、というのである。
しかしながら、当事者双方審尋の結果及び当事者提出の各疏明書類を総合すれば、申請人は被申請人から本件特別清掃地域内における汚物取扱業の許可を期限附で得ていたが、昭和三六年一二月に右期限が経過したにも拘らず、その後申請人は無許可で右業務を続けたため、被申請人は申請人の右行為をもつて清掃法所定の一般禁止に触れるものとして、本件業務禁止の通告をしたものであることを認めることができる。右によれば、被申請人の右通告は単に警告的な意味をもつものに過ぎず、申請人に対し、その権利を制限したり、新たな義務を課する等の公法上の法律効果を招来する行政処分とみることはできず、その他公権力の行使に当たる行為とも認められず、従つてその執行というが如きはとうてい考えられない。よつて、右通告が行政処分であることを前提とし、その執行の停止を求める申請人の本件申請は失当であること明らかである。また申請の趣旨第二項は民事訴訟法上の仮処分を求めるものと解されるが行政事件においては、そのような仮処分は許されない。よつて本件申請を却下すべきものとし、費用の負担につき民事訴訟法第八九条を適用して主文のとおり決定する。
(裁判官 岩永金次郎 武田正彦 鐘尾彰文)