福岡地方裁判所 昭和41年(行ウ)16号 判決 1967年8月31日
長崎県平戸市本引田町四二三
原告
田中実三
福岡市城内二ノ六
被告
福岡国税局長
大沢信一
右法務大臣指定代理人検事
斉藤健
法務事務官
原田義継
長崎県平戸市
被告
平戸税務署長
右指定代理人大蔵事務官
山本保美
同
小林淳
同
大神哲成
法務大臣指定代理人検事
斉藤健
法務事務官
原田義継
右当事者間の昭和四一年(行ウ)第一六号裁決取消並びに同年(行ウ)第二五号所得税更正決定取消各請求事件について当裁判所は次のとおり判決する。
主文
原告の各請求をいずれも棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
事実
原告は「一、被告福岡国税局長が昭和四一年四月七日原告に対してなした審査請求を棄却する旨の裁決を取消す。二、被告平戸税務署長が昭和四〇年四月一六日なした、原告の昭和三七年度分所得税の総所得金額を一四三万六、三三四円と更正した処分のうち七四万四、三一二円を超える部分、及び同三八年度分所得税の総所得金額を一五六万三、四〇〇円と更正した処分のうち八四万六、二五〇円を超える部分を各取消す」との判決を求め、
請求の原因として、
(一) 原告は肩書住所で米穀販売業を営む者であるが、昭和三七年度における所得税につき総所得金額を七四万四、三一二円、同三八年度における所得税につき総所得金額を八四万六、二五〇円として確定申告をしたところ、被告平戸税務署長は同四〇年四月一六日右三七年度の総所得金額を一四三万六、三三四円、右三八年度の総所得金額を一五六万三、四〇〇円と更正する決定をしたので、原告は同被告に対し、右各更正決定に対する異議申立をしたが、いずれも理由なしとして棄却された。
(二) そこで、原告は右決定を不服として被告福岡国税局長に対し審査の請求をしたところ、同被告は昭和四一年四月七日右請求を理由なしとして棄却する旨の裁決をした。
(三) 然しながら、原告の昭和三七年度における総所得金額は七四万四、三一二円であり、同三八年度における総所得金額は八四万六、二五〇円である。しかるに、被告平戸税務署長は更正決定の理由として、右各所得のほか差額は原告が右各年度につき貸金利息として支払を受けたものであるというのであるが、原告にはかような事実は全くない。したがつて、被告平戸税務署長の前記各更正決定のうち右各金額を超える部分はいずれも違法であつて、取消さるべきである。また右各更正決定を相当として維持した被告福岡国税局長の裁決も当然違法であつて取消さるべきである。
よつて、原告は被告らの右違法な処分の取消を求める
と述べた。
被告ら指定代理人は「主文第一、二項同旨」の判決を求め、答弁並びに主張として、
(一) 請求原因(一)、(二)の事実は認めるが、同(三)の事実は争う。
なお、被告福岡国税局長に対する原告の請求は、原処分の違法のみを主張して同被告のなした裁決の取消を求めるものであるが、裁決取消しの訴えにおいては、原処分の違法を主張することはできない。
(二) 原告の昭和三七年度の総所得金額は一四三万六、三三四円、同三八年度の総所得金額は一五六万三、四〇〇であつて、右各年度における総所得金額算出の根拠は次のとおりである。
すなわち、原告の確定申告に係る昭和三七年度分所得金額七四万四、三一二円、同三八年度分所得金額八四万六、二五〇円は、いずれも原告の米穀販売による営業所得のみであり、被告平戸税務署長の調査の結果によれば、原告は右営業所得の外に、訴外古川武天から貸付金の利子として、昭和三七年度において六九万二、〇二二円同三八年度において七一万七、一五〇円の支払を受けており、従つて、原告には前記営業所得以外にこれら雑所得(貸付金利子)があることが判明した。よつて、被告平戸税務署長は右各年度につきそれぞれ右米穀販売による営業所得と貸付金利子による雑所得の合算額をもつて総所得金額とすべきものとして、前記のとおり更正したものである。したがつて被告平戸税務署長のなした本件各更正決定及び原告の審査請求を棄却し右決定を維持した被告福岡国税局長の裁決にはいずれも違法はない。
と述べ、
立証として
乙第一ないし第四号証を提出し、証人樋口照重の証言を援用した。
理由
第一、被告福岡国税局長に対する請求について。
原告が被告平戸税務署長の本件更正決定に対し、異議の申立をなしたが棄却され、更に被告福岡国税局長に対し審査請求をなしたが、該請求を棄却する旨の裁決を受けたことは当事者間に争いない。
ところで、裁決の取消の訴えにおいては、裁決手続の違法その他裁決固有の違法を主張する場合は格別、原処分の違法を理由として裁決の取消を求めることはできないものである。しかるに、原告は本訴請求において、裁決の取消しを求める理由として、原処分たる被告平戸税務署長の更正決定の違法のみを主張し、前記裁決固有の違法事由については何らの主張もしないので、結局原処分の違法を理由として右裁決の取消を求めるものと認められる、そうだとすれば、原告の被告福岡国税局長に対する裁決取消の請求は理由がないことに帰する。
第二、被告平戸税務署長に対する請求について。
一、原告主張の請求の原因(一)の事実及び原告の昭和三七年度における米穀販売による営業所得金額が七四万四、三一二円であり、同三八年度の右営業所得金額が八四万六、二五〇円であることは当事者間に争いがない。
二、そこで、右各年度における原告の雑所得(貸付金利子)の有無について検討する。
(一) 証人樋口照重の証言及びこれにより真正に成立したと認められる乙第一ないし第四号証によれば、訴外古川武夫に対する所得調査の結果、隠匿していた同人の金銭出納簿その他の帳簿が発見され、右金銭出納簿の関係記載部分から転写して右乙第一、二号証(貸借明細)が作成されたこと、右乙第一、二号証には、原告に対して昭和三七年度中同年五月一日から同年一二月三一日までの間に、一四回にわたり合計四六万四、〇五〇円を、同三八年度中同年一月一日から同年七月三一日までの間に七回にわたり合計四一万八、三四〇円をそれぞれ貸付金利子として支払つた旨の記載があること、右金銭出納簿に記載がない昭和三七年度中同年一月一日から同年四月三〇日まで、及び同三八年度中同年八月一日から同年一二月三一日までの間の貸付金利子の支払金額は、前記帳簿に記載ある期間の支払状況に基づき各年度の月平均額を算出し、これに帳簿に記載のない期間の月数を乗じて推計すると、昭和三七年度の月平均額を五万七、六六八円として同年一月から四月までの間の金額は合計二三万六七二円、同三八年度の月平均額は五万九、七六二円で、同年八月から一二月までの間の金額は合計二九万八、八一〇円となることが認められる。
なお、右の帳簿に記載のない期間の支払金額を推計の方法によつて算定した点については、前顕証人樋口照重の証言及び乙第一号証を総合すれば、訴外古川武夫は既に昭和三六年頃から原告より約四七〇万円程度の融通を受け、これに対する利子の支払を毎月なして来ていることが窺われるので、これを併せ考えれば前記推計額は相当と認められ、且つ前記のように、居住者が貸付金の利子所得を全く秘匿し、偶々貸付先の所得調査の結果発見された隠匿帳簿によつて、これが大半は判明したが、爾余の一部分につき帳簿その他直接に実額を算定すべき資料がない場合、前示の如く前後の関係数値及び割合等により、欠缺部分を推計する方法をもつて算定することは許されるものと解するのが相当である。
(二) 以上の事実関係によれば、原告は訴外古川武夫より昭和三七年度において合計六九万二、〇二二円、同三八年度において合計七一万七、一五〇円の貸金利息の支払を受けたことが認められ、他にこれを覆すに足る証拠は何もない。
したがつて、原告の昭和三七年度総所得金額は、前記米穀販売による営業所得七四万四、三一二円の他に雑所得(貸付金利子)として少くとも六九万二、〇二二円あつたことが認められるので合計一四三万六、三三四円となり、同三八年度総所得金額は前記営業所得八四万六、二五〇円の他に雑所得(貸付金利子)として七一万七、一五〇円あつたことが認められるので合計一五六万三、四〇〇円となり、被告平戸税務署長がなした本件各更正決定には、いずれも違法な点は認められない。
第三、よつて、原告の被告福岡国税局長に対する請求並びに被告平戸税務署長に対する請求はいずれも理由がないから棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条を適用して主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 平田勝雅 裁判官 畑地昭祖 裁判官 上田幹夫)