福岡地方裁判所 昭和43年(行ウ)80号 判決
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【説明】
北九州市は、昭和三八年二月一〇日旧五市を合併して発足したが、職員の勤務条件は旧五市のままで不統一であつた。昭和四二年三月市長の交代とともに、病院・水道事業の財政再建計画の策定を始め、勤務時間の是正統一、特殊勤務手当の整理統合、旅費・給与表の改正など勤務条件の改正を打ち出した。市職労(北九州市職員労働組合)は、これに反撥し、数回の団体交渉も結局物別れに終つた。右の改正案が市議会に上程されるに及び、市職労は、昭和四三年二月二三日清掃事務所・学校給食部門の一日スト、市役所本庁・区役所での勤務時間にくいこむ職場集合を実施した。この経緯等については、判決理由二に詳細な説示があるが、省略して、以上のように要約した。
この前後にわたる争議行為による懲戒処分の取消訴訟が多数係属した(八幡区選管事件・福岡地判昭57.2.8労判三七九カード、同地判昭57.3.9労判三八三カード、市教委事件・同地判昭57.3.30労判同、八幡西区農業委事件・同地判昭57.3.30労判同、市教委戸畑区支所事件・同地判昭57.3.31労判同等)。
本件では、Xらは市立小学校技術吏員で、市職労に属しているが、正規の役職には就いていなかつた。婦人部の結成大会を昭和四三年二月二四日に控えて、そのオルグのため、同月二二日(争議行為の前日)市職労支部長とともに職場を廻つたが、その際翌二三日の職場集会参加を慫慂したことが争議行為のあおり・そそのかしとして戒告処分に付された。
右に紹介の各判決が本件を一連の争議行為による懲戒処分を有効と判断しているのに対し、本判決は結論が異なつているが、これは、判文からも分かるように、Xらの行為態様、殊に関与の度合いの少なさによるためである。
【判旨】
一原告がいずれも昭和四三年五月当時被告教育委員会に所属していた地方公務員で(原告福田は市立城野小学校技術吏員であり、原告深谷は市立桜丘小学校技術史員であつた。)北九州市に勤務する職員をもつて組織された市職労の組合員であつたこと、被告が原告らの任免権者であること、被告が原告らに対し昭和四三年五月二四日付で各戒告の本件各処分をしたこと、以上の事実は当事者間に争いがない。
そして、<証拠>によると、原告らは、当時、いずれも市職労小倉支部教育分会の分会員であつたけれども、何らの組合規約上の組合役職に就いていなかつたことが認められる。
二<本件争議行為―省略>
三原告らの違法行為とこれに対する懲戒責任につき判断する。
原告らが昭和四三年二月二二日に市職労小倉支部長塚内浩之とともに小倉北福祉事務所に赴いたことは当事者間に争いがなく、右争いのない事実に<証拠>を総合すると、次の事実が認められ<る。>
1 原告らの属する市職労は、従来各区の地域割りと同時に一般職と現業職との職種とに分けて支部を設け、各区ごとに職員支部と現業支部を置いていたところ、昭和四二年五月ころ各区の職員支部と現業支部とを一本化したが、職員支部と現業支部にそれぞれ婦人部があつたものの、それは組合規約上の組織でなかつたため右一本化によつて自動的に各区域支部婦人部に改組される関係になかつた。市職労小倉支部としては、婦人部を一本化する予定であつたが、役員になり手がなかつたため従来のまま推移し、ようやく昭和四三年二月ころに至つて同月二四日に市職労小倉支部婦人部の結成大会を開催する運びとなつた。
2 原告らは、他の市職労小倉支部の婦人組合員らとともに年次休暇をとつて右結成大会の案内とその協力要請の目的で当時の小倉区内の各職場を回ることにしたが、それまでそのようなことをした経験がなかつたので、同支部支部長塚内浩之に同行してもらうことにした。
原告らは、同月二二日、本件の小倉北福祉事務所に赴く前に、他の婦人組合員今村広子、山田素子とともに塚内支部長に案内されて右目的で数か所の職場を回つたが、いずれもその際、同支部長が「①二月二四日に婦人部を結成するので、その支援をお願いしたい。②水道料金の不払い運動に積極的に参加していただきたい。③二月二三日の早朝決起集会に参加していただきたい。」趣旨の呼びかけをした。
3 原告らは、同月二二日午前一一時二五分ころ、右今村広子、山田素子とともに右支部長塚内浩之に案内されて小倉北福祉事務所に赴き、執務中の職員に対し、同支部長が右のような二月二四日の婦人部結成への支援要請、水道料金不払い運動への参加、二月二三日の早朝決起集会への参加要請の呼びかけをし、今村広子が婦人組合員らを代表して「婦人部を結成するのでよろしくお願いします。」と挨拶をした後に、原告福田が「どうぞよろしくお願いします。」と言つて頭を下げ、原告深谷と山田素子が黙つたまま一緒に頭を下げた(なお、前記二2(一)で認定したとおり、市職労は、同月二三日午前八時五五分ころから午前九時一五分ころまで、小倉区役所正面玄関付近で小倉支部長塚内浩之の司会のもとに勤務時間にくい込む職場集会を開催した。)。
原告らは、右3の原告らの言動をもつて単に婦人部結成の案内とその協力要請を呼びかけたにすぎず早朝決起集会への参加呼びかけを含んでいない旨主張するけれども、前記2で認定した事実からして塚内支部長が小倉北福祉事務所でも水道料金不払い運動への参加、二月二三日の早朝決起集会への参加要請の呼びかけをするであろうことを熟知しながら、原告らが同支部長と同行して右事務所に赴き右呼びかけがなされた際に同席していてその後に右のような言動をしたものであるから、その言動は、単に婦人部結成の案内とその協力要請だけでなく二月二三日の早朝決起集会への参加要請をも含んでいたものと解するのが相当であつて、原告らの右主張は採用することができない。
そうすると、原告らの右3の各行為は、いずれも争議行為をあおり、そそのかすものとして、地公法三三条、三七条一項に違反し、同法二九条一項一号、三号の懲戒事由に該当する。
四原告らは、原告らの本件各行為が憲法二八条で保障された正当な組合活動である旨主張するので、この点につき判断する。
地公法三七条一項は、すべての非現業地方公務員に対し争議行為を一律全面的に禁止していると解されるところ(最高裁昭和四四年(あ)第一二七五号昭和五一年五月二一日大法廷判決・刑集三〇巻五号一一七八頁参照)、原告らは、前記三で認定判示したとおり、小倉北福祉事務所に赴いて執務中の職員に対し婦人部結成の案内と協力を呼びかけるとともに二月二三日の勤務時間にくい込む早朝決起集会参加をも呼びかけて争議行為をあおり、そそのかしたものであるから、原告らの右各行為をもつて正当な組合活動ということはできない。
したがつて、原告らの右主張を採用することはできない。
五原告らは、本件各処分が地公法五六条に違反する処分である旨主張するけれども、本件全証拠によるもこれを認めることができないから、原告らの右主張も採用することができない。
六原告らは、本件各処分が懲戒権の濫用にあたると主張するので、判断する。
公務員に懲戒事由がある場合に、懲戒権者が当該公務員を懲戒処分に付すべきかどうか、懲戒処分をするときにいかなる処分を選択すべきかを決するについては公正でなければならない(地公法二七条)ことはもちろんであるが、懲戒権者は、懲戒事由に該当すると認められる行為の原因、動機、性質、態様、結果その他諸般の事情を考慮して、懲戒処分に付すべきかどうか、また、懲戒処分をする場合にいかなる処分を選択すべきかを決定できるのであつて、それらは懲戒権者の裁量に任されているものと解される。したがつて、右の裁量は、恣意にわたることを得ないことは当然であるが、懲戒権者が右の裁量権の行使としてした懲戒処分は、それが社会観念上著しく妥当を欠いて裁量権を付与した目的を逸脱し、これを濫用したと認められる場合でない限り、その裁量権の範囲内にあるものとして違法とならないものというべきである(最高裁昭和四七年(行ツ)第五二号昭和五二年一二月二〇日第三小法廷判決・民集三一巻七号一一〇一頁参照)。
右の見地に立つて、本件各処分が社会観念上著しく妥当を欠くものであるか否かについて、検討する。
1 <証拠>を総合すると、原告らはいずれも本件当時市職労の組合規約上の組合役職になく、原告福田は、本件当時右規約上の組織とされていなかつた市職労小倉支部現業支部婦人部の書記長していたにすぎず、これが、一本化されて市職労小倉支部婦人部が結成された際には何らの役職にも就いてなく、原告深谷は、本件当時右現業支部婦人部の役職にすら就いたことがなく、市職労小倉支部婦人部が結成された際にその副部長に就いたにすぎないこと、また、原告らは、本件各処分に付されるまでは何らの懲戒処分を受けたこともなかつたことが認められる。
2 前記三で認定したとおり、原告らが小倉北福祉事務所に赴いた主たる目的は市職労小倉支部婦人部結成の案内とその協力要請を呼びかけるためであつて、原告らは同事務所において積極的に執務中の職員に対し本件争議行為への参加を呼びかけたものではなかつた。
3 前記三3で認定した事実に<証拠>を総合すると、小倉北福祉事務所において原告ら婦人組合員を代表して挨拶し市職労小倉支部婦人部結成の際にその婦人部長に就任した今村広子及び同事務所において原告らと同様の行動をし右婦人部結成の際にその書記長に就任した山田素子は、いずれも本件に関し何らの懲戒処分にも付されていないことがうかがえる。
以上のとおりであつて、原告らは、いずれも本件当時市職労の規約上の組合役職になかつたもので、それまでに懲戒処分を受けたことがなく、本件における言動も積極的に争議行為をあおり、そそのかすものではなく、しかも本件において原告らよりも積極的な役割を果たした今村広子や原告らと同様の言動をした山田素子が何らの懲戒処分を受けなかつたため同人らと原告らとの間に著しい処分上の不均衡が生じており、その他諸般の事情を考慮すると、原告らに対する本件各処分は、社会観念上著しく妥当を欠き裁量権を濫用したものとして違法と認めるのが相当である。
したがつて、本件各処分が懲戒権の濫用にあたるとの原告らの主張は理由がある。
(辻忠雄 湯地紘一郎 山口修)