大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

福岡地方裁判所 昭和43年(行ウ)95号 判決 1973年12月14日

原告 吉田文嘉 外一八、〇九九名

被告 福岡県

主文

原告らの請求を棄却する。

訴訟費用は、原告らの負担とする。

事実

一、当事者の申立

1、原告ら

「被告は原告らに対し、それぞれ別紙原告請求金目録請求金額欄記載の金員およびこれに対する昭和四三年一〇月二三日から支払ずみまで、年五分の割合による金員を支払え。訴訟費用は、被告の負担とする。」との判決並びに仮執行の宣言。

2、被告

(一)  本案前の申立

「原告らの請求を却下する。訴訟費用は、原告らの負担とする。」との判決。

(二)  本案に対する申立

主文同旨の判決。

二、当事者の主張

1、請求原因

(一)  原告らはいずれも福岡県下の公立小中学校に勤務する地方教育公務員で、福岡県教職員組合(以下、単に「福教組」という。)の組合員であり、被告は原告らの給与支給義務者である。

(二)  被告は地方公務員法第二四条第六項、及び地方教育行政の組織及び運営に関する法律第四二条の規定に基づき制定された福岡県公立学校職員の給与に関する条例(昭和三二年福岡県条例第五一号。ただし、昭和四三年福岡県条例第三号「福岡県公立学校職員の給与に関する条例の一部を改正する条例」による改正前のもの。以下、単に「学校職員給与条例」という。)第二〇条、第二一条に基づき、福岡県の地方教育公務員に対し、昭和四二年一二月五日期末手当及び勤勉手当を、昭和四三年三月一五日勤勉手当をそれぞれ支給したが、原告らに対しては、原告らが昭和四二年一〇月二六日一時間の無断欠勤をして勤務一時間当りの給与額を減額されたことを理由に、別紙原告請求金目録の請求金額欄の金員をそれぞれ勤勉手当から減額して支給した。

(三)  しかし、右勤勉手当の減額は、次の理由によつて違法である。

(1) 被告が本件各勤勉手当を減額した根拠法規は、学校職員給与条例第二一条、福岡県職員の給与に関する条例等の施行に関する規則(昭和三二年人事委員会規則第一三号。ただし、昭和四三年福岡県人事委員会規則第一五号「福岡県職員の給与に関する条例等の施行に関する規則の一部を改正する規則」による改正前のもの。以下、単に「職員の給与に関する規則」という。)第二四条ないし第二六条及び第二八条等であつて、本件減額は、同規則第二六条第二項第三号を適用して、給与が減額された一時間を、原告らの勤務期間から除外した結果、同規則第二四条の職員の勤務期間による割合(期間率)は、同規則第二五条第二号及び同規則別表第一により、昭和四二年一二月五日支給分については、六月の勤務期間に対応する一〇〇分の一〇〇ではなく、五月以上六月未満の勤務期間に対応する期間率一〇〇分の九〇を、また昭和四三年三月一五日支給分については、一二月の勤務期間に対応する一〇〇分の一〇〇でなく、一一月以上一二月未満の勤務期間に対応する期間率一〇〇分の九五を適用すべきものとしたためになされたものである。

ところで、勤勉手当は期末手当とは異なり、勤務成績に応じて支給される能率給的性格を有する手当であるが他方、期末手当と同様に、給料の月額と暫定手当の月額の合計額を根拠として計算され、生計費が一時的に増大する盆と暮に支給される点からみれば、生活給的色彩の濃い手当というべきである。したがつて前記勤務期間の「五月以上六月未満」又は「一一月以上一二月未満」の算定についても、勤務手当の生活給的側面や、勤務成績に応じて支給される能率給的性格を考慮して公正かつ合理的に決定されなければならない。生活給的側面からすれば、勤勉手当は職員の生存に直結するものであるから勤務すべき期間六月のうち僅かに一時間程度の欠勤をもつて、直ちに職員の給与に関する規則別表第一の勤務期間に該当するとなし、同表の期間率を適用して、職員の受ける勤勉手当を大幅に削減することは明らかに酷に失し、職員の生活に不当に重大な影響を及ぼすおそれがあり、また能率給的側面からしても、勤勉手当にかかる勤務期間の算定における一時間という単位はほとんど無意味に等しいのに、右のように同規則別表第一の勤務期間は時間を単位として計算すべきものと解すれば、一月未満欠勤者と一時間欠勤者との勤務上の阻害の質的な相違を単純に同一視する不合理な誤りがある。かかる観点からすれば、勤勉手当の算定に際し、期間率を適用するにあたつての勤務期間の計算は当然に日をもつて算出すべきである。

また、このような解釈の正当性は、職員の給与に関する規則第二六条第二項の各号によつて勤務期間の算定から除外されることとなつている期間のそれぞれについてみるときより明らかである。

本件で問題とされている同規則第二六条第二項のうち、第三号を除くその余の各号に掲げる期間は、いずれもその算定の単位を時間とするものでないことが、その文言と法制度の建前から明白である。そうだとすると、同じく六月又は一二月の勤務すべき期間の間における勤勉手当にかかる勤務期間の算定について、同項第三号に規定する期間に対してのみ、時間の単位を適用するためには、勤勉手当の制度の趣旨に基づく何らかの特別の合理的根拠を示すことができなければならない。学校職員給与条例第一四条に基づく給与の減額が時間によつて行なわれることと、勤勉手当にかかる勤務期間を時間を単位として算定することは、全く異なつた法制度を前提としていることを理由とすべきであろう。そしてもし、かかる積極的合理的根拠を示し得ない以上、同規則第二六条第二項第三号の期間の算定も、同条同項のその余の各号におけると同様に、少なくとも時間を単位として行なうものではないと解さなくてはならない。

このように解することによつて初めて、法制度の趣旨にかなつた職員の給与に関する規則第二六条第二項全体の均衡ある統一的合理的理解も可能となるのである。

なお、職員の給与に関する規則別表第一の示す勤務期間の区分も、「五月以上六月未満」「四月以上五月未満」などのように、きわめて大まかな分類となつており、勤勉手当にかかる勤務期間の前述のような性格を併せ考えるとき、その勤務期間の算定が時間を単位として行なわれると解される余地はほとんどあり得ない。

以上のとおり、職員の給与に関する規則第二六条第二項第三号にいう期間は、時間を単位として算定すべきものと解すべきでなく、かく解してのみ、一時間の欠勤をした者と、二〇日以上も欠勤した者とが、勤勉手当の支給において全く同様に取扱われるという著しい不合理、不公正な結果を回避することができる。

そして、このことは、現実の実務においても、一般には、一時間の欠勤によつて直ちに勤勉手当を減額することが行なわれていないことからしても容易に首肯し得るところである。

(2) かりに、右勤務期間の計算が時間をもつてなさるべきものとしても、被告は過去において、時間単位の欠勤につき一度として勤勉手当を減額したことがないのに、僅か一時間の欠勤をとらえて、一月未満の欠勤者と同率に減額したのは、原告らが、昭和四二年一〇月二六日福教組主催の人事院勧告の完全実施要求貫徹大会に組合員として参加したことに対する報復措置であるから、地方公務員法第一三条 第二四条、第二七条、第五六条に違反し、被告がその権限を濫用して行なつた違法なものである。

(四)  以上のように、被告の原告らに対する勤勉手当の減額は何ら法令上の根拠なくしてなされた違法のものであるから、原告らは被告に対し、別紙原告請求金目録の請求金額欄記載の金員、及びこれに対する本件訴状送達の日の翌日である昭和四三年一〇月二二日から完済まで、民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

2、本案前の抗弁に対する答弁

本件各勤勉手当の減額は、原告らの無断欠勤により、学校職員給与条例及び職員の給与に関する規則上当然に給与請求権がその分だけ発生しないというに過ぎず、原告が右条例、規則を機械的に適用してなしたものであつて、そこには何ら法律上の効果を生ずべき被告の行為の介在する余地はないのであるから、行政庁の処分とはいい得ない。

なお、地方自治法第二〇六条は、非常勤職員その他の特別職員が報酬及び費用弁償について不服がある場合についての規定であつて、原告ら地方公務員法の適用を受ける一般職の職員に適用せらるべき規定ではない。

3、被告の本案前の抗弁

原告らに対する本件勤勉手当の支給は、地方自治法第二〇六条第一項にいう「給与その他の給付に関する処分」に該当するから、この処分に不服がある者は、まず同条第二項により、当該普通地方公共団体の長である福岡県知事に対して不服申立をなし、その決定に不服がある場合に初めて処分庁を相手方とする処分取消の訴えを提起すべきである。しかるに、原告らは右手続を経ることなく、ただちに本訴請求に及んだものであるから、本訴は同法第二五六条の審査請求前置の規定に違反し不適法である。

4、請求原因に対する被告の答弁

(一)  請求原因(一)および(二)の事実は認める。

(二)  (三)の主張は争う。ただし、本件勤勉手当の減額に関し、被告主張のような条例および規則の存することは認める。

5、被告の主張

そもそも、勤勉手当は職員の勤務成績に応じて支給される能率給的、賞与的性格をもつものであり、六月、一二月に同時に支給される期末手当、すなわちわが国の社会慣習上生計費が一時的に増大する盆と暮にその補充の意味で支給される手当とは本質的に性格を異にするものである。

これを制度的にみると、期末手当が、学校職員給与条例第二〇条第二項により、支給基準日(六月一日及び一二月一日)以前六月以内の期間における在職期間に応じて定率的に支給されるのに対し、勤勉手当は、同条例第二一条第一項により、後記各支給基準日以前、六月、一二月支給の場合は、六月、三月支給の場合は一二月以内の各期間における勤務成績に応じて支給されるものである。

次に、勤勉手当の支給額の決定についてみるに、六月、一二月支給の場合は、学校職員給与条例第二一条及び職員の給与に関する規則第二五条の規定により、実務上おおむね次の算式で計算されている。

勤勉手当=(給料+扶養手当+暫定手当)×30/100×勤務期間による割合×勤務成績による割合

右のうち「勤務期間による割合」は、職員の給与に関する規則第二五条及び第二六条第一項により基準日六月一日及び一二月一日の場合は、その日以前六月(三月一日の場合はその日以前一二月)間の給与条例の適用を受ける職員として在職した期間から、同規則第二六条第二項に規定する期間を減じて、同規則別表第一により決定されるのである。すなわち、次に掲げる期間を職員として在職した期間から除外するのである。

(一)  休職にされていた期間(公務傷病による休職者であつた期間を除く。)

(二)  職員の給与に関する規則第一六条第三号から第五号までに掲げる職員(停職者、未帰還者、専従職員 として在職した期間

(三)  学校職員給与条例第一四条の規定により給与を減額された期間

(四)  負傷又は疾病(その負傷又は疾病が公務に起因する場合を除く。)により勤務しなかつた期間から、勤務を要しない日及び休日を除いた日が三〇日をこえる場合はその全期間

(五)  基準日が六月一日及び一二月一日の場合にあつては、それぞれの日以前六月(基準日が三月一日の場合にあつてはその日以前一二月)の全期間にわたつて勤務した日がない場合には、前各号の規定にかかわらずその全期間

ところで、右除外期間のうち、本訴請求にかかる勤勉手当の算定にあたつて適用した条項は、同規則第二六条第二項第三号(すなわち、右(三))の「学校職員給与条例の規定により給与を減額された期間」であるが、給与減額の根拠規定である学校職員給与条例第一四条は、「職員が勤務しないときはその勤務しないことにつき任命権者又は市町村教育委員会の承認があつた場合を除くほかその勤務しない一時間につき第一八条に規定する勤務一時間当りの給与額を減額した給与を支給する。」と規定しているとおり、給与の減額はすべて時間単位をもつて行なうものであり、日をもつてする給与の減額は現行制度上ありえない。

したがつて、職員の給与に関する規則第二六条第二項第三号にいうところの「給与を減額された期間」とは、制度上すべて時間単位で計算されたものを指すのであり、たとえ一時間でも学校職員給与条例第一四条の規定により給与の減額を受けた場合は、自動的に職員の給与に関する規則第二六条第二項第三号に該当するところとなり、「勤務期間による割合」は、同規則別表第一の勤務期間「五月以上六月未満」及び「一一月以上一二月未満」に対応して、それぞれ一〇〇分の九〇及び一〇〇分の九五となるものである。

被告は前記のように原告らが昭和四二年一〇月二六日一時間の無断欠勤をしたことを理由に、学校職員給与条例第一四条に基づき給与の減額を行なつたので、本件各勤務手当額の算定は、右給与の減額に基づく当然の措置として、職員の給与に関する規則第二六条第二項第三号、同規則別表第一を適用して「勤務期間による割合」を一〇〇分の九〇及び一〇〇分の九五と決定してなしたものであるから適法である。

三  証拠<省略>

理由

一、本案前の主張について

被告は、勤勉手当の支給は行政庁の処分であるから、原告らが本件各勤勉手当の支給につき不服があれば、まず地方自治法第二〇六条に定める審査請求の申立をなし、その決定に不服がある場合に初めて処分庁を相手方とする処分取消の訴を提起すべきであるのに、本件訴訟は右手続を経ることなく提起されたものであるから、同法第二五六条の審査請求前置の規定に反し、不適法である旨主張するので、この点について判断する。

およそ、取消訴訟の対象となるべき処分とは、行政庁が公法上の具体的事実を規律するために、外部に対して行なう直接の法的効果を生ずる公権的行為をいうのであり、その行為が行政庁の内部的な行為に過ぎないか、まだ外部に表示されず内部的な段階に止まつている間は、これによつて私人の権利、義務が侵害されることは原則として考えられないから、これをもつて取消訴訟の対象となる処分ということはできないものというべきである。

そこで本件についてみるに、原告らがいずれも福岡県下の公立小中学校に勤務する地方教育公務員であること、原告ら地方教育公務員の勤勉手当の支給については、地方公務員法第二四条第六項、地方教育行政の組織及び運営に関する法律第四二条に基づき制定された原告主張の学校職員給与条例の第二一条、職員の給与に関する規則の第二四条ないし第二六条、及び第二八条等がその根拠規定であることはいずれも当事者間に争いがないところ、右条例第二一条第二項及び右規則第二四条によつて、原告らの勤勉手当の額を算出するために基準額に乗ぜられるべき期間率(勤務期間による割合)と成績率(勤務成績による割合)のうち、期間率は右規則第二五条によつて客観的、機械的に定まるものであるが、成績率の決定は右規則第二八条によつて任命権者に委任されているものであるから、任命権者の決定によつて初めて定まるべき性格のものである。しかしながら、この任命権者の成績率の決定は、本質的には内部的な決定に過ぎず、これをもつて独立の処分となすことはできないから、この内部的な決定に基づいてなされた勤勉手当の支給についても、その処分性を認めることはできない。

そうだとすると、本件各勤勉手当の支給は取消訴訟の対象となる処分とはいゝ得ないものといわねばならないから、被告の本案前の主張は採用の限りでない。

二、本案について

1、原告らの給与支給義務者である被告は、昭和四二年一二月五日期末手当及び勤勉手当を、また昭和四三年三月一五日勤勉手当を原告らに支給したが、その際、原告らが同年一〇月二六日一時間の無断欠勤をして、勤務一時間当りの給与額を減額されたことを理由に、原告らの各勤勉手当から別紙原告請求金目録の原告名欄に対応する請求金額欄記載の金額をそれぞれ減額して原告らに支給したことは当事者間に争いがない。

2、そこで、被告のなした右勤勉手当の減額の当否について検討する。

(一)  成立に争いのない甲第一、第二号証および弁論の全趣旨によると、日本教職員組合(以下、単に「日教組」という。)は公務員の給与引上げに関する人事院勧告の完全実施を要求して、昭和四二年一〇月二六日一時間ないし二時間のいわゆる一斉休暇闘争(統一時限ストライキ)を行なうことを決定し、この決定に基づき日教組に所属する福教組においても、同日早朝一時間の一斉休暇闘争を行なうことを決定し、その旨を組合員に指令したが、福教組に加入している原告らも当日の闘争に参加し(原告らが福教組の組合員であることは当事者間に争いがない。)、一時間にわたつて職場を離脱したこと、そのため、被告は、翌月の給与から、右ストライキ参加を理由に、勤務一時間当りの給与額だけ減額して原告らに支給したことが認められる。

(二)  次に、成立に争いのない乙第一号証、第二号証の一、二第三ないし第七号証によれば、昭和四二年一二月五日および翌四三年三月一五日に支給された勤勉手当については、被告が前記根拠規定に基づいて、次のように取扱つたことが認められる。

(1)、勤勉手当は支給日一二月五日の場合は基準日(一二月一日)以前六月以内の、また支給日三月一五日の場合は基準日(三月一日)以前一二月以内の各期間における各職員の勤務成績に応じて支給され、その額は各職員がそれぞれその基準日現在において受けるべき給料の月額と暫定手当の月額との合計額(すなわち基準額)に、任命権者が人事委員会の定める基準に従つて定める割合、すなわち各職員の勤務期間による割合(期間率)に勤務成績による割合(成績率)を乗じて得た割合を乗じて得た額とする定めであるが(学校職員給与条例第二一条、付則第二七項)、職員の給与に関する規則第二四条参照)、給与支給義務者たる被告は、本件各勤勉手当の支給については、学校職員給与条例第二一条第二項所定の勤勉手当を支給し得る総額との関係から、基準額を、基準日現在における給料の月額に暫定手当及び扶養手当を加算した額とし、成績率はまだ勤務評定に関する規程(または県教育委員会の計画)が定められていないため、職員の給与に関する規則第二八条所定の範囲内で全員一律に一二月五日支給の分は一〇〇分の三〇、三月一五日支給の分は一〇〇分の五〇と定めた。

(2) また、勤勉手当にかゝる勤務期間の算定については、職員の給与に関する規則第二六条により、期間率の算出基礎となる勤務期間から同条第二項第三号掲記の「学校職員給与条例第一四条により給与を減額された期間」が除算され、期間率は右規則第二五条により、同規則別表第一の勤務期間欄の右欄に掲げる期間に対応する期間率が適用された。すなわち、原告らについては前記のように給与が勤務一時間当りの給与額だけ減額されたので、勤勉手当の勤務期間も一時間だけ除算され、その結果、同規則別表第一により、勤務期間は一二月五日支給の分については五月以上六月未満と、また三月一五日支給の分については一一月以上一二月未満としてそれぞれ取扱われ、これに対応する期間率も、前者については一〇〇分の九〇、後者については一〇〇分の九五とされた。そのため、原告らの本件各勤勉手当は前記のように別紙原告請求金目録の請求金額欄記載の金額だけそれぞれ減額されて支給された。

以上の事実が認められる。

以上認定の事実によれば、被告が原告らに対して支給した本件各勤勉手当の額の算定は、前記条例及び規則に従つて適正になされたものと解される。

3  しかるに、原告らは本件各勤勉手当の減額は勤勉手当の生活給的側面及び能率給的側面からみても、また関係法規の均衡ある統一的合理的な解釈の面からみても不当であると主張するので、以下、この点について判断する。

(一)  前記のように、職員の給与に関する規則第二六条は、同条第二項第三号に掲げる「学校職員給与条例第一四条の規定により給与を減額された期間」は同条第一項の勤勉手当にかゝる勤務期間、すなわち給与条例の適用を受ける職員として在職した期間から除かれると規定しており、一方、同条例第一四条は「職員が勤務しないときは、その勤務しないことにつき任命権者又は市町村教育委員会の承認があつた場合を除くほか、その勤務しない一時間につき、第一八条に規定する勤務一時間当りの給与額を減額した給与を支給する。」と規定し、同条例第一八条は「前四条に規定する勤務一時間当りの給与額は、給料の月額に一二を乗じ、その額を一週間の勤務時間に五二を乗じたもので除して得た額とする。」と規定しているから、これら各条項を文言どおりに読めば、たとえ給与が一時間分だけ減額された場合でも、当該職員の勤務期間は六月未満となり、勤勉手当の期間率を減ずることは正当であると解される。

(二)  ところで、給料は正規の勤務時間による勤務に対する報酬であるので(学校職員給与条例第五条第一項)、職員が勤務しないとき時間単位をもつて給料を減額できることはその性質上当然である。他方、勤勉手当は、期末手当がいわゆる盆と暮には生計費が一時的に増大するわが国の生活慣習に応じた生活補給金的な性格を有するのに対し、勤務成績に応じて支給すべきものとされていること(同条例第二一条第一項)からも明らかなように、本来能率給的性格を有する手当と解することができる(もつとも、勤勉手当の額が比較的少額であること、および現行給与制度の実態が年功序列方式の生活給に近いものとなつていること等からして、どうしても生活給的側面のあることは払拭できない。)。そして、勤勉手当は、右のごとくその者の勤務成績に応じて支給できるように人事委員会がその基準を定めることとされているが、その支給割合は、職員の勤務成績による割合(成績率)に勤務期間による割合(期間率)を乗じて得た割合と定められている(職員の給与に関する規則第二四条)。これは、成績率が通常職員の日常の勤務状況を勤務評定して定められ、勤勉手当の性格からすれば、これだけで支給割合を決めてもよいのであるが、成績率だけでは、評定者の主観に偏し、公平を失するおそれがあるため、これを防止して客観性を担保するために、本来勤務評定の客観的資料となるべきもののうちから勤務期間を抽出し、とくにこれを他の資料と区別して勤勉手当の支給割合を定める要素に加えたものと解される。そうだとすると、勤務期間はあくまでも勤務成績の徴憑として考えられているのであるからして、「勤務期間とこれに対する支給割合」との間には、必ずしも、給与の減額の場合のように、厳密に比例的な対応関係が要求されているわけではなく、その間に勤務成績に応じて支給される勤勉手当の性格を没却しない程度の合理的な対応関係が保たれておれば足りるものというべきである。しかも、勤勉手当は給料と異なり勤務時間における労働に対して支払われるのではなく、さらに、勤勉手当における生活給的側面に着目するならば、勤務期間をある程度段階的に区切つて、一段階の中では勤務期間に多少の幅があつても、その支給割合を同一にすることも許されるものと解すべきである。

しかしながら、人事委員会がわずかな欠勤時間に対し極端に大幅な勤勉手当の減額がなされるような期間率の定め方をし、勤務期間と支給割合との間に保たれるべき合理的な対応関係の範囲を逸脱し、そのために著しく公平を失するような結果を招来する場合には、勤勉手当が職員の勤務成績に応じて支給されるべきものと定めた前記学校職員給与条例第二一条第一項の趣旨を没却することとなるから、そのような期間率の定めは同条の委任の範囲を逸脱するものとして、違法なものと解すべきである。

(三)  右のような見地に立つて、職員の給与に関する規則第二六条第二項の第三号を除くその余の各号を比較検討してみると、これらの各号は原告ら主張のとおりすべて日以上を単位として規定されていることが明らかであり、また同規則別表第一の勤務期間はいずれも月単位で区分され、これに対応する期間率も、各段階につき、支給日六月一五日及び一二月五日の場合は各一〇パーセントずつ、また支給日三月一五日の場合は五パーセントずつ削減されていることからみれば、第三号のみが時間単位で計算されているのは、一見不合理であるかのように解されないではない。前記のように、同号は「学校職員給与条例第一四条の規定により給与を減額された期間」と規定しており、同条例第一四条、第一八条の規定によれば給与の減額は時間単位でなされることが明らかであるが、それは前記説示のとおり給与の性質上当然のことであつて、勤勉手当の期間率を定めるにあたつて、給与を減額された期間を除算すべく規定したからといつて、この場合も制度上当然に時間単位で計算されるべきものと即断するのは相当でなく、時間単位で計算すべきか否かは、前記勤勉手当の性質、期間率のもつ意義及びわが国における勤務成績評価における一般的傾向等をも考慮して慎重に決められるべきことである。

しかしながら、わが国においては、一般に、職員の勤務成績を評価するについて、職務の性質のいかんを問わず、勤怠の程度とくに遅刻の有無、欠勤の多寡などが評価の重要な資料となつていることは顕著な事実というべく、そうであればこそ、勤勉手当の支給割合を定めるについて、勤務期間による割合(期間率)が勤務成績を判定する半ばの要素とされる半面、逆にあまりに厳格な運用は職員の保護に欠けることにもなり、勤勉手当が生活給的側面をも有するところから、負傷又は疾病により職務に従事しえなかつた場合でも、その期間が三〇日以下である場合には、その期間は期間率算定の基礎となる勤務期間から除算されないものとして(職員の給与に関する規則第二六条第二項第四号)、当該職員の保護をはかつていること、さらには、国家公務員の例によるものとされる休暇(福岡県職員の勤務時間等に関する条例((昭和二六年福岡県条例第七四号))第五条)についても、有給休暇制度の本来の趣旨に反していると解されないではないような一時間単位の年次有給休暇が認められていること(昭和二四年人事院規則第一五ー六第三項参照)等に徴しても、右規定でまかなえず、したがつて、欠勤について任命権者または市町村教育委員会の承認がなかつたものとして、給与額を減額された(学校職員給与条例第一四条)場合には、たとえその期間が一時間であつても、当該職員の勤務成績を、全く勤務しない時間をもたない職員のそれと区別して、これより下位に位置づけたとしても、それが普通妥当性を有するかどうかはともかく、上記のようなわが国の勤務成績評価における一般的傾向等を前提とするときは、あながち不合理なものとしてむげに退ける訳にはいかず、そうだとすれば、人事委員会が勤勉手当の支給割合は勤務期間による割合(期間率)に勤務成績による割合(成績率)を乗じて得た割合と定め、たとえ一時間の欠勤をして、給与を減額された場合でも、その期間は勤務期間から除算されるものとして、前記のような期間率を定めても、勤務しなかつた時間一時間について期間率が五ないし一〇パーセントの減少となる程度では、いまだ必ずしも、勤勉手当の支給につき、その者の勤務成績に応じて支給がなされるよう、人事委員会に対し支給基準を定めるべく委任した学校職員給与条例第二一条の委任の範囲を逸脱しているものとは解されず、したがつて職員の給与に関する規則の当該条項は適法であるといわなければならない。

(四)  以上のとおり、職員の給与に関する規則第二六条第二項第三号の「給与を減額された期間」とは、一時間分の給与を減額された場合でも勤務期間から除算する趣旨であるから、原告らが昭和四二年一〇月二六日一時間の欠勤をしたため、勤務一時間当りの給与額の減額を受けたことを理由に、原告らに対して同年一二月五日および翌四三年三月一五日に支給された勤勉手当を算出するにつき、原告らの期間率は、前者につき勤務期間「五月以上六月未満」に対応する「一〇〇分の九〇」であり、後者につき勤務期間「一一月以上一二月未満」に対応する「一〇〇分の九五」であるとしてなした被告の措置は適法である。

4、なお、原告らは、本件「減額措置」は、原告らが福教組の組合員として人事院勧告完全実施を目指す要求貫徹大会に参加したことに対する報復措置としてなされたものであるから権限濫用として違法である旨主張し、なるほど、前掲甲第一、第二号証、乙第四、第七号証によれば、原告らの加入する福教組は昭和三一年頃からたびたびいわゆる一斉休暇闘争(統一時限ストライキ)を行なつてきており、一時間ないしは一日に満たない半日程度の休暇闘争を行つたこともあつたが、これに対して給与の減額がなされたことはあつても、勤勉手当の減額がなされたのは本件が最初であることが認められる。しかし、右減額は、前記のとおり、関係法規を正しく適用した結果生じたものであるから、そのことからただちに右措置が報復措置であるというのは当を得ないし、しかも、前掲乙第四号証によれば、被告において原告らに対し勤勉手当の減額をなしたのは、昭和四一年度の大蔵省および文部省の合同監査の際に、被告が従来の一斉休暇闘争においては勤勉手当の減額をしていなかつたのを指摘され、同年度の国庫負担金のうちから約二、五〇〇万円を減額されたため、被告においても、昭和四二年度以降は、国家公務員同様、時間単位で勤勉手当の減額をなすこととしたからであることがうかがわれるから、原告らの右主張も亦採用するに由ない。

三、そうだとすると、原告らの本訴請求は理由がないから、これを棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条、第九三条第一項本文を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 鍬守正一 宇佐見隆男 大石一宣)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例