福岡地方裁判所 昭和44年(わ)117号 判決 1970年10月26日
本籍
福岡市土手町二〇番地
住居
同市西新町六八六番地の一
会社役員
橋田龍彦
昭和三年二月二五日生
右の者に対する所得税法違反被告事件につき、当裁判所は検察官吹春信一出席のうえ審理を遂げ、次のとおり判決する。
主文
被告人を懲役六月および罰金二五〇万円に処する。
右罰金を完納することができないときは、金二万円を一日に
換算した期間被告人を労役場に留置する。
この裁判確定の日から二年間右懲役刑の執行を猶予する。
訴訟費用は被告人の負担とする。
理由
(罪となるべき事実)
被告人は、昭和二七年頃から福岡市赤坂一丁目九の一九において、パチンコ店「赤坂会館」を同三八年七月頃から同市雑隈銀天町二五において、パチンコ店「宝会館」を、同三九年三月頃からは、鹿児島市東千石町一三において、同じくパチンコ店「いすずホール」をそれぞれ単独に経営し、それと並んで、同三七年四月頃から福岡市浄水通二一の一において「ホテル南」を、同三八年一二月頃から鹿児島市千日通五においてパチンコ店「いすず会館」を、同四一年一一月からは、福岡市渡辺通五の一六において「キヤバレー南」をいずれも原正己と共同経営し(ただし、前記いすず会館については、同三九年五月頃から、原は事実上その経営から手をひき被告人のみが、その営業の管理運営に当つていた。)ていたものであるが、右赤坂会館については、昭和三九年四月頃から妻経名義で経営し、同店の経営には同女も関与しており、かつ、所得税の申告も同女名義で行つて来たものの、同店の営業資金の調達、預金の出入、売上現金の管理、使用人の指揮監督等その内部関係は勿論業者間の対外的交渉もすべて被告人が行つており、その実質は被告人の経営するところであつた。
しかして、被告人は、右業務に関し所得税を免れようと企て、前記原との共同経営にかかる「ホテル南」に関しては同人と共謀のうえ、
第一、昭和四〇年分の所得金額は金三一八五万八〇〇六円で、これに対する所得税額は金一六六三万六六〇〇円であつたにもかかわらず、各店の売上金額を除外し、これを架空名義の預金に留保したり、使用人との間に雇用関係の円滑化をはかるため簿外給与等の支給に当てる等して、その所得の一部を秘匿したうえ、別表(一)記載のとおり、昭和四一年三月一三日所轄福岡税務署長に対し、所得を全体として過少にし、しかも前記事業のうちパチンコ店「赤坂会館」は妻経が経営しているように装つて同店の所得を同女名義に分割した虚偽の所得税確定申告書を提出し、もつて不正の行為により右正当所得税額と、その申告にかかる所得税合算額金五六六万九四〇円との差額金一〇九七万五六〇〇円を逋脱した
第二、昭和四一年分の所得金額は金三三六六万七九八三円で、これに対する所得税額は金一七六六万四〇〇円であつたにもかかわらず、別表(二)記載のとおり、昭和四二年三月一四日所轄福岡税務署長に対し、前記第一において認定したと同様の方法をもつて虚偽の所得税確定申告書を提出し、もつて不正の行為により右正当所得税額と、その申告にかかる所得税合算額金二〇二万七七九〇円との差額金一五六三万二六〇〇円を逋脱した
ものである。
(証拠の標目)
一、被告人の検察官に対する供述調書および大蔵事務官に対する質問てん末書六通
一、被告人の大蔵事務官杉本繁に対する上申書一一通
一、証人杉本繁の第三回公判調書中の供述部分および当公判廷における供述
一、原正己の検察官に対する供述調書および大蔵事務官に対する質問てん末書七通
一、原正己の大蔵事務官杉本繁に対する上申書二通
一、神宮寿賀子の検察官に対する供述調書および大蔵事務官に対する質問てん末書二通
一、神宮寿賀子の大蔵事務官杉本繁に対する上申書三通
一、橋本登喜夫の検察官に対する供述調書および大蔵事務官に対する質問てん末書一通
一、橋本登喜夫の大蔵事務官杉本繁に対する上申書二通
一、田中春男、桝田瑞江の大蔵事務官に対する各質問てん末書
一、古川容子、福島武一郎の検察官に対する各供述調書
一、笠艶子の大蔵事務官に対する上申書
一、大蔵事務官作成の脱税額計算書二通
(法令の適用)
被告人の判示行為は、それぞれ所得税法第二三八条、第一項(共謀の点につきさらに刑法六〇条を適用)に該当するので、懲役刑と罰金刑とを併科することとし、以上は刑法第四五条前段の併合罪であるから、懲役刑については同法第四七条本文、第一〇条により犯情の重い判示第一の罪の刑に法定の加重をし、罰金刑については同法第四八条第二項により各罪所定の罰金額を合算し、その刑期および金額の範囲内で被告人を懲役六月および罰金二五〇万円に処し、右の罰金を完納することができないときは、同法第一八条により金二万円を一日に換算した期間被告人を労役場に留置することとし、なお被告人は本件検挙後当局の調査等に協力し、かつ本件逋脱額についてはその完納の方法が講じるなど改悛の情が極めて顕著であることなど諸般の情状を考慮し、同法第二五条第一項を適用してこの裁判確定の日から二年間右懲役刑の執行を猶予することとし、訴訟費用について刑事訴訟法第一八一条第一項本文により全部被告人に負担させることとする。
よつて主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 秋吉重臣 裁判官 鳥飼英助 裁判官 大月妙子)
別表(一) (昭和四〇年分)
No. 申告名義人 申告所得額 申告所得税額 備考
1被告人 一一、七九三、一六六円 四、九四九、三〇〇円
2 橋田経 二、〇一四、五八七円 七一一、六四〇円 同人名義の申告額のうち「赤坂会館」の事業所得相当分
別表(二) (昭和四一年分)
No. 申告名義人 申告所得額 申告所得税額 備考
1 被告人 五、七六八、四五一円 一、七六七、八九〇円
2 橋田経 一、〇五七、六一九円 二五九、九〇〇円 同人名義の申告額のうち「赤坂会館」の事業所得相当分