福岡地方裁判所 昭和45年(ワ)150号 判決
以下は、判例タイムズに掲載された記事をそのまま収録しています。オリジナルの判決文ではありません。
〔判決理由〕<証拠>によれば原告は訴外会社の常務取締役たる久保から再三再四有価証券を右会社に預託するよう要望され、昭和三八年五月一五日別紙目録記載の有価証券を訴外会社の用途に流用することはしない約束で同会社に預託した。しかるところ、その頃訴外会社の取締役たる被告らを中心に一部の従業員を加えて子会社たる不動産会社を設立したが、被告らの引受けた株式の払込はすべて訴外会社が顧客から預つていた有価証券を担保にして融資を得た金で株式の払込に当てたこと、そのように担保に流用した顧客の有価証券は当初においては、その後新規に預託を受けた有価証券を担保に供して順次差替えるなどして顧客に返還していたものの、訴外会社が昭和四二年二月倒産するに至つて顧客の有価証券の返還をしえなくなつたこと、原告は訴外会社からその預託した証券の返還を受けることができなかつたものの一人であること、被告浅野は顧客の有価証券を自己らにおいて引受けた別会社の株式の払込みに流用したことに関し、訴外会社の代表取締役たる総括責任者として業務上横領罪で起訴され懲役一年半、執行猶予三年の刑の言渡を受けたこと、そして被告らの右有価証券流用の業務上横領により訴外会社に有価証券を預託しその返還を受け得なかつた顧客が一五〇名前後に及ぶこと、以上の事実を認めることができる。右認定を覆えすに足る証拠はない。
右事実によれば原告が訴外会社に預託した前記の有価証券も被告らが別会社の設立に当つて被告らが引受けた株金の払込に流用されたか、それとも同会社の倒産迄の間に流用されたため原告は訴外会社から有価証券の返還を受け得なかつたものと推認するのが相当であるところ、被告らの右有価証券を流用処分する行為は、被告らが右会社の職務を執行するに当つて故意か少くとも重大な過失があつたものというほかなく、よつて蒙つた第三者の損害については被告らにおいて商法第二六六条の三第一項本文と民法第七〇九条とに基づき競合して連帯の賠償責任があるものといわねばならない。
被告浅野は訴外会社が原告から有価証券の預託を受けていたこともこれを別会社の株式の払込に流用したことも全く知らない旨供述する。なるほど原告から直接有価証券の預託を受けたのは取締役久保平であり代表取締役たる被告浅野が預託証券の各顧客や右流用証券の各所有者を各別に認識していたとは考えられないので、同被告の右供述を措信し得ない訳ではないが、代表取締役として前記認定の如く顧客の有価証券を別会社設立に当つて自己ら取締役の引受けた株式の払込に流用しその中に原告の有価証券も含まれていたと認定出来る以上、被告浅野が原告預託の有価証券の含まれていたことを知らなかつたからといつて前記認定の妨げとなるものではない。又原告はその預託の有価証券は訴外会社において一切運用しない約束のものであつた旨主張するがその本人尋問の結果によると原告は訴外会社に株の配当等を受取りに行く度に配当金のほかに訴外会社より若干の金員が加算されており訴外会社から寄託料を差引かれたことはなかつた旨供述しており、有価証券の運用を或る程度是認していたと思われる節もあるけれども被告らが別会社のの株式の払込に流用することまで原告において承認していることを被告らにおいて立証しない限り被告らが職務執行に当り故意少くとも重過失のあつたことを否定する理由とはならないものというべきである。 (松島茂敏)