福岡地方裁判所 昭和45年(ワ)20号 判決
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〔判決理由〕第一、抵当権設定登記の抹消登記手続請求について
一、請求原因1の事実中本件不動産が、もと訴外久松実の所有に属したこと、同2の事実の全ては当事者間に争がない。
二、<証拠>を総合すれば、原告はかねて取引上の関係で知り合つていた訴外久松実から本件不動産を買受けることとし、昭和四四年春頃から話を進めて来たが、同年八月二八日に売買契約を締結し、右不動産を買受けてその所有者となつたものであること、が認められ、右認定を覆えすに足りる証拠は他にない。
三、右認定事実に基づけば、被告は原告に対して本件不動産につき存する原告主張の被告を権利者とする抵当権設定登記の抹消登記手続をなす義務を有するといわざるを得ない。
第二、不法行為に基づく損害賠償請求について、
一、1<証拠>を総合すると、次の各事実が認められる。
被告代表者は、前記第一において認定したとおり、福岡県宗像郡津屋崎町大字奴山字勝負坂所在の不動産を昭和四二年一一月二〇日強制競売手続の結果競落してその所有権を取得し、その頃、前記久松の被告に対する本件不動産による被担保債権金一五万円が弁済により消滅したことを知つていたものである。一方、前記第一において認定したとおり右久松から本件不動産を買受けた原告は、売買契約を締結した昭和四四年八月二八日以前においても、被告代表者を訪ね、本件抵当権設定登記の抹消を要請したが、被告代表者は原告の右要請に応じないでいたところ、原告は右久松と本件不動産について売買契約を締結しその所有者となつた前記日時以後の昭和四四年九月一日、訴外武藤清との間で、同人との取引に関し、それによつて生じる債務につき、原告において本件不動産に対し根担保を設定することを約したが、右不動産には被告を権利者とする本件抵当権設定登記が存するところから、原告の責任において同年一一月一〇日までに右抵当権設定登記の抹消登記手続をなし、右武藤を権利者とする抵当権設定登記は同年一一月一五日までとし、同月二〇日まで右登記に関する一切の手続が完了しない場合には原告が右武藤に違約金として金五〇万円を支払う旨を特約した。しかして、原告が本件不動産の所有権取得を登記した昭和四四年九月六日以後も、原告において再三被告代表者に対し被告を権利者とする本件抵当権設定登記の抹消登記手続の申請を要請したが、結局被告代表者の応諾を得ることができず、したがつてまた原告は前記武藤との間の前記約定を実現することができず、右武藤に対し、同じく特約に基づき違約金を支払わざるを得なくなつたものである。
<証拠排斥>略
2 右認定の事情の下において、被告は本件抵当権設定登記の抹消登記手続を申請する義務を負い、その代表機関たる被告代表者が右義務に反してその抹消登記の申請に出なかつたことにより原告に金銭的出捐を余儀なくさせた以上、右不作為は不法行為を構成し、被告はその代表者の右行為により原告に対し原告の金銭的出捐を損害として賠償すべき義務を負担すると解するのが相当である。
二1、<証拠>によれば、原告は前記武藤に対し、前記認定にかかる違約金五〇万円の支払いにつき、原告と被告代表者との間の前記接渉の結果を打明け、話合いの末、約定金額は金五〇万円であるけれども、内金一〇万円を減じてもらい約定による違約金として金四〇万円を、昭和四四年一二月二〇日、同人に支払つたものであること、が認められ、右認定を覆えすに足りる証拠は他にない。
2 原告の蒙つた右金四〇万円の損害発生に至るまでの前記認定にかかる事情および右損害の発生が、不動産取引について密接重要な関係に立つ登記簿の記載事項に関連するところから客観的に見て、原告の右損害の発生は被告代表者において予見し得たといわざるを得ず、したがつて被告はその代表機関たる代表者の右事由に基づき原告の蒙つた右金四〇万円の損害を賠償すべき責任があるというべきである。
3 ただ、被告代表者尋問の結果によれば、原告は被告代表者に対し、本件抵当権設定登記の抹消登記手続申請の接渉をするにあたり、なんら自分が本件不動産の所有者である旨確証すべき資料を示さず、特に原告が本件不動産につき前記久松と売買契約を締結した昭和四四年八月二八日以後においても原告が右久松から本件不動産の所有権を譲り受けたことを認めるに足りる資料を直接示さずして、ただ前記抹消方のみを要請していたことが認められ、右認定に反する原告本人尋問の結果は措信できず、他に右認定を覆えすに足りる証拠はない。
4 右認定に基づけば、本件損害の発生につき、原告の側にも過失が在つたといわざるを得ず、右過失は被告の負担すべき本件損害額の算定についても斟酌さるべきであり、その斟酌されるべき金額は金一〇万円をもつて相当とする。
5 よつて、被告は、その代表機関たる代表者の前記不法行為により原告に対し金三〇万円の限度で損害を賠償すべき義務を負担しているというべきである。(鳥飼英助)