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福岡地方裁判所 昭和46年(行ウ)36号 判決 1985年12月26日

原告 島田二男 ほか三六九二名

被告 北九州市教育委員会

代理人 森脇勝 大串法光 ほか四名

主文

原告らの請求をいずれも棄却する。

訴訟費用は原告らの負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  原告ら

(一)  被告が原告らに対してなした別紙第一の原告及び処分目録「処分」欄記載の各懲戒処分(処分日は別紙第二の処分日目録記載のとおり)を取り消す。

(二)  訴訟費用は被告の負担とする。

二  被告

主文同旨

第二当事者の主張

一  請求原因

(一)  原告らは、昭和四三年一〇月八日、昭和四四年七月一〇日、同年一一月一三日、昭和四六年五月二〇日、同年七月一五日当時 いずれも別紙第一の原告及び処分目録「勤務校及び職名」欄の各項に対応する北九州市立の各小・中・養護学校の各地位にあつた教職員で、福岡県教職員組合(以下「福教組」という。)の組合員でもあり、同組合北九州支部に所属していた。

被告は、原告らの任命権者である。

(二)  被告は、原告らに対し原告及び処分目録「処分」欄記載の各懲戒処分(以下「本件各処分」という。)を別紙第二の処分日目録記載の各日になし、各発令日のころ原告らに告知した。

(三)  しかし、本件各処分は正当な理由がなくなされた違法な処分であるから、その取消しを求める。

二  請求原因に対する被告の答弁

請求原因(一)、(二)の各事実は認めるが、同(三)の主張は争う。

三  被告の主張

(一)  昭和四三年一〇月八日における争議行為(以下「一〇・八闘争」という。)についての処分理由

1 一〇・八闘争における組合側の取り組み

日本教職員組合(以下「日教組」という。)は、昭和四三年九月一八、一九日の両日に第三五回臨時大会を開催し、公務員共闘会議(以下「公職員共闘」という。)の統一実力行使の一環として、公務員給与改定の実施時期を人事院勧告のとおり五月一日とすること、その必要財源は国で完全に措置すること、超勤手当制度を確立することなどの諸要求を掲げ、一〇月八日全組合員をして組織的に早朝勤務時間一時間の休暇をとらせ、要求貫徹集会を実施させることを決定した。そして、一〇月一日に開催された日教組全国戦術会議において、福岡県を含む三〇都道府県の教職員組合に対し実力行使突入の指令を発することを確認した。

福教組は、日教組第三五回臨時大会で決定された一〇・八統一実力行使の戦術を含む秋期年末闘争方針に基づき、その批准のための組合員の全員投票を九月二一日から二七日にかけて実施し、組合員数二万〇五一〇人中賛成一万四四五一人(賛成率七〇・四六パーセント)の結果を得た。そして、一〇月八日組合員総数の九二パーセントに当たる一万八二九六人が指令どおり統一実力行使に参加した。

2 当局側の対応

文部大臣は、昭和四三年九月二〇日、日教組の一〇・八闘争の計画につき、教職員が日教組の誤つた指導に同調して、児童、生徒を学校に託した父母及び国民の信頼を裏切るような行動に走ることのないよう切望する旨の談話を発表した。

そして、被告は、一〇月三日、臨時校長会を開催し、各小・中・養護学校長に対し 日教組の一〇・八闘争は地公法により禁止されている違法行為であり、教職員がこのような違法な行為に参加することのないよう所属職員を十分に指導するよう指示した。また、被告は、一〇月二日、福教組北九州支部長に対し、一〇月八日に予定されている統一行動を行わないよう文書をもつて強く警告するとともに原告らを含む教職員各人に対しても、一〇月三日、文書をもつて日教組及び福教組が一〇月八日に予定している統一行動に参加しないよう警告し、更に、一〇月七日、各校長をして職務命令書を交付させ、「一〇月八日は定められた勤務時刻に出勤し命ぜられている職務を遂行するよう」との職務命令を発せしめた。

3 原告らの違法行為

(1) 原告島田二男は、一〇・八闘争当時、福教組本部執行副委員長であつて、日教組大会代議員及び中央委員を兼ねることができる地位にあつたほか右本部執行委員長の職務執行に当たりこれを補佐し、同委員長に事故あるときはその職務を代行する地位にあり、また右本部執行委員会の構成員でもあつたが、右闘争に際し、次のような行為をした。

ア 昭和四三年五月上旬ころ開催された福教組本部執行委員会に出席し、公務員共闘の第九次賃金闘争方針に基づき、閣議決定期(一〇月ころを目途)に予定されている官公労の全国統一ストライキに積極的に参加する方針を決定した。

イ 五月二五日から二七日まで開催された第三一回福教組定期大会において、右方針に従い争議行為を行う旨の議案を提出し、これを可決成立せしめた。

ウ 五月二九日、七月一三日及び八月一九日に開催された日教組全国戦術会議に福教組の代表として出席し、「賃金闘争の具体的構想」と題する三次にわたる職場討議案の審議及び作成に参画し、これを福教組傘下の各組合員に配布して下部討議に付し、スト態勢整備のための組合員の意思の結集を図つた。

エ 九月一三日開催された福教組本部執行委員会に出席し、一〇月八日の公務員共闘の全国統一ストライキに参加することを再確認し、その具体的戦術を討議、決定のうえ、右九月一三日開催された支部長会において各支部長に対し、指示第二二号と題する文書をもつて、次のとおり指示した。

(ア) 各支部は、九月二〇日までに分闘長会を開催し、今次賃金闘争の意義と一〇・八統一実力行使までの具体的行動についての意思統一を行つた後、直ちに分会会議を開き、指示事項の徹底を期し闘争態勢を強化すること。

(イ) 組合側の行動の正当性を認めさせるため、九月二〇日から三〇日までの間、各支部は地教委及び出張所長との交渉を強化し、また、各分会は分会員全員による校長交渉を強化すること。

(ウ) 各支部は、九月二一日から二七日までの間に実力行使目標及び一〇・八統一実力行使についての賛否の全員投票を行い、その結果を九月二八日に福教組本部に報告すること。

(2) 別紙第三の組合役職等目録「43・10・8」とある項に「支部長」、「副支部長」、「支部書記長」、「支部執行委員」と記載のある原告らは、一〇・八闘争当時右各組合役職にあり、定められた福教組北九州支部の職務を担当し、右闘争に際し、次のような行為をした。

ア 原告田中勝美は、支部長会の構成員であり、昭和四三年九月一三日、福教組本部執行委員長古賀藤久の招集によつて開催された支部長会に出席し、福教組本部の前記指示第二二号について討議し、一〇・八闘争の具体的戦術を協議、決定した。

イ 原告田中勝美を含む右原告らは、福教組本部の指示に従い、九月一四日から二〇日までの間に福教組北九州支部において分闘長会を開催し、各分闘長に対して一〇・八闘争の意義及び具体的戦術について説明するとともに、分会会議を開催して各組合員に対し前記指示第二二号の趣旨を徹底させるよう指示した。

ウ 各原告らは、福教組本部の指示に従い 九月二〇日から三〇日までの間、管下組合員多数を動員して被告の庁舎に押しかけ、次に述べるような要求事項について文書により回答を求めるなどして福教組北九州支部のスト態勢の確立に努め、これらの交渉の結果を一〇月二日福教組本部に報告した。

(ア) 政府に対し、組合側の要求の正当性を認め、人事院勧告の完全実施(五月実施)及び地方公務員給与改訂財源の国家による保障並びに超勤手当制度の実施をするよう要求した打電をすること。

(イ) 組合側の要求を政府が認めない場合に発動する一〇・八統一実力行使は正当なものであり、これに対し当局側は業務命令による弾圧を行わないこと。

エ 右原告らは、福教組本部の指示に従い、九月二〇日から三〇日までの間に管下各分会に対し、分会員全員による校長交渉を行い、その際、被告に対してなしたと同様の要求事項について、分会員全員の署名捺印のある要求書を校長に提出して文書による回答を強要することなどを指示し、各分会のスト態勢の確立に努め、各分闘長をして交渉の結果を一〇月二日に支部長あて報告させた。

オ 右原告らは、福教組本部の指示に従い、九月二一日から二七日までの間に各分会ごとに分会会議を開かせて、一〇・八闘争の批准投票を行わせ、その投票用紙をとりまとめて九月二八日に福教組本部に提出した。

カ 右原告らは、福教組本部の指示に従い、一〇月四日までに管下各分会の始業時刻、授業終了時刻及び退庁時刻を掌握したうえ、一〇月八日当時の要求貫徹集会の実施計画を樹立し、一〇月五日に分闘長会を招集して当該実施計画を周知徹底させること及び同日分会長に分会全員の休暇届をとりまとめて退庁時に校長に対して一括提出することを指示した。

右原告らは、一〇月八日のスト当日、福教組本部の指示により、点検班を管下各分会に配置して各組合員のスト参加状況を点検させ、脱落者の防止と説得に当たらせるとともに地域公務員共闘と共同して要求貫徹集会を開催し、当日の参加状況を福教組本部に報告した。

(3) 別紙第一の原告及び処分目録「勤務校及び職名」欄の「43・10・8」とある項に記載のある原告らのうち別紙第三の組合役職等目録の「43・10・8」とある項に組合専従と記載されている者を除くその余の原告らは、いずれも昭和四三年一〇月八日校長の承認を得ることなく、当日の勤務開始時刻からおおむね一時間職場を離脱して、争議行為に参加した。

(二)  昭和四四年七月一〇日における争議行為(以下「七・一〇闘争」という。)についての処分理由

1 七・一〇闘争における組合側の取り組み

日教組は、昭和四四年六月一六日から二〇日までの五日間にわたり第三六回定期大会を開催し、公務員共闘の統一実力行使の一環として、大幅賃上げと人事院勧告の完全実施に決着をつけ本格的な賃金闘争を展開するため人事院勧告前の闘いを重視し、七月一〇日に早朝勤務時間三〇分カツトの実力行使を行うことを決定し、六月二七日、指令第一号をもつて「七月一〇日、全組合員(徳島、香川、愛媛、栃木の四県を除く。)は早朝三〇分カツトによる原則として市町村単位の抗議要求貫徹集会を組織し展開せよ。」とのストライキ指令を全国に発した。

福教組は、五月二七、二八日の両日第三三回定期大会を開催し、公務員共闘の統一要求、日教組独自の要求、賃金闘争に関する職場討議案などを中心に支部、分会段階において学習活動を展開し、七・一〇統一実力行使に向けて組合員の意思の結集を図つた。そして、七月一〇日には組合員総数の九五・五五パーセントに当たる一万八六五九人が指令どおり統一実力行使に参加した。

2 当局側の対応

文部省は、昭和四四年六月二五日、初等中等教育局長名で各都道府県・指定都市教育委員会教育長あて通達を発し、日教組の七・一〇闘争の計画について、教職員がかかる違法行為を行うことによつて、学校教育の正常な運営を妨げることがないよう十分指導するとともに、当日の服務の実態把握を的確に行い、あえて非違を犯すものについては厳正な措置をとるよう要請した。

そして、被告は 七月七日、教育長名で各小・中・養護学校長あて前記局長通達を添付した通達を発し、日教組の七・一〇闘争の計画について、公立学校教職員が職務を放棄することは、地公法により禁止されている違法行為であり、教職員がこのような違法な行為に参加することのないよう所属職員の指導及び服務の監督に万全の措置を講ずるよう指示した。また、被告は、七月七日、福教組北九州支部長に対し、七月一〇日に予定されている統一行動を行わないよう文書をもつて強く警告するとともに、原告らを含む教職員各人に対しても、七月七日、文書をもつて日教組及び福教組が七月一〇日に予定している違法行為に参加しないよう警告し、更に七月八日各校長をして、職務命令書を交付させ、「七月一〇日は定められた勤務時刻に出勤し命ぜられている職務を遂行するよう」との職務命令を発せしめた。

3 原告らの違法行為

(1) 七・一〇闘争当時、原告島田二男は福教組本部執行副委員長、原告籔田保昭は同本部執行委員で、いずれも右本部執行委員会の構成員であつたが、右原告両名は、右闘争に際し、次のような行為をした。

ア 昭和四四年三月上旬ころ開催された福教組本部執行委員会に出席し、公務員共闘の第一〇次賃金闘争方針第一次草案に基づき、人事院勧告の完全実施をめぐる闘争の重要時点に予定されている官公労の全国統一ストライキに積極的に参加する方針を決定した。

イ 三月中旬ころ、同方針に従い、右ストライキの時期を七月中旬の人事院勧告時期とする日教組中央委員会の三月五、六日付決定に係る「第一次職場討議案」を福教組傘下の各組合員に配布して下部討議に付し、スト態勢整備のための組合員の意思の結集を図つた。

ウ 五月二七日から二九日まで開催された福教組第三三回定期大会において、右方針に従い争議行為を行う旨の議案を提出し、これを可決成立せしめた。

エ 六月上旬ころ、「七・一〇全国統一実力行使について」と題する五月二九日付日教組第二次職場討議案を福教組傘下の各組合員に配布して下部討議に付し、スト態勢整備のための組合員の意思の結集を図つた。

オ 六月二五日開催された福教組本部執行委員会に出席し、七月一〇日の公務員共闘の全国統一ストライキに参加することを再確認し、その具体的戦術を討議、決定のうえ、右六月二五日開催された支部長会において各支部長に対し、指示第四三号と題する文書をもつて次のとおり指示した。

(ア) 今次賃金闘争は、国会における大学臨時措置法案、学校教育法一部改正案、地方公務員定年制法案等の粉砕及び福岡県教委の企図している学習指導要領伝達講習会の阻止等の目的と絡めて組まれるものであること。

(イ) 各支部は、全組合員の意思統一を図つてストへの完全突入態勢を整えるとともに、当該地域におけるオルグ活動を展開すること。

(ウ) 各分会は、分会員四名につき一枚の割合で闘争宣言文を墨書し、これを校区内の目抜きの場所に貼付すること。

(エ) 各支部は、全組合員の意思統一を図る目的をもつて、オルグ活動を強化し、その結果を七月五日までに福教組本部に報告すること。

(オ) 前記目的の下に、全組合員は、七月一〇日、公務員共闘の全国統一ストライキとして勤務開始時刻から三〇分、市町村単位で開催される集会に参加すること。このため、各分闘長は、七月九日、全分会員の意思を集約し、これを校長に口頭で通告すること。

(2) 別紙第三の組合役職等目録の「44・7・10」とある項に「支部長」、「副支部長」、「支部書記長」、「支部執行委員」と記載のある原告らは、七・一〇闘争当時右各組合役職にあり、定められた福教組北九州支部の職務を担当し、右闘争に際し、次のような行為をした。

ア 原告田中勝美は、支部長会の構成員であり、昭和四四年六月二五日、福教組本部執行委員長古賀藤久の招集によつて開催された支部長会に出席し、福教組本部の前記指示第四三号について討議し、七・一〇闘争の具体的戦術を協議、決定した。

イ 原告田中勝美を含む右原告らは、福教組本部の指示に従い、六月二六日以降、福教組北九州支部において分闘長会を開催し、各分闘長に対して七・一〇闘争の意義及び具体的戦術について説明するとともに、六月三〇日までに分会会議を開催して各組合員に対して前記第四三号の趣旨を徹底させるように指示した。

ウ 右原告らは、福教組本部の指示に従い、管下各分闘長に対し、七月二日から五日までの間に、当該地域に対するオルグ活動として、チラシを街頭宣伝及び戸別訪問により配布すること、闘争宣言文を分会員四名につき一枚の割合で墨書させ、これを当該校区内の目抜きの場所に貼付することなどを指示し、もつて右支部のスト態勢の確立に努めた。

エ 右原告らは、福教組本部の指示に従い、七月一〇日当日の集会の実施計画を樹立した後、管下各分闘長に対し、七月九日に分会会議を開いて全分会員に当該実施計画を周知徹底させること及び七・一〇統一ストライキは全分会員の集約的意思の表明として決行されるものである旨を校長に対して口頭で通告することを指示した。

オ 右原告らは、七月一〇日のスト当日、福教組本部の指示により、点検班を管下各分会に配置して各組合員のスト参加状況を点検させ、脱落者の防止と説得に当たらせるとともに、地域公務員共闘と共同して要求貫徹集会を開催し、当日の参加状況を福教組本部に報告した。

(3) 別紙第一の原告及び処分目録「勤務校及び職名」欄の「44・7・10」とある項に記載のある原告らのうち別紙第三の組合役職等目録の「44・7・10」とある項に組合専従と記載されている者を除くその余の原告らは、いずれも昭和四四年七月一〇日校長の承認を得ることなく、当日の勤務開始時刻からおおむね三〇分職場を離脱して、争議行為に参加した。

(三)  昭和四四年一一月一三日における争議行為(以下「一一・一三闘争」という。)についての処分理由

1 一一・一三闘争における組合側の取り組み

日教組は、昭和四四年九月二九、三〇日の両日第三七回臨時大会を開催し、人事院勧告の実施時期に決着をつけることを重点とする公務員共闘の四項目(<1>人事院勧告の五月一日実施をかちとる。<2>地方公務員、地方公営企業職員の賃上げ財源を確保させる。<3>最低賃上げ幅を四〇〇〇円とする。<4>期末手当を最低〇・二か月分とする。)にわたる統一実力行使の目標を実現するため一一月一三日に全組合員が早朝勤務時間一時間三〇分カツトによる、原則として市町村単位の要求貫徹集会を行うなどの戦術を最終的に決定した。その後、日教組は、一〇月六日、文部大臣に対し公務員共闘の右重点四項目の要求と教職員の給与改善、超勤手当制度の要求を内容とする申入れを行い、一〇月二四日文部省初等中等局長からこれに対する回答を得たが、その内容に満足せず一〇月二〇日の全国戦術会議において一一・一三統一実力行使に関する前記第三七回臨時大会での決定についての批准投票を行い、その結果、最終的にスト突入県を確認し、一一月一一日の閣議決定の後、電報で全国にスト突入を指令した。

福教組は、前記日教組第三七回臨時大会での決定の批准について一〇月一五日から一七日にかけて組合員の全員投票を実施したところ、組合員総数二万〇三〇一人中一万五一二二人の賛成者(賛成率七六パーセント)を得たので、一〇月二〇日開催された日教組全国戦術会議において一一・一三統一実力行使に突入するものと確認された。そして、一一月一三日組合員総数の九三・六四パーセントに当たる一万八二三三人が指令どおり統一実力行使に参加した。

2 当局側の対応

文部省は、昭和四四年一〇月二三日、初等中等教育局長名で各都道府県・指定都市教育委員長あて通達を発し、日教組の一一・一三闘争の計画について、教職員がかかる違法行為を行うことによつて、学校教育の正常な運営を妨げることがないよう十分指導するとともに、当日の服務の実態把握を的確に行い、あえて非違を犯すものについては厳正な措置をとるよう要請した。

そして、被告は、一一月六日、教育長名で各小・中・養護学校長あて通達を発し、日教組の一一・一三闘争の計画について、公務員である教職員がこのような違法な行為に参加することのないよう所属職員の指導及び服務の監督に万全の措置を講ずるよう指示した。また、被告は、一一月六日、福教組北九州支部長に対し、一一月一三日に予定されている統一行動を行わないよう文書をもつて強く警告するとともに、一一月一〇日、原告らを含む教職員各人に対しても文書をもつて日教組及び福教組が一一月一三日に予定している統一行動に参加しないよう警告し、更に、校長をして、職務命令書を交付させ、「一一月一三日は定められた勤務時刻に出勤し命ぜられている職務を遂行するよう」にとの職務命令を発せしめた。

3 原告らの違法行為

(1) 一一・一三闘争当時、原告島田二男は福教組本部執行副委員長、原告籔田保昭は同本部執行委員で、いずれも右本部執行委員会の構成員であつたが、右原告ら両名は、右闘争に際し、次のような行為をした。

ア 昭和四四年三月上旬ころ開催された福教組本部執行委員会に出席し、公務員共闘の第一〇次賃金闘争方針第一次草案に基づき、一〇月あるいは一一月に予定されている官公労の全国統一ストライキに積極的に参加する方針を決定した。

イ 五月二七日から二九日まで開催された第三三回福教組定期大会において、右方針に従い争議行為を行う旨の議案を提出し、これを可決成立せしめた。

ウ 七月二五日及び九月一日、二日に開催された日教組全国戦術会議で決定された第三次及び第四次討議資料を福教組傘下の各組合員に配布して下部討議に付し、ストライキ態勢整備のための組合員の意思の結集を図つた。

エ 一〇月三日開催された福教組本部執行委員会に出席し、一一月一三日の公務員共闘の全国統一ストライキに参加することを再確認し、その具体的戦術を討議、決定のうえ、右一〇月三日開催された支部長会において各支部長に対し、指示第一六号と題する文書をもつて次のとおり指示した。

(ア) 今次闘争は、人事院勧告の完全実施、安保条約廃棄、沖縄即時無条件全面返還及び福岡県教委のなした一〇・八闘争参加者に対する処分の撤回等の各要求を目的とするものであること。

(イ) 全組合員は、一一月一三日、公務員共闘の全国統一ストライキとして、当日の勤務開始時刻から一時間三〇分、市町村単位に組織される集会に参加すること。

(ウ) 公務員共闘の賃金要求が解決した場合にも、安保条約廃棄、沖縄即時無条件全面返還の各要求をかかげて、三〇分のストライキを行うこと。

(エ) 今次闘争を成功させるための前段の闘争として、一〇・八処分撤回闘争を組織的に展開し、福岡県教委、同出張所、地教委及び校長に対する交渉を強力に推進すること。

オ 一〇月一五日から一七日までの間、各支部単位に行われた批准投票において、各支部から送付された批准投票用紙を福教組本部に回収して開票し、その結果について、賛成率七六パーセントであつた旨を公表した。

カ そのころ、「わたくしたちは、賃金要求を実現するため、一一月一三日に勤務開始時から勤務時間一時間三〇分カツトにより、要求貫徹集会に参加するという日教組第三七回臨時大会の決定を守ります。なお、このたたかいは、全労働者の安保条約廃棄、沖縄即時無条件全面返還の要求闘争と結合してたたかいます。」との決意表明書を作成し、各支部長を通じて各分会長に配布し、「権力や一部反動分子のスト切りくずし」に対する対策として各分会ごとに分会員全員をして署名捺印させるよう指示した。

(2) 別紙第三の組合役職等目録の「44・11・13」とある項に「支部長」、「副支部長」、「支部書記長」「支部執行委員」と記載のある原告らは、一一・一三闘争当時右各組合役職にあり、定められた福教組北九州支部の職務を担当し、右闘争に際し、次のような行為をした。

ア 原告田中勝美は、支部長会の構成員であり、昭和四四年一〇月三日、福教組本部執行委員長古賀藤久の招集によつて開催された支部長会に出席し、福教組本部の前記指示第一六号について討議し、一一・一三闘争の具体的戦術を協議、決定した。

イ 原告田中勝美を含む右原告らは、福教組本部の指示に従い、一〇月六日から一一日までの間に、福教組北九州支部において分会長会を開催し、各分会長に対して一一・一三闘争の意義及び具体的戦術について説明するとともに、分会会議を開催して各組合員に対し前記指示第一六号の趣旨を徹底させるよう指示した。

ウ 右原告らは、福教組本部の指示に従い、一〇月一一日以降、福教組北九州支部、管下分会段階において一〇・八処分撤回闘争を組織的に展開し、管下組合員に対し、ストライキを理由とする処分の不当性、一一・一三闘争の正当性を教宣し、次のような行動をして右支部のスト態勢の確立に努めた。

(ア) 支部段階の闘争として、右支部組合員を動員して被告に対する集団交渉を要求し、「一〇・八闘争処分を早急に撤回すること」について文書による回答を一〇月二五日までの期限をつけて要求すること。当該期限までに満足な回答が得られない場合は、更に強力に交渉を推し進めること。

(イ) 分会段階の闘争として、管下各分会に対し、分会長を通じて分会員全員による校長交渉を行わしめ、校長に対し次に述べるような要求事項について文書による回答を一〇月二五日までの期限をつけて強要させた。

<1> 被告に対して、一〇・八闘争に対する処分を早急に撤回するよう上申すること。

<2> 市人事委員会に対して、早急に一〇・八闘争に対する処分事案の一括口頭公開審理を開くよう要請すること。

更に、当該期限までに満足な回答をしない校長に対しては、引き続き交渉を強力に推し進め、一一月に入つてからは分会長を通じて分会員全員による無言闘争等の抗議行動を行わせた。

エ 右原告らは、福教組本部の指示に従い、一〇月一五日から一七日までの間に、北九州支部管下組合員の全員集会を開催し、一一・一三闘争の批准投票を行わしめ、投票用紙を一〇月一七日に福教組本部に提出した。

オ 右原告らは、福教組本部の指示に従い、一〇月二一日の勤務時間終了後、一一・一三スト宣言及び反安保、沖縄闘争のための北九州支部の全員集会を総評、公務員共闘の全国統一行動として地域公務員共闘と共同して開催し、右集会において、参加者全員によるスト宣言を発せしめて意思の結集を図るとともに、被告に対する一〇・八闘争処分撤回の要求をなすことを提案して全員の賛同を促し、被告に対し同趣旨のハガキによる要求行動を行つた。

カ 右原告らは、福教組本部の指示に従い、一〇月二一日から二五日にかけて、各分会ごとに傘下組合員をして、一一・一三ストに関する宣伝文書を街頭で配布させるとともに、闘争宣言文を各校区内の目抜きの場所に貼付させるなどして、スト態勢の確立に努めた。

キ 右原告らは、福教組本部の指示に従い、一〇月二五日から三〇日までの間に、分会長会を開催し、各分会長に対し、各分会組織のスト態勢を点検し、前記(1)カの決意表明書に署名捺印させるよう指示して、スト態勢の整備に努めた。

ク 右原告らは、福教組本部の指示に従い、一一月一〇日以降、支部書記局に常駐体制をとり、一一月一二日、被告に対し文書によるスト通告を行うとともに、管下各分会長に対し、分会会議を開催して全組合員に重ねてスト実施計画を徹底させたのち、校長に文書でスト通告を行うよう指示した。

ケ 右原告らは、一一月一三日のスト当日、福教組本部の指示により、北九州支部に設置した点検班を管下各分会に配置して、各組合員のスト参加状況を点検させ、脱落者の防止と説得に当たらせるとともに、要求貫徹集会を地域公務員共闘と共同して開催し、当日の参加状況を福教組本部に報告した。

(3) 別紙第一の原告及び処分目録「勤務校及び職名」欄の「44・11・13」とある項に記載のある原告らのうち別紙第三の組合役職等目録の「44・11・13」とある項に組合専従と記載されている者を除くその余の原告らは、いずれも昭和四四年一一月一三日校長の承認を得ることなく、当日の勤務開始時刻からおおむね一時間三〇分職場を離脱して、争議行為に参加した。

(四)  昭和四六年五月二〇日における争議行為(以下「五・二〇闘争」という。)についての処分理由

1 五・二〇闘争における組合側の取り組み

日教組は、昭和四六年三月五、六日の両日第八三回中央委員会を開催し、五月中旬に公務員共闘第一波統一ストライキ(全単産早朝三〇分の勤務時間カツト)を計画し、国会闘争と相まつて政府の所得政策の粉砕、春闘の成果の反映、公務員労働者の要求実現を政府、人事院に迫り、情勢によつては日教組の超勤問題を絡ませて闘うなどの方針を決定した。そして、日教組は、右中央委員会の方針に基づき、政府が国会に提出していた「国立及び公立の義務教育諸学校等の教育職員の給与等に関する特別措置法案」(以下「教職特別措置法案」という。)に対し、<1>一方的な超勤命令の排除、超勤業務とその限度は労使協定で、<2>超勤に対しては正当な割増賃金を、<3>四パーセントの教職調整額は測定困難な超勤に対するものとして支給という基本的修正案をもつて闘うこととし、社会党、日政連議員を中心に野党各派に働きかけ、衆議院において、社会、共産、公明各党の共同修正案にまとめあげ、この修正案が容れられない場合は法案の成立を阻止するため五月二〇日に早朝三〇分カツトの統一ストライキに突入できるようその態勢を整えることを四月二八日の全国戦術会議において確認した。しかし、右修正案は容れられず、自民党は、全野党の反対を押し切つて四月二八日の衆議院文教委員会で政府原案につき強行採決し、これを五月一一日の衆議院本会議で可決した。

日教組は、公務員共闘の統一要求、日教組独自の要求の実現及び教職特別措置法案につき日教組修正要求の実現、政府原案の粉砕を目標に、五月二〇日第一波統一ストライキとして早朝勤務時間三〇分カツトのストライキを行つたが、このストライキには三四都道府県の教職員組合が参加した。

福教組は、三月二日、第二一八回評議員会を開催し、五・二〇統一実力行使についての前記日教組第八三回中央委員会の決定と同一内容の方針を快定した。そして、五月二〇日組合員総数の八一・七パーセントに当たる一万四九二九人が指令どおり統一実力行使に参加した。

2 当局側の対応

文部大臣は、昭和四六年五月一八日、日教組等の五・二〇闘争に関して談話を発表し、当時参議院で審議中の教職特別措置法案の経緯について説明し、同法案が教職員の給与改善に大いに資するものであるにもかかわらず、日教組等が現に国会で審議中の法律案を阻止することなどのため、あえて違法なストライキを行なおうとしていることに対して遺憾の意を表明した。

被告は、五月一四日 教育長名で各小・中・養護学校長あて通達を発し、日教組の五・二〇闘争の計画について、公立学校の教職員が目的のいかんを問わず児童・生徒、父兄等の信頼を傷つけ、あえて職務を放棄することは、地公法により禁止されている違法行為であり、教職員がこのような違法な行為に参加することのないよう所属職員の指導及び服務の監督に万全の措置を講ずるよう指示した。また、被告は、五月一九日、福教組北九州支部長に対し、五月二〇日に予定されている統一行動を行わないよう文書をもつて強く警告するとともに、五月一九日、原告らを含む教職員各人に対しても、文書をもつて日教組及び福教組が五月二〇日に予定している統一行動に参加しないよう警告し、更に校長をして、職務命令書を交付させ、「五月二〇日は定められた勤務時刻に出勤し命ぜられている職務を遂行するよう」にとの職務命令を発せしめた。

3 原告らの違法行為

(1) 五・二〇闘争当時、原告島田二男は福教組本部執行副委員長、原告籔田保昭は同本部執行委員で、いずれも右本部執行委員会の構成員であつたが、右原告ら両名は、右闘争に際し、次のような行為をした。

ア 昭和四六年二月下旬ころ開催された福教組本部執行委員会に出席し、日教組が公務員共闘による一九七一年賃金闘争の一環として教職特別措置法案の成立阻止等を目的として五月中旬に企図している早朝三〇分の全国統一ストライキに積極的に参加する方針を決定した。

イ 三月二日開催された第二一八回評議員会において、右方針に従い争議行為を行う旨の議案を提出し、これを可決成立せしめた。

ウ そのころ、右方針に従い、教職特別措置法案に関する日教組第四次職場討議資料及び日教組教育新聞号外を福教組傘下の各組合員に配布して下部討議に付し、スト態勢整備のための組合員の意思の結集を図つた。

エ 五月六日開催された福教組本部執行委員会に出席し、本件闘争の具体的戦術を討議、決定のうえ、同日開催された支部長会において、各支部長に対し、指示第三八号と題する文書をもつて、次のとおり指示した。

(ア) 本件闘争は、今国会に提出されている教職特別措置法案の成立を阻止することなどを目的として、大幅賃上げ等を要求する公務員共闘の全国統一ストライキと対応して組まれるものであること。

(イ) 全組合員は、五月二〇日に日教組指令に基づき早朝三〇分の勤務時間カツトにより組織される集会に参加すること。

(ウ) スト態勢の確立を図るための諸行動とスト当日の具体的行動を措置すること。

(2) 別紙第三の組合役職等目録の「46・5・20」とある項に「支部長」、「副支部長」、「支部書記長」、「支部執行委員」と記載のある原告らは、五・二〇闘争当時右各組合役職にあり、定められた福教組北九州支部の職務を担当し、右闘争に際し、次のような行為をした。

ア 原告田中勝美は、支部長会の構成員であり、昭和四六年五月六日、福教組本部執行委員長古賀藤久の招集によつて開催された支部長会に出席し、福教組本部から提示された前記指示第三八号について討議し、五・二〇闘争の具体的戦術を協議、決定した。

イ 原告田中勝美を含む右原告らは、福教組本部の指示に従い、五月七日以降、北九州支部において分会長会を開催し 各分会長に対して右闘争の意義及び具体的戦術について説明するとともに、直ちに分会会議を開催して、各組合員に対して教職特別措置法案に対する理解を深め、国会情勢を的確に把握させるため、福教組本部が配布した職場討議資料等をもとに分会における学習活動を強化し、闘争態勢の確立を図るように指示した。

ウ 右原告らは、そのころ福教組本部の指示に従い、各分会長に対し、父母、一般大衆に対する宣伝活動として、情宣チラシを各分会において計画的に配布すること及び闘争宣言文を数部作成して、当該校区内の目抜きの場所に掲示することなどを指示し、もつて北九州支部のスト態勢の確立に努めた。

エ 右原告らは、そのころ、福教組本部の指示に従い、五月二〇日当日の集会実施計画を樹立したのち、各分会長に対し、五月一九日に分会会議を開いて全分会員に当該実施計画を周知徹底させること及び五・二〇統一ストライキは全分会員の集約的意思の表明として決行されるものである旨を校長に対して通告することを指示した。

オ 原告田中勝美は、五月一九日、各分会長を通じて全組合員に対し、「日教組委員長宮之原貞光の指令により、全組合員は、教職特別措置法案粉砕のため、五月二〇日早朝勤務時間三〇分カツトによる市町村単位の要求集会を組織し、参加せよ。」との指令を発した。

カ 原告田中勝美を含む右原告らは、五月二〇日のスト当日、福教組本部の指示により、北九州支部に設定した点検班を各分会に配置して、各組合員のスト参加状況を点検させ、脱落者の防止と説得に当たらせるとともに、地域公務員共闘と共同して要求貫徹集会を開催し、当日の参加状況を福教組本部に報告した。

(3) 別紙第一の原告及び処分目録「勤務校及び職名」欄の「46・5・20」とある項に記載のある原告らのうち別紙第三の組合役職等目録の「46・5・20」とある項に組合専従と記載されている者を除くその余の原告らは、いずれも昭和四六年五月二〇日校長の承認を得ることなく、当日の勤務開始時刻からおおむね三〇分職場を離脱して、争議当為に参加した。

(五)  昭和四六年七月一五日における争議行為(以下「七・一五闘争」という。)についての処分理由

1 七・一五闘争における組合側の取り組み

日教組は、昭和四六年六月二日第八四回臨時中央委員会を開催し、同年度の賃金闘争をめぐる今後の方針につき、<1>公務員共闘の統一要求及び日教組の独自要求を実現するため、六月から七月にかけて公務員共闘及び日教組独自の「中央動員」を配置し、政府、人事院との交渉を強化する、<2>七月一五日、公務員共闘として全国統一ストライキ突入の態勢を構え、これを背景として政府、人事院に対し、最終回答を要求する、<3>東京、大阪、京都など客観的条件の有利な地域で日教組中央執行委員会が指定する都道府県教組においては、早朝一時間カツトの統一ストライキ、その他の地域の教組においては早朝勤務時間三〇分カツトの統一ストライキの態勢を整えることなどを決定した。そして、七月五日の全国戦術会議における確認を経て日教組本部の指令に基づき、東京、京都、大阪、大学の各教組において早朝一時間の、福岡を含むその余の地域の県教組等において早朝三〇分の統一ストライキが行われた。

福教組は、七月三日から五日までの間に開催された第三五回定期大会において、「一九七一年度賃金闘争において、公務員共闘の統一要求、日教組の独自要求のため人事院勧告前に人事院、政府に対する統一ストライキをもつてたたかい、その重点を基本賃金の大幅引き上げと賃金体系の是正及び四月一日実施に置き、七月中旬の統一ストライキには積極的に参加する。」旨の決定を行つた。そして、七月一五日組合員総数の八八・一パーセントに当たる一万六三七三人が指令どおり統一実力行使に参加した。

2 当局側の対応

文部省は、昭和五六年七月七日、初等中等教育局長名で各都道府県・指定都市教育委員会教育長あて通達を発し、日教組の七・一五闘争の計画について、教職員がかかる違法行為を行うことによつて、学校教育の正常な運営を妨げることがないよう十分指導するとともに、当日の服務の実態把握を的確に行い、あえて非違を犯すものについては厳正な措置をとるよう要請した。

そして、被告は、七月一二日、教育長名で各小・中・養護学校長あて通達を発し、日教組の七・一五闘争の計画について、公立学校教職員が目的のいかんを問わず児童・生徒、父兄等の信頼を傷つけ、あえて職務を放棄することは、地公法により厳に禁止されている違法行為であり、教職員がこのような違法な行為に参加することのないよう所属職員の指導及び服務の監督に万全の措置を講ずるよう指示した。また、被告は、七月一三日、福教組北九州支部長に対し、七月一五日に予定している統一行動を行わないよう文書をもつて強く警告するとともに、七月一三日原告らを含む教職員各人に対しても、文書をもつて日教組及び福教組が七月一五日に予定している統一行動に参加しないよう警告し、更に、校長をして、職務命令書を交付させ、「七月一五日は定められた勤務時刻に出勤し命ぜられている職務を遂行するよう」にとの職務命令を発せしめた。

3 原告らの違法行為

(1) 七・一五闘争当時、原告島田二男は福教組本部執行副委員長、原告籔田保昭は同本部執行委員で、いずれも右本部執行委員会の構成員であつたが、右原告ら両名は、右闘争に際し、次のような行為をした。

ア 昭和四五年一〇月ころから、「労働基本権を確立し人事院勧告体制をうち破つて、ストライキを背景にした政府との団体交渉によつて賃金を決定することが一九七一年賃金闘争の課題である」旨の日教組第一次職場討議資料を福教組傘下の各組合員に配布して下部討議に付し、スト態勢の準備に努めるとともに、一一月中旬ころ開催された福教組本部執行委員会に出席し、日教組が翌年七月中旬に企図している公務員共闘としての全国統一ストライキに積極的に参加する方針を決定した。

イ 昭和四六年二月ころ、右方針に従い、一九七一年賃金闘争の山場を七月中旬に予定する公務員共闘としての全国統一ストライキに置くことについての日教組第二次及び第三次職場討議案を福教組傘下の各組合員に配布して下部討議に付し、スト態勢整備のための組合員の意思の結果を図つた。

ウ 六月ころ、日教組の「七・一五公務員共闘統一ストと『教特法』実施に対するたたかい」と題する第五次職場討議資料を福教組傘下の各組合員に配布して下部討議に付し、組合員の意思の結集とスト態勢の確立を図つた。

エ 三月二日開催された第二一八回評議員会及び七月三日から五日まで開催された福教組第三五回定期大会において、右方針に従い争議行為を行う旨の議案を提出し、これをそれぞれ可決成立せしめた。

オ 五月二二日及び七月七日に開催された福教組本部執行委員会に出席し、七月一五日の公務員共闘の全国統一ストライキに参加することを再確認し、その具体的戦術を討議、決定のうえ、七月八日開催された支部長会において各支部長に対し、指示第一号と題する文書をもつて次のとおり指示した。

(ア) 本件闘争は、五・二〇ストの発展、公務員共闘第二波統一ストライキとして組まれ、これを背景とする対政府・人事院交渉によつて賃金大幅引上げ等の要求の実現を図ることを目的とするものであること。

(イ) 右目的のもとに、全組合員は、七月一五日、公務員共闘の全国統一ストライキとして勤務開始時刻から三〇分、市町村単位に行われる要求貫徹集会に参加すること。

(ウ) スト態勢の確立を図るための諸行動とスト当日の具体的行動を措置すること。

(2) 別紙第三の組合役職等目録の「46・7・15」とある項に「支部長」、「副支部長」、「支部書記長」、「支部執行委員」と記載のある原告らは、七・一五闘争当時右各組合役職にあり、定められた福教組北九州支部の職務を担当し、右闘争に際し、次のような行為をした。

ア 右原告らは、昭和四六年七月七日、支部執行委員会を開催し、七月一五日の統一ストライキに参加することを確認し、七・一五闘争を成功させるための諸行動を決定した。

イ 原告田中勝美は、支部長会の構成員であり、七月七日、福教組本部執行委員長古賀藤久の招集によつて開催された支部長会に出席し、福教組本部の前記指示第一号について討議し、七・一五闘争の具体的戦術を協議、決定した。

ウ 原告田中勝美を含む右原告らは、福教組本部の指示に従い、七月九日、分会長会を開催し、各分会長に対して本件闘争の意義及び具体的戦術について説明するとともに、直ちに分会会議を開催し、各組合員に対して前記指示第一号の趣旨を徹底させるよう指示した。

エ 右原告らは、福教組本部の指示に従い、各分会長に対し、父母、一般大衆に対する宣伝活動として、情宣チラシを各分会において計画的に配布すること及び闘争宣言文を作成して当該校区内の目抜きの場所に掲示することなどを指示し、もつて北九州支部のスト態勢の確立に努めた。

オ 右原告らは、福教組本部の指示に従い、七月一二日の勤務時間終了後、全員集会を公務員共闘の全国統一行動として開催し、意思の結集を図つた。

カ 右原告らは、福教組本部の指示に従い、そのころ、七月一五日当日の集会の実施計画を樹立したのち、各分会長に対し、七月一四日に分会会議を開いて全分会員に当該実施計画を周知徹底させること及び七・一五統一ストライキは全分会員の集約的意思の表明として決行されるものである旨を校長に対して通告することを指示した。

キ 右原告らは、七月一五日のスト当日、福教組本部の指示により、北九州支部に設けた点検班を各分会に配置して各組合員のスト参加状況を点検させ 脱落者の防止と説得に当たらせるとともに、地域公務員共闘と共同して要求貫徹集会を開催し、当日の参加状況を福教組本部に報告した。

(3) 別紙第一の原告及び処分目録「勤務校及び職名」欄の「46・7・15」とある項に記載のある原告らのうち別紙第三の組合役職等目録の「46・7・15」とある項に組合専従と記載されている者を除くその余の原告らは、いずれも昭和四六年七月一五日校長の承認を得ることなく、当日の勤務開始時刻からおおむね三〇分職場を離脱して、争議行為に参加した。

(六)  前記(一)ないし(五)の各3記載の原告らの各行為は、地方公務員法(以下「地公法」という。)三三条、三五条(ただし、三五条については組合専従の原告らを除く。)、三七条一項に違反し、同法二九条一項一号ないし三号(ただし、二号については組合専従の原告らを除く。)の懲戒事由に該当する。

四  被告の主張に対する原告らの答弁

(一)  被告の主張(一)ないし(五)の各1、2は認める。

(二)  同(一)ないし(五)の各3の各(1)、(2)はすべて認める。ただし、原告らが本部執行委員会、大会、支部長会において、争議行為を行う方針あるいはその具体的戦術等を「可決成立せしめた」、「決定した」、「確認した」などとする点については、いずれも、そうした方針、戦術を「可決成立し」「決定し」あるいは「確認した」各機関会議に、その構成員として出席していたとの意味に限定したうえで認めるものである。更に、(教育委員会等に)「押しかけ」とか(校長に)「強要する」とある部分は、それぞれ「行つた」、「要求した」との意味に理解して、これを認めるものである。

(三)  同(一)ないし(五)の各3の(3)は認める。

(四)  同(六)は争う。

五  原告らの主張

(一)  地公法三七条一項は憲法二八条に違反する。

1 原告らに対する本件各処分の実質的根拠とされた地公法三七条一項は、地方公務員の争議権を全面一律に禁止しているが、右条項は公務員を含むすべての労働基本権を保障した憲法二八条に違反し無効であるから、同条項を適用して懲戒処分をすることは許されない。

ところで、最高裁判所は、昭和四八年四月二五日、昭和五一年五月二一日及び昭和五二年五月四日の各大法廷判決において、公務員の地位の特殊性と職務の公共性に基づき、争議行為の全面一律禁止は合憲である旨判示して、現在に至つているが、右各判決の判示しているところは以下述べるとおり論拠として脆弱でありこれに従うのは相当でない。

2 前記一連の最高裁判所の判決は、公務員の地位の特殊性と職務の公共性に基づき、争議行為の全面一律禁止は合憲である旨判示している。右のうち昭和五二年五月四日の判決では、憲法上、公務員の勤務条件についてはその詳細、細目に至るまですべて立法府において法律の形で決定すべきものとし、財政にかかる金銭的勤務条件についても、その詳細・細目に至るまで立法府の予算、法律の形で決定すべきものとする、勤務条件法定主義、財政民主主義についての硬直した理解を示し、他方、団体交渉権についても労使による勤務条件の共同決定権という偏狭な理解をしたうえで、このような団体交渉権は右勤務条件法定主義、財政民主主義と二律背反になるものとして団体交渉権をことごとく否定し、更に、争議権は右のような労使の共同決定権としての団体交渉権の一環であるから、これまた、勤務条件法定主義、財政民主主義と相容れないとして、憲法上の保障の外に追いやつてしまうという論理構造をなしている。しかしながら、公務員の勤務条件は、法律の定める基準に従つて定められれば足り(憲法七三条四号によると勤務条件基準法定主義をとつていることは明らかである。)、すべて法律による必要はなく、また、財政民主主義についても、公務員の給与、退職金などの金銭的勤務条件については、国の財政にかかるものとして、大綱において予算、法律の形式で国会の議決を経ることが要求されるに過ぎず、すべて細目に至るまで国会が定めなければならないものではないし、右の意味での勤務条件基準法定主義、財政民主主義の要請と矛盾しない形での団体交渉権のあり方が憲法上存在しうるのであるから、右判決が示した勤務条件法定主義、財政民主主義なるものは、到底、公務員の争議行為を全面一律に禁止することを合憲とする根拠となりえない。

次に、昭和四八年四月二五日の判決の示した「公務員の職務の公共性」についてであるが、地方公務員の職務の性質・内容は、多種多様であり、公共性の極めて強いものから、私企業のそれとほとんど変わらないものまであるところ、かかる職務の多様性や公共性の強弱を何ら顧慮することなく、単に「職務の公共性」ということですべての地方公務員の争議行為を全面一律に禁止することは不合理というべきであち、「職務の公共性」は地公法三七条一項を合憲とする根拠となりえない。

更に、公務員などの公共部門労働者の労使関係についての国際的動向も公務員について争議権を保障するか、斡旋、仲裁、調停などの手続を整備する方向に向つている。

3 また、前記一連の最高裁判所の判決は、公務員の争議行為を禁止することがやむをえない場合には、これに見合う代償措置の存在が不可欠である旨判示しており、特に昭和五一年五月二一日の判決は、地方公務員の場合には人事委員会又は公平委員会の制度が設けられており、制度上代償措置としての一般的要件を満たしている旨判示しているが、代償措置の一般的要件は、ILOの示す国際的基準に沿つて解釈されるべきものである。そして、ILOの基準によれば、代償措置の一般的要件としては、代償機関が公平であること、代償措置は調停・仲裁手続でなければならず、しかも右手続のあらゆる段階において当事者が参加できること、代償機関の裁定は両当事者を拘束し、完全・迅速に実施されなければならないことなどが必要であつて、地公法の定める人事委員会、公平委員会が右基準の設定する要件を満たしていないことは明らかであり、到底争議権剥奪に見合う代償措置たりうるものではない。

(二)  地公法三七条一項は憲法九八条二項に違反する。

わが国が昭和四〇年に批准したILO八七号条約は、昭和二三年の採択の際には、争議権とは関係がないという了解のもとに採択されたが、その後の結社の自由委員会、実情調査調停委員会、条約勧告適用専門家委員会の解釈によつて、今日では争議権と関連を持つ条約であるとする見解が支配的見解として確立されるに至つている。すなわち、ILOの右諸機関は、争議行為の一般的禁止は、同条約三条及び八条二項に違反するものとし、争議行為の禁止が許容されるのは、公権力の行使を担当する機関としての資格で行動する公務員及び不可欠な業務に従事する労働者に限られるものとする見解をとつており、また、その争議行為を禁止する場合には、その代償措置を講ずべきものとする見解をとつている。この見解は、ILO条約の遵守を確保するための監視・統制機構がILO条約についての国際的に統一された解釈を示したもので極めて権威の高い公正な見解であること、そこには多年にわたる多数の見解の積み重ねを通じて判例法ともいうべきものが形成されており、いまやILOの確立した解釈となつていてそれ自体が国際労働法の法源の一つと認められるに至つていることからすれば、わが国内において、裁判所がILO八七号条約と地公法三七条との抵触関係を審査する場合、あるいはその前提として同条約の解釈を行う場合においても、ILOの右諸機関の解釈・判断を尊重し、これにそつた解釈・判断を行うべきである。そうだとすれば、地公法三七条は争議行為禁止の公務員の範囲を前記のとおり限定することなく、特に教職員を含めている点において、また、地公法の定める人事委員会、公平委員会の制度が争議行為禁止の代償措置たりえない点において、ILO八七号条約に違反しており、憲法九八条二項に違反した無効の規定であるといわなければならない。

(三)  地公法三七条一項が仮に合憲であるとしても、そのためには、同条項は憲法上特に禁止できる特定の公務員の特定の争議行為のみを対象としているのであり、それ以外の争議行為、すなわちその争議行為について何らの制限を許さないような職場の公務員の争議行為及びその争議行為について何らかの制限は許すが禁止することまでは許さないような職務の公務員の争議行為は禁止の対象としていないと限定的に解釈しなければならない。

教職員は教育というその職務の特殊性から、争議行為のための職務の一時的中断による影響についても例えば授業の遅れは各教員による必要な調整により年間教育への影響はほとんどない状態にすることができ、また、日常の教育活動の実態に照らせばストライキによるその他の教育活動への支障はほとんどない。したがつて、教職員の争議行為は国民の生存権的利益や国民生活について重大な障害を招くものではなく禁止の対象となるものではないと解釈すべきである。

(四)  地公法三七条一項が合憲であるためには、地公法の定める人事委員会や公平委員会の制度等が地方公務員の争議行為を禁止するための代償措置として適正に整備されたものであることが前提となるのであるから、仮に公務員に対する争議行為の全面一律の禁止が制度的には合憲であるとの主張を前提としても当該代償措置が機能を喪失していたり、あるいは真に十分に機能していなかつたという異常な事態の下では実質的には右代償措置制度の存在は争議行為を禁止する根拠とはなりえないというべきであるから、かかる事態の下でなされた争議行為に対し、地公法三七条一項を適用して不利益制裁を課すことは、憲法二八条との関連で適用違憲の問題を生じる。本件各争議行為時は昭和三五年から昭和四四年に至るまで一〇年間人事院勧告の実施時期が値切られており、代償措置が機能を喪失したかもしくは真に十分に機能していない状態にあつた(人事院勧告は国家公務員に向けられたものであるが、地方公務員の場合も現実的には人事院勧告に準じて実施されているから代償措置が機能しているかどうかは人事院勧告を政府が完全実施しているかどうかを論ずれば足りるものである。)。したがつてこのように人事院勧告が完全に実施されていない状況下において、その完全実施を求めて行われた本件各争議行為は、いわば前述のように代償措置が機能を喪失したか若しくは真に十分に機能していない法的状況のもとに行われた争議行為であるというべきであるから、これに対し地公法三七条一項を適用し、不利益制裁としての本件各処分を課すことは適用上憲法二八条に違反するものといわなければならない。

(五)  本件各処分は懲戒権を濫用したものである。

地方公務員に対する懲戒処分は、公務員の義務違反に対して、その使用者である行政当局が、公務員法上の秩序を維持するため、使用者として行う制裁であるが、憲法二八条は原則として公務員にも適用されるのであるから、たとえ公務員に対する争議行為の禁止が合憲であるとしても右禁止違反に課される制裁は労働基本権の人権性に照らし必要最少限度にとどめられるべきことは当然の要請といわなければならない。したがつて行政当局が禁止違反の争議行為に対し、裁量権を行使して懲戒処分を行うに当たつては、当該争議行為の目的、手段、方法、結果、その及ぼす影響等、右争議行為をめぐる諸般の事情を考慮して、懲戒処分を必要最少限度の範囲にとどめるべきであつて(必要最少限度の原則)右裁量権の範囲を越えてなされた処分は、裁量権の濫用として違法を免れない。

本件各争議行為は、いずれも人事院勧告の完全実施という正当な目的の下に公務員共闘の全国的な統一賃金闘争の一環として日教組がこれに参加する形で行われたものであるが、当時の教職員の賃金及び生活実態に照らしその要求は最少限のものであり極めて当然な要求であつた。また、本件各争議行為はその手段、態様においていずれも三〇分から一時間三〇分という短時間の職場放棄に止まり授業に与える影響も少なく、更に、本件各争議行為は何らの事前接渉なく、いきなり争議行為に及んだというものではなく、日教組において事前に再三再四、対政府・文部省・人事院交渉を行い、争議行為回避の努力を十分重ねたにもかかわらず、誠意ある回答が全く得られなかつたため、やむなく行われたものである。

これに対して、本件各処分は、争議行為の時間の長短、結果、影響、参加者の参加態様などの諸事情を一切考慮することなく、すべての争議行為のすべての参加者に対して一律に機械的になされ、かつ、同一人に対し処分を重ねる毎に機械的に処分の程度を一ランクずつあげて行くといういわば機械的な「累犯」加重方式がとられている。しかも本件各処分には必ず昇給延伸が伴つており、日教組その他の公務員労働組合の争議行為に対する他の処分状況と比べても、著しく苛酷な処分となつている。殊に、本件各争議行為に関して、同じ福岡県の地方公務員である知事部局の職員については単純参加者が処分の対象とされておらず本件各処分はこれとの間に著しく権衡を失しており、これらの点から考えると本件各処分は専ら福教組北九州支部の組織破壊の意図をもつてなされたものというほかはない。以上諸般の事情を考慮すれば、本件各処分は、懲戒権の裁量の範囲を著しく逸脱、あるいはこれを濫用したものとして違法であるというべきである。

六  原告らの主張に対する被告の答弁

全部争う。

第三証拠関係<略>

理由

一  請求原因、(一)、(二)の各事実と被告の主張(一)ないし(五)の各1の事実(本件各闘争における組合側の取り組み)、同各2の事実(当局側の対応)については当事者間に争いがない。

二  原告らの違法行為について判断する。

(一)  一〇・八闘争における違法行為

1  原告島田二男について

同原告は、一〇・八闘争当時、福教組本部執行副委員長であつて、日教組大会代議員及び中央委員を兼ねることができる地位にあつたほか、右本部執行委員長の職務執行に当たりこれを補佐し、同委員長に事故あるときはその職務を代行する地位にあり、また右本部執行委員会の構成員でもあつたが、右闘争に際し、次のような行為をしたことは、当事者間に争いがない。

(1) 昭和四三年五月上旬ころ開催された福教組本部執行委員会に出席し、公務員共闘の第九次賃金闘争方針に基づき、閣議決定期(一〇月ころを目途)に予定されている官公労の全国統一ストライキに積極的に参加する方針を同委員会が決定することに関与した。

(2) 五月二五日から二七日まで開催された第三一回福教組定期大会において、右方針に従い争議行為を行う旨の議案を提出したところ、同大会において右議案が可決成立した。

(3) 五月二九日、七月一三日及び八月一九日に開催された日教組全国戦術会議に福教組の代表として出席し、「賃金闘争の具体的構想」と題する三次にわたる職場討議案の審議及び作成に参画し、これを福教組傘下の各組合員に配布して下部討議に付し、スト態勢整備のための組合員の意思の結集を図つた。

(4) 九月一三日開催された福教組本部執行委員会に出席し、同委員会が一〇月八日の公務員共闘の全国統一ストライキに参加することの再確認及びその具体的戦術の討議、決定をすることに関与し、更に、右九月一三日開催された支部長会において各支部長に対し、指示第二二号と題する文書をもつて、次のとおり指示した。

ア 各支部は、九月二〇日までに分闘長会を開催し、今次賃金闘争の意義と一〇・八統一実力行使までの具体的行動についての意思統一を行つた後、直ちに分会会議を開き、指示事項の徹底を期し闘争態勢を強化すること。

イ 組合側の行動の正当性を認めさせるため、九月二〇日から三〇日までの間、各支部は地教委及び出張所長との交渉を強化し、また、各分会は分会員全員による校長交渉を強化すること。

ウ 各支部は、九月二一日から二七日までの間に実力行使目標及び一〇・八統一実力行使についての賛否の全員投票を行い、その結果を九月二八日に福教組本部に報告すること。

2  福教組北九州支部の役員であつた原告らについて

別紙第三の組合役職等目録の「43・10・8」とある項に「支部長」、「副支部長」。「支部書記長」、「支部執行委員」と記載のある原告らは、一〇・八闘争当時右各組合役職にあり、定められた福教組北九州支部の職務を担当し、右闘争に際し、次のような行為をしたことは、当事者間に争いがない。

(1) 原告田中勝美は、支部長会の構成員であり、昭和四三年九月一三日、福教組本部執行委員長古賀藤久の招集によつて開催された支部長会に出席し、福教組本部の前記指示第二二号について討議し、同会が一〇・八闘争の具体的戦術を協議、決定することに関与した。

(2) 原告田中勝美を含む右原告らは、福教組本部の指示に従い、九月一四日から二〇日までの間に福教組北九州支部において分闘長会を開催し、各分闘長に対して一〇・八闘争の意義及び具体的戦術について説明するとともに、分会会議を開催して各組合員に対し前記指示第二二号の趣旨を徹底させるよう指示した。

(3) 右原告らは、福教組本部の指示に従い、九月二〇日から三〇日までの間、管下組合員多数を動員して被告の庁舎に行き、次に述べるような要求事項について文書による回答を求めるなどして福教組北九州支部のスト態勢の確立に努め、これらの交渉の結果を一〇月二日福教組本部に報告した。

ア 政府に対し、組合側の要求の正当性を認めて、人事院勧告の完全実施(五月実施)及び地方公務員給与改訂財源の国家による保障並びに超勤手当制度の実施をするよう要求した打電をすること。

イ 組合側の要求を政府が認めない場合に発動する一〇・八統一実力行使は正当なものであり、これに対し、当局側は業務命令による弾圧を行わないこと。

(4) 右原告らは、福教組本部の指示に従い、九月二〇日から三〇日までの間に管下各分会に対し、分会員全員による校長交渉を行い、その際、被告に対してなしたと同様の要求事項について、分会員全員の署名捺印のある要求書を校長に提出して文書による回答を要求することなどを指示し、各分会のスト態勢の確立に努め、各分闘長をして交渉の結果を一〇月二日に支部長あて報告させた。

(5) 右原告らは、福教組本部の指示に従い、九月二一日から二七日までの間に各分会ごとに分会会議を開かせて、一〇・八闘争の批准投票を行わせ、その投票用紙をとりまとめて九月二八日に福教組本部に提出した。

(6) 右原告らは、福教組本部の指示に従い、一〇月四日までに管下各分会の始業時刻、授業終了時刻及び退庁時刻を掌握したうえ、一〇月八日当日の要求貫徹集会の実施計画を樹立し、一〇月五日に分闘長会を招集して当該実施計画を周知徹底させること及び同日分会長は分会全員の休暇届をとりまとめて退庁時に校長に対して一括提出することを指示した。

(7) 右原告らは、一〇月八日のスト当日、福教組本部の指示により、点検班を管下各分会に配置して各組合員のスト参加状況を点検させ、脱落者の防止と説得に当たらせるとともに地域公務員共闘と共同して要求貫徹集会を開催し、当日の参加状況を福教組本部に報告した。

3  組合専従を除くその余の原告らの行為について

別紙第一の原告及び処分目録「勤務校及び職名」欄の「43・10・8」とある項に記載のある原告らのうち別紙第三の組合役職等目録の「43・10・8」とある項に組合専従と記載されている者を除くその余の原告らは、いずれも昭和四三年一〇月八日校長の承認を得ることなく、当日の勤務開始時刻からおおむね一時間職場を離脱して、争議行為に参加したことは、当事者間に争いがない。

(二)  七・一〇闘争における違法行為

1  原告島田二男、同籔田保昭について

七・一〇闘争当時、原告島田二男は福教組本部執行副委員長、原告籔田保昭は同本部執行委員で いずれも右本部執行委員会の構成員であつたが、右原告両名は、右闘争に際し、次のような行為をしたことは、当事者間に争いがない。

(1) 昭和四四年三月上旬ころ開催された福教組本部執行委員会に出席し、公務員共闘の第一〇次賃金闘争方針第一次草案に基づき、人事院勧告の完全実施をめぐる闘争の重要時点に予定されている官公労の全国統一ストライキに積極的に参加する方針を同委員会が決定することに関与した。

(2) 三月中旬ころ、同方針に従い、右ストライキの時期を七月中旬の人事院勧告時期とする日教組中央委員会の三月五、六日付決定に係る「第一次職場討議案」を福教組傘下の各組合員に配布して下部討議に対し、スト態勢整備のための組合員の意思の結集を図つた。

(3) 五月二七日から二九日まで開催された福教組第三三回定期大会において、右方針に従い争議行為を行う旨の議案を提出したところ、右議案は同大会において可決成立した。

(4) 六月中旬ころ、「七・一〇全国統一実力行使について」と題する五月二九日付日教組第二次職場討議案を福教組傘下の各組合員に配布して下部討議に付し、スト態勢整備のための組合員の意思の結集を図つた。

(5) 六月二五日開催された福教組本部執行委員会に出席し、同委員会が七月一〇日の公務員共闘の全国統一ストライキに参加することの再確認及びその具体的戦術の討議、決定をすることに関与し、更に、右六月二五日開催された支部長会において各支部長に対し、指示第四三号と題する文書をもつて次のとおり指示した。

ア 今次賃金闘争は、国会における大学臨時措置法案、学校教育法一部改正案、地方公務員定年制法案等の粉砕及び福岡県教委の企図している学習指導要領伝達講習会の阻止等の目的と絡めて組まれるものであること。

イ 各支部は、全組合員の意思統一を図つてストへの完全突入態勢を整えるとともに、当該地域におけるオルグ活動を展開すること。

ウ 各分会員は、分会員四名につき一枚の割合で闘争宣言文を墨書し、これを校区内の目抜きの場所に貼付すること。

エ 各支部は、全組合員の意思統一を図る目的をもつて、オルグ活動を強化し、その結果を七月五日までに福教組本部に報告すること。

オ 前記目的の下に、全組合員は、七月一〇日、公務員共闘の全国統一ストライキとして勤務開始時刻から三〇分、市町村単位に開催される集会に参加すること。

このため、各分闘長は、七月九日、全分会員の意思を集約し、これを校長に口頭で通告すること。

2  福教組北九州支部の役員であつた原告らについて

別紙第三の組合役職等目録の「44・7・10」とある項に「支部長」、「副支部長」、「支部書記長」、「支部執行委員」と記載のある原告らは、七・一〇闘争当時右各組合役職にあり、定められた福教組北九州支部の職務を担当し、右闘争に際し、次のような行為をしたことは、当事者間に争いがない。

(1) 原告田中勝美は、支部長会の構成員であり、昭和四四年六月二五日、福教組本部執行委員長古賀藤久の招集によつて開催された支部長会に出席し、福教組本部の前記指示第四三号について討議し、同会が七・一〇闘争の具体的戦術を協議、決定することに関与した。

(2) 原告田中勝美を含む右原告らは、福教組本部の指示に従い、六月二六日以降、福教組北九州支部において分闘長会を開催し、各分闘長に対して七・一〇闘争の意義及び具体的戦術について説明するとともに、六月三〇日までに分会会議を開催して各組合員に対して前記指示第四三号の趣旨を徹底させるように指示した。

(3) 右原告らは、福教組本部の指示に従い、管下各分闘長に対し、七月二日から五日までの間に、当該地域に対するオルグ活動として、チラシを街頭宣伝及び戸別訪問により配布すること、闘争宣言文を分会員四名につき一枚の割合で墨書させ、これを当該校区内の目抜きの場所に貼付することなどを指示し、もつて右支部のスト態勢の確立に努めた。

(4) 右原告らは、福教組本部の指示に従い、七月一〇日当日の集会の実施計画を樹立した後、管下各分闘長に対し、七月九日に分会会議を開いて全分会員に当該実施計画を周知徹底させること及び七・一〇統一ストライキは全分会員の集約的意思の表明として決行されるものである旨を校長に対して口頭で通告することを指示した。

(5) 右原告らは、七月一〇日のスト当日、福教組本部の指示により、点検班を管下各分会に配置して各組合員のスト参加状況を点検させ、脱落者の防止と説得に当たらせるとともに、地域公務員共闘と共同して要求貫徹集会を開催し、当日の参加状況を福教組本部に報告した。

3  組合専従を除くその余の原告らについて

別紙第一の原告及び処分目録「勤務校及び職名」欄の「44・7・10」とある項に記載のある原告らのうち別紙第三の組合役職等目録の「44・7・10」とある項に組合専従と記載されている者を除くその余の原告らは、いずれも昭和四四年七月一〇日校長の承認を得ることなく、当日の勤務開始時刻からおおむね三〇分職場を離脱して、争議行為に参加したことは、当事者間に争いがない。

(三)  一一・一三闘争における違法行為

1  原告島田二男、同籔田保昭について

一一・一三闘争当時、原告島田二男は福教組本部執行副委員長、原告籔田保昭は同本部執行委員で、いずれも右本部執行委員会の構成員であつたが、右原告ら両名は、右闘争に際し、次のような行為をしたことは、当事者間に争いがない。

(1) 昭和四四年三月上旬ころ開催された福教組本部執行委員会に出席し、公務員共闘の第一〇次賃金闘争方針第一次草案に基づき、一〇月あるいは一一月に予定されている官公労の全国統一ストライキに積極的に参加する方針を同委員会が決定することに関与した。

(2) 五月二七日から二九日まで開催された第三三回福教組定期大会において、右方針に従い争議行為を行う旨の議案を提出したところ、右議案は同大会において可決成立した。

(3) 七月二五日及び九月一日、二日に開催された日教組全国戦術会議において決定された第三次及び第四次討議資料を福教組傘下の各組合員に配布して下部討議に付し、ストライキ態勢整備のための組合員の意思の結集を図つた。

(4) 一〇月三日開催された福教組本部執行委員会に出席し、同委員会が一一月一三日の公務員共闘の全国統一ストライキに参加することの再確認及びその具体的戦術の討議、決定をすることに関与し、更に、右一〇月三日開催された支部長会において各支部長に対し、指示第一六号と題する文書をもつて、次のとおり指示した。

ア 今次闘争は、人事院勧告の完全実施、安保条約廃棄、沖縄即時無条件全面返還及び福岡県教委のなした一〇・八闘争参加者に対する処分の撤回等の各要求を目的とするものであること。

イ 全組合員は、一一月一三日、公務員共闘の全国統一ストライキとして、当日の勤務開始時刻から一時間三〇分、市町村単位に組織される集会に参加すること。

ウ 公務員共闘の賃金要求が解決した場合にも、安保条約廃棄、沖縄即時無条件全面返還の各要求をかかげて、三〇分のストライキを行うこと。

エ 今次闘争を成功させるための前段闘争として、一〇・八処分撤回闘争を組織的に展開し、福岡県教委、同出張所、地教委及び校長に対する交渉を強力に推進すること。

(5) 一〇月一五日から一七日までの間、各支部単位に行われた批准投票において、各支部から送付された批准投票用紙を福教組本部に回収して開票し、その結果について、賛成率七六パーセントであつた旨を公表。

(6) そのころ、「わたくしたちは、賃金要求を実現するため、一一月一三日に勤務開始時から勤務時間一時間三〇分カツトにより、要求貫徹集会に参加するという日教組第三七回臨時大会の決定を守ります。なお、このたたかいは、全労働者の安保条約廃棄、沖縄即時無条件全面返還の要求闘争と結合してたたかいます。」との決意表明書を作成し、各支部長を通じて各分会長に配布し、「権力や一部反動分子のスト切りくずし」に対する対策として各分会ごとに分会員全員をして署名捺印させるよう指示した。

2  福教組北九州支部の役員であつた原告らについて

別紙第三の組合役職等目録の「44・11・13」とある項に「支部長」、「副支部長」、「支部書記長」、「支部執行委員」と記載のある原告らは、一一・一三闘争当時右各組合役職にあり、定められた福教組北九州支部の職務を担当し、右闘争に際し、次のような行為をしたことは、当事者間に争いがない。

(1) 原告田中勝美は、支部長会の構成員であり昭和四四年一〇月三日、福教組本部執行委員長古賀藤久の招集によつて開催された支部長会に出席し、福教組本部の前記指示第一六号について討議し、同会が一一・一三闘争の具体的戦術を協議、決定することに関与した。

(2) 原告田中勝美を含む右原告らは、福教組本部の指示に従い、一〇月六日から一一日までの間に、福教組北九州支部において分会長会を開催し、各分会長に対して一一・一三闘争の意義及び具体的戦術について説明するとともに、分会会議を開催して各組合員に対し前記指示第一六号の趣旨を徹底させるよう指示した。

(3) 右原告らは、福教組本部の指示に従い、一〇月一一日以降、福教組北九州支部、管下分会段階において一〇・八処分撤回闘争を組織的に展開し、管下組合員に対し、ストライキを理由とする処分の不当性、一一・一三闘争の正当性を教宣し、次のような行動をして右支部のスト態勢の確立に努めた。

ア 支部段階の闘争として、右支部組合員を動員して被告に対する集団交渉を要求し、「一〇・八闘争処分を早急に撤回すること」について文書による回答を一〇月二五日までの期限をつけて要求すること。当該期限までに満足な回答が得られない場合は、更に強力に交渉を推し進めること。

イ 分会段階の闘争として、管下各分会に対し、分会長を通じて分会員全員による校長交渉を行わしめ、校長に対し次に述べるような要求事項について文書による回答を一〇月二五日までの期限をつけて要求させた。

(ア) 被告に対して、一〇・八闘争に対する処分を早急に撤回するよう上申すること。

(イ) 市人事委員会に対して、早急に一〇・八闘争に対する処分事案の一括口頭公開審理を開くよう要請すること。

更に、当該期限までに満足な回答をしない校長に対しては、引き続き徹底した交渉を強力に推し進め、一一月に入つてからは分会長を通じて分会員全員による無言闘争等の抗議行動を行わせた。

(4) 右原告らは、福教組本部の指示に従い、一〇月一五日から一七日までの間に、北九州支部管下組合員の全員集会を開催し、一一・一三闘争の批准投票を行わしめ、投票用紙を一〇月一七日に福教組本部に提出した。

(5) 右原告らは、福教組本部の指示に従い、一〇月二一日の勤務時間終了後、一一・一三スト宣言及び反安保、沖縄闘争のための北九州支部の全員集会を総評、公務員共闘の全国統一行動として地域公務員共闘と共同して開催し、右集会において、参加者全員によるスト宣言を発せしめて意思の結集を図るとともに、被告に対する一〇・八闘争処分撤回の要求をなすことを提案して全員の賛同を促し、被告に対し同趣旨のハガキによる要求行動を行つた。

(6) 右原告らは、福教組本部の指示に従い、一〇月二一日から二五日にかけて、各分会ごとに傘下組合員をして、一一・一三ストに関する宣伝文書を街頭で配布させるとともに、闘争宣言文を各校区内の目抜きの場所に貼付させるなどして、スト態勢の確立に努めた。

(7) 右原告らは、福教組本部の指示に従い、一〇月二五日から三〇日までの間に、分会長会を開催し、各分会長に対し、各分会組織のスト態勢を点検し、前記(1)カの決意表明書に署名捺印させるよう指示して、スト態勢の整備に努めた。

(8) 右原告らは、福教組本部の指示に従い、一一月一〇日以降、支部書記局に常駐体制をとり、一一月一二日、被告に対し文書によるスト通告を行うとともに、管下各分会長に対し、分会会議を開催して全組合員に重ねてスト実施計画を徹底させたのち、校長に文書でスト通告を行うよう指示した。

(9) 右原告らは、一一月一三日のスト当日、福教組本部の指示により、北九州支部に設置した点検班を管下各分会に配置して、各組合員のスト参加状況を点検させ、脱落者の防止と説得に当たらせるとともに、要求貫徹集会を地域公務員共闘と共同して開催し、当日の参加状況を福教組本部に報告した。

3  組合専従を除くその余の原告らについて

別紙第一の原告及び処分目録「勤務校及び職名」欄の「44・11・13」とある項に記載のある原告らのうち別紙第三の組合役職等目録「44・11・13」とある項に組合専従と記載されている者を除くその余の原告らは、いずれも昭和四四年一一月一三日校長の承認を得ることなく、当日の勤務開始時刻からおおむね一時間三〇分職場を離脱して、争議行為に参加したことは、当事者間に争いがない。

(四)  五・二〇闘争における違法行為

1  原告島田二男、同籔田保昭について

五・二〇闘争当時、原告島田二男は福教組本部執行副委員長、原告籔田保昭は同本部執行委員で、いずれも右本部執行委員会の構成員であつたが、右原告ら両名は、右闘争に際し、次のような行為をしたことは、当事者間に争いがない。

(1) 昭和四六年二月下旬ころ開催された福教組本部執行委員会に出席し、日教組が公務員共闘による一九七一年賃金闘争の一環として教職特別措置法案の成立阻止等を目的として五月中旬に企図している早朝三〇分の全国統一ストライキに積極的に参加する方針を同委員会が決定することに関与した。

(2) 三月二日開催された第二一八回評議員会において、右方針に従い争議行為を行う旨の議案を提出したところ、右議案は、同会において可決成立した。

(3) そのころ、右方針に従い、教職特別措置法案に関する日教組第四次職場討議資料及び日教組教育新聞号外を福教組傘下の各組合員に配布して下部討議に付し、スト態勢整備のための組合員の意思の結集を図つた。

(4) 五月六日開催された福教組本部執行委員会に出席し、同委員会が本件闘争の具体的戦術の討議、決定をすることに関与し、更に、同日開催された支部長会において各支部長に対し、指示第三八号と題する文書をもつて、次のとおり指示した。

ア 本件闘争は、今国会に提出されている教職特別措置法案の成立を阻止することなどを目的として、大幅賃上げ等を要求する公務員共闘の全国統一ストライキに呼応して組まれるものであること。

イ 全組合員は、五月二〇日に日教組指令に基づき早朝三〇分の勤務時間カツトにより組織される集会に参加すること。

ウ スト態勢の確立を図るための諸行動とスト当日の具体的行動を措置すること。

2  福教組北九州支部の役員であつた原告らについて

別紙第三の組合役職等目録の「46・5・20」とある項に「支部長」、「副支部長」、「支部書記長」、「支部執行委員」と記載のある原告らは、五・二〇闘争当時右各組合役職にあり、定められた福教組北九州支部の職務を担当し、右闘争に際し、次のような行為をしたことは、当事者間に争いがない。

(1) 原告田中勝美は、支部長会の構成員であり、昭和四六年五月六日、福教組本部執行委員長古賀藤久の招集によつて開催された支部長会に出席し、福教組本部から提示された前記指示第三八号について討議し、同会が五・二〇闘争の具体的戦術を協議、決定することに関与した。

(2) 原告田中勝美を含む右原告らは、福教組本部の指示に従い、五月七日以降、北九州支部において分会長会を開催し、各分会長に対して右闘争の意義及び具体的戦術について説明するとともに、直ちに分会会議を開催して、各組合員に対して教職特別措置法案に対する理解を深め、国会情勢を的確に把握させるため、福教組本部が配布した職場討議資料等をもとに分会における学習活動を強化し、闘争態勢の確立を図るように指示した。

(3) 右原告らは、そのころ福教組本部の指示に従い、各分会長に対し、父母、一般大衆に対する宣伝活動として、情宣チラシを各分会において計画的に配布すること及び闘争宣言文を数部作成して、当該校区内の目抜きの場所に掲示することなどを指示し、もつて北九州支部のスト態勢の確立に努めた。

(4) 右原告らは、そのころ、福教組本部の指示に従い、五月二〇日当日の集会実施計画を樹立したのち、各分会長に対し、五月一九日に分会会議を開いて全分会員に当該実施計画を周知徹底させること及び五・二〇統一ストライキは全分会員の集約的意思の表明として決行されるものである旨を校長に対して通告することを指示した。

(5) 原告田中勝美は、五月一九日、各分会長を通じて全組合員に対し、「日教組委員長宮之原貞光の指令により、全組合員は、教職特別措置法案粉砕のため、五月二〇日早朝勤務時間三〇分カツトによる市町村単位の要求集会を組織し、参加せよ。」との指令を発した。

(6) 原告田中勝美を含む右原告らは、五月二〇日のスト当日、福教組本部の指示により、北九州支部に設定した点検班を各分会に配置して、各組合員のスト参加状況を点検させ、脱落者の防止と説得に当たらせるとともに、地域公務員共闘と共同して要求貫徹集会を開催し、当日の参加状況を福教組本部に報告した。

3  組合専従を除くこの余の原告らについて

別紙第一の原告及び処分目録「勤務校及び職名」欄の「46・5・20」とある項に記載のある原告らのうち別紙第三の組合役職等目録の「46・5・20」とある項に組合専従と記載されている者を除くその余の原告らは、いずれも昭和四六年五月二〇日校長の承認を得ることなく、当日の勤務開始時刻からおおむね三〇分職場を離脱して、争議行為に参加したことは、当事者間に争いがない。

(五)  七・一五闘争における違法行為

1  原告島田二男、同籔田保昭について

七・一五闘争当時、原告島田二男は福教組本部執行副委員長、原告籔田保昭は同本部執行委員で、いずれも右本部執行委員会の構成員であつたが、右原告ら両名は、右闘争に際し、次のような行為をしたことは、当事者間に争いがない。

(1) 昭和四五年一〇月ころから、労働基本権を確立し人事院勧告体制をうち被つてストライキを背景にした政府との団体交渉によつて賃金を決定することが一九七一年賃金闘争の課題である旨の日教組第一次職場討議資料を福教組傘下の各組合員に配布して下部討議に付し、スト態勢の準備に努めるとともに、一一月中旬ころ開催された福教組本部執行委員会に出席し、日教組が翌年七月中旬に企図している公務員共闘としての全国統一ストライキに積極的に参加する方針を同委員会が決定することに関与した。

(2) 昭和四六年二月ころ、右方針に従い、一九七一年賃金闘争の山場を七月下旬に予定する公務員共闘としての全国統一ストライキに置くことについての日教組第二次及び第三次職場討議案を福教組傘下の各組合員に配布して下部討議に付し、スト態勢整備のための組合員の意思の結集を図つた。

(3) 六月ころ、日教組の「七・一五公務員共闘統一ストと『教特法』実施に対するたたかい」と題する第五次職場討議資料を福教組傘下の各組合員に配布して下部討議に付し、組合員の意思の結集とスト態勢の確立を図つた。

(4) 三月二日開催された第二一八回評議員会及び七月三日から五日まで開催された福教組第三五回定期大会において、右方針に従い争議行為を行う旨の議案を提出したところ、右議案は右評議員会及び右大会においてそれぞれ可決成立した。

(5) 五月二二日及び七月七日に開催された福教組本部執行委員会に出席し、同委員会が七月一五日の公務員共闘の全国統一ストライキに参加することの再確認及びその具体的戦術の討議、決定をすることに関与し、更に、右七月八日開催された支部長会において各支部長に対し指示第一号と題する文書をもつて次のとおり指示した。

(ア) 本件闘争は、五・二〇ストの発展、公務員共闘の第二波統一ストライキとして組まれ、これを背景とする対政府・人事院交渉によつて賃金大幅引上げ等の要求の実現を図ることを目的とするものであること。

(イ) 右目的のもとに、全組合員は、七月一五日、公務員共闘の全国統一ストライキとして勤務開始時刻から三〇分、市町村単位に行われる要求貫徹集会に参加すること。

(ウ) スト態勢の確立を図るための諸行動とスト当日の具体的行動を措置すること。

2  福教組北九州支部の役員であつた原告らについて

別紙第三の組合役職等目録の「46・7・15」とある項に「支部長」、「副支部長」、「支部書記長」、「支部執行委員」と記載のある原告らは七・一五闘争当時右各組合役職にあり、定められた福教組北九州支部の職務を担当し、右闘争に際し、次のような行為をしたことは、当事者間に争いがない。

(1) 右原告らは、昭和四六年七月七日、支部執行委員会を開催し、同委員会が七月一五日の統一ストライキに参加することの確認及び七・一五闘争を成功させるための諸行動を決定することに関与した。

(2) 原告田中勝美は、支部長会の構成員であり、七月七日、福教組本部執行委員長古賀藤久の招集によつて開催された支部長会に出席し、福教組本部の前記指示第一号について討議し、同会が七・一五闘争の具体的戦術を協議、決定することに関与した。

(3) 原告田中勝美を含む右原告らは、福教組本部の指示に従い、七月九日、分会長会を開催し、各分会長に対して本件闘争の意義及び具体的戦術について説明するとともに、直ちに分会会議を開催し、各組合員に対して前記指示第一号の趣旨を徹底させるよう指示した。

(4) 右原告らは、福教組本部の指示に従い、各分会長に対し、父母、一般大衆に対する宣伝活動として、情宣チラシを各分会において計画的に配布すること及び闘争宣言文を作成して当該校区内の目抜きの場所に掲示することなどを指示し、もつて北九州支部のスト態勢の確立に努めた。

(5) 右原告らは、福教組本部の指示に従い、七月一二日の勤務時間終了後、全員集会を公務員共闘の全国統一行動として開催し、意思の結集を図つた。

(6) 右原告らは、福教組本部の指示に従い、そのころ、七月一五日当日の集会の実施計画を樹立したのち、各分会長に対し、七月一四日に分会会議を開いて全分会員に当該実施計画を周知徹底させること及び七・一五統一ストライキは全分会員の集約的意思の表明として決行されるものである旨を校長に対して通告することを指示した。

(7) 右原告らは、七月一五日のスト当日、福教組本部の指示により、北九州支部に設けた点検班を各分会に配置して各組合員のスト参加状況を点検させ、脱落者の防止と説得に当たらせるとともに、地域公務員共闘と共同して要求貫徹集会を開催し、当日の参加状況を福教組本部に報告した。

3  組合専従を除くその余の原告らについて

別紙第一の原告及び処分目録「勤務校及び職名」欄の「46・7・15」とある項に記載のある原告らのうち別紙第三の組合役職等目録の「46・7・15」とある項に組合専従と記載されている者を除くその余の原告らが、いずれも昭和四六年七月一五日校長の承認を得ることなく、当日の勤務開始時刻からおおむね三〇分職場を離脱して、争議行為に参加したことは、当事者間に争いがない。

(六)  前記(一)ないし(五)記載の原告らの各行為は、地公法三三条、三五条(ただし、三五条については組合専従の原告らを除く。)、三七条一項に違反し、同法二九条一項一号ないし三号(ただし、二号については組合専従の原告らを除く。)の懲戒事由に該当するものと判断すべきである。

三  原告らの主張に対する判断

(一)  地公法三七条一項が憲法二八条に違反するとの主張について

原告らは、一般職に属する非現業地方公務員について争議行為の全面一律禁止を定めた地公法三七条一項の規定が労働基本権を保障した憲法二八条に違反する旨主張するが、しかし、この点については、既に最高裁判所昭和五一年五月二一日大法廷判決(刑集三〇巻五号一一七八頁、「以下五・二一判決」という。)が、さきに非現業国家公務員の争議行為を全面一律に禁止した国家公務員法(昭和四〇年法律第六九号による改正前のもの)九八条五項の規定を憲法二八条に違反するものではないとした最高裁判所昭和四八年四月二五日大法廷判決(刑集二七巻四号五四七頁、以下「四・二五判決」という。)の法理を敷衍して、非現業地方公務員について、(1)地方公務員が地方公共団体の住民全体の奉仕者として実質的にはこれに対して労務提供義務を負うという特殊な地位を有し、かつ、その労務の内容は公務の遂行すなわち直接公共の利益のための活動の一環をなすという公共的性質を有するものであつて、地方公務員が争議行為に及ぶことは、右のようなその地位の特殊性と職務の公共性と相容れず、また、そのために公務の停廃を生じ、地方住民全体ないし国民全体の共同利益に重大な影響を及ぼすか、又はそのおそれがあること(地方公務員の地位の特殊性と職務の公共性)、(2)地方公務員の勤務条件が法律及び地方公共団体の議会の制定する条例によつて定められ、また、その給与が地方公共団体の税収等の財源によつてまかなわれるところから、専ら当該地方公共団体における政治的、財政的、社会的その他諸般の合理的な配慮によつて決定されなければならず、しかもその決定は議会の民主的な手続によつて決定されなければならないのであつて、私企業における労働者の場合のように団体交渉による労働条件の決定という方式がこの場合には当然には妥当せず、争議権も団体交渉の裏づけとしての本来の機能を発揮する余地に乏しく、かえつて議会における民主的手続によつてなされるべき勤務条件の決定に対して不当な圧力を加え、これをゆがめるおそれがあること(勤務条件法定主義、議会民主制)など憲法上の他の基本原理から地方公務員の労働基本権が合憲的に制約されることを前提としたうえ、(3)右制約に見合う代償措置として、地方公務員についても、(ア)地公法上、国家公務員の場合とほぼ同様な勤務条件に関する利益を保障する定めがなされている(給与について地公法二四条ないし二六条等)ほか、(イ)国家公務員の場合の人事院制度に対応するものとして、これと類似の性格をもち、かつ、これと同様の、又はこれに近い職務権限を有する人事委員会又は公平委員会の制度(同法七条ないし一二条)が設けられていることを挙げ、以上の諸点を総合的論拠として、非現業地方公務員の争議行為を全面一律に禁止した地公法三七条一項の規定が憲法二八条に違反しないことを明確に判示しているところであつて、その後も更に最高裁判所昭和五二年五月四日大法廷判決(刑集三一巻三号一八二頁、以下「五・四判決」という。)、同裁判所昭和五三年七月一八日第三小法廷判決(民集三二巻五号一〇三〇頁)、同裁判所昭和五六年四月九日第一小法廷判決(民集三五巻三号四七七頁)が前記四・二五、五・二一大法廷判決の趣旨に則り、現業国家公務員、公社その他の公共企業体職員の争議行為を全面一律に禁止した公共企業体等労働関係法一七条一項の規定について、これを合憲とする判断を相次いで示しており、それら一連の最高裁判所判決の趨勢に照らすと、公務員等の争議行為を全面一律に禁止する法律の規定を合憲とする判断はいまや判例として確立し、定着するに至つていると見るのが相当である。

しかる以上、審級制度を採る現行訴訟制度の下においては、最高裁判所の有する判例統一機能及び法的安定性を軽視することはできず、下級裁判所としては、最高裁判所の判例の趣旨に明らかに不合理な点があるなど特段の理由がない限り、同種の事案については右判例を尊重し、これに従わざるをえないというのが、審級制度から導き出される要請であると解すべきである。

原告らは、前記一連の最高裁判所大法廷判決を批判し、その採る公務員等の労働基本権に対する制約理論は、公務員等の地位の特殊性と職務の公共性、勤務条件法定主義、財政民主主義(議会民主制)について硬直した考えに立脚したもので、公務員等の労使関係についての国際的動向にも反しており、到底公務員等の労働基本権を制約する原理として十分な論拠たりえないし、また、最高裁判所の説くところの代償措置の制度も当事者の参加を認める調停、仲裁手続が欠如した不備なものであつて、公務員等の労働基本権に対する制約を合憲たらしめる制度としては極めて不十分である旨主張するが、これらの主張はそのほとんどが前記一連の最高裁判所の判例の形成過程においてこれに対する批判として論じられ検討されて来た問題であり、未だ右各判例の論拠を覆滅するに至る程の議論とは認め難い。したがつて、下級審たる当裁判所において、右判例を踏襲しないこととすべき特段の理由に当たるものとはなし難く、また、他に原告らの主張(その詳細は昭和五九年一二月四日付原告らの最終準備書面に記載)を仔細に検討しても右特段の理由の存することを見出しえない。

したがつて、地公法三七条一項の規定が憲法二八条に違反する旨の原告らの主張は採用できない。

(二)  地公法三七条一項が憲法九八条二項に違反するとの主張について

原告らは、地公法三七条一項はILO八七号条約やILOの諸機関の見解に反し、ひいては憲法九八条二項に違反する旨主張しているので、この点について判断する。

<証拠略>及び当裁判所に顕著な公刊されているILO関係の資料を総合すれば、次の事実が認められ、右認定を覆すに足りる証拠はない。

ILOはこれまでに労働基本権に関する条約として、一九四八年結社の自由及び団結権の保護に関する条約(ILO八七号条約)を採択して以来、一九四九年にILO九八号条約を、一九五七年ILO一〇五号条約を、一九七八年にILO一五一号条約をそれぞれ、採択し、また、そのほかにも多数の勧告を採択したり、各委員会等において多数の報告ないし決議等をなし、ユネスコとの合同委員会における最終報告をまとめているが、右諸活動により、ILOは八七号条約・九八号条約との関連において公務員の労働基本権につき、現在大要次のような見解を有している。

1  すべての労働者について全面的にストライキを禁止することは、組合員の利益を増進しかつ擁護するために(八七号条約一〇条)労働組合が活用しうる手段とその活動を組織する権利(同条約三条)に対する重大な制約となり、結社の自由の諸原則に違反し、ストライキを全面的に禁止する国内法令は同条約八条二項に違反するおそれがある(例えば、一九八三年条約勧告適用専門家委員会報告二〇五項)。

2  ストライキの禁止は公権力の機関として行為する公務員や国民全体若しくはその一部の生命、個人的安全ないし健康に対してその中断が危険をもたらす業務(不可欠業務)に限定すべきである。そして、この場合でもストライキを禁止される労働者の利益を保護するために、このような制約が適切公平かつ迅速な調停、仲裁手続による代償措置を伴ない、その手続においては、当事者があらゆる段階で参画でき、その裁定がすべてのケースにおいて両当事者を拘束し、裁定がいつたん下された場合には全面的かつ迅速に実施されなければならない(例えば、結社の自由委員会第二二二次報告一六四項、一九八三年条約勧告適用専門家委員会報告二一四項)。

3  公務員である教員についても、給与及び勤務条件は組合と当局の交渉の過程を経て決定されるものとし、その交渉あるいは勤務条件から生じた紛争の処理のため適切な合同機構が設けられるものとし、交渉が決裂した場合には、組合は正当な利益を守るために通常他の団体に開かれているような他の手段をとる権利を有するものとする(ILOユネスコ教員の地位に関する勧告八二ないし八四項)。

以上のようなILOの諸見解の趣旨に照らすと地公法三七条一項がこれにそわないことがうかがわれる。

しかし、憲法九八条二項によつて、わが国の国内法として法源性を認められるのは、「締結した条約」及び「確立された国際法規」であり、ここにいう「確立された国際法規」とは国際社会一般に承認され、実行されている不文の慣習国際法を指し、未批准の条約や勧告、報告等は、右の「締結した条約」に当たらないことはもとより、「確立された国際法規」にも該当しないと解すべきである。したがつてILO八七号条約は九八号条約とともにわが国において批准され、憲法九八条二項にいう「締結した条約」として国内法源性を有することは明らかであるが、右八七号条約はもともとストライキ権とは関係がないものとして採択され、批准されたものであり、九八号条約も仏文の正典によれば同条約六条の公務員の範囲につき特段の限定が付されていないのである。

たしかにILO諸機関の前記見解は右各条約の解釈に関する一つの公式見解となつていることは否めないとしても、それはあくまで政府に対し、ILO条約の趣旨にそつた国内法の整備を求めているに止まるものであつて、条約の解釈をめぐる疑義粉争について下される国際司法裁判所の最終判断(ILO憲章三七条一項・二項)とは異なり条約を解釈適用する際の法的拘束力ある基準として、法源性を有するに至つているとまでは解されない。

してみると右各条約殊に八七号条約に関するILO諸機関の前記見解に法源性を認め、これを前提として地公法三七条一項が憲法九八条二項に違反するとする原告らの主張は採用できない。

(三)  教職員の争議行為が地公法三七条一項で禁止する争議行為に当たらないとの主張について

原告らは、地公法三七条一項につき、同条項は憲法上特に禁止できる特定の公務員の特定の争議行為のみを対象とするもので、それ以外の公務員の争議行為は禁止の対象とはしていないとの限定解釈を施すべきであるところ、教職員は、その職務の特殊性から争議行為による一時的な授業の遅れも、各教員の必要な調整により年間教育への影響がほとんどない状態にすることができ、また、日常の教育活動への支障もほとんどなく、その争議行為が国民の生存権的利益や国民生活について重大な障害を招くおそれがないので禁止の対象となるものではない旨主張するが、前記五・二一判決はまさに教職員の争議行為に関する事案について判断を示したものであり、同判決をはじめ四・二五判決、五・四判決の趣旨からすると、地方・国家、現業・非現業を問わず、公務員はすべてその職種や争議行為の態様いかんにかかわりなく全面一律に争議行為を禁止され、そこには原告ら主張のような限定解釈を施すべき余地のないことは明白である。

したがつて、地公法三七条一項は、当然非現業地方公務員である教職員を含め全面一律にその争議行為を禁止しているものと解すべきであるから、原告らの右主張は採用できない。

(四)  代償措置が機能を喪失したか真に十分に機能していない状態にあつたとの主張について

争議権制約の代償措置は、争議行為を禁止されている公務員の利益を現実的に保障しようとする制度であつて、公務員の争議行為の禁止が違憲とされないための論理的前提をなすものというべきところ、前記五・二一判決の判示するように、非現業地方公務員に対する現行の代償措置は、制度上労働基本権の制限に見合う代償措置としての一般的要件を満たしているものと認められ、その限りにおいて地方公務員の争議行為を全面一律に禁止した地公法三七条一項を直ちに憲法二八条に違反するものとすることはできない。ただ右の代償措置は単に制度上一般的要件を満たしているというだけではなく、現実にも労働基本権制約の代償措置として十全とはいえないまでも、少くともその相応の機能を果しているといえることが必要であると解されるし、現に前記五・二一判決において二裁判官の補足意見が引用する四・二五判決の追加補足意見も指摘するように、その代償措置が本来の機能を果さず、実際上画餠にひとしいとみられる事態を生じた場合には、公務員がこの制度の正常な運用を要求して相当と認められる範囲を逸脱しない手段態様で争議行為に及んだとしても、これを直ちに違法視し、これに対して地公法三七条一項を適用して不利益制裁を課することは、憲法二八条との関係で適用違憲の問題を生じることが有りうると解される。

ところで、地方公務員の給与の引上げに関し、人事委員会は人事院の勧告とは無関係に独自の勧告を出すという仕組みになつておらず、人事院の勧告が出た後ほぼそれと同内容の勧告が人事委員会から出され、これに応じて条例が制定されるという現状になつていることは当裁判所に顕著であるので、以下本件各争議行為がおこなわれた当時までの人事院及び人事委員会の勧告適用の実態を眺めてみるに、<証拠略>を総合すれば、人事院は、昭和二九年から昭和三四年までの間は基本給与の改善勧告を全くしなかつたが、昭和三五年からは毎年基本給与の改善勧告が出されるようになり勧告の実施時期を除き、勧告どおり基本給与の改定がなされるようになり、本件各争議の行われた昭和四三年ないし昭和四六年に至つていること、また、勧告の実施時期についても、昭和三五年は人事院の五月実施という勧告に対し、一〇月実施であつたが、昭和三九年には九月、昭和四二年には八月、昭和四三年には七月、昭和四四年には六月と順次繰り上げ実施されるようになり、昭和四五年には勧告どおり五月に完全実施されるに至つたこと、市町村立学校の県費負担教職員については各都道府県の人事委員会が人事院とほぼ同内容の勧告をし、これが人事院勧告と同様な状況で実施され、福岡県もその例外ではなかつたことが認められ、右認定を覆すに足りる証拠はない。

右認定事実に従えば、本件各争議行為当時に至るまでの人事院等の勧告による公務員給与引上げの状況は、実施時期の点において勧告どおりの完全実施が行われず多少の遅れを見たものの、引上率の点では勧告どおりの実施が行われているのであつて、必ずしも十全とはいえないまでも、代償措置としてそれなりの機能は一応これを果しているものということができる。加うるに代償措置の制度としては、右の人事院等の給与引上げの勧告制度のみでなく、そのほかにも地方公務員は前述のように地公法上身分、任免、服務その他の勤務条件についてその利益保障を享受しているのであつて、この点も代償措置制度の一環をなすものであることを併せ考えると、現行の代償措置制度は本件各争議行為当時実際の運用上も相応の機能を果していたものといいうる。

原告らは現行の代償措置制度が地方公務員の争議権制約に見合う措置として実際の運用上その機能を全く喪失しているか不完全にしか機能していないとして、その機能回復を目的としてなされた本件各争議行為は違法でない旨主張するが 右主張はその前提を欠き失当といわなければならない。

(五)  本件各処分が懲戒権の濫用であるとの主張について

原告らは、本件各処分が懲戒権の濫用に該当する旨主張するので、この点につき判断する。

1  地方公務員に懲戒事由がある場合に、懲戒権者が当該公務員を懲戒処分に付すべきかどうか、また、懲戒処分としていかなる種類の処分を選択すべきかを決するについては公正でなければならない(地公法二七条)ことはもちろんであるが、懲戒権者は懲戒事由に該当すると認められる行為の原因、動機、性質、態様、結果、影響等のほか、諸般の事情を考慮して、これを決定できるのであつて、これらは懲戒権者の裁量に任されているものと解される。もとより、右の裁量が恣意にわたることをえないことは当然であるが、懲戒権者が右の裁量権の行使としてした懲戒処分は、それが社会観念上著しく妥当を欠いて裁量権を付与した目的を逸脱し、これを濫用したと認められる場合でない限り、その裁量権の範囲内にあるものとして違法とならないものというべきである(最高裁判所昭和五二年一二月二〇日第三小法廷判決・民集三一巻七号一一〇一頁参照)。

2(1)  これを本件についてみるに、本件各争議行為は前記認定のごとく、いずれも人事院勧告の完全実施等を目的として公務員共闘が行う全国的な統一賃金闘争に日教組が参加する形で行われたもので、原告らの行つた職場離脱の時間はおおむね三〇分から一時間三〇分という比較的短時間であり、また、原告らにおいて職務放棄による授業への影響を可及的最少限に止めるよう配慮した形跡がうかがわれないわけではないが、しかし、およそ教職にある公務員が明らかに法で禁止されている争議行為に及ぶということ自体の児童、生徒や父兄等に与える心理的影響には決して無視できないものがある。しかも本件は当局側において事前に争議行為に及ばないよう再三にわたり厳重に指導、警告しているのにもかかわらず、あえてこれを省みず争議行為に突入したものであり、そのほか本件各争議行為は毎回一万人を遥かに超える人員を動員して計画的、組織的にほぼ全県にわたつて展開されたもので、社会に与えた影響の少なからぬことを考慮すると原告らの責任は重大であるというべきであつて、その指導的役割を担つた者はもとより、単純参加者についてもこれを懲戒処分に付すことが著しく不相当であるとは到底認め難い。

(2) <証拠略>及び弁論の全趣旨並びに本件各処分の状況を総合すれば、被告は本件各処分に際し、単純参加一回につき戒告、二回につき減給一月を原則とし、離脱時間の短いことを軽減事由とし、組合役職者等指導的地位にあること(本部役員、支部三役)を加重事由としてこれに修正を加える懲戒基準の下に処分を行つたが、本件各処分を受けた原告らのうち単純参加者としての最高処分は減給一月で、組合役職者としてのそれは停職三月であり、従来の処分、他の任命権者の処分、他府県の処分に比しかなり重いといえる面の存すること、しかもこれらの処分には、すべて昇給延伸を伴うものであること、また、以前の争議行為においては処分の対象の範囲が主に指導的立場の組合幹部に限定してなされ、本件のように単純参加者を含めた大量処分がなされることは異例に属することが認められるが、しかし、本件各争議行為は前述のように計画的、組織的に傘下組合員である多数の教職員を動員して全県にわたり一斉に統一実力行使に突入したもので、その回数、規模、態様等において大々的なものがあり、児童、生徒や父兄延いては地域社会に与えた影響の少かなぬことを考慮すると、本件各処分は未だ社会観念上著しく裁量権の範囲を逸脱し妥当性を欠いた苛酷な処分であるともいい難い。その他、本件全証拠によるも、原告らの主張するように被告が本件各処分をするに際し、福教組北九州支部の組織を破壊する意図を有していたという事実も認めることはできない。

以上のとおり本件各処分を以て懲戒権を濫用した違法な処分であるとすることはできず、原告らの右主張も採用できない。

四  よつて、被告のなした本件各処分には違法な点がなく、右各処分の取消しを求める原告らの本訴各請求はいずれも理由がないから棄却することとし、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法七条、民訴法八九条、九三条一項本文を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 藤浦照生 草野芳郎 片岡勝行)

別紙<略>

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