福岡地方裁判所 昭和48年(行ウ)21号 判決
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【判旨】
五原告らは、地方公務員につき争議行為を一律全面的に禁止した地公法三七条一項及び地公労法一一条一項が勤労者に対し労働基本権を保障した憲法二八条に違反し無効である旨、仮に、地公法三七条一項及び地公労法一一条一項が憲法二八条に違反しないとしても、少なくとも憲法二八条に適合するように限定解釈がなされるべきである旨主張するので、この点につき判断する。
地公法三七条一項が、憲法二八条に違反せず、かつ、その合憲性につきいわゆる限定解釈がなされるべきではなく、地方公務員につき一切の争議行為を禁止しているものと解すべきことは、最高裁判所昭和五一年五月二一日大法廷判決(昭和四四年(あ)第一二七五号・刑集三〇巻五号一一七八頁)の判示するところであり、当裁判所も同様に解するところである。
また、地公労法一一条一項についても、右判決のほか、非現業国家公務員の争議行為を一律全面的に禁止した国家公務員法(昭和四〇年法律第六九号による改正前のもの)九八条五項が合憲であることを判示した最高裁判所昭和四八年四月二五日大法廷判決(昭和四三年(あ)第二七八〇号・刑集二七巻四号五四七頁)、現業国家公務員の争議行為を一律全面的に禁止した公共企業体等労働関係法一七条一項が合憲であることを判示した同裁判所昭和五二年五月四日大法廷判決(昭和四四年(あ)第二五七一号・刑集三一巻三号一八二頁)の趣旨に照らし、地公労法一一条一項は、憲法二八条に違反せず、かつ、その合憲性につきいわゆる限定解釈がなされるべきではなく、地方公営企業に勤務する一般職に属する地方公務員及び単純な労務に従事する一般職に属する地方公務員に対し一切の争議行為を禁止しているものと解するのが相当である。
すなわち、地方公営企業に勤務する一般職に属する地方公務員及び単純な労務に従事する一般職に属する地方公務員(以下両者を合わせて単に「職員」という。)も憲法二八条所定の勤労者にあたるが、職員は、地方公務員であるから、身分取扱い及び職務の性質・内容等において非現業の地方公務員と多少異なる点があつても、全体の奉仕者として地方の住民全体に対し労務提供の義務を負い、公共の利益のため勤務するものである点において両者間に基本的な相違はなく、職員が争議行為に及ぶことは、その地位の特殊性及び職務の公共性と相容れないばかりでなく、多かれ少なかれ公務の停廃をもたらし、その停廃が住民全体の共同利益に重大な影響を及ぼすか又はそのおそれがあることは、他の非現業の地方公務員、国家公務員及びいわゆる三公社五現業の職員の場合と異なるところがない。そして、職員は、非現業の地方公務員と同様に議会制民主主義に基づく財政民主主義の原則により給与その他の勤務条件が法律ないし地方議会の定める条例、予算で決定される特殊な地位にあり、職員に団体交渉権、労働協約締結権を保障する地公労法も条例、予算その他地方議会による制約を認めている(地方公営企業法三八条四項、地公労法八条ないし一〇条等)。また、職員の職務内容は、利潤追求を本来の目的としておらず、その争議行為に対しては、私企業におけると異なり使用者側からの対抗手段を欠き(地公労法一一条二項)、経営悪化といつた面からの制約がないだけでなく、いわゆる市場の抑制力も働らく余地がないため、職員の争議行為は、適正に勤務条件を決定する機能を果たすことができず、かえつて議会において民主的に行われるべき勤務条件決定に対し不当な圧力となり、その手続過程をゆがめるおそれもある。したがつて、職員の争議行為がこれら職員の地位の特殊性と住民ないし国民全体の共同利益の保障の見地から、法律により私企業におけるそれと異なる制約に服すべきものとされるのもやむを得ないといわねばならない。しかし、一方、職員が憲法によりその労働基本権を保障されている以上、この保障と住民ないし国民全体の共同利益の擁護との間に均衡が保たれることを必要とすることは憲法の趣意であると解されるから、その労働基本権の一部である争議権を禁止するにあたつては、これに代わる相応の代償措置が講じられなければならないところ、現行法制をみるに、職員は、地方公務員として法律上その身分の保障をうけ、給与については生計費、同一又は類似の職種の国及び地方公共団体の職員並びに民間企業の従事者の給与その他の事情を考慮して条例で定めなければならない(地方公営企業法三八条三項、四項)とされている。そして、特に地公労法は、当局と職員との間の紛争につき、労働委員会によるあつ旋、調停、仲裁の制度を設け、その一六条一項本文において、「仲裁裁定に対しては、当事者は、双方とも最終的決定としてこれに服従しなければならず、また、地方公共団体の長は、当該仲裁裁定が実施されるように、できる限り努力しなければならない。」と定め、更に同項但書は、当局の予算上又は資金上、不可能な資金の支出を内容とする仲裁裁定については、一〇条を準用して、これを地方公共団体の議会に付議して、議会の最終決定に委ねることにしている。これらは、職員ないし組合に労働協約締結権を含む団体交渉権を認めながら、争議権を否定する場合の代償措置として、適正に整備されたものということができ、職員の生存権擁護のための配慮に欠けるところはないというべきである。
したがつて、地公法三七条一項及び地公労法一一条一項は、職員に対し争議行為を一律全面的に禁止しているけれども、憲法二八条に違反せず、かつ、その合憲性につき限定解釈をなすべきものではなく、また、本件争議行為はその態様からみて地公法三七条一項及び地公法一一条一項で禁止されている争議行為に該当することが明らかであるから、原告らの右主張は採用することができない。
六原告らは、集団的労働関係における争議行為に対して、地公法二九条による懲戒処分をすることは許されない旨主張する。しかし、争議行為が集団的行為であるからといつて、その集団性のゆえに争議行為参加者個人の行為としての面が当然に失われるものではないから、地公労法一一条及び地公法三七条違反者に対して、地公法三〇条以下の服務規律を適用して同法二九条一項に基づく懲戒処分を行うことは許されるものというべきである(最高裁判所昭和五一年(行ツ)第七号昭和五三年七月一八日第三小法廷判決・民集三二巻五号一〇三〇頁参照)。
七原告らは、本件各処分が懲戒権の濫用に該当する旨主張するので、この点につき判断する。
地方公務員につき、地公法に定められた懲戒事由がある場合に、懲戒処分を行うかどうか、懲戒処分を行うときにいかなる処分を選ぶかは、原則として懲戒権者の裁量に任されており、懲戒権者が右裁量権の行使としてした懲戒処分は、それが社会観念上著しく妥当を欠いて裁量権を付与した目的を逸脱し、これを濫用したと認められる場合でない限り、その裁量権の範囲内にあるものとして、違法とならないものというべきである(最高裁判所昭和四七年(行ツ)第五二号昭和五二年一二月二〇日第三小法廷判決・民集三一巻七号一一〇一頁参照)。
これを本件についてみるに、本件争議行為は短時間のものであるけれども、反戦、軍事基地・自衛隊反対という政治的課題を主たる目的として自治労が企画した全国統一行動に呼応し、市議労独自の賃金要求をも掲げて、ほぼ全市的に多数の職員が参加してなされたものであり、前記判示のとおり、原告らは、本件争議行為の準備や実施について積極的役割を果たしたものであることのほか、本件争議行為当時の原告らの組合役職及び本件各処分の程度等を考慮すると、原告らに対する本件各処分が、社会通念上著しく妥当を欠き裁量権を濫用したものということはできないから、原告らの懲役権濫用の主張は採用することができない。
(辻忠雄 草野芳郎 松本光一郎)