福岡地方裁判所 昭和49年(ワ)1176号
原告
児玉輝男
原告
田和大志
原告
片岡勉
右原告ら訴訟代理人弁護士
木梨芳繁
被告
株式会社セガ、エンタープライゼス
右代表者代表取締役
ハリー・エム・ケーン
右訴訟代理人弁護士
中川康生
(ほか三名)
主文
原告片岡勉が被告に対し労働契約上の権利を有する地位にあることを確認する。
原告児玉輝男、同田和大志の請求はいずれも棄却する。
訴訟費用中、原告児玉輝男、同田和大志と被告との間に生じたものは同原告らの負担とし、原告片岡勉と被告との間に生じたものは被告の負担とする。
事実
第一当事者の求めた裁判
一 請求の趣旨
原告らが被告に対し労働契約上の権利を有する地位にあることを確認する。
訴訟費用は被告の負担とする。
二 請求の趣旨に対する答弁
1 原告らの請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告らの負担とする。
第二当事者の主張
一 請求原因
1 被告は娯楽機械の製造、販売、賃貸、輸出入及びアミューズメントセンター、スポーツセンターの経営を営業目的とする外資系の会社であり、営業関係の組織は昭和四九年五月当時、直営本部、事業本部、販売本部の三つに分れ、その外本社と直結する支店が大阪、福岡の二ケ所にある。
事業本部の下に営業部とサービス部があり、更に営業部は日本全国一〇の地区(中国、北九州地区もその一)に分けられ、原告児玉は昭和四八年五月一日より営業部中国北九州地区の部長、同田和は同日より右児玉の直属の部下として営業部福岡営業所長の地位にあり、同片岡は同年四月一日より博多支店アミューズメント係長として勤務していたものである。(同人の直属の上司は訴外小川次男支店長で昭和四九年五月一日退職)
2 被告は同月二八日、原告ら三名に対し、同月三一日付をもって懲戒解雇処分(以下本件処分という)に付する旨の意思表示をした。
3 しかし右処分は後記の理由により無効で原告らは被告に対し労働契約上の権利を有する地位にあるからその確認を求める。
二 請求の原因に対する被告の認否並びに抗弁
1 請求原因1、2の事実はすべて認める。
2 右3の主張は争う。
3 抗弁
(一) 本件処分に至る経緯
昭和四九年三月、被告従業員によって構成されている全国金属同盟東京地方本部セガ、エンタープライゼス支部(以下単にエンタープライゼス支部という)は被告事業部長渡辺雄三郎に対し、原告ら福岡地区在勤の幹部が内職として会社の事業と競合する娯楽機械の賃貸をなし部下の組合員たる従業員を私的に使用していること、正規の集金伝票と酷似する伝票を偽造し使用していること、その他数々の不正事実を報告しその偽造伝票を提示し直ちに調査するよう申入れたので、被告は渡辺事業本部長、西倉紀一労務部長らを福岡に派遣し、原告らおよび関係人らと面談の上、事情を聴収した結果、その不正事実を確認した。しかるに原告らには反省の色が全くなく、その行為は重大な服務規律違反であって、情状酌量の余地がないと判断されたので、被告は企業秩序維持の必要上就業規則第四四条第一項規定の制裁方法のうち懲戒解雇を選択し、原告らをいずれも懲戒解雇にすることとし、同年五月三一日福岡労働基準監督署長に解雇予告除外認定の申請を申立てる一方、同月二八日付で原告らに対し同月三一日付をもって、本件処分に付する旨の意思表示をした。
(二) 原告らの解雇事由
(1) 原告児玉についての解雇事由
イ 同人は北九州地区における最高責任者で、被告の信用を害する行為は絶対許されない地位にありながら、昭和四八年七月頃から原告田和らと共謀の上、被告の名称入りの被告集金伝票と酷似する集金伝票(以下私製伝票、又は偽造伝票という)を偽造し、これを元被告の従業員であった下川裕一、世利国寿らに使用させ、原告児玉自ら所有する娯楽機械の集金に使用し、顧客に対しその娯楽機械が被告の機械であるかの如き印象を与えて被告の信用を害したが、その行為は就業規則第四三条第六項(職務権限を超えて専断的行為をなし、会社の名誉信用を傷つけたとき)に該当する。同人は偽造集金伝票作成にあたっては首謀的役割を果たし、その地位からみても義務違反は極めて重大で、それのみによっても懲戒解雇に価する。
ロ 原告児玉は前記地位を利用して、西日本スポーツセンターその他に自己所有の娯楽機械(ペリスコープ、スキルデイガ等)を賃貸のため設置し、部下の宮尾公一、緒方正憲らをして前記偽造集金伝票を使用せしめて賃料を集金し、被告の事業と競合する行為をしながら私利を図ったが、その行為は就業規則第四三条第一一項(職務上の地位を利用して私利を図った)に該当する。
ハ 原告児玉は、昭和四八年九月一二日から同月一八日までの間、福岡箱崎神宮で開催された放生会の際被告の娯楽機械の賃料を総売上高の六〇パーセントと約定して他に賃貸したところ、総売上高は金一三〇万円以上となったので、被告の利益として金七八万円を入金すべきところ、金五八万五、二八〇円を入金しただけで、その差額を着服横領し、その使途を不明のまゝとしたが、その行為は前記就業規則第四三条第一一項または同第五項(許可なく会社の物品金銭重要書類等を持ち出し、または持ち出そうとしたとき)に該当する。
(2) 原告田和についての解雇事由
イ 同人は昭和四八年七月頃から上司原告児玉らと共謀の上、前記私製伝票を偽造し、これを元被告の従業員であった下川裕一、同世利国寿らに使用させ、または自らもこれを使用し、顧客には真実の売上高を記載した偽造伝票を渡し、被告備付けの真正集金伝票には虚偽の売上高を記入するなどして入金操作をしたが、その行為は越権行為により被告の権利義務に関する文書の信用ひいては会社の名誉および信用を傷つけたもので前記同様就業規則第四三条第六項に該当する。
ロ 原告田和は株式会社岡本製作所に販売した娯楽機械(コンピューター)の修理を同年一二月同社より依頼されて修理し、その際被告に入金されるべき修理代金五万円を原告片岡とともに着服横領したがその行為は前記就業規則第四三条第一一項または同第五項に該当し、犯罪を構成するので同第四三条第一二項(窃盗その他刑事犯として起訴されたとき)または同第一四項(その他前各号に準ずる行為あったとき)に該当する。
ハ 原告田和は昭和四九年二月二四日(日曜日)業務外で許可なく岡本製作所に販売した娯楽機械(フリッパー)二台を被告のトラックを使用して、部下の松本治隆に博多支店の二階倉庫から佐賀県伊万里の玉屋まで運搬させ、岡本製作所より金三万円を受領し、そのうち金一万円を松本に渡したがその行為は前記就業規則第四三条第一一項および同第五項に該当する。
ニ 原告田和は昭和四八年一〇月末頃自らが神戸の森武司より購入した娯楽機械(ニューペニーホールス)一台を同業者の世利国寿に売却し、七隈のファミリーレーンに設置したが、その際機械の運搬を原告片岡及び加藤信一郎の両名にさせ、その後世利の右機械に被告のマスターロックを取り付けた上、その集金を偽造伝票を使用して原告田和が世利のため行い、又被告が長垂ビーチボールに賃貸中の娯楽機械の集金を世利にやらせるなどして職務の遂行を完うしなかった。
その行為は前記就業規則第四三条第一一項及び同第一三項(第四〇条の服務心得に違背したとき)に該当する。
(3) 原告片岡についての解雇事由
イ 同人は昭和四八年七月頃から原告児玉らと共謀の上、前記私製伝票を偽造して自ら使用し、又は他人に使用させたが、右の行為は前記のとおり就業規則第四三条第六項に該当する。
ロ 前記(2)ロと同じく原告田和とともに金五万円を着服横領したが、これも就業規則第四三条第一一項又は同第五項に該当する。
ハ 原告片岡は自己所有の娯楽機械(福岡市内スナック「ユキ」設置のジュークボックス、井尻ワールドボール設置のスピードホッケー)の使用料(賃料)をサービスマンの寺本弘造を使用して偽造伝票により、前者については同年一二月、後者については同年一一月中旬からそれぞれ集金させて私利を図ったものであるが、その行為は前記就業規則第四三条第一一項に該当する。
三 抗弁に対する原告らの認否並びに再抗弁
1 抗弁に対する認否
(一) 抗弁(一)の事実中、渡辺事業部長、西倉労務部長らが福岡において原告らと面談し、事情聴取したこと、被告が原告らを本件処分にするとの意思表示をしたことは認めるが、その余は不知。
(二) 原告児玉について
抗弁(二)(1)イの事実中、同人が北九州地区における最高責任者であること、偽造伝票が存在したことは認めるが、その余は否認する。
(二)(1)ロの事実中、原告児玉が西日本スポーツセンターその他に自己所有の娯楽機械を賃貸のため設置していたことは認めるが、その余は否認する。
(二)(1)ハの事実は否認する。
(三) 原告田和について
抗弁(二)(2)イの事実中、偽造伝票が存在したことは認めるが、その余は否認する。
(二)(2)ロの事実中、同人が娯楽機械の修理をして金五万円を受領したことは認めるがその余は否認する。
(二)(2)ハの事実中、同人が松本をして娯楽機械を運搬させ、受領した金員のうち金一万円を同人に渡したことは認めるが、これは得意先に対するサービスとして行ったもので金員はそれに対する寸志として受領したものである。
(二)(2)ニの具体的事実は認めるが、その余は否認する。
(四) 原告片岡について
抗弁(二)(3)イの事実は否認する。
(二)(3)ロの事実中娯楽機械を修理して五万円を受領したことは認めるが、これはサービスに対する寸志として受領したものである。
(二)(3)ハの事実中、被告主張の使用料を寺本から受領したことは認めるが、その余は否認する。
2 抗弁に対する原告らの反論及び再抗弁
前記二3(二)の各解雇事由は後記の事情から被告が主張するとおり就業規則に該当すると解することはできず本件処分は被告が就業規則の解釈適用を誤まったものである。仮にそうでないとしてもそれは解雇権を濫用したものであるから無効というべきである。
(一) 原告児玉について
(1) 前記二3(二)(1)イについて、偽造伝票は二種類あってその一つである「お客様」と印刷された分(乙第一号証の二)は原告児玉が被告の営業上系列下の業者指導のため、その協力の一つとして業者用として、印刷会社に依頼して作成させたものであり、横文字で「SEGA」と印刷されている分(乙第一号証の一)は原告田和が右目的のため印刷させた際誤って「SEGA」の文字が印刷されたものにすぎず、いずれも偽造されたものではなく、原告児玉は右「SEGA」私製伝票の使用を禁止していたにも拘らず右田和が使用していたもので原告児玉の関知しないものであり、小川支店長に使用されていないことも確認していたのでそれが使用されていることは全く知らなかった。
(2) 右二3(二)(1)ロについて、原告児玉が自己所有機械を設置したのは各施設における被告の業務上設置場所(ロケーション)を確保するための手段としてしたもので同人の個人的利益を図るためにしたものではなく、その集金も従業員の福利厚生に利用して個人的費消したことはない。
(3) 右二3(二)(1)ハについて、機械設置は原告田和が直接の責任者として行ったもので、その売上げも予想外に低く約一〇〇万円にすぎずその六割として約金六〇万円を被告は入金したので不正の事実はない。しかも原告児玉は小川支店長とともに勤務時間外にアルバイトとして協力したにすぎない。
(二) 原告田和について
(1) 前記二3(二)(2)イについて、私製伝票二種類の作成経緯は前記のとおりであって、その作成および使用は上司である小川支店長の指示承認のもとにしたもので私利を図ったことはない。
(2) 右二3(二)(2)ロについて、被告が機械を販売したのは岡本製作所ではなく吉濱商店であるが、原告田和は小川支店長の指示により支店工場でその機械の調整をした。吉濱商店は被告の得意先で日頃からサービスをし、将来大量に機械を購入してくれる期待もあったので指示に従い調整した。従って右商店より交付を受けたのは修理代ではなくサービスに対する寸志であって、それを原告片岡へ話し同人はこれを小川支店長へ話したので同人の指示により金一万円を田和が受領し残り四万円は従業員のため野球の道具購入費にあてた。
(3) 右二3(二)(2)ハについて、本件機械の運搬も吉濱商店から依頼されたもので、運搬先は伊万里でなく佐賀市である。これも得意先に対するサービスであるから金一万円は寸志として受領したものであって、たまたま当日が日曜日で部下の松本の協力を得たので受領金は同人と折半したにすぎない。
(4) 右二3(二)(2)ニについて、原告児玉は被告本社から営業方針としてニューペニーホールス(娯楽機械)を設置するよう指示を受け七隈ファミリーレーンに設置する予約をとりつけたが、間もなく本社から右機械購入中止を理由に予約の取消しを要請して来たので、原告田和が予約解消の申入れをした。しかし右ファミリーレーンは強くその設置を要望し、他の業者からも設置申入れがあり右ファミリーレーンは被告にとってトップロケーション(最も収益の多いロケーション)で被告がその設置をしない場合、トップロケーションを失うと懸念されたので、右田和は小川支店長に事情を話し、同人の仲介により田和個人で神戸の森武司よりニューベニーホールスを金九〇万円で購入した。
しかしロケーション確保のためとはいえ、一時的でも個人所有の機械を所有することは好ましいことではないのでこれを世利に売却し、同人が右ファミリーレーンにこれを設置した。
右機械に被告のマスターキーを取り付けたのは世利から依頼されたからであって、私製伝票を使ったのは右機械が被告のものでなかったからである。
(三) 原告片岡について
(1) 前記二3(二)(3)イについて、原告片岡は被告の博多支店工場アミユーズメント係長として娯楽機械修理担当責任者であったから、右機械の集金業務には全く関与していない。
(2) 右二3(二)(3)ロについて、原告片岡は小川支店長の指示により機械の修理(むしろ調整)をしたにすぎない。受領した金員については前記原告田和の主張のとおりである。
(3) 右二3(二)(3)ハについて、スナック「ユキ」に機械を設置したのは従業員の福利厚生資金等の捻出のためのものであって、前記私製伝票を使用して集金したが、これらは小川支店長承認によるもので私利を図ったものではなく、「井尻ワールド」に設置した機械は片岡の所有ではなく、世利の所有物であって、もともと被告がそこへ賃貸することにしていたが、営業方針の変更によりそれを中止したものの、被告のロケーション確保のため原告片岡が世利に依頼して同人にその機械を購入せしめて設置させた。その経緯から田和や寺本が被告の集金の際世利のため集金していたにすぎない。
四 再抗弁に対する被告の認否
原告らの再抗弁の主張は争う。
第三証拠関係(略)
理由
一 請求原因1、2の事実は当事者間に争いがない。
二 本件解雇に至るまでの経緯
前記争いのない事実および(証拠略)によれば次の事実が認められ、右認定を覆すに足りる証拠はない。
昭和四九年三月上旬、エンタープライゼス支部の林洋樹執行委員長を含む組合三役は被告事業部長渡辺雄三郎に対し中国九州における最高責任者である原告児玉地区部長、訴外小川次男博多支店長ら福岡地区在勤の幹部が自己所有の機械を業者に貸付け、被告と競合する営業を行って利益を図っていること、しかもその集金業務には部下の従業員を従事させ、そのために前記私製伝票を偽造しそれを使用していること、その他不正事実を報告するとともに右私製伝票も提示してその調査の申入れをしたので被告としてもこれを放置できず、直ちに調査することとして、同年四月四日渡辺営業部長、西倉労務部長が来福した。
同日、同人らは東急ホテルにおいて従業員上田正志外数名から事情を聴取し、併せて報告書を徴する一方、長垂ビーチボール、七隈ファミリーレーン等の遊戯場に赴き原告らが業務外の機械を設置している事実を確認し、組合役員からの申出がほゞ間違いないと判明したので翌五日および六日の両日に亘り原告らおよび小川支店長からも事情聴取し、弁明のための報告書を提出させた。(但し、原告児玉はその提出を拒否した。)
そして小川支店長は組合申出の事実を否定したのに、原告らは多少の弁解はしたが、ほゞその事実を認めたので、被告は同月七日原告ら四名(小川支店長を含む)に対し自宅待機を命じた。その頃右四名から被告に対し退職願が提出されたので検討の結果、原告ら三名については被告がそれぞれ解雇事由として挙げた事実があると判断されるものゝ、小川支店長については部下従業員に対する監督不十分な点原告ら三名の行為に関与した事実も窺われるが、自ら積極的に利益行為に従事したことを認めうる確証を見出し得ないとの結論に達したので小川支店長の退職は承認したが原告ら三名の行為は就業規則上、懲戒解雇に値するとして同年五月二八日右三名を本件処分に付した。(渡辺、西倉両名が原告らと面談し、事情聴取したことは当事者間に争いがない。)
三 次に本件処分の効力について検討する。
被告の就業規則(乙第一二号証)によれば、第四三条には制裁条件として懲戒事由をかゝげるとともに第四四条には制裁の方法たる懲戒の種類として懲戒解雇、昇給停止、出勤停止、減給、戒告を規定し、情状酌量の余地あるものは訓戒に止める旨定めている。それは懲戒の種類を明らかにするとともに懲戒事由の軽重並びに情状により前記懲戒の種類を選択しうることを示したものであり、これが選択は被告の裁量によることができるのは当然ではあるが、恣意的な選択は許されず、それは社会通念上相当なものでなければならない。
そこで本件について原告らに対する本件処分についての懲戒事由の存否および懲戒の種類選択についての適否を判断する。
1 原告児玉について
(一) 前記争いのない事実および(証拠略)によれば、原告児玉の解雇事由たる(1)イ、ロの各事実が認められる。(私製伝票が存在したこと、原告児玉が西日本スポーツセンターその他に自己所有の娯楽機械を賃貸のため設置していたことは当事者間に争いがない。)
ところで原告らは右私製伝票二種類はいずれもその主張のとおり不正の目的のため印刷されたものではなく、被告の業務上の必要性に基づくものであると主張し、同人らの各本人尋問の結果および(人証略)中にも同旨の各供述がある。しかしながら原告らが育成するという業者は独自に営業するものであるからその業者の伝票を利用すべきで被告の正規の伝票と酷似する伝票を利用する必要性は通常考えられず、本件においてそれを肯認する事情も明らかでなく、却ってそれを利用することは被告の営業と誤信させる結果ともなり、実際上は被告との競合行為をまねくことともなる。
そして原告児玉は昭和四八年五年以降、被告によって、個人による機械の所有、利用並びに他の業者に被告の伝票を利用させることが厳禁されているにも拘らず右私製伝票が同田和、小川博多支店長、同営業部有働らによって作成されている事情を知って承認し、自らも他の原告らと共に自己機械をあたかも被告のそれであるかのように装って各遊戯場に設置(原告児玉は前記認定の西日本スポーツセンター以外にも大牟田プレイターゲットにパッチボール機械を、久留米昭和トップレーンにスキルディガー機械を設置)し、その集金については被告営業の集金と区別するため正規の集金伝票を利用せず前記私製伝票を利用し、従業員をしてそれを使用させるとともに他の業者にも前記私製伝票の使用を容認していたのであるから原告児玉には被告の主張するとおり解雇事由が存在するというべく、それは被告に対する重大な背信行為であるとともに被告の信用侵害行為であって他方私利行為と判断される。
そこで右(1)イの行為は被告の主張するとおり就業規則第四三条第六項に、右(1)ロの行為は就業規則第四三条第一一項の「職務上の地位を利用して私利を図った」に該当するというべきである。
(二) (証拠略)によれば原告児玉の解雇事由たる(1)ハの事実が認められ、(証拠略)中および右原告ら各本人尋問の結果中、前記認定に反する部分は信用できない。
もっともその行為は原告田和を中心として行われたものであるが原告児玉、小川支店長もこれに協力し福岡営業所博多支店が一体となって行ったものであるうえ、仲間の同業者の機械を搬入して営業しながらその収支決算も明らかにしなかった。もっとも原告児玉が差額金をすべて着服したと断定することはできないがそれを被告に入金しなかったことは明らかで原告児玉はその監督的地位にありながらこれに加担し、従業員から不正があるとして糾弾されたのでその責任を負うべく、その行為は就業規則第四三条第一一項の「職務上の地位を利用して私利を図った」に該当するというべきである。
(三) 以上のとおり被告の福岡営業所における娯楽機械の賃貸はその営業内容の主たるものであるから、従業員が業務の遂行に際し自己所有機械の利用を図ってこれを賃貸することは被告と競合する行為であるとともに被告の業務阻害行為となることが明らかである。かゝる行為は従業員として服務規律に反する重大な背信行為であって、原告児玉は中国、北九州地区の最高責任者で従業員を指導監督し、職場の秩序維持に努め自ら範をたれかゝる背信行為の発生を防止すべき立場にありながら被告の明示された禁止行為を敢て犯し、他の原告らの同種行為をも認容し、いわば福岡営業所、博多支店における上層部の不正行為を誘発せしめ、しかも半ば公然とこれを行い遂には部下たる従業員から告発されるに至っているのであるから、それら諸般の事情を総合判断すれば、原告児玉の前記就業規則違反の責任は極めて重大で、同人に対する本件処分は被告の就業規則の規定に照らして相当というべく、もとよりその効力を認めるべきである。
もっとも前記証拠によれば原告児玉の個人機械設置はロケーション確保又はその維持のため或る程度は被告の業務上の必要性があったこと、集金した金員は個人的利得だけでなく一部従業員の厚生資金等に流用されていることも窺われるところであるが前記行為はその目的の如何を問わず著しい背信行為であり、その反覆継続は被告の業務の実質的侵害であると同時に被告の信用をも害する行為であるからかゝる事実が存在するとはいえ同人の責任を軽減しうるものと解することはできない。
2 原告田和について
(一) 同人に対する解雇事由たる(2)イについて、(証拠略)によれば右(2)イの事実(但し私製伝票が存在したことは当事者間に争いがない。)および次の事実が認められ、これを覆すに足りる証拠はない。
即ち、原告田和は後記七隈ファミリーレーンに設置した機械、小川支店長が福岡市西新の小倉興産ガソリンスタンド、市内姪浜の川崎商事ガソリンスタンドに各設置した機械など個人所有機械の集金のため前記私製伝票を使用したこと、同市内スナック「ジュン」に被告の機械を設置して値下げをしたのはその経営者の要望に沿い、ロケーション確保のためとはいえ、被告の営業方針に反するものであって、そのため入金操作の必要上、前記私製伝票を利用したことが認められる。
以上のとおり原告田和は私製伝票の偽造に実質的に関与し、自らもそれを不正利用し、他にも利用せしめているのであるからそれは原告児玉とともに重大なる背信的行為というべくその行為は就業規則第四三条第六項に該当するといわねばならない。
(二) (証拠略)によれば、原告田和に対する解雇事由たる(2)ロの事実(但し岡本製作所は吉濱商店と認定する。原告田和が修理代金として金五万円を受領したことは当事者間に争いがなく、右自白の撤回が理由のないことは後記認定のとおり)および原告田和はその機械を博多支店において修理させたが、かゝる場合通常正規の手続を経るべきに田和はこれをなさず、その対価として金五万円を受領したこと、同人は日頃から機械の修理などにつき右支店工場の好意を受けていたのでその担当者たるアミューズメント係長の原告片岡に一旦金五万円を渡したが、同人は小川支店長と相談のうえその内金一万円を原告田和に返還したのでこれを受領したことが認められ、原告田和の本人尋問の結果中、右金員は修理代金ではなくサービスに対する寸志であるとの供述があるが、それは前記認定の事実に照らして信用できず、他に右認定を覆すに足りる証拠はない。
ところで原告田和は第四回口頭弁論期日において右修理代金としての受領の事実を自白しながら第一二回口頭弁論期日において右自白を撤回する旨主張するも前記のとおり同人の主張する事実は自白撤回の要件の一つである真実に反する場合に当らないので、右撤回は許されない。
そこで原告田和の前記行為は就業規則第四三条第一一項の「職務上の地位を利用して私利を図った」ことに該当するといわねばならない。
(三) (証拠略)によれば同人に対する解雇事由たる(2)ハの事実が認められる(その事実中運搬したのは吉濱商店の娯楽機械であって運搬先は佐賀市であることが認められ、原告田和が金員を受領し、うち金一万円を松本に渡したことは当事者間に争いがない。)
原告田和は右運搬は得意先に対するサービスであって受領した金員はそれに対する寸志である旨供述するが、それは前記認定の事実に照らして信用できず他にその事実を認めるに足りる証拠はない。
そこでその右行為は前記のとおり就業規則第四三条第一一項に該当するというべきである。
(四) 原告田和に対する解雇事由たる(2)ニの具体的事実は当事者間に争いがなく、(証拠略)によれば、同人の主張のとおり同人が被告の得意先である七隈ファミリーレーンに娯楽機械(ニューペニーホールス)を設置したのは被告の営業方針が変り、右顧客よりその設置を強く要請されたのでやむなく小川支店長と相談のうえ前記争いのない事実のとおり世利をして設置させたことは明らかであるが、しかしその際原告田和は右機械に被告のマスターロックを取付けそれをあたかも被告が設置したかの如くして世利のため主体となって集金し、且つ本件私製伝票を利用していた。原告田和はそのほかにも古賀ボーリングセンターに同人の祖父名義の娯楽機械を設置し、集金には右私製伝票を利用して顧客を被告の業務と誤信させていた事実も認められる。
以上のとおり七隈ファミリーレーンに機械設置したことは斟酌すべき事情があったとはいえ、被告の営業に反するばかりでなく、前記の如く他人の機械を設置させることも自らが背信行為を行い被告と競合行為を行うと解されるのでそれらは就業規則第四三条第一一項および第四三条第一三項(第四〇条の服務心得に違背するとき)に該当する。
(五) 以上のとおり原告田和は福岡営業所長として原告児玉とともに従業員を指導監督し、その職場の秩序維持を図り意識の向上につとめるべきにその立場を顧りみず自らも原告児玉と相通じて被告の禁を犯し服務規律に反する違背行為を行い、被告の信用を害し、実質的侵害行為を行ったのであるから前叙説示した事情を併せ考えると原告田和に対する本件処分も就業規則に照らして相当であって、その効力も認めねばならない。
もっともその解雇事由のうち(2)ロ、ハについてはいずれも被告の業務の性格、態様や従来のあり方からみて特に悪質とはいえず、受領金や前記集金など原告児玉と同じく厚生資金等や同僚のため費消するなど斟酌すべき点も窺われるが、その責任の重大さに対比すれば特に本件処分を否定するまでもないと解される。
3 原告片岡について
(一) 同人に対する解雇事由たる(3)イについて、(証拠略)によれば原告片岡は昭和四八年七月頃から原告児玉らと共謀の上、後記のとおり自己所有の機械を遊戯場に設置し、前記偽造集金伝票を自ら使用し又は他人にこれを使用させていたことが認められる。
被告は原告片岡も右偽造伝票作成については共同責任がある旨主張するところ、前記各証拠によれば同人は博多支店アミューズメント係長として右支店における幹部でありながら原告児玉、小川支店長とともに自己所有機械を利用して私利行為を行い、前記偽造伝票をも使用しているので、それが不正な伝票であることは十分認識していたことは明らかであるが、同人が右伝票作成に関与したことを認めることができず、他に右事実を認めるに足りる証拠はないので、その作成についての責任を問うことはできない。
しかし右私製伝票の利用については前記のとおりその責任があるので、その行為は就業規則第四三条第六項に該当するというべきである。
(二) 原告片岡に対する解雇事由たる(3)ロは原告田和の前記2(二)に認定するとおりその事実(分配の事実も認められ、五万円を受領したことは当事者間に争いがない)が認められる。
そこで、右行為は原告田和と同じく就業規則第四三条第一一項に該当するというべきである。
(三) (証拠略)によれば同人に対する解雇事由たる(3)ハの事実が認められ(同人が寺本からその使用料を受領していたことは当事者間に争いがない)証人世利国寿の証言中原告片岡本人尋問の結果中、右認定に反する部分は信用できない。
かゝる行為は被告に対する著しい背信行為で利得行為に当るというべきであるからその責任は免れず、その行為は就業規則第四三条第一一項に該当するといわねばならない。
(四) 以上のとおり原告片岡について偽造伝票作成についての責任を問うことはできないが同人がなした所有娯楽機械の設置およびこれに伴う私製伝票の利用は被告の業務を利用したもので被告に対する背信行為であることはいうまでもなく、同人も博多支店アミューズメント係長の地位にありながらかゝる行為を行った点ではその責任は重大であるが、原告児玉、同田和と同一にその責任を論ずるのは相当でなく、解雇事由としての前記(3)ロについては原告田和および小川支店長の依頼によることが明らかで斟酌すべき点もあるので以上の諸事情を総合判断すれば原告片岡に対し解雇権をもって臨むことは権利の濫用として許されない。
そうであれば本件解雇は就業規則の解釈適用を誤り解雇権を濫用してなされたものであるから無効というべく、原告片岡は依然として被告の従業員として労働契約上の権利を有する。
四 以上のとおり原告片岡の本訴請求は理由があるからこれを認容し、その余の原告らの本訴請求は失当としてこれを棄却し、訴訟費用の負担については民事訴訟法第八九条、第九三条を適用して主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 松尾俊一 裁判官 桑原昭熙 裁判官 辻次郎)