福岡地方裁判所 昭和51年(ワ)553号 判決 1977年10月21日
原告
久家良介
被告
日比生健次
ほか一名
主文
1 被告らは各自原告に対し、金三四四四万二四二四円及びこれに対する昭和四八年一一月一四日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。
2 訴訟費用は被告らの負担とする。
3 この判決は第1項に限り仮に執行することができる。但し、被告らにおいて金一〇〇〇万円の担保を供するときは、右仮執行を免れることができる。
事実
第一当事者の求めた裁判
一 請求の趣旨
1 主文第1 2項と同旨
2 仮執行の宣言
二 請求の趣旨に対する被告大町正年の答弁
1 原告の被告大町正年に対する請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
第二当事者の主張
一 請求の原因
1 事故の発生
昭和四八年一一月一三日午前七時二〇分頃、福岡県嘉穂郡筑穂町大字桑曲冷水峠中腹の道路において、原告が単車(筑穂町ち七〇三号)を運転進行中、対向して来た被告大町正年(以下被告大町という。)運転の乗用自動車(福岡四四に五〇一四号)が中央線を超えて原告に衝突し、原告が負傷した(以下右事故を本件事故という。)。
2 帰責事由
被告大町は被告日比生健次(以下被告日比生という。)に雇傭され、同被告の業務として右乗用自動車を運転中、不注意により中央線を突破して本件事故を惹起したものであるから、民法七〇九条により、また被告日比生は民法七一五条により原告の損害を賠償すべき義務がある。
3 損害
原告は、右事故により、脳挫創、右大腿骨骨折等の傷害を受け、昭和四八年一一月一三日から昭和五〇年二月二日まで(四四七日間)嘉穂郡稲築町鴨生の西野病院に入院、引き続いて昭和五〇年二月三日から同年七月七日まで(一五五日間)北九州市小倉南区葛原の九州労災病院に入院、昭和五〇年七月八日から同年一一月二七日まで(一四三日間、実日数三日)通院、治療を受けた。
しかし、言語障害、左外眼筋不全麻痺、小脳性失調、右股可動制限、右股関節の著しい機能障害、右下腿六センチ短縮、骨節部の変形癒合、右膝関節の著しい機能障害、外眼筋(内直筋、下直筋)不全麻痺、屈折異常(近視)、複視等の後遺障害を残し、歩行には両松葉杖の使用を要し、その挙動には常時他人の介護を必要とする状況にある。
原告は、昭和三二年八月八日生れ、事故当時一六歳高校一年在学の健康な男子であつたので、昭和五一年三月高校卒業と同時に就職して六七歳まで、満四九年は就労し得たものと推定されるところ、前記後遺障害のため、就労して所得を得る見込はない。
(一) 入院中の雑費 三〇万一〇〇〇円
(二) 得べかりし利益の喪失 三二五三万五九八〇円
昭和四九年度賃金センサスに基づく男子労働者学歴計、全年齢平均賃金により現価を算出すると、次のとおりである。
(一三万三四〇〇円×一二)+四四万五九〇〇円=二〇四万六七〇〇円
二〇四万六七〇〇円×(一八・一六八七-二・二七一九)=三二五三万五九八〇円
註 二・二七一九は昭和四八年一一月一四日から昭和五一年四月一三日まで二九ケ月間の月別ライプニツツ係数である。
(三) 慰藉料 入通院中の慰藉料 二〇〇万円
後遺障害の慰藉料 七〇〇万円
(四) 弁護士費用 本訴の提起、進行に必要な弁護士費用のうち金三〇〇万円の支払を求める。
(五) 損益相殺 三五六万二〇〇〇円
被告大町から六一万二〇〇〇円の支払を受けた外自賠責保険から後遺障害補償費として少くとも二九五万円の支払がなされる予定である。
4 よつて原告は被告らに対し、三八五七万四九八〇円のうち金三四四四万二四二四円およびこれに対する事故の翌日である昭和四八年一一月一四日から支払ずみまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。
5 被告大町が原告に対し、自賠責保険の二九五万円以外に、
昭和四九年四月二〇日 七〇〇〇円
昭和五一年五月二二日 三〇万円
を直接支払つていることは認める。
二 請求の原因に対する被告大町の答弁
1 第1項は認める。
2 第2項は認める。
3 第3項は不知。
4 第4項は争う。
5(一) 被告は原告自認(請求原因3(五))の三五六万二〇〇〇円以外に原告に対し、
昭和四九年四月二〇日 七〇〇〇円
昭和五一年五月二二日 三〇万円
を直接支払つている。
(二) なお、被告は原告に対し、付添料として、
昭和四八年一二月九日―昭和四九年一月三一日
合計一五万九八八〇円(職業人)
昭和四九年二月一〇日―昭和五〇年六月二五日
一日二八〇〇円宛
合計一二一万七九〇〇円(家族に、職業人と同額)
を支払い、その他交通費、雑費等を支払つて誠意を示している。
三 被告日比生は公示送達による呼出を受けながら本件口頭弁論期日に出頭せず、答弁書その他の準備書面も提出しない。
第三証拠関係〔略〕
理由
一 請求原因第1、2項の事実並びに原告が原告自認の三五六万二〇〇〇円以外に被告大町より三〇万七〇〇〇円の支払を受けたことは、原告と被告大町との間において争いがない。
二 その方式及び趣旨により公務員が職務上作成したものと認められるから真正な公文書と推定すべき甲第一号証の一ないし九並びに被告大町の本人尋問の結果によれば、請求原因第1、2項の事実を認めることができる。
三 そうすると、被告大町は民法七〇九条により、また被告日比生は同法七一五条により、本件事故により原告の受けた損害を賠償すべき義務がある。
四 原告親権者本人尋問の結果により真正に成立したものと認められる甲第二号証の一ないし六、その方式及び趣旨により公務員が職務上作成したものと認められるから真正な公文書と推定すべき甲第三号証の一、二、同第四号証の一、二、同第五号証の一、二によれば、原告は、昭和三二年八月八日生れ、本件事故当時一六歳高校一年在学中で健康な男子であつたこと、本件事故により脳挫創、右大腿骨骨折等の傷害を受けたこと、昭和四八年一一月一三日から昭和五〇年二月二日まで(四四七日間)嘉穂郡稲築町の西野病院に入院、引続いて同月三日から同年七月七日まで(一五五日間)北九州市小倉南区の九州労災病院に入院、同月八日から同年一一月二七日まで(一四三日間、実日数三日)通院し、治療を受けたこと、現在においても高度の小脳性失調による言語障害、知能障害、左外眼筋(内直筋、下直筋)の不全麻痺、眼球運動障害(複視)、視力障害、右下肢五センチメートル以上短縮、右股関節の著しい機能障害、右膝関節の著しい機能障害等の後遺障害を残していること、歩行するには松葉杖の使用を要し、風呂に入つたり、靴下をばいたりするにも家族に手助けしてもらう必要があること、しかしながら松葉杖を使わずに歩いて見ようとする意欲はあること、右手が震えて字が書けないため左手で字を書く練習をしていること、原告は中学校を好成績で卒業し、高校一年の一学期においてもかなりの好成績であつたこと、同学年の二学期に本件事故に遭つた後昭和五〇年九月に復学し、昭和五一年四月に二学年に進学したが、学業成績は不良で学年の最下位であること、被告大町は原告の前記治療に要した治療費、付添料等を支払つている外原告が通学する際相当長期間車で送つたりしたことが認められ、右認定に反する証拠はない。
五 右認定事実によれば、原告は、昭和五一年三月高校卒業と同時に就職して六七歳まで四九年間就労しえたものと考えられるところ、前記後遺障害のため就労して所得を得る見込は殆んどないように思われる。しかしながら、原告はまだ若年であり、かつまた本人自身少しでも生活機能を回復向上したいという意欲を有しているものと認められるから、将来における機能回復と職業訓練によつて同人に適した職業を得る可能性も考えられるのであり、右の点を考慮すれば、前記後遺障害のためその労働能力の九〇パーセントを喪失したものと認めるのが相当である。
六 次に原告の受けた損害額について判断する。
1 入院中の雑費 金三〇万一〇〇〇円
入院により日用品の購入につき余分の支出を見ることは経験則上明らかであり、その額は本件においては一日五〇〇円が相当である。よつて原告は、本件事故により一日五〇〇円に入院期間六〇二日を乗じた合計金三〇万一〇〇〇円の損害を蒙つたものと認められる。
2 逸失利益 金二九五九万五八九五円
前判示のとおり、原告はその労働能力の九〇パーセントを喪失したものと認めるのを相当とするところ、原告は本件事故当時一六歳三ケ月の健康な少年であつたから、高校卒業時の一八歳から就労を開始して六七歳までの四九年間稼働できるものと認められる。そして、当裁判所に顕著な賃金センサス昭和四九年度賃金センサスに基づく男子労働者学歴計、全年齢平均賃金(年収額)は金二〇四万六七〇〇円であり、これをもとにライプニツツ方式により中間利息を控除すると、原告の逸失利益は次のとおり金二九五九万五八九五円となる。
二〇四万六七〇〇円×(一八・三三八九-二・二七一九)×〇・九〇=二九五九万五八九五円
注(1) 一八・三三八九は一六歳から六七歳まで五一年のライプニツツ係数
(2) 二・二七一九は昭和四八年一一月一四日から昭和五一年四月一三日まで二九ケ月間の月別ライプニツツ係数
3 慰藉料 金六五〇万円
原告が本件事故によつて蒙つた精神的損害に対する慰藉料額は、前記四で認定した原告の傷害の部位・程度、入通院期間、後遺症の程度その他本件に現われた一切の事情を併せ考えると、六五〇万円が相当であると認められる。
4 弁護士費用 金二〇〇万円
本件事案の性質、審理の経過及び認容額に照らすと、原告が被告らに対して本件事故による損害として賠償を求めうる弁護士費用額は二〇〇万円とするのが相当と認める。
5 損益相殺 金三八六万九〇〇〇円
原告が被告大町から六一万二〇〇〇円の支払を受けた外、自賠責保険から少くとも二九五万円の支払を受ける予定であることは原告の自認するところであり、かつまた原告が右金員以外に被告大町から三〇万七〇〇〇円の支払を受けたことは原告と被告大町との間において争いがないから、合計三八六万九〇〇〇円を前記損害額合計と相殺すべきである。
なお、被告日比生は本件口頭弁論期日に出頭せず、弁済の抗弁その他自己の有利な主張をしていないのであるが、被告日比生が本件口頭弁論期日に出頭したならば当然被告大町と同一の主張をしたものと推測されること、本件事故は社会的事実としては一個であり、共同不法行為者各自の損害賠償義務もなるべく同一に確定されることが求償等の関係から見て望ましいことよりして、被告日比生に対する請求についても右損益相殺を認めるのが相当である。
6 損害額合計 金三八二八万五五八三円
前記1ないし4の損害額合計三八三九万六八九五円より前記5の三八六万九〇〇〇円を差引くと、三四五二万七八九五円となる。
七 そこで、被告らは各自原告に対し、金三四五二万七八九五円のうち金三四四四万二四二四円及びこれに対する、本件事故発生日の翌日である昭和四八年一一月一四日から支払ずみまで民法所定年五分の割合による遅延損害金を支払う義務がある。
よつて、原告らの本訴請求を正当として認容し、民訴法八九条、九三条、一九六条を各適用して主文のとおり判決する。
(裁判官 川井重男)