大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

福岡地方裁判所 昭和52年(行ウ)12号 判決 1978年1月20日

福岡県嘉穂郡桂川町大字土居一三六番地

原告

靏清一

右訴訟代理人弁護士

久保良市

右訴訟復代理人弁護士

江口亮一郎

飯塚市新立岩一一番四五号

被告

飯塚税務署長

今利満

右指定代理人

武田正彦

中村程寧

江崎博幸

大神哲成

米倉実

中島亨

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告が原告の昭和四八年分所得税につき昭和五〇年三月一七日付でなした更正処分を取り消す。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

二  請求の趣旨に対する答弁

主文同旨

第二当事者の主張

一  請求の原因

1  原告はその昭和四八年分所得につき被告に対し所得額三二九四萬一〇〇〇円、税額四九四萬一一〇〇円として確定申告したところ、被告は昭和五〇年三月一七日付で所得額を三五六二萬八〇〇〇円、課税額を一九六三萬八〇〇〇円と更正し重加算税四四〇萬八八〇〇円を賦課する処分をした。

原告は右更正処分等に対し異議申立てをしたが、昭和五〇年八月六日付で異議申立棄却の決定がされたので、福岡国税不服審判所長に審査請求をしたところ、昭和五二年一月二七日付で裁決がなされ、重加算税賦課処分は取り消されたものの、更正処分に対する審査請求は棄却され、右裁決書謄本は同年二月三日原告に送達された。

2  本件更正処分は次の点において違法である。即ち、原告は昭和四八年一〇月一五日別紙目録記載(一)、(二)の土地を訴外株式会社福岡金子組に売却したが、右(一)の土地は訴外角忠太から、(二)の土地は訴外江頭晋策からいずれも昭和四三年九月一一日に買い受けたのであるから、右各土地の譲渡による所得については租税特別措置法三一条一項(長期譲渡所得)の規定が適用されるのにかかわらず、被告はこれを否認し、同法三二条一項(短期譲渡所得)の規定を適用して課税額を計算したものである。

被告は、原告と訴外角及び同江頭との間の本件土地売買契約は第三者所有物件についてなされたものであるから、右各訴外人が前主から所有権を取得した日が原告の所有権取得の日であると主張する。

なるほど、右各規定にいう「取得の日」を所有権移転の日又は物件引渡の日と解すれは被告主張の結果となることも考えられるが、所得税法の解釈においては「取得の日」は引渡の日を原則とするけれども売買契約の効力発生の日を「取得の日」として申告することも認められている(所得税法基本通達三三-九、三六-一二参照)のであつて、このことは租税特別措置法にも適用されるべきである。

しかるところ、原告と訴外角、同江頭との間の本件土地売買契約は昭和四三年九月一一日手付金の授受によつて成立したことが明らかであつて、その当時右訴外人らがその前主から所有権の移転を受けていなかつたとしても、右売買契約の効力発生に影響を及ぼすものではない。殊に、その当時既に右訴外人らは前所有者たる訴外西日本鉄道株式会社に買受保証金を支払つて買受人としての地位を取得しており、同月一二日には正式の売買契約を結んで内金まで支払つているのであるから、単なる第三者所有物の売買とは事情を異にする。

よつて、原告が本件土地の取得の日を昭和四三年九月一一日と判断し、長期譲渡所得に該当するとして確定申告をしたのは正当であり、本件更正処分は違法であるから、その取消しを求める。なお、原告は、右に述べた点を除くのほか、被告が本件更正処分をするにつきなした認定、判断については、これを争うものではない。

二  請求に対する認否及び被告の主張

1  請求原因1項は認める。同2項は、本件土地の取得の日が昭和四三年九月一一日であるとの主張を争い、その余は認める。

2  原告の昭和四八年分所得税の確定申告、更正処分及び裁決の内容は次のとおりである。

(一) 所得税の確定申告、更正及び裁決

<省略>

<省略>

(二) 譲渡所得についての申告、更正及び裁決の明細

<省略>

3  本件所得税に関し適用される租税特別措置法(昭和四八年法律一六号改正)によれば、長期譲渡所得の課税の特例については当該譲渡が昭和四四年一月一日前に取得した土地等の譲渡であることが要件とされており(同法三一条一項)、昭和四四年一月一日以後に取得した土地等の譲渡については短期譲渡所得の課税の特例が定められている(同法三二条一項)。

原告が本件土地を取得したと主張する昭和四三年九月一一日には本件土地の原告への売主である訴外角、同江頭の両名は未だ本件土地の所有権を取得していなかつた。即ち、右両名と訴外西日本鉄道株式会社との間に本件土地の売買契約が締結されたのは昭和四三年九月一二日であるが、右契約においては、売買代金受領後引渡しまでは売主において売買物件の所有権を留保する旨の特約が付されていたところ、代金の授受と物件の引渡しがなされたのは昭和四四年三月六日である。したがつて、原告は右同日までは本件土地の所有権を取得しなかつたことが明らかであつて、被告が本件譲渡物件の取得の日を右同日と認定し、租税特別措置法三二条一項の短期譲渡に該当するとしてなした本件更正処分には何らの違法はない。

第三証拠

本件記録中の書証目録及び証人等目録に記載のとおり。

理由

請求原因事実及び被告の主張事実は、原告が本件土地を取得したのが何時であるかとの点を除き、当事者間に争いがない。

そこで、右の点について考えるに、いずれも成立に争いのない乙第二号証の一、二、同第三号証の一、三、同第四ないし第六号証、同第七号証の一、二、原告本人尋問の結果及びこれにより真正に成立したものと認める甲第一号証の一、二を総合すると、本件土地は訴外西日本鉄道株式会社が開発造成した分譲宅地であるところ、不動産業を営む訴外角忠太、同江頭晋策の両名は右土地(角は別紙目録(一)の土地、江頭は同(二)の土地)の分譲を申し込んで昭和四三年七月二三日右訴外会社に証拠金を払い込む一方、その頃原告に対し本件土地の転買を勧め、これを承諾した原告との間に同年九月一一日売買契約が成立し、原告は右両名に対し手付金八〇萬円を支払い、更に同月一五日代金の内金七〇萬円を支払つたこと、ところで、西日本鉄道株式会社と角及び江頭との間においては同月一二日に本件土地の売買契約が締結され、角及び江頭は同日右訴外会社に手付金及び代金の内金を支払つたが、右契約においては、本件土地の所有権は売買代金完済のときまで売主たる右訴外会社に留保し、代金完済後一〇日以内にその引渡しをする旨約定されていたこと、角、江頭の両名は翌昭和四四年三月六日右訴外会社に対する代金の支払を完了し、その頃原告も右両名に対し本件土地売買代金の支払を了したことが認められ、これに反する証拠はない。

ところで、土地等の譲渡所得につき分離課税の特例を定めた租税特別措置法の被告挙示の各規定によれば、当該譲渡にかかる土地を取得したのが昭和四四年一月一日以後であるときは短期譲渡所得、その前であるときは長期譲渡所得として、控除額等に関しそれぞれ異なる取扱いを受けるのであるが、ここで土地等の「取得の日」とはその所有権を取得した日をいうものと解すべきであり、所有権取得の時期が何時であるかは民法の一般原則に従つて定められるべきものと解するのが相当である。

これを本件についてみるに、前認定のとおり、原告は西日本鉄道株式会社所有の本件土地を角、江頭の両名から転売を受けたものであるところ、右両名が本件土地の所有権を取得したのは昭和四四年三月六日なのであるから、原告が同年一月一日前に本件土地の所有権を取得したとする余地はないというべきであり、原告が昭和四三年九月中に右両名との間に本件土地の売買契約を締結し、手付金及び代金内金を支払つていたからといつて、その時点で原告が本件土地の所有権を取得したことになるものではない。

そうすると、原告の本件土地取得の日を昭和四四年一月一日以後と認定してなされた本件土地更正処分には原告主張の違法のかどはなく、適法であるといわなければならない。

よつて、原告の本訴請求は理由がないのでこれを棄却し、訴訟費用の負担につき行訴法七条、民訴法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 南新吾 裁判官 小川良昭 裁判官辻次郎は、填補のため署名押印することができない。裁判長 裁判官 南新吾)

目録

(一) 大野城市南ヶ丘四丁目二九番

宅地  三〇六・九八平方メートル

(二) 右同所二二番一

宅地  一九五・八四平方メートル

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例