福岡地方裁判所 昭和53年(ワ)1245号 判決 1979年9月27日
原告
楢崎茂雄
ほか三名
被告
高原和博
ほか二名
主文
被告岡崎秀貴、同岡崎義明は各自原告楢崎茂雄に対し金四一万四、一三六円、原告古川克子、同楢崎正克、同楢崎隆博に対しそれぞれ金九三万四、四二四円及び右各金員に対する昭和五三年三月二〇日から支払済まで年五分の割合による金員を支払え。
原告らの被告岡崎秀貴及び同岡崎義明に対するその余の請求並びに原告らの被告高原和博に対する請求をいずれも棄却する。
訴訟費用は、原告らと被告岡崎秀貴、同岡崎義明との間においては、これを五分し、その二を原告らの負担とし、その余を同被告らの負担とし、原告らと被告高原和博との間においては、全部原告らの負担とする。
この判決は、第一項に限り、仮に執行することができる。
事実
第一申立
(原告ら)
一 被告らは、各自、原告楢崎茂雄に対し、金一一八万二三〇〇円、同古川克子、同楢崎正克、同楢崎隆博に対し、それぞれ金一五一万八二〇〇円及び右各金員に対する昭和五三年三月二〇日から支払済まで年五分の割合による金員を支払え。
二 訴訟費用は被告らの負担とする。
三 仮執行宣言
(被告ら)
一 原告らの請求をいずれも棄却する。
二 訴訟費用は原告らの負担とする。
第二主張
(請求の原因)
一 当事者
原告楢崎茂雄は、訴外亡楢崎菊代の夫であり、原告古川克子、同楢崎正克及び同楢崎隆博は、同訴外人の子である。
二 事故の発生
右訴外人は、昭和五三年三月一九日午前一一時ごろ、福岡市南区那の川一丁目一番二五号先路上の交差点付近の横断歩道を横断中、被告岡崎義明運転の自動車(車両番号福岡五七て八六四八、以下「本件自動車」という。)と衝突して死亡した。
三 被告らの責任
1 被告岡崎義明
同被告は、本件自動車を運転して前記交差点を右折するに当り、横断歩行者の有無及び動静に注意し、歩行者がある場合、その横断を待つて右折進行すべき義務があるのに、歩行者より先に右折進行しようとして、本件自動車を前記訴外人に衝突させて死亡させたものであるから、民法七〇九条に基づき損害賠償責任がある。
2 被告岡崎秀貴
同被告は、同岡崎義明の使用者であり、同被告は、その業務に従事中、本件事故を起したのであるから、自賠法三条に基き損害賠償責任がある。
3 被告高原
同被告は、本件自動車の所有者であるから、自賠法三条に基き損害賠償責任がある。
四 損害
1 訴外亡楢崎菊代の損害
(一) 逸失利益
同訴外人は、本件事故当時五六歳の主婦であつたので、同年齢の女子の平均給与額(昭和五〇年賃金センサス第一巻第一表の産業計、企業規模計、学歴計の平均給与額の一・〇四四倍)月額金一二万一七〇〇円とし、生計費としてその四〇パーセントを控除し、労働可能年六七歳として、新ホフマン方式(一一年の係数八・五九)により計算すると、逸失利益は、金七五二万六九〇一円である。
(二) 慰藉料
金二〇〇万円
(三) 相続
右損害合計金九五二万六九〇一円を原告楢崎茂雄金三一七万五六三三円、同古川克子、同楢崎正克及び同楢崎隆博各自金二一一万七〇八九円あて相続した。
2 原告らの慰藉料 各金二〇〇万円あて。
3 葬儀料
右費用として、原告楢崎茂雄は金一三万三三三三円、同古川克子、同楢崎正克及び同楢崎隆博は各金八万八八八八円あて支出した。
4 損益相殺
自賠責保険金から原告楢崎茂雄は金四二二万六六六七円、同古川克子、同楢崎正克及び同楢崎隆博は各金二八一万七七七八円あて受領した。
5 弁護士費用
原告楢崎茂雄は金一〇万円、同古川克子、同楢崎正克及び同楢崎隆博は各一三万円あて負担した。
五 よつて、被告らに対し、原告楢崎茂雄は、金一一八万二三〇〇円、原告古川克子、同楢崎正克及び同楢崎隆博は、各金一五一万八二〇〇円と右各金員に対する本件事故の後である昭和五三年三月二〇日から支払済まで民事法定利率年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。
(請求原因に対する答弁)
一 被告岡崎秀貴及び同岡崎義明
1 請求原因一の事実は知らない。
2 同二の事実のうち、本件事故発生の場所は否認する。その余の事実は認める。本件事故発生の場所は、横断歩道上ではなく、車道上である。
3 同三の事実は否認する。
4 同四のうち、4の事実は認める。同1、2、3の各事実は否認し、5の事実は争う。
二 被告高原
1 請求原因一、二の各事実は知らない。
2 同三の3の事実は否認する。同被告は、不知の間に、本件自動車の名義人にされていただけで、本件自動車を購入したり、使用したことはない。
3 同四の事実のうち、1ないし4の各事実は知らない。5の事実は争う。
(抗弁)
本件事故は、訴外亡楢崎菊代が道路を横断するに際し、その現場付近が車両の交通の頻繁な場所であり、しかも、右道路を横断するには、本件事故現場から約二五メートル西側に横断歩道が設置されているのであるから、その横断歩道を通行すべき義務があるのに(道路交通法第一二条第一項)、この義務を怠り、横断歩道外の車道を横断したために発生したものである。右訴外人にも過失がある。
また、右訴外人は、横断歩道外の地点を横断しようとする場合、左右前後の道路状況を十分確認し、車両等と衝突する危険がないことを見越して横断すべきであるのに、右注意義務を怠つたため、本件自動車の進行に気がつかず、右折進行中の本件自動車の直前に飛び出したものである。
(抗弁に対する答弁)
抗弁事実は否認する。
第三証拠〔略〕
理由
一 成立に争いのない甲第一七号証によれば、請求原因一の事実が認められる。
二 本件事故発生の場所を除くその余の請求原因二の事実は、原告と被告岡崎義明及び同岡崎秀貴との間では争いがなく、原告と被告高原との間では、成立に争いのない甲第二ないし第九号証、同第一二ないし第一四号証を総合すれば、右事実を認めることができる。そして、右甲第二、第三号証並びに被告岡崎秀貴及び同岡崎義明の各本人尋問の結果を総合すれば、本件事故は横断歩道外の路上で起こつたことが認められる。
三 被告らの責任
1 成立に争いのない甲第一、第二号証、同第七、第八号証、同第一二ないし第一四号証及び被告岡崎義明の本人尋問の結果を総合すれば、次の事実が認められる。
(一) 本件事故現場は、福岡市百年橋交差点から博多駅南方面へ通じる幅員一二メートルの舗装道路で、見通しもよく、両側に幅員三メートルの歩道がある。付近は市街地で、交通頻繁であり、最高速度時速四〇キロメートルに制限されている。被告岡崎義明は、清水町方面から右百年橋交差点にさしかかり、同交差点を右折して博多駅南方面へ進行しようとしたが、対面する信号が赤色に変わつたので、右折の合図を出して、同交差点の直前で信号待ちのために停車した。信号が青色に変わつた時、時速約二〇キロメートルで右折進行を始めたが、前方には横断歩道もないので横断歩行者はないだろうと思い、進路前方右側で信号待ちのため停車していた自動車に気をとられ、進路左側及び前方に対する注意を怠つたため、折から進路前方を左から右に向け横断歩行中の訴外楢崎菊代に気づかず、自車前部を同訴外人に衝突させて、死に至らしめた。
甲第一三、第一四号証、被告岡崎義明及び同岡崎秀貴の各本人尋問の結果中右認定に反する部分は、前掲証拠に照らして、採用することができず、他に右認定を覆えすに足りる証拠はない。
右事実によれば、被告岡崎義明は、交差点内を右折するに際し、進路前方及び左方を注視せず、そのため進路の安全を確認して進行しなかつたため本件事故を発生させたものというべきであり、同被告の過失は明らかである。よつて、同被告は、民法七〇九条により、責任がある。
2 成立に争いのない甲第一三、第一四号証、同第一八、第一九号証並びに被告高原和博及び同岡崎秀貴の各本人尋問の結果を総合すると、次の事実が認められる。
本件事故車の登録名義人は、被告高原となつているが、それは、被告岡崎秀貴が本件自動車を購入するに際し、同被告から、車庫証明をとるのに必要だからといつて、名義貸を頼まれ、さらに、同被告のために保証人になるよう依頼されてこれらを承諾し、被告高原の印鑑と印鑑登録証明書を、自動車販売会社に預けたためであつた。従つて、右事実によれば、同被告自身本件自動車の所有者ではなく、所有者は被告岡崎秀貴であるといわなければならない。これからすれば、同被告は、本件自動車の所有者として、自己のためにこれを運行の用に供していたものであるから、自賠法三条に基き、責任がある。
3 前記認定事実によれば、被告高原は、本件自動車の所有者ということはできず、他に同被告が運行供用者責任であることを認めるに足る証拠はない。
四 損害
1 訴外亡楢崎菊代の損害
(一) 逸失利益
前顕甲第一七号証によれば、同訴外人が死亡当時満五六歳であつたことが認められる。従つて、同訴外人は、もし本件事故に遭遇しなければ、将来満六七歳まで就労可能であつたと考えられる。その間の収入は、昭和五三年賃金センサス第一巻第一表の全産業全女子労働者の平均給与額の年額が金一三九万一七〇〇円(きまつて支給する現金給与額一一四万三六〇〇円、年間賞与その他の特別給与額二四万八一〇〇円)であること明らかなので、生活費としてその四割を控除し、ライプニツツ式(一一年の係数八・三〇六四)によつて中間利息を控除すると、その逸失利益は、金六九三万六〇一〇円となる。
(二) 慰藉料
右訴外人自身の被つた精神的苦痛に対する慰藉料は、金二〇〇万円が相当である。
(三) 前掲証拠によれば、前記訴外人は、交通量の多い道路の交差点付近において、横断歩道外の道路部分を横断しようとしたことが認められるので、本件事故発生については、同訴外人にも過失があり、その過失割合を考えると、同訴外人の前記損害額の一割を減ずるのが相当である。そうすると、金八〇四万二四〇九円となる。
(四) 相続
原告楢崎茂雄が金二六八万〇八〇三円、同古川克子、同楢崎正克及び同楢崎隆博が各金一七八万七二〇二円を相続したことになる。
2 原告らの慰藉料
原告らの身分関係が前記のとおりであるから、その慰藉料は各金一八〇万円が相当である。
3 葬儀料
本件事故により、原告らが訴外亡楢崎菊代の葬儀のため出費があつたことは、あえて立証をまつまでもなく、明らかであるが、本件事故と相当因果関係に立つ損害としての葬儀費用は、同訴外人の過失割合をも考えて、金三六万円が相当である。これを原告らの相続分に従つて負担したものと見れば、原告楢崎茂雄が金一二万円、その余の原告らがそれぞれ金八万円となる。
4 損害の填補
原告楢崎茂雄が金四二二万六六六七円、同古川克子、同楢崎正克及び同楢崎隆博が各金二八一万七七七八円を自賠責保険から受領したことは、原告と被告岡崎義明及び同岡崎秀貴間に争いがない。
5 弁護士費用
原告らが原告代理人に本訴の追行を委任していることは明らかなので、本件事故と相当困果関係に立つ損害としての弁護士費用は、原告楢崎茂雄につき金四万円、同古川克子、同楢崎正克及び同楢崎隆博につき各金八万五〇〇〇円が相当である。
五 よつて、被告岡崎秀貴、同岡崎義明は、各自、原告楢崎茂雄に対し、金四一万四一三六円、原告古川克子、同楢崎正克、同楢崎隆博に対しそれぞれ金九三万四四二四円及び右各金員に対する本件事故の後である昭和五三年三月二〇日から支払済まで民事法定利率年五分の割合による遅延損害金を支払う義務があり、原告らの同被告らに対する請求は、右の限度で理由があるので、これを認容し、その余は失当として棄却し、原告らの被告高原に対する請求は、理由がないので、棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、九二条、九三条、仮執行の宣言につき同法一九六条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判官 富田郁郎)