福岡地方裁判所 昭和53年(行ウ)1号 判決 1981年3月31日
原告 あけぼのタクシー有限会社
被告 福岡県地方労働委員会
主文
一 原告の請求を棄却する。
二 訴訟費用は原告の負担とする。
事実
第一当事者の求めた裁判
一 原告
1 参加人あけぼのタクシー労働組合を申立人、原告を被申立人とする福岡地労委昭和五一年(不)第二三号不当労働行為救済申立事件について、被告が昭和五二年一二月五日付でした別紙命令書記載の命令のうち、主文第一項及び第二項を取り消す。
2 訴訟費用は被告の負担とする。
との判決。
二 被告
主文と同旨の判決。
第二当事者の主張
一 請求原因
1 原告は、タクシー業を営む会社であり、参加人中島、同横田は、いずれも運転手として原告に雇傭され、かつ、参加人あけぼのタクシー労働組合(以下「参加人組合」若しくは「組合」という。)に所属していたものであるが、原告は、昭和五一年六月二一日、業務妨害等の理由により参加人中島を出勤停止に付し(以下「本件出勤停止」という。)、さらに、同年八月二一日、参加人中島、同横田をいずれも懲戒解雇した(以下「本件解雇」という。)。参加人組合は、本件出勤停止及び解雇が不当労働行為であるとして、原告を被申立人として被告に対し救済の申立をしたところ(福岡地労委昭和五一年(不)第二三号事件)、被告は、昭和五二年一二月二〇日、別紙命令書記載のとおりの命令(以下「本件命令」という。)を発し、同命令書の写は同月二一日原告に送達された。
2 しかし、本件命令には次のとおり事実の認定及び法律上の判断に重大な誤りがあるから、本件命令の主文第一、二項若しくは少くとも同第一項のうち金員の支払を命ずる部分は違法である。
(一) 参加人中島に対する出勤停止について
原告(以下「会社」ともいう。)の参加人中島に対する本件出勤停止は、勤務時間中無断で営業車を離れた従業員に対し会社が就業規則に基づき休車届の提出を求めたところ、参加人中島が休車届の提出を求められた右従業員に休車届を提出しないよう執拗に強要して会社の業務を妨害し、会社と従業員間に維持されるべき秩序を破壊したことによりなされたものである。本件命令は、休車の届出をしなかつた従業員の非については全く論じていないが、これは会社がタクシー営業の性格上右届出によつて従業員の所在を把握し、業務遂行の円滑をはかつている実情を無視するものである。また、本件命令は、組合掲示板の記載や日報、タコグラフ等のチエツクにより会社は従来から無届で勤務時間中に組合執行委員会が開かれていたことを知悉していたものと判断しているが、しかし、組合掲示板に書いてあるからといつて会社が知悉しているとはいえず、また、タコグラフを毎日チエツクしたとしてもその結果を組合役員相互の行動に結びつけて監視していたものではないから、会社としてはいつ組合執行委員会が開かれたかということや、それが無届のものかどうか等を知る由もないことである。
(二) 参加人中島、同横田に対する懲戒解雇について
(1) 昭和五一年八月七、八日の両日参加人中島、同横田らが博多駅その他において会社を誹謗中傷するビラを配布したことについて、被告は、認定評価ともに判断を遺脱し、また、右参加人らが右ビラ配布の時点において執拗に会社の悪宣伝を継続していた事実も看過している。また、組合のピケにより就労を妨害された非組合員らが強行就労したことに関し、参加人中島、同横田らが配布した前記ビラに非組合員らを暴力団まがいの連中と記載していたことから、右参加人らと非組合員との間に軋轢を生じたが、右軋轢の原因は右のような記載をしたビラを配布しかつ非組合員らに対する謝罪を拒否した右参加人らにあるのに、被告は、右原因について何ら触れるところがない。なお、被告は、運友会の大溝らに対する懲戒が一五日の出勤停止にとどまつたことを右参加人らに対する本件解雇に相当の理由があるものと認められない一事由としているが、しかし、大溝らに対する懲戒が出勤停止にとどまつたのは同人らの反省の結果によるものであり、反省の機会は組合員にも等しく与えたものである。さらに、被告は、会社が運友会に好意的態度を示し、あるいは運友会が会社と労働条件の交渉をしたとしているが、いずれも事実無根である。
(2) 参加人中島、同横田らが昭和五〇年六月上旬ころ会社所有の営業車の後部ガラス、車体等に塗料で落書したことについて、被告は、昭和五〇年一二月一八日労使間で締結作成された協定書において何ら右事実に言及されていないこと、右事実から懲戒まで一年以上を経過していることを理由に、懲戒事由として合理的理由があるものとはいえないとして否定的判断をしている。しかし、右協定は賃金に関するものであり、同協定に右落書の件を包含させることは賃金交渉を不成立に導くおそれがあつたから、会社は落書に関する参加人らの責任追及を保留したものであり、また、懲戒事由発生から一年以上経過したからといつて、懲戒不能となる合理的根拠もない。
(3) 参加人中島、同横田が、日常の出勤態度、勤務状況が不良で、さらに積極的に会社の営業の妨害をしたことについて、被告は、解雇事由となし得る程度のものとは判断されないとするが、しかし、右参加人らが他の従業員に対し、運収をあげないよう指示強要した点については全く判断を遺脱している。
(4) 参加人中島、同横田が、訴外松藤睦に対する傷害被告事件について故意に虚偽の証言をなし、会社の信用を傷つけ損害を与えたことについては、会社が右参加人らの偽証行為のみを問題としているのであれば被告のような認定もあり得ようが、しかし、会社は、右参加人らが意図的に虚偽の証言をなし、あたかも同参加人らの証言することが真実であるかのように宣伝して会社の信用を傷つけ損害を与えたこと、しかも、参加人らの右行為が松藤の刑事事件に対する裁判所の判決後も継続し、昭和五一年八月に至つてもなお執拗に繰り返し行われたことを懲戒理由とするものである。
右のように、参加人中島、同横田に対する右各懲戒が不当労働行為に該当するとの本件命令は、事実の認定及び評価を誤つたものであり、違法である。
(三) 本件命令の不明確性について
不当労働行為に関する労働委員会の救済命令は、行政訴訟を経ずに確定した場合及び緊急命令が発せられた場合には、使用者はその不履行につき過料に処せられ、また、救済命令が確定判決によつて支持された場合、使用者がこれに従わないと刑罰が科されることとなつている。したがつて、罪刑法定主義の趣旨よりして、救済命令の内容は、命令主文に明示された文言により明確不動なものでなければならない。
しかるに、本件命令は、その主文第一項において、「参加人中島、同横田に対する各懲戒解雇処分を取り消し、原職に復帰させるとともにその間に受けるはずであつた賃金相当額を支払わなければならない。」と命じているのであるが、労働委員会は司法機関ではないから、行為の法律上の効力に触れてその有効、無効あるいは取消を命ずる立場にはない。中には、「解雇処分を取り消せ」とは、「解雇がなかつたと同様の取扱をせよ」との包括的命令であり、「原職に復帰させよ」、「バツクペイをせよ」の二つはその例示に過ぎないとの見解をいうものがあるかもしれない。しかし、苟くも準司法機関とされる労働委員会である以上、その救済命令主文の文言もまた法律的な意味で使用されていると解すべきは当然であり、「解雇処分を取り消せ」との文言を右のように別個の意味に解することは許されない。本件命令の主文第一項の前記文言からは、原状回復として解雇がなかつたと同様の取扱をするについてその具体的方法として、原職に復帰させること及びバツクペイをすることを限定、明示したものと理解するのが通常である。本件命令が、すべて解雇がなかつたものとして事実上取り扱えというのであれば、命令の文言自体でそれを明確にすべきである。本件命令は、右のように通常人の理解においてその解釈が分れる可能性があり、禁止された行為と許容、放任された行為の区別について、明確に客観的、合理的な基準を与えていない違法が存する。
(四) 金銭支払を命ずる部分について
本件命令は、参加人中島、同横田が、本件解雇直後である昭和五一年九月一日から訴外博多タクシー有限会社(以下「博多タクシー」という。)に運転手として雇傭され相当の収入を得ている事実を認定しているにもかかわらず、これを控除しないで賃金相当額の支払を命じている点において違法である。最高裁昭和五二年二月二三日大法廷判決によれば、中間収入の存在を認定しながらバツクペイからの控除を不要とするについては特段の根拠が示されなければならないところ、本件命令は、「その勤務は欠勤者をまつて就労するもので、通常の勤務者に比べて不安定な地位にあることが認められ、また、解雇期間中の生活費、不当労働行為救済申立に伴う諸費用及び企業外に排除された同人らの組合活動上の制約等のことを勘案して、両名の賃金遡及支払に関する救済措置は、それぞれ全額の支払を命ずることをもつて相当と判断する。」としているが、しかし、これでは中間収入の控除を全く不要とする特段の理由を具体的に示したものとは言い難い。本件命令が右参加人らの昭和五一年九月の乗務について認定している一三回乗務は満勤であり、また、博多タクシーにおける雇傭は右参加人らが原告会社に復帰するまでの間保障されていたものであり、同参加人らが本件命令がいうような不安定な地位になかつたことは明らかである。しかも、右参加人らが博多タクシーで取得している賃金は、解雇前原告会社で取得していた賃金を優に上回るものであり、また、右参加人らの得た中間収入は従前の労務と同様のタクシー運転により得られたものであるとともに、博多タクシーは右参加人らが所属する上部労組が管理運営する会社であるから、同会社での中間収入がより重い精神的、肉体的負担を伴うものでもない。以上のとおりであるから、本件解雇による右参加人らの打撃はきわめて軽少であり、したがつて、組合活動意思に対する制約もごく軽微なものというべきである。さらに、本件命令がいう解雇期間中の生活費、不当労働行為救済申立に伴う諸費用、及び企業外に排除された参加人中島、同横田の組合活動上の制約が、全額バツクペイを命ずる根拠とはなり得ない。申立諸費用の内容、金額も不明のままその負担を使用者に帰せしめる結果を招来することは、救済命令を損害賠償にすりかえることとなり、不当労働行為救済制度の限度を超えるもので到底許されない。
3 よつて、本件命令の主文第一、二項は違法であるから、その取消を求める。
二 請求原因に対する被告の答弁及び主張
1 請求原因1の事実は認める。
2 同2の(一)ないし(三)は争う。
3 同2の(四)のうち、被告が本件命令において、参加人中島、同横田に中間収入のあつたことを認定していること、原告が被告の判断として本件命令から引用する理由によつて賃金の全額遡及支払を命じていることは認めるが、その余は争う。
原告の引用する最高裁判決は、労働委員会が不当労働行為たる解雇に対するバツクペイ命令において中間収入控除の要否及びその金額を決定するに当り、被解雇者に対する侵害に基づく個人的被害を救済するという観点からだけでなく、あわせて組合活動一般に対する侵害の面をも考慮し、このような侵害状態を除去、是正して法の所期する正常な集団的労使関係秩序を回復、確保するという観点からも、決定されなければならない旨判示している。そして、その具体的処理は労働委員会に委ねられているのであり、かつ、右判決は、労働委員会の裁量権を尊重すべき旨をも判示しているのである。被告は、参加人中島、同横田の再就職の経緯、仕事の実態、再就職先における処遇、生活の状況、解雇撤回のための努力に伴う時間や費用の消失、及び本件解雇により組合が受けた被害等を総合して検討したうえ、賃金の全額遡及支払を命じたものであり、本命令は労働委員会の合理的裁量の範囲内に属する。
4 被告が、本件命令において本件出勤停止及び本件解雇を不当労働行為と認定した理由は、別紙命令書記載のとおりであり、本件命令は適法である。
三 参加人らの主張
1 司法機関としての裁判所が労働委員会の救済命令を取り消すことができるのは、救済命令が違法ないし甚だしく不当であるという例外的な場合に限られるべきである。このような観点からみれば、本件命令が違法ないし甚だしく不当であるといえないことは明らかである。
2 不当労働行為は、使用者の悪質な意図に基づき行われるものであるから、その対象者及び組合に大きな打撃を与え、本質的には完全な原状回復は困難である。労働委員会の救済命令は、迅速かつ簡易な方法により、組合側当事者が使用者の不当労働行為によりこうむつた打撃を可能な限り回復するために設けられた制度であるから、右のような不当労働行為の影響を総体として把握したうえで行われなければならない。本件の場合、職場での活動を基礎に維持されるべき団結権が、参加人中島、同横田の解雇による職場からの放逐によつて受けた打撃ははかりしれず、また、不安定な他職場に臨時的に雇傭された参加人中島、同横田の心労もはかりしれないものがあり、本件解雇により参加人らは大きな打撃を受けた。これらのことを勘案すれば、全額バツクペイを命じた本件命令は、至当なものである。
第三証拠関係<省略>
理由
一 請求原因1の事実は、当事者間に争いがない。
二 まず、本件出勤停止及び解雇の不当労働行為の成否につき検討する。
1 組合の結成と参加人中島、同横田の組合役員歴、成立に争いのない乙第一号証の七、八、丙第二一号証の一、弁論の全趣旨により真正に成立したものと認められる丙第四号証によれば、昭和四四年以前原告会社内には、運転手の組織として福自交あけぼの分会と若葉会とがあつたが、同年四月右両組織の構成員が合体して参加人組合が結成され、運転手のほぼ全員が同組合に加入したこと、参加人中島は、昭和四五年に同組合の執行委員代理、昭和四七年副執行委員長、昭和五〇年四月以降現在まで執行委員長の地位に、参加人横田は、昭和四四年四月以降現在まで書記長の地位にあり、本件解雇の相当以前から右参加人両名は、参加人組合の活動における中心的役割を果していたことが認められ、右認定に反する証拠はない。
2 本件懲戒前における労使間の紛争
(一) 松藤に関する刑事々件の発生
成立に争いのない甲第一号証、同第三号証、乙第一号証の一四、丙第一三号証、前記乙第一号証の七、丙第四号証によれば、組合は、タクシー料金の改訂に伴う賃率の切下げの撤回を求めて、昭和四五年四月三〇日から翌五月一日にかけてストライキを行つたが、その際、当時の組合執行委員長であつた訴外半田繁実が、会社の車庫前から営業車を運転して出て行こうとする会社取締役兼総務部長訴外松藤睦を呼び止めようとして、同人の運転する営業車の窓枠を手でつかんだが、同人がそのまま車を進行させたため、半田は、窓枠をつかんだまま数百メートル走行したこと、そのため、半田や組合は、捜査機関に対し、松藤を殺人未遂罪で告訴、告発し、同人が右行為につき傷害事件として福岡地方裁判所に起訴されたが、同裁判所は昭和五一年一月三〇日同人の行為を暴行罪と認定し罰金刑の判決を言渡し、その控訴審である福岡高等裁判所も昭和五二年二月三日控訴棄却の判決を言渡したこと、参加人中島、同横田が右事件で証人として取調を受けたが、同人らの証言につき、一審裁判所は不合理、不自然な点があるとして、また、控訴裁判所は誇張、作為的な点がある等として採用しなかつたことが認められ、これに反する証拠はない。
(二) 地労委への救済申立
前記乙第一号証の七、成立に争いのない丙第九号証、同第一一号証、同第二一号証の一、弁論の全趣旨により真正に成立したものと認められる丙第一〇号証によれば、組合は、昭和四九年一月五日、会社が運転手を新規採用するに当り組合に加入しないよう指導しており、また、交通違反による罰金、反則金の会社負担部分、忘年会及び担当車両の割当等について組合員と非組合員とを差別して取り扱つているとして、被告委員会に救済の申立をしたこと、右問題については当事者間の交渉により、罰金、反則金の件につき金銭による解決がはかられたほか、会社から組合に対し同年三月六日付で、「一部について労務管理上誤解を招く点があつたので、今後はそのようなことがないよう確約します。」と記載した確約書を交付したことが認められ、右認定に反する証拠はない。
(三) 営業車への書込闘争
前記甲第一号証、同第三号証、乙第一号証の八、成立に争いのない乙第一号証の一五、二〇、弁論の全趣旨により真正に成立したものと認められる丙第六号証によれば、会社は、昭和五〇年春、タクシー料金の改訂に伴つて賃率の切り下げを提案し、労使の合意のないまま同年四月分賃金を会社提案の賃率により支給したこと、組合は、これに反対して数次にわたる時限ストライキを行うとともに、同年五月一七日から約一か月余の間闘争戦術として営業車への闘争スローガンの書込を行い、非組合員が乗務する営業車も含めてほとんど全車両に、窓ガラス部分にはペンキで、ボデイ部分には水性塗料で「賃下げ反対」「ピンハネするな」等と書込んだこと、ボデイ部分への書込を実施するに際しては、予め一定の濃度の水性塗料を使用すれば車体を傷つけることなく水洗のみで書込を消せることを確かめたうえ実施したこと、右書込が実施されていた期間中、会社では毎朝職制らがカミソリ、ガソリン、水等で右書込を消す作業をしていたこと、会社は組合に対し右車両への書込行為を止めるよう再三申し入れたが、参加人らはこれに応ぜず、同年六月二〇日頃会社から右行為の禁止を求める仮処分申請がなされるに及んで、組合も右書込戦術を中止したことが認められ、右認定に反する証拠はない。
(四) 運友会の結成
前記乙第一号証の八によれば、昭和五一年五月七日会社における非組合員たる乗務員二十数名(会社の全運転手の半数弱)により、「運友会」という名称の親睦団体が結成されたことが認められ、これに反する証拠はない。そして、前記3の(二)及び(三)で認定のように、その後運友会は組合と対立する動きをすることが多かつた。
3 本件懲戒の経緯
(一) 本件出勤停止
前記甲第三号証、乙第一号証の八、一四、丙第四号証、同第一三号証及び成立に争いのない甲第四号証によれば、次の事実が認められ、これを覆すに足りる証拠はない。
昭和五一年六月一日の昼間参加人中島方で組合執行委員会が開かれたが、同執行委員会に出席した当時の組合副執行委員長訴外半田繁実、執行委員同江里口章一、同深川登志明の三名は、同日乗務となつており、乗務を中断して執行委員会に出席したが、会社に対し休車の届出をしなかつた(会社の就業規則では、就業時間中に業務上の必要によらず職場を離れる場合は上長の許可を必要とする旨定められている。)。一方、会社は、各営業車備付のタコグラフで右三名の乗務する営業車が三時間にわたり休車していることを知り、同月四日行われた会社と組合との団体交渉の席上、右点につき問いただすとともに右三名に休車届を提出させるよう求めた。その数日後の団体交渉の際、組合は、「従来執行委員会開催により休車する場合は会社に対する届出をしたことがなく、届出しなくてもよいとの慣行ができている。」旨主張して、会社の休車届提出の要求には応じられない旨答えた。その席上で会社は、「今回に限り組合名義による届出でもよい。」旨述べて重ねて休車届の提出方を求めたが、組合は、これも拒否した。その後会社は、執行委員会出席のため休車した前記三名の各組合役員に対し始末書を提出するよう求めたが、深川がこれに応じたのみで、半田、江里口の両名は始末書の提出を拒否した。そのため、会社は、半田、江里口の始末書に代るものとして、組合執行委員長の参加人中島に対し、組合名義の始末書を提出するよう求めたが、同参加人は、前記労働慣行の存在を主張してこれを拒否した。会社は、参加人中島らが右のように会社の指示に従わなかつたことに対する懲戒として、同月二一日参加人中島を出勤停止四日間の、翌二二日半田、江里口を各出勤停止四日間の懲戒に付した。なお、従来組合執行委員会は昼の休憩時間や非番の日を利用して開催されることが多かつたこともあつて、執行委員会が長引いて正規に昼の休憩時間として認められた一時間を超えて休車している場合にも、会社はこれに気付かないまま見過ごしており、組合結成から昭和五一年六月までの間に執行委員会出席のための休車届が提出されたのは、昭和四六年及び昭和四九年に各一回あるだけで、参加人中島が執行委員長に就任して以降は、執行委員会出席のための休車届出がなされたことは全くなかつた。また、組合は、同年七月八日行われた会社との団体交渉の際、今後は執行委員会出席のため休車する場合にも、休車届を提出する旨約した。
(二) 抗議ストとこれを巡る動き
前記乙第一号証の八、成立に争いのない甲第六ないし第八号証(但し、甲第八号証については一部)、乙第一号証の九、一〇、一五、二〇、丙第二一号証の一、二によれば、次の事実が認められる。
昭和五一年六月二一日午前中参加人中島に対する出勤停止の懲戒がなされたことを知つた組合員らの中には、会社に対する抗議のストライキを行えと主張する者もあつた。参加人中島は、会社から電話で全自交福岡地連書記長訴外蒲池雅徳に相談したところ、同書記長からストライキは差し控え労働委員会への救済申立による解決をはかるべきであるとの指示を受けたため、その場にいた組合員にその旨伝え、さらに、今後の方策につき相談するため蒲池の許に赴いた。参加人中島が同日夕刻会社に帰つたところ、同人不在の間に組合員の間で同日及び翌二二日の各午後一一時から二時間の時限ストライキを行うことが決められていた。右ストライキ実施の決定及びその組合員への周知方については、当時の組合執行委員訴外黒岩勇夫が積極的にこれを行つており、参加人横田は、右二一日は非番であつたため、同日午後黒岩から知らせを受けたという組合員から聞いてはじめて右ストライキがなされることを知つた。同月二一日、二二日の両日ともストライキ実施中に組合集会が開催されたが、二二日には会社が新たに半田、江里口の両名に対する出勤停止の懲戒をしたため、同日開催の組合集会には組合員二八名中二一名が出席し、右懲戒につき会社に抗議するためさらに翌二三日の始業時から四八時間のストライキを実施することが決定された。なお、右二二日の集会には、黒岩は出席していなかつた。
右四八時間ストライキに突入した二三日には、組合員及び支援の労組員が会社に詰めていた。一方、運友会々員は、当日乗務予定の者のほか非番の者の中にも会社から連絡を受けて出社する者もあり、同会員らは組合に対し、車庫内にある営業車の搬出を要求して組合員らと対畤し、暫く経つて組合も運友会々員が乗務する営業車に限りその搬出を認める旨右会員らに伝えたが、同会員らはあくまで全車両の搬出を要求したため、組合員らと運友会々員らとの対立は険悪となり、遂に同日午後三時半ころ会社職制が先頭に立ちこれに運友会々員が加わつて、組合員や支援労組員のピケを押しのけて強引に営業車全部を搬出した。
以上の事実が認められ、前記甲第八号証のうち右認定に反する部分はたやすく信用できず、他に右認定を動かすに足りる証拠はない。
(三) 本件解雇
前記甲第一号証、同第三、同第四号証、同第八号証、乙第一号証の八、丙第四号証、成立に争いのない丙第二、第三号証によれば、次の事実が認められ、これを覆すに足りる証拠はない。
組合は、前記出勤停止の懲戒に関する闘争資金を得るため、ビラを配布して他労組員にその実情を訴えてカンパを呼びかけることとし、前記執行委員の黒岩が文案を起草してビラ五〇〇枚を作成し、組合員が昭和五一年八月七、八日の両日博多駅構内において、右ビラを同構内に入つて来るタクシー運転手に配布した。ところが、右ビラの文中に運友会々員を指して「暴力団まがいの連中」等の記載があつたことから、同月一四日運友会々長訴外大溝義夫ら同会々員が組合役員に対して抗議し、ビラの撤回と謝罪文を書くよう要求したが、組合は、同夜執行委員会を開いて検討した結果、右ビラの記載は事実を述べているに過ぎないので運友会々員の要求に応ずる必要はないとの結論に達し、その旨大溝らに伝えた。このため、大溝ら運友会々員数名が同月二一日までに連日組合役員に対しビラの撤回等を要求して同役員の乗務する営業車を取り囲んでその出庫を妨害したので、参加人中島は、同月一四日二時間四〇分、同月一六日一時間、同月一八日三時間三〇分、参加人横田は、同月一五日一時間、同月一八日三時間三〇分、同月二〇日二〇分それぞれ勤務に従事することができなかつた。会社は、同月二一日、参加人中島を、「<1>昭和五一年八月七、八日の両日博多駅その他において、不特定多数に対し事実に反し会社を誹謗中傷するビラ多数を配布して会社の名誉、信用を害し、右ビラ配布を原因として従業員間に軋轢を生じさせ、同月一四日以降会社の就労命令に違反して就労しなかつた。<2>昭和五〇年六月上旬頃会社所有営業車の後部窓ガラス、車体等に塗料で落書して毀損し、会社役員の中止命令に従わないのみか反抗的態度に出、また他の従業員の業務を妨げた。<3>その他日常の出勤態度、勤務状況が不良であり、注意を受けても改めず、職務上の指示命令に不当に反抗して事実上の秩序をみだし、さらに積極的に会社の営業の妨害行為をした。<4>会社役員松藤睦に対する傷害被告事件について故意に虚偽の証言をなし、会社の信用を傷つけ損害を与えた。<5>昭和五一年六月二一日出勤停止四日の懲戒を受けたが、全く反省の態度がみられない。」との理由で、原告横田を右<1>ないし<4>の理由でそれぞれ懲戒解雇した。また、会社は、組合と運友会々員との間の前記紛議に関し右参加人らに対する懲戒解雇と同日の同月二一日に黒岩執行委員を出勤停止三か月の、同月二二日江里口執行委員を同じく出勤停止三か月の、同月二四日半田副執行委員長を出勤停止二か月の各懲戒に付するとともに、その頃運友会々員に対しても大溝会長を出勤停止三か月に、その他三名の同会員を出勤停止二か月に付したが、その後右運友会々員らには改悛の情がみられるとして同人らから詫び状を差入れさせたうえ一か月内外で右運友会々員に対する出勤停止を解いた。
4 本件解雇後の事情
前記甲第八号証、乙第一号証の二〇、成立に争いのない乙第一号証の一一によれば、次の事実が認められ、これに反する証拠はない。
本件解雇当時の組合執行部は、参加人中島、同横田のほか、前記半田副執行委員長、江里口、黒岩、深川(会計担当)の各執行委員で構成されていたが、右参加人両名に対し本件解雇がなされたと同じころ、半田、江里口、黒岩の三名も出勤停止に付されたため、会社における組合活動は不能若しくはきわめて困難な状況になつた。そして、本件解雇後二か月足らずの昭和五一年一〇月ころから、前記黒岩が主となつて組合員に対し組合を解散しようとの働きかけがなされ、当初同人らは解散のための組合大会の開催を求めたが、右参加人らに強硬に反対されたためこれを断念し、同年一一月二九日黒岩及び半田の両名が参加人横田の許に右両名を含む組合員一二名の組合脱退届を持参した。本件解雇当時の組合員数は会社の全運転手五十数名の過半数を占める二七、八名であつたが、昭和五一年末の時点では組合脱退や退社により組合員は約一〇名に減少し、さらに翌五二年末には参加人中島、同横田のほか組合員はいなくなつた。また、同年一一月に前記黒岩は会社営業課長に登用された。
5 本件解雇事由の検討
(一) ビラ配布等(前記3の(三)記載の解雇事由<1>について)
原告は、前記3の(三)で判示の組合のビラ配布により会社の名誉、信用が害されたことを、参加人中島、同横田に対する本件解雇事由の一つとしている。しかし、前記判示のように右ビラは、懲戒の正当性を巡つて会社と対立、闘争中の組合が、他会社のタクシー運転手に支援を訴えるために作成されたものであるから、その性質上その表現がある程度事実を誇張したり自己の正当性の一方的主張となりがちなことは否定できず、それもある程度やむを得ないことと考えられる。本件ビラが右のような性格のものであることは、ビラの体裁や記載内容から通常看取できることであるから、本件ビラを読む者においてもその記載内容を必ずしもすべて真実なものとして受け取るおそれはないというべきである。右事情に本件ビラ配布の直接の相手方がタクシー運転手に限定されていることを考え合わせると、本件ビラの配布により、解雇事由となるほどに会社の名誉、信用が害されたとするには疑問が存する。現に本件ビラ配布後本件解雇までの間に、本件ビラが会社の名誉、信用を害するものとして、会社から組合や組合役員に対し抗議や注意がなされた形跡はない。
また、原告は、本件ビラの配布により従業員間に軋轢を生じさせ、欠務したことを解雇事由の一つとしている。しかし、前記判示のように、参加人中島、同横田が八月一四日から同月二〇日までの間に欠務したのは、運友会々員らの業務妨害によるものであるところ、前記のような本件ビラの性格を考慮すると、運友会々員らが自らの名誉保持のため組合役員らに対し抗議すること自体はともかくとして、その抗議のため右参加人らの会社における業務遂行を妨害することにはいかなる正当性も見出し難い。しかも、前記甲第一号証、同第三、第四号証、丙第四号証によれば、会社は、運友会々員らの右業務妨害に対して口頭による注意を与えたものの、それ以上に右妨害排除のための積極的措置をとらず、組合員らが警察に通報する等して右妨害を排除したことが認められ、これを覆すに足りる証拠はない。
(二) 営業車への落書(前記解雇事由<2>)について
前記2の(三)で認定の昭和五〇年春組合が実施した営業車への書込闘争は、会社の車両を毀損し、かつ会社の中止命令に従わなかつた点で違法なものといえる。しかし、右行為に関しては、次のような事情も認められる。即ち、前記認定のように、組合においてもボデイ部分への書込を実施するに際しては、一定の濃度の水性塗料を使用すれば車体を傷つけることなく水洗のみで書込を消せることを確かめたうえで実施されており、回復不能な車両毀損がなされないようにとの配慮がなされている。また、前記乙第一号証の八、二〇、丙第四号証によれば、昭和五〇年の春闘に際しては、福岡市内の他の四、五社のタクシー会社労組においても、車体への闘争スローガン等の書込戦術がとられたが、いずれの会社においても右闘争を実施したことを理由として組合役員に対する懲戒がなされた形跡はなく、原告会社においても右闘争中止後本件解雇に至るまでの一年余の間、右闘争実施に関し組合役員の責任を問う態度を示したことはなかつたことが認められ、これを覆すに足りる証拠はない。以上のような事情に照らして考えると、本件解雇以前会社には、右車体への書込闘争に関し組合役員を懲戒する意思はなかつたと推認するのが相当である。
(三) 勤務状況(前記解雇事由<3>)について
前記甲第一号証、乙第一号証の二〇、成立に争いのない甲第二号証によれば、会社における参加人中島、同横田の運収は平均より下位に属すること、会社職制らが右参加人らに対しもつと運収をあげるよう注意すると、同参加人らは、「足切り線(一か月の運収額がそれを下回る場合に歩合給の支給率が減少する金額)以下にならねばよい。」という趣旨のことを述べて運収の増加に非協力的態度を示すことが多かつたこと、会社の朝の点呼(乗務前に運行管理者が運転者に面接して、その健康状態等を把握するとともに、運転上の注意を与えるもの)は、主に訴外北崎定彦、同三島隆二郎の両部長が行つていたが、同人らが差支えの場合にたまに前記松藤部長が行うことがあつたが、同人の点呼の際には右参加人らは、松藤にはその資格がないと言つて抗議し同人の点呼を拒否していたことが認められ、右認定を覆すに足りる証拠はない。
しかし、前記甲第一号証、乙第一号証の二〇によれば、本件解雇前会社には右参加人らより運収の少い者もおり、同参加人らが最低グループに属していたわけではないことが認められる。右認定に反する甲第二号証、乙第一号証の一七は前記証拠に照らしたやすく信用できない。また、松藤の点呼を前記参加人らが拒否した点については、前記1の(一)に認定のような刑事々件の発生により、松藤と組合との間には感情的対立関係があつたことがうかがえ(前記甲第一号証、乙第一号証の一四によれば、刑事々件発生後暫く松藤は組合員との接触のない職場に配置されていたことが認められる。)、右参加人らが松藤の点呼に対して示した態度も右感情的対立に起因するものと推認できる。そして、前記認定のように、松藤が点呼を担当するのは臨時的なものであり、右参加人らの点呼拒否により業務に格別の支障があつた形跡はなく、本件解雇以前に会社において右参加人らの点呼拒否を問題として、懲戒や注意をした形跡もうかがえない。
さらに、会社は、参加人中島、同横田が積極的に会社の営業の妨害行為をしたことを解雇事由の一つとしている。そして、前記甲第四号証、成立に争いのない甲第五号証によれば、昭和五一年五月二〇日ころ会社の運転手で非組合員の訴外森和正が千早病院で客待ちをしていたところ、数名の組合員がその場に来て森に対し、同人が運収をあげ過ぎると抗議し今後他の運転手と同程度の水揚げにするよう要求したことが認められる。しかし、右甲第五号証(当庁昭和五二年(ワ)第八一号事件の森和正の証人調書)記載の森和正の証言自体、森に対する運収をあげ過ぎないようにとの右働きかけの際、右参加人らがその場に居合わせたのかどうかあいまいであり、前記乙第一号証の一一を合わせ考えると、同参加人らが右働きかけをしたものとは認め難く、その他右参加人らが業務妨害行為をしたことを認めるに足りる証拠はない。
(四) 偽証等(前記解雇事由<4>)について
前記2の(一)で判示したように、参加人中島、同横田は、松藤の刑事々件で証人として取調を受けたが、裁判所は同人らの証言にはいずれも不合理な点や誇張等があると指摘して採用しなかつたことが認められる。したがつて、右参加人らの証言と客観的事実との間には齟齬があり、同人らの証言には誇張された部分があつたことは推認できるが、しかし、右参加人らが右証言の際、その記憶に反しことさら虚偽の事実を述べたと認めるに足りる証拠はない。右参加人らが偽証罪で有罪とされたというのであればともかく、単に同参加人らが松藤の行為につき誇張した証言をしたということのみでは、他に特段の事情のない限り会社の信用が害されたものと解することはできず、本件において、右特段の事情の存在はうかがえない。
原告は、参加人中島、同横田が昭和五一年八月に至つてもなお執拗に同参加人らの証言することが真実であるかのように宣伝して会社の信用を傷つけた旨主張する。そして、前記甲第一号証、同第三号証によれば、前記3の(三)に判示の昭和五一年八月七、八日の両日組合が博多駅で配布したビラには、松藤の暴行事件についての記載がなされていることが認められる。しかし、右ビラの記載は松藤の半田に対する暴行事件があつたという点では虚偽の事実を記載しているわけではなく、かつ、前記甲第一号証、同第三号証によつて認められる右ビラの記載内容に照らすと、右暴行事件に関するビラの記載は、同事件自体を他に流布、宣伝しようとするものではなく、会社の組合に対する措置の不当性を訴えるための一事情として記載されていることが認められる。以上のほか前記5の(一)に判示のような右ビラの性格及び配布の対象が限定されていること等を考え合わせると、右ビラの配布により会社の信用を傷つけたものとは認め難い。
(五) 本件出勤停止後の参加人中島の態度(前記解雇事由<5>)について
前記3の(一)で判示のように、組合結成から昭和五一年六月までの間に執行委員会出席のための休車届が提出されたのは僅か二回に過ぎず、参加人中島が執行委員長に就任して以降は、執行委員会出席のための休車届出がなされたことは全くなかつたことに照らして考えると、参加人中島が、原告会社においては執行委員会出席の場合休車届は不要とする取扱がなされているものと認識していたとしても、ある程度無理からぬ事情があつたということができよう。右事情に、前記認定のように昭和五一年七月八日の団体交渉の際、組合も今後は執行委員会出席のため休車する場合にも休車届を提出する旨約していること等を考え合わせると、出勤停止の懲戒後参加人中島に反省の態度がないとして就業規則の懲戒解雇条項を適用するのは相当性を欠く措置といわねばならない。
6 結論
以上判示の事情、殊に参加人組合結成以来の原告会社における労使関係は必ずしも円滑とはいえず、本件懲戒以前にも不当労働行為と疑われるような組合員に対する差別的取扱があつたこと、昭和五一年五月運友会が結成されてからは、同会は組合と対立し会社を支援するような動きをすることが多く、また、本件解雇の約二か月後には黒岩を中心として組合を解散ないし脱退しようとの働きかけがあり、その後同人は課長として登用されていることからすると、運友会の結成、運営や組合の解散、脱退については何らかの会社の策動があつたと推認するのが相当であること、さらに本件解雇事由が薄弱であること等を総合して判断すると、参加人中島に対する本件出勤停止及び参加人中島、同横田に対する本件解雇は、いずれも被告が右参加人らの組合活動を嫌悪しこれを理由としてなされた労働組合法七条一号該当の不当労働行為と認めるのが相当である。もつとも、本件出勤停止については、会社が執行委員会出席のため無届で休車した組合役員に対し、休車届の提出を求めた措置自体は正当なものというべく、これを拒否した組合及び執行委員にも非が認められるが、しかし、前記判示のように、右を理由として執拗に始末書の提出を求め、同問題を契機として一連の組合弱体化がはかられていることに照らして考えると、本件出勤停止も参加人中島の組合活動を嫌悪しこれを規制することを決定的動機としてなされたものと認めるのが相当である。
三 次に、本件命令が不明確で違法との原告の主張につき判断する。
本件命令がその主文第一項において、「懲戒処分を取り消し」との用語を用いていることは、原告主張のとおりである。しかし、労働委員会による救済命令は行政機関による行政行為であるから、労働委員会が私法上の行為の取消を命ずることができないことは自明の理であり(労働委員会に私法上の行為についての取消権限のないことは、原告自ら強調するところである。)、かつ、救済命令は不当労働行為がなかつたと同様の状態を回復することを主要な目的とするものである。右労働委員会の権限並びに「取り消し」のもつ通常の語意及び救済命令における慣用的用語例等に照らして考えると、本件命令における「懲戒解雇を取り消し」との文言が、「解雇がなかつたと同様の状態を回復せよ」との趣旨で用いられていることは明らかというべきである。したがつて、本件命令に原告主張の前記違法が存するものとは解し難い。
四 さらに、原告は、本件命令中バツクペイを命じた部分が違法である旨主張するので、この点につき判断する。
被告は、本件命令において、参加人中島、同横田が本件解雇直後である昭和五一年九月一日から博多タクシーに運転手として雇傭され、同年九月については三〇万円程度の運収をあげ、その四八パーセントに当る金額を賃金として得ている旨認定しながら、これを控除しないで賃金相当額全額の遡及支払(バツクペイ)を命じていることは、原告主張のとおりである。そして、前記甲第三号証、乙第一号証の八、一一によれば、参加人中島、同横田は昭和五一年九月一日から博多タクシーでタクシー運転手として稼働し、同月の運収は両名とも約三〇万円でその四八パーセントを賃金として支給を受けたこと、同賃金は右参加人らが本件解雇当時原告会社において支給を受けていた賃金額を上回るものであることが認められ、同参加人らはその後も本件命令当時まで右と同程度の賃金を得ていたものと推認され、これに反する証拠はない。したがつて、本件解雇によつて右参加人ら個人が受けた経済的被害の面からみると、その回復があつたものといえる。
しかし、救済命令の内容は、不当労働行為によつて労働者が受けた個人的被害を救済するという観点からのみではなく、当該不当労働行為が組合活動一般に対して与えた侵害の面をも考慮し、その侵害状態を除去、是正して正常な集団的労使関係秩序を回復確保するという観点からも決定されなければならないのであり、解雇の救済の場合における中間収入の控除の要否及びその金額の決定も、右のような見地からなされることを必要とするものである。そして、右の点に関する労働委員会の決定は、それが救済命令制度の趣旨、目的に照らして是認される範囲を超え、または著しく不合理であつて濫用にわたると認められるものでない限り、違法とはならないのである(最高裁判所昭和四五年(行ツ)第六〇号、同第六一号昭和五二年二月二三日大法廷判決・民集三一巻一号九三頁参照)。
そこで、本件解雇が原告会社における組合活動一般に対して与えた侵害の面についてみるに、前記判示のように、本件解雇当時参加人中島は執行委員長として、また参加人横田は書記長として、それぞれ参加人組合の活動における中心的役割を果していたところ、右参加人らに対する本件解雇と同時に執行委員三名に対して長期の出勤停止の懲戒がなされたこととあいまつて、本件解雇後の会社における組合活動はきわめて困難となり、組合員の大量脱退、退社等により昭和五二年末には参加人中島、同横田を除き組合員はいなくなつたことが認められる。以上のとおり組合は壊滅的打撃を受けたものであるが、これは本件解雇により組合の中心的指導者が企業外に排除されるとともに、組合員の組合活動意思が萎縮し、組合活動一般に対して制約的効果が及んだことによるものとみるのが相当である。
右のように、本件解雇は原告会社における組合活動一般に対して侵害を与えたものというべく、本件の場合、その侵害の除去という観点から賃金相当額全額のバツクペイを命ずることも、組合活動一般について生じた前記侵害の程度に照らし労働委員会の裁量権の合理的行使の範囲内にあるものというべく、本件バツクペイ命令に裁量権行使の違法があるとはいえない。
五 よつて、本件命令は適法であり、原告の本訴請求は理由がないからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法七条、民事訴訟法八九条、九四条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判官 辻忠雄 湯地紘一郎 林田宗一)
(別紙)
命令書
(福岡地労委昭和五一年(不)第二三号 昭和五二年一二月五日 命令)
申立人 あけぼのタクシー労働組合
被申立人 あけぼのタクシー有限会社
主文
一 被申立人は、中島九州男に対する昭和五一年六月二一日付出勤停止処分を取り消し、同処分がなかつたものとして取り扱い、また、同人に対する同年八月二一日付懲戒解雇処分を取り消し、同人を原職に復帰させるとともにその間に同人が受けるはずであつた賃金相当額を支払わなければならない。
被申立人は、横田重信に対する昭和五一年八月二一日付懲戒解雇処分を取り消し、同人を原職に復帰させるとともにその間に同人が受けるはずであつた賃金相当額を支払わなければならない。
二 被申立人は、本命令交付の日から七日以内に、下記の文書を縦一メートル、横二メートルの白紙に明瞭に墨書して、本社の従業員の見やすいところに一〇日間掲示しなければならない。
記
会社があけぼのタクシー労働組合執行委員長中島九州男に対して行なつた昭和五一年六月二一日付出勤停止処分及び同年八月二一日付懲戒解雇処分並びに同書記長横田重信に対して行なつた昭和五一年八月二一日付懲戒解雇処分は、いずれも福岡県地方労働委員会の命令によつて不当労働行為であると判断されましたので、上記処分を取り消します。
昭和 年 月 日
あけぼのタクシー労働組合
執行委員長 中島九州男 殿
あけぼのタクシー有限会社
代表取締役 瓜生哲也
三 申立人のその余の申立は、これを棄却する。
理由
第一認定した事実
一 当事者等
申立人あけぼのタクシー労働組合(以下「組合」という。)は、昭和四四年四月、従来から被申立人会社内にあつた労働組合と非組合員で組織された若葉会と称する親睦団体とが合同して結成されたもので、本件申立当時の組合員数は、二九名であつた。
なお、中島九州男(以下「中島」という。)は、昭和四五年に組合の執行委員代理、昭和四七年には同副委員長、昭和五〇年四月以降は同執行委員長を歴任し、横田重信(以下「横田」という。)は、昭和四四年四月以降同書記長の役職にあつた。
被申立人あけぼのタクシー有限会社(以下「会社」という。)は、一般乗用旅客運送を業とするもので、昭和三六年に設立され、肩書地に本社を置き、市内博多区に「あかつき」営業所を有し、本件申立当時、従業員は約五五名である。
二 本件申立前の労使関係
(一) 会社取締役、松藤睦(以下「松藤」という。)は、組合が昭和四五年四月三〇日、賃上げ等を要求して二四時間のストライキを実施したため、代替運転手として会社営業車に乗務し、翌五月一日午前七時頃交替のため会社に戻つたところ、さらに、二四時間のストライキを続行中のため待機していた当時の組合執行委員長半田繁実(以下「半田」という。)ら組合員から「団体交渉をするから社長が出てくるまでここに居てくれ」と要求された。松藤は、一旦は半田らの要求を受け入れるような態度を示したが、その場から離れようとして突然車輛を発進させ、追いかけてきた半田が、同車の窓枠を手でつかんで停止させようとするのを無視して、約二〇〇メートルの間、同人を振り切ろうとして引張る状態で走行するという事件が発生した。その後、このため入院加療中の半田及び組合等が松藤を殺人未遂罪で告訴、告発し労使関係は急速に悪化することとなり、そのため会社は松藤を組合員とのトラブルを避けるため六カ月程度あかつき営業所に勤務させている。
松藤は昭和四五年一〇月傷害事件で起訴され、福岡地方裁判所は、昭和五一年一月三〇日松藤の行為を暴行と認定し、罰金一万五〇〇〇円の有罪判決をなした。これに対し、松藤は控訴したが、福岡高等裁判所は、昭和五二年二月三日控訴棄却の判決をなし、現在確定している。
この間の公判廷において、組合では、中島及び横田両名の者が証人として出頭し、半田は、松藤運転の車両に引きずられ両足が地面から浮いた状態となつた趣旨の証言をしたが、このことについては裁判所は「中島らの証言は甚だ不合理、不自然であり、直ちに全般的に措信することはできず、半田は強引に引張られる状態で併進走行したものと認めるのが相当である」と判示している。
福岡地方裁判所の判決があつた昭和五一年一月三〇日、労使間で団体交渉が持たれ、その中で会社は、労使関係を正常化できるならば、会社が半田に出費した費用は請求しない。また、公判廷における中島、横田の証言は偽証の疑いがあるがこれも不問にすると提案したが、組合は納得できないとしてこれに応じなかつた。
(二) 組合は、昭和四九年一月五日、当委員会に対し、会社が従業員を採用するに当つて組合に加入しないことを条件としたり、車輛の割当て及び運転手が道路交通法違反によつて罰金、反則金を課された場合の会社負担部分等について組合員と非組合員とを差別取扱いしたこと、また、非組合員だけ集めて忘年会を行なう等の行為は不当労働行為に該当するとして、その救済申立を行なつた。
本件は当事者で自主的に交渉が持たれた結果、それまで未解決であつた昭和四八年度の賃金問題も含めて合意に達し、会社は「一部について労務管理上誤解を招く点があつたので今後はそのようなことがないよう確約する」という文書を組合に提出し、組合は申立を取り下げた。
(三) 昭和五〇年度の賃金交渉は、タクシー料金が値上げになつたことに伴ない、会社が組合に提案した賃率が従来のものより低率であつたため難行していたが、会社は五月一〇日、四月分賃金を会社案で強行支給した。
これに対して組合は、スローガン闘争と称して、同月一七日以降、会社営業車のウインドー部分に黄色の油性ペンキ、ボデイに赤色の水性ペンキで、「賃金引下げ反対」「賃金を保障せよ」等の文字を書き込み、走行をはじめ、また、社長の名前が「哲也」であることから、組合員所有の車両に「こら、哲也、大概にせんか」等の落書をなし、会社前の道路に放置した。会社は、組合に直ちに中止するよう申し入れたが、組合はこれに従わず、会社が消しては、また、組合が書き込むという状態が続いたため、翌六月二〇日福岡地方裁判所に落書禁止等の仮処分申請を行なつた。しかし、組合が同月二三日以降スローガン闘争を中止したため、同月二六日申請を取り下げた。
この間において、中島及び組合執行委員、黒岩勇夫(以下「黒岩」という。)が、会社車庫内で非組合員の永島に「誰がペンキを消したか」等詰問し、同人を車両から引き下ろそうとしたり、また、組合員が、非組合員であつた宗像の運転する営業車にスローガンを書き込もうとして取囲んだ際に、組合執行委員江里口章一(以下「江里口」という。)と宗像との間にやりとりがある等のことがあつた。
結局、昭和五〇年度の賃金問題は、同年一二月一八日、当委員会のあつせんにより労使間で協定書が作成され、解決したが、組合は、その後、会社が黒岩、半田に支給した賃金の一部が協定どおりに支給されなかつたとして問題にし、両名の者が福岡地方裁判所に賃金支払の仮処分申請を行なうなど紛糾したが、同裁判所は、昭和五一年一〇月一日、両名の申請を却下した。
なお、組合が上記賃金闘争中であつた昭和五〇年夏頃、組合員の一人が結婚したが、その結婚式に出席のためとして、当日勤務の組合員全員が有給休暇の申請を行なつたが、会社は五名を認め、三名については認めなかつたところ、組合は労働基準監督署に改善を求める等のこともあつた。
三 運友会の結成について
会社では昭和五一年四月以降、非組合員の間に、親睦団体結成の気運が起り、五月七日、志免町の料亭において「運友会」が発足したが、当日勤務中の非組合員は会社営業車を運転して出席した者が多く、酒を飲んだ後仮眠して運転した者もいた。
同日、運友会が結成されたことを知つた中島ら組合員は、会社役員三浦に対し運友会の者が勤務中に酒を飲んだことについて、「第二組合だつたら許されるのか」等抗議した。さらに、組合は、六月四日の団体交渉においても、このことを取上げ会社を追求したところ、会社は、運友会の者には始末書を提出させたと述べた。しかし、当日出席した非組合員の中には始末書を提出していない者もいた。
この間、会社は、五月中旬頃、高尾、本村、鶴野ら数名の運転手を採用しているが、その中には会社から同年の夏期一時金として一五万円の支給を保証された者がいた。
四 勤務時間中の組合活動について
(一) 会社の就業規則によると、従業員が勤務時間中に組合活動を行なう場合は、事前の許可を得ることとされており、組合も、裁判所、地労委に出頭する場合などは、組合用務のためとして届出を行なつてきた。
ところが、組合は、従前から執行委員会については、会社車庫内の従業員の誰でも見られる場所に掛けてある黒板に、日時、場所等を記載し、役員間に連絡をとるなどして行なつてきたが、黒岩が委員長であつた昭和四六年から四九年にかけて、二度程度届出ているものの、昭和五〇年三月以降五一年六月一日までの間、組合は、ストライキ中も含め、組合役員の自宅等で、表一のとおり一八回も執行委員会を行なつているが、その間、乗務員が会社に提出する日報の中に、一三時から一四時まで執行委員会と記載されたものが一通あつたが、組合が届出た事実はなく、また、この点に関して会社から注意を受けたこともなかつた。
しかし、後述のとおり、本件で問題となつた昭和五一年六月一日の執行委員会については、組合はその予定を黒板に記載していなかつた。
(表一)
執行委員会開催状況
年月日
時間
非番、公休出席者
乗番出席者
場所
五〇、三、一六
一一時~一三時
中島、矢野、横田、深川、黒岩
半田、江里口
中島宅
〃 〃 一九
一二~一三
中島、横田、深川、江里口、黒岩、矢野
半田
横田〃
〃 四、四
一二~一五
中島、深川、横田、黒岩
半田、江里口
中島〃
〃 五、二七
九
中島、黒岩、半田、江里口、深川、横田
スト中
車庫
〃 六、四
一二~一四
中島、黒岩、横田
半田、深川、江里口
中島宅
〃 六、一三
一五、三〇~一六、三〇
横田、中島、黒岩、深川
半田、江里口
横田〃
〃 七、五
一二~一四
中島、半田、江里口
横田、深川、黒岩
中島〃
〃 九、八
一二~一四
中島、黒岩、横田
半田、江里口
〃
〃 一一、三
一二~一四
中島、横田、深川、江里口
半田、黒岩
〃
〃 一二、
一〇~一一
中島、半田、江里口
黒岩、深川、横田
車庫
五一、一、一〇
一二~一五
中島、横田、黒岩
半田、深川、江里口
中島宅
〃 二、一八
一二~一四
半田、横田、黒岩、江里口、深川
中島
横田〃
〃 四、五
一四、二〇~団交後
半田、黒岩、横田
中島、江里口
車庫
〃 四、一〇
一二~一四、三〇
中島、横田、黒岩
半田、江里口
中島宅
〃 四、二〇
一一~一三
中島、黒岩、横田、江里口
半田、深川
〃
〃 五、一〇
一〇~一二
半田、横田、江里口、深川
中島
横田〃
〃 五、一六
一二~一四
中島、半田、黒岩
横田、深川
黒岩〃
〃 六、一
一二~一五
中島、黒岩、横田
半田、深川、江里口
中島〃
五 中島らの出勤停止処分について
(一) 会社では、乗務員の日報、タコグラフ等は毎日チエツクされており、半田、江里口、深川ら組合役員三名の担当する車両が六月一日の一二時から一五時までの間、稼動していないことを知つた会社は、同月四日に行なわれた団体交渉において、半田ら三名の者の行動を追及した結果、組合から、その間は執行委員会を行なつていたという説明を受けた。
会社は、組合に対し、事後ではあるが直ちに届出るよう指示し、届出がなければ処分すると通告したが、組合は、執行委員会については届出たことはないとして拒否した。さらに会社は、同月一三日深川に、同月一五日には半田、江里口に対し始末書の提出を求めたところ、深川は提出したが、半田、江里口の両名は、組合用務で休車したものであるから組合名で提出すべきであつて個人が提出すべきものではないとして拒否した。
(二) 会社は、同月二一日、中島に対し、半田、江里口の両名に始末書の提出を指示すること、また、指示ができなければ組合名でもよいから提出するよう求めたが、中島がこれに応じなかつたところ、同人に対し出勤停止四日間の懲戒処分を行なつた。
会社は、翌二二日、半田、江里口に対し再度始末書の提出を求めたが、両名が拒否したため、中島と同様に四日間の出勤停止処分を行なつた。
なお、組合は、その後、七月八日に行なわれた団体交渉において、今後は執行委員会についても届出ることを会社に約束している。
(三) 組合は、中島ら組合役員三名が出勤停止処分を受けた六月二一日、二二日の両日、それぞれ二三時から終業時までの約二時間抗議ストを行なうことを役員間で決定した。組合員らは、その抗議スト中に集会を開き今後の方針を協議したが、二二日の集会において、ストライキを打つべきだという意見が大勢を占め、挙手等の方法で翌二三日から二四日にかけて四八時間のストライキを実施することを決定した。
(四) 組合は、上記のとおり、四八時間のストライキを実施したが、二三日のストライキに際し、組合が上部団体傘下の組合員の支援をうけ、運友会所属の非組合員らの出庫をピケ等により阻止したため、組合員と運友会の者との間に、激しいやりとりが続いた。このため、組合は午後三時頃、当日乗務の非組合員の出庫は妨害しないと運友会の大溝会長に申し入れるということもあつたが、結局、非組合員らは、強引にピケを突破し、全営業車を出庫させた。
六 組合配布のビラについて
(一) 組合は、昭和五一年八月七日、八日の両日、博多駅において、同駅に集まるタクシー運転手に対し、会社の労使問題等を取上げたビラを配布したが、その中には、非組合員らの前記六月二三日の行動に関して「暴力団まがいの連中」と記載した部分があつたため、その後、組合役員と運友会の一部の者との対立は深まつた。
(二) 昭和五一年八月一四日以降、運友会の大溝、上山、本村、高尾らは、出勤してくる中島ら組合役員に対し、連日にわたり、上記ビラの撤回と謝罪を執拗に要求し、同人らの就労を一時妨害したため、中島、横田、黒岩、江里口の四名は出庫が遅れることがあつた。
一方、会社は、両者間のトラブルに関しては、非番、公休の日に別の場所で話し合つて、早急に解決するように注意し、中島らにはビラを撤回したらどうか等の勧告をした。
七 解雇等の懲戒処分について
(一) 会社は、昭和五一年八月二一日から同月二四日までの間に、組合役員に対し解雇を含む懲戒処分を行なつたが、被処分者名、処分の種類及び事由は表二ないし表四のとおりである。
一方、会社は運友会の大溝、上山らに対しても、それぞれ二カ月間の懲戒休職処分を行なつたが、同人らが反省しているとして、始末書を提出させたうえ処分後一六日目から出勤することを許している。
(表二)
処分年月日
被処分者名
処分の種類
五一、八、二一
委員長 中島九州男
懲戒解雇
〃
書記長 横田重信
〃
〃
執行委員 黒岩勇夫
懲戒休職三ヵ月
五一、八、二二
〃 江里口章一
〃
五一、八、二四
副委員長 半田繁実
懇戒休職二ヵ月
(表三)
処分事由
該当者名
1 昭和五一年八月七日、八日の両日、博多駅、その他において、不特定多数の者に対し事実に反し、会社を誹謗中傷するビラ多数を配布して会社の名誉、信用を害し、右ビラ配布を原因として従業員間に軋轢を生じさせ、同月一四日以降、会社の就労命令に違反して(表四の時間)就労しなかつた。
中島、横田、黒岩、半田、江里口
但し、半田は の部分該当しない
2 昭和五〇年六月上旬頃、会社所有営業車の後部窓ガラス車体等に塗料で落書して毀損し会社役員の中止命令に従わないのみか反抗的態度にで、またほかの従業員の業務を妨げた。
中島、横田、黒岩、半田、江里口
3 その他日常の出勤態度、勤務状況が不良であり、注意をうけても改めず、職務上の指示命令に不当に反抗して事実上の秩序をみだし、さらに積極的に会社の営業の妨害行為をなした。
中島、横田、黒岩、江里口、
但し江里口は の部分該当しない
4 会社役員、松藤睦に対する傷害被告事件について故意に虚偽の証言をなし会社の信用をきずつけ損害を与えた。
中島、横田、黒岩
但し、黒岩は の部分該当しない
5 昭和五一年六月二一日出勤停止四日の懲戒処分を受けたが全く反省の態度が見られない。(半田、江里口の処分月日は昭和五一年六月二二日)
中島、半田、江里口
就業規則適用条項
第六二条
第七三条、第一、五、九、一三、二一、二五号
但し、半田は七三条一、五号 黒岩、横田は同五号の適用はない
(表四)
年月日
中島
横田
黒岩
江里口
五一、八、一四
朝止まつた時間
二時間四〇分
朝止まつた時間
二時間五〇分
朝止まつた時間
二時間四〇分
執行委員会で止まつた時間
二、〇〇
執行委員会で止まつた時間
二、〇〇
執行委員会で止まつた時間
二、〇〇
〃 〃 一五
朝止まつた時間
一、〇〇
朝止まつた時間
二、一〇
〃 〃 一六
朝止まつた時間
一、〇〇
〃 〃 一八
〃
三、三〇
〃
三、三〇
〃
〇、五〇
〃 〃 一九
朝止まつた時間
〇、四五
〃 〃 二〇
〃
〇、二〇
(二) 中島、横田は解雇された後、昭和五一年九月一日から福岡市内に所在する、はかたタクシー有限会社に臨時の運転手として、会社に復帰できるまでの間という条件で採用され、同人らは午前八時まで待つて、欠勤者があつた場合に乗務できることになつている。その勤務状態は、同年九月については、両名とも一三回乗務しており、それぞれ三〇万円程度の運収を上げ、その四八%に当る金額を賃金として得ている。
八 中島及び横田解雇後の組合について
(一) 組合は、従来から六名による執行体制であつたが、うち一名は会計担当で、事実上は、その者を除く五名の役員によつて指導、運営されていたものであるが、五名の者がそれぞれ解雇等の処分を受けたため、組合員との連絡に支障をきたし、さらに、会社が九月から組合費のチエツク、オフを止める等のこともあり、組合員の間に動揺が生じ、組合の維持、運営は極度に困難なものとなつた。
(二) そのような情勢の中で、黒岩は、一〇月中旬頃から、組合を解散したらどうかと組合員に呼びかけ、組合大会の開催を要求する署名を集め、中島、横田に提出したが、両名はこれに応じなかつた。
しかし、その後、一一月二九日、黒岩、半田ほか一〇名の者が組合を脱退したのをはじめ、その後も退職する組合員が続出したため、昭和五二年六月の本件審問終結時では、組合員数は中島、横田を加えて五名にまで減少し、本件で処分を受けた、江里口は昭和五一年一〇月、半田は翌五二年一月それぞれ退職した。
なお、この間において、当委員会は、黒岩、半田、江里口の三名の者から、それぞれ本件申立を取下げる趣旨の文書が郵送され、昭和五一年一一月一一日これを受理した。
また、組合が壊滅的な状態となつて以降、昭和五二年度の賃金交渉等労使間の団体交渉は、組合とは行なわれず、運友会の代表及び非組合員の代表との間で行なわれている。
九 中島及び横田の勤務状況について
(一) 会社が提出した乗務員の運収表によれば、昭和五〇年一二月から翌五一年五月までの間に、中島は七七回、横田は七三回乗務しており、運収については、六〇回以上乗務した四五名の者と比べると、中島より下位の者が一六名、横田より下位の者は八名いる。横田は、中島よりやや劣つているが、七三回以上乗務した者の中にも横田よりも下位の者が二名おり、同程度の者は数名いる。
(二) 会社には、北崎、三島、三浦、松藤ら四名の運行管理者と同補助として宮部、岡らがおり、その者達が、交替で毎朝出勤してくる乗務員に対し、いわゆる「流れ点呼」を行なつているが、主として、当直を交替で担当している三浦、宮部、岡らがこれに当り、その内容は、「今日は雨が降つているから気をつけて」等の一般的な注意を行なうものであつた。
ところが、時たま、松藤が点呼を担当した際には、一部の組合員はこれを受けようとせず、特に、中島、横田は、「お前の点呼は受けられん」「二階の隅に引つこんどれ」、「人殺し、引きずり犯人からの点呼は受けることはいらん」等発言し、これを拒否した。
また、中島、横田は、会社から運収について、もう少し努力するよう注意を受けた際など反抗的な態度に出て、素直に応答せず、そのほか、会社の指定する給油所とは別の場所で、常時、燃料を補給するなど業務上の指示に対しても従わないこともあつた。
第二 判断及び法律上の根拠
申立人は、中島、半田及び江里口に対する昭和五一年六月二一日付出勤停止処分並びに中島及び横田に対する同年八月二一日付懲戒解雇処分、黒岩に対する同日付懲戒休職処分、江里口に対する同年八月二二日付出勤停止処分及び半田に対する同年八月二四日付懲戒休職処分は、いずれも労働組合法第七条第一号及び第三号に該当する不当労働行為であると主張し、また、運友会の結成による組合の運営に対する妨害行為は、同条第三号に該当する不当労働行為であると主張する。
一方、被申立人は、中島及び横田の行為は、いずれも会社と従業員との間の雇傭関係の本質を否定し、会社と従業員間に維持されるべき秩序を破壊し、労働者の経済的地位向上という本来的労働運動の目的から遊離し、会社の命令に反抗し、営業成績の向上を阻害し低下させるものであり、ひいては会社の存在そのものを否定する行為にほかならず、これに対し会社が懲戒解雇の措置をとつたことは必要やむを得ないものであると主張し、また、会社は運友会を結成させ、組合の組織化を妨害した事実はないと主張する。
上記のうち、黒岩、半田及び江里口については、同人らから本件救済申立を取り下げる旨の申出が当委員会に対してなされており、同人らの被救済利益は存在しないものと判断されるので、同人らに関する部分を除き、以下次のとおり判断する。
一 中島の出勤停止処分について
会社が勤務時間中の組合執行委員会について、その届出を求めたことは不当とはいえない。しかしながら、前記第一、四、(一)認定のとおり、本件労使間においては、従来から勤務時間中に執行委員会が開かれていたことが認められ、このことについては、昭和四六年以降三回を除き会社に対し届出がなされていないが、組合掲示板の記載と会社が主張するごとく乗務員の日報、タコグラフ等を毎日チエツクしていたとすれば、当然会社は知悉していたものと判断されるところ、会社はその届出を求めることはしなかつた。ところが昭和五一年六月一日開催の執行委員会については、会社は半田ら組合役員の休車の事実からこのことを知ると、その届出に固執し、届出のなされないことを理由に始末書の提出を求め、さらに始末書の提出されないことを理由に、四日間の出勤停止処分に付したことが認められる。会社のこの措置は、従来の執行委員会の取扱いに比して、著しく均衡を失するものであつて、その措置は妥当なものとは認められない。
二 中島及び横田の懲戒解雇の処分事由について
(一) 会社のあげる懲戒解雇の処分事由のうち、「昭和五一年八月七日、八日の両日博多駅その他において、不特定多数の者に対し事実に反し会社を誹謗中傷するビラ多数を配布して会社の名誉信用を害し、右ビラ配布を原因として従業員間に軋轢を生じさせ、同月一四日以降会社の就労命令に違反して就労しなかつた」ことについてみると、前記第一、六、(一)及び(二)認定のとおり、組合のビラ配布が直接の原因となつて中島らと運友会所属の大溝らとの間にトラブルが生じ、就労できなかつたことが認められる。しかし、<1>上記ビラは、表現に若干不穏当な点が認められるとしても、組合が主として同業の労働者を対象とし、組合の主張に同調を求めることを目的として配布したものであること、<2>上記トラブルによつて就労できなかつた時間は、前記第一、七、(一)表四にみられるごとく、中島については三日間で合計七時間一〇分、横田については同じく四時間五〇分であること、<3>組合と運友会の関係は、運友会結成以来両者は対立関係にあり、しかも会社は運友会に対し好意的態度を示していたことがうかがわれること、<4>上記トラブルに関する会社の措置として、運友会の大溝らに対する処分は事実上一五日間の出勤停止にとどまつていること、以上の諸点を総合して判断すると、上記事由をもつて、中島及び横田を解雇することは、相当の理由があるものと認めることはできない。
(二) 会社があげる処分事由のうち、「昭和五〇年六月上旬頃、会社所有営業車の後部窓ガラス、車体等に塗料で落書して毀損し、会社役員の中止命令に従わないのみか反抗的態度にで、また他の従業員の業務を妨げた」ことについてみると、昭和五〇年度の賃金交渉において労使間の対立が激化し、組合がかかる争議行為を行なつたことについては、前記第一、二、(三)認定のとおりであり、このことに関し中島らの責任を問うことは、ひつきよう組合の幹部責任を問うものと解される。しかしながら、前記組合の行為に対し、会社は当時組合に対し中止の申入れをなし、あるいは福岡地方裁判所に落書禁止等の仮処分申請を行なつたことが認められるが、組合がかかる行為を中止した後は何らの措置もとらなかつたこと、しかも、この争議が当委員会のあつせんにより労使間に協定書が締結されて解決をみているが、協定書にはこのことに関し何らふれられていないことから考えると、本件争議に際しての組合の行為に対する責任追及は、労使間の問題としてはすでに解決していたものとみるのが相当であり、それを一年以上経過して、他の処分理由に付加することは合理的理由があるものとはいえない。
(三) 会社があげる処分事由のうち、「その他日常の出勤態度、勤務状態が不良であり、注意をうけても改めず、職務上の指示命令に不当に反抗して事業上の秩序をみだし、さらに積極的に会社の営業の妨害行為をなした」ことについてみると、中島及び横田の運収状態は、前記第一、九、(一)認定のとおり、ことさら両名のみをあげて解雇しなければならない程度のものとは認められず、また、前記第一、九、(二)認定のとおり、松藤の点呼に対し両名がこれを拒否したことが認められるが、松藤が当時いわゆる松藤事件の当事者として係争中であつたことを考えると、同人が管理者として適格であつたかは疑問であり、同人の点呼を拒否した中島らの態度にも情状酌量すべきものがあると解され、しかも松藤の行なつていた点呼は三浦らの行なう点呼の代替的なものであつたことなどを考えると、同人の点呼を拒否したことをもつて解雇理由とするにはあたらないものと判断される。その他、中島らの勤務態度については、会社との間にことさら対立的で協調性を欠き、非難されるべき点も認められるが、それらは、いずれも解雇理由となしうる程度のものとは判断されない。
(四) 会社があげる処分事由のうち「会社役員松藤睦に対する傷害被告事件について故意に虚偽の証言をなし会社の信用を傷つけ損害を与えた」ことについてみると、前記第一、二、(一)認定のとおり、上記事件公判廷における中島及び横田の証言内容が、同事件判決において「甚だ不合理、不自然であり、直ちに全般的に措信することはできず」と判断されたことをさすものと解されるが、これは両名の証言に対する裁判所の評価であつて、このことをもつて両名の証言内容が直ちに会社に対する信用を傷つけたものとは解することはできず、仮りに両名の証言が虚偽であると主張するならば、両名に対し偽証罪の立証手続をなすべきところ、会社は何らの措置も講じてはいないのであつて、かかる証言をもつて両名を解雇する理由にはあたらないものと判断する。
(五) 会社があげる処分事由のうち、「昭和五一年六月二一日出勤停止四日の懲戒処分を受けたが全く反省の態度が見られない」ことについてみると、前記第一、五、(二)認定のとおり執行委員会の届出については、その後組合との話し合いにより届出がなされることになつており、また、このことが本件懲戒処分以後の一連の労使間の紛争及び従業員間の対立を指すものとすれば、前記第二、二、(一)判断のとおりであり、この処分に対して組合が行なつたストライキは会社の措置に対する抗議を目的とするものであつて、このことは、前記第二、一判断のとおり、この処分の内容をも併せ考えると、これを不当なものと認めることはできず、かかる事実をもつて、解雇理由に相当するものとは到底判断することはできない。
以上のとおり、会社が中島及び横田の解雇理由としてあげる処分事由は、いずれも解雇に相当するものと認められないばかりでなく、また、これら事由を総合しても、両名を解雇しなければならない合理的理由があるものとは認められない。
三 不当労働行為の成否について
上記のごとく中島及び横田に対するこれら処分は、いずれも理由が相当ではなく、会社が同人らを懲戒処分に付した真の理由は、昭和四五年以降労使間においてことごとに対立し、会社が、かねがね中島らの組合指導者を嫌悪していたことによるものであり特に同人らに対する会社の懲戒解雇処分は、会社が松藤事件判決を機会に労使関係の正常化を試みたがそれが成就しなかつたため、結局、中島らを企業外に排除し、ひいては組合の弱体化を意図してなしたものとみるのが相当である。
したがつて、中島及び横田に対する会社の処分は、同人らの組合役員であることを理由とする不利益取扱いであつて、労働組合法第七条第一号及び第三号に該当する不当労働行為である。
四 運友会の結成について
運友会が従業員の親睦団体であるとすれば、その結成に際し中島らの組合員が排除されたことは不自然であり、また、運友会が会社との間において賃金等の交渉を行なつていることからみれば、運友会は申立人組合と併存する組織と解するのが相当であり、その運営について申立人組合に比べ会社が好意的態度を示していること及び申立人組合とは鋭く対立する関係にあることは認められるが、その結成及び運営に会社がどのように関与しているかは必ずしも明確ではないので、上記の事実をもつて、直ちに労働組合法第七条第三号に該当する不当労働行為と判断することはできない。
五 本件不当労働行為の救済について
上記不当労働行為の救済措置としては、会社に対し中島については出勤停止処分及び懲戒解雇処分を、また、横田については懲戒解雇処分を、いずれもなかつたものとして取り扱い、その間の賃金相当額を支払うこと及びポスト・ノーテイスを命ずることをもつて相当と思料する。
なお、前記第一、七、(二)認定のとおり、中島及び横田は会社から解雇された後、他のタクシー会社で就労し、相当の収入を得ていることが認められるが、その勤務は欠勤者を待つて就労するものであつて、通常の勤務者に比べて不安定な地位にあることが認められ、また、解雇期間中の生活費、不当労働行為救済申立に伴なう諸費用及び企業外に排除された同人らの組合活動上の制約等のことを勘案して、両名の賃金遡及支払に関する救済措置は、それぞれ全額の支払を命ずることをもつて相当と判断する。
以上の認定した事実及び判断にもとづいて、当委員会は、労働組合法第二七条及び労働委員会規則第四三条により、主文のとおり命令する。