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福岡地方裁判所 昭和55年(ワ)2373号 判決

以下は、判例タイムズに掲載された記事をそのまま収録しています。オリジナルの判決文ではありません。

【判旨】

一<証拠>を総合すると、原告(九州支店長振井茂豊、以下単に「振井」という。)は、昭和五二年四月一八日、株式会社ホテル鹿児島グリーンロード(代表取締役池添勝志、以下単に、同会社を「訴外会社」、池添勝志を「池添」という。)に対し、金五〇〇〇万円を貸し渡し、訴外会社は右債務を担保するため、別紙物件目録記載の土地(以下「本件土地」という。)につき抵当権を設定し、同年九月一日までに設定登記手続をする旨を約したことが認められる。

二<証拠>によれば右貸金は、昭和五二年四月中旬ころ、池添から訴外会社のホテル建設資金として銀行から融資を受けるまでの間のつなぎ資金として貸与方を申し込まれたものであるが、その際振井は、池添から、被告作成の本件土地を昭和四九年三月一日池添に売渡済みであることを証明する旨の元渡済証明書(以下「本件証明書」という。)、被告の印鑑登録証明書、被告あての土地売買委任状を示され、本件土地は登記名義上は被告の所有であるが、すでに池添が買い受けて同人の所有であるから、右貸金の担保のため本件土地について抵当権の設定をする旨の説明を受け、これを信じ、本件土地という物的担保があることから右貸金を承諾したものであることが認められる。

この点に関し、被告は、原告が訴外会社に五〇〇〇万円を貸した際、本件土地につき担保権を設定することは考えていなかつた旨主張する。

なるほど、貸付当時に作成された借用書中には、本件土地についての担保権設定には何らふれられていないこと、原告は右当時右貸金を担保するため二名と連帯保証契約を締結していることがそれぞれ認められ、また<証拠>によると、原告は、池添から訴外会社の計画している修学旅行生用のホテルの建設は四、五億円程度の資金を予定していること(振井は右金額は土地代金を含むものと理解していた)、これが建築工事の発注を原告になすことを告げられ、振井も右の連帯保証人もかなりの資産を有する旨判断していたことが認められ、これらによると、原告が右建築工事を請負うため、本件土地を担保に供されると否とにかかわらず右一認定の貸付けを行つたのではないかとの疑いが生じないわけではない。しかし、<証拠>によると、原告会社は以前に訴外会社あるいは池添ほかの右連帯保証人と取引をしたことはなく、かつこれらの者や訴外会社の資産を具体的な調査したこともないことが認められるところ、将来代金額が数億円に達する建築工事を請負うためとはいつても、借主も連帯保証人もはじめての取引相手でその資産について具体的に調査すらしていないのであるから、これらのものの信用のみで物的担保をもとらず五〇〇〇万円もの金員を貸与することは通常考えられず、これに同証人の証言により認められる振井は右一認定の貸付けを行うについて本社の副社長の承認を求めたところ、物的担保が十分にあるならば支店長の裁量でやつてよい旨の承認を得ていること、<証拠>により認められる右一認定の貸付けの約二か月後には、訴外会社は本件土地について昭和五一年四月一八日抵当権を設定し、同年九月一日まで設定登記手続を行う旨の条項を含む原告と訴外会社、池添らの間の公正証書が作成されている事実に照らすと、前示認定の各事実も、未だ原告が右一認定の貸付けを行つたのは、本件土地が池添の所有であり、これを担保に徴しうることをも重視した故であるとの認定を左右するに足りない。

三そこで、原告の右一の貸付けは、池添に欺罔されてのことであり、被告は故意又は過失により右欺罔行為に加担した旨の主張について判断する。

1 被告が、昭和五〇年八月三〇日、池添との間で、(一)被告において、本件土地の売買について必要な国土利用計画法に定める届出を行う、(二)右届出に対する承認後、本件土地について被告から池添が代金二億八五〇〇万円で買い受ける旨の売買契約を締結する、(三)右売買契約締結の時期として昭和五一年一〇月一五日を目標とする、(四)右売買契約の手付金は二八五〇万円とし、池添はその支払のため右金額を額面とし、昭和五一年一〇月一五日を支払期日とする約束手形を振り出し被告に交付する、との内容の覚書を作成したことは当事者間に争いがなく、<証拠>並びに弁論の全趣旨によると、右覚書の作成は当事者間では本件土地についての売買契約の締結と理解されており、覚書の記載は、国土利用計画法により本件土地については同法所定の手続を経ることなく売買契約を締結することが禁止されていることを配慮した故であること、被告は、本件証明書を作成し池添に交付した昭和五一年一〇月九日(被告が同日本件証明書を作成し池添に交付した事実は当事者間に争いがない。)当時は、手付金の支払のため池添が振り出した約束手形も決済されておらず、被告は右売買契約に基づく代金は全く受け取つていないこと、原告が池添に五〇〇〇万円を貸し付けた昭和五二年四月一八日の時点では手付金以外の代金は未払であつたこと、被告は少なくとも売買代金と引換えでなければ池添の債務を担保するため本件土地に抵当権を設定する意思は有していなかつたこと、池添は本件土地を担保に供する以外には本件土地の売買契約に基づく残代金支払のための資金を調達することはできず、右昭和五二年四月一八日の時点では右資金調達の目途は全く立つていなかつたこと、以上の事実が認められる。

2 右の事実によると、池添は、昭和五二年四月一八日当時、本件土地について売買契約は締結していたものの、原告のために本件土地に抵当権を設定することは近い将来も含め不可能な状態にあり、池添自身そのことを知つていたものと認めることができ、これに前一、二認定の事実を併せ検討すると池添は、本件土地について担保権を設定できる旨振井を欺罔して同人とその旨誤信させて、原告をして訴外会社に五〇〇〇万円を貸与させたと解することができ、成立に争いのない乙第四号証の五、振井茂豊の証言によると振井がそのように誤信したのは本件証明書を示されたことが相当の役割を果したものと認めることができる。

3 <証拠>によると、被告は、本件証明書を金融を得るために必要であるとの理由によつて池添から求められて、これを作成交付したことが認められるところ、本件証明書の文面は、本件土地代金も完済され、いつでも池添に対する所有権移転登記手続あるいは池添を債務者とする抵当権設定登記手続が可能とこれを読むものに思わせるに足りるものであり、しかも本件土地の売買代金を金融機関から借り入れるため金融機関に本件土地の売買契約がなされたことの資料として示すためであれば前記の覚書で一応その資料として足りるのではないかと考えられること、成立に争いのない甲第八号証及び被告本人尋問の結果により認められる被告自身本件証明書が、本件土地の売買代金も完済されたことの資料として使用されることをもおそれて本件証明書の内容が事実に反することを確認する旨の念書を書かせている事実及び被告本人尋問の結果により認められる宅地建物取引業者である被告としても、契約が締結されたのみで代金の支払ないしは不動産の引渡しも済んでいない時点で売渡済証明書の交付を求められたこともなく求めたこともなかつた事実を併せ考えると、被告は、池添が本件証明書を、本件土地はすでに同人の所有でありいつでもこれに抵当権を設定することができる旨の虚偽の説明をなして金員を借り受けるための裏付け資料として用いることは十分に予備できたものと解することができる。

4 そして、振井が本件証明書があることから、池添の前記虚偽の説明を真実であると誤信し、訴外会社に五〇〇〇万円を貸与したのであることは前説示のとおりであるから、被告もまた原告が池添に欺罔されて訴外会社に五〇〇〇万円を貸与したことにより原告が被つた損害を賠償する責任を負うと解される。

四原告は、池添の欺罔行為あるいは被告の本件証明書の作成交付という行為がなければ、訴外会社に五〇〇〇万円を貸与しなかつたというのであるから、右各行為により原告が被つた損害としては貸与額相当額と解されるが、原告が貸金中合計一一八〇万円の弁済を受けていることは原告の自認するところであるから、結局池添及び被告の不法行為により原告の被つた損害は貸与額から弁済額を引いた金額に相当する三八二〇万円と認められる。

五そこで、被告の過失相殺の主張について判断する。

一般に不動産に抵当権等の担保権が設定されることを重視して金員を貸与する場合は、金員の交付は抵当権の設定登記手続ないしは同手続に必要な書類と引換えに行われることが多く、このような方法によりその不動産を担保とすることを確保するのであるが、このような方法によらない場合は、その不動産を担保として確保することにそれだけ慎重であるべきと言いうる。

ところで、本件においては、<証拠>によると本件土地のうち別紙物件目録(一)記載の土地は登記簿上被告所有名義であるが訴外林久ら三名に対する所有権移転請求権仮登記が存在し、同目録(二)記載の土地については登記簿上被告及び右林らの共有名義になつていることが認められ、原告が訴外会社に五〇〇〇万円を貸与した昭和五二年四月一八日まで本件証明書に記載された売渡日(昭和四九年三月一日―なおこの日は国土利用計画法の施行前である―)から三年余を経過しているにもかかわらず、未だ池添への所有権移転登記が完了せずかつ所有権移転請求権仮登記も抹消されていなかつたのであるから、振井としては、右説示の一般的方法によらずに金員を貸与する以上、果して池添の言うように池添が本件土地について抵当権設定(登記手続)をなし得るのか疑問をもち、未だ池添への所有権移転登記手続がなされず所有権移転請求権仮登記が抹消されていない事情をただし、被告と池添間の本件土地についての売買契約書や代金の領収書、あるいは本件土地についてのいわゆる権利証、所有権移転登記手続についての被告の委任状等の本件土地について池添に所有権移転登記手続をなすに必要な書類などを示すことを求めて、池添の説明ないしは本件証明書の内容を確認すべきであり、かつこれらは容易になし得たと解される。

しかるに、証人振井茂豊の証言によると、同人は池添に急ぎ金がいると言われるまま、原告九州支店鹿児島営業所長が調査したと軽信し(同営業所長が調査したとの証拠はない。)、何ら右のような確認手段をとらないまま、本件土地に抵当権等の担保権の設定を受け得ると誤信したものであることが認められる。

以上によると、原告が右損害を受けるについては、被告との関係においては原告(を代理した振井)にも過失があつたと言うべきであり、原告と被告の過失は割合は原告七、被告三と解するのが相当である。

(水上敏)

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