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福岡地方裁判所 昭和56年(ホ)204号 決定 1981年9月30日

被審人 あけぼのタクシー有限会社

主文

被審人を処罰しない。

手続費用は国庫の負担とする。

理由

福岡地方労働委員会の緊急命令不履行通知の内容は別紙のとおりであり、要するに、福岡地方裁判所は、昭和五三年三月一三日救済命令のうち賃金相当額の支払を命ずる部分を除き、原職復帰に関する部分については福岡地方労働委員会の救済命令に従わなければならない旨の緊急命令をなしたが、被審人は右原職復帰の救済命令に含まれる昭和五二年一二月一日から同五三年五月三一日までの勤務を対象とする夏期一時金の支払については、中島九州男、横田重信が原職に復帰した昭和五三年三月一三日以後の水揚高に対してのみ夏期一時金を支給したにとどまり、その完全なる履行をしていないというのである。

しかしながら、一件記録によれば、被審人は昭和五五年一一月七日中島九州男に対しては右期間(昭和五二年一二月一日から同五三年五月三一日まで)の夏期一時金として、一律給二万五、〇〇〇円、年功給一万八、八二〇円、水揚給四万九、〇七〇円合計九万二、八九〇円を、横田重信に対しては一律給二万五、〇〇〇円、年功給二万七、七一〇円、水揚給五万四、七四〇円、合計一〇万七、四五〇円をそれぞれ支払い夏期一時金の支払を完了していることが認められる。もつとも、中島九州男、横田重信は、原職復帰するまでの期間も、単に在職したものとして一律給、年功給の支給を受けるだけでは夏期一時金の支払としては不十分であり、その間に就労していたら挙げ得たであろう水揚高をも夏期一時金算定の基礎にして水揚給を支払うべく要求し、被審人と対立していることが認められる。しかし、前叙のとおり賃金相当額の支払を命ずる部分を除き原職復帰を命じた緊急命令であるから(緊急命令が賃金相当額の支払部分を除いたのは、右両名が他に就労し、被審人会社から支払を受けるべき賃金相当額を下回らない収入を得ていることがその理由である。)、原職復帰までの間は右両名が引続き被審人会社に在職した状態において夏期一時金の支給をすれば足るものであり、就労しておれば挙げ得たであろう水揚高に対してまで夏期一時金の算定の基礎とする必要はないものというべきである。

そうだとすると、被審人には現在においては、緊急命令違反の事実はないから処罰しないこととし、手続費用の負担につき非訟事件手続法第二〇七条を適用し主文のとおり決定する。

(裁判官 松島茂敏)

別紙

一 福岡県地方労働委員会は、昭和五二年一二月五日付をもつてあけぼのタクシー有限会社(以下履行義務者という。)に対し、その中島九州男、横田重信両名に対してなした昭和五一年八月二一日付懲戒解雇処分を取消し、同人等を原職に復帰させるとともに、その間に同人らが受けるはずであつた賃金相当額を支払わなければならない旨、その他の事項を命令した。

二 これに対し履行義務者は、昭和五三年一月一八日福岡地方裁判所に対し、前記労働委員会を被告として救済命令取消を求める訴訟を提起したので、前記委員会は、同地方裁判所に対し、右救済命令に従うべき旨の緊急命令を申立てた。

三 福岡地方裁判所は、昭和五三年三月一三日救済命令のうち賃金相当額の支払を命ずる部分を除き、原職復帰に関する部分についてはその救済命令に従わなければならない旨の緊急命令をなした。

四 履行義務者は、昭和五三年八月に至り従業員に対する昭和五二年一二月一日より昭和五三年五月三一日までの勤務を対象とする夏期一時金の支払をなすに当り、右中島、横田両名に対しては夏期一時金の対象勤務から昭和五二年一二月一日より緊急命令のあつた昭和五三年三月一三日までの分を除外し、昭和五三年三月一三日以後の勤務を対象とする夏期一時金のみの支払をなした。昭和五二年一二月一日より同五三年三月一三日までの期間は、中島、横田が解雇されていた期間に当り、しかも前記労働委員会の救済命令によつて原職に復帰させることを命ぜられ、また、緊急命令によつてその履行を命じられた部分に該当する。

したがつて、この期間を勤務なきものとして夏期一時金の計算の対象外とすることは、結局、その期間の原職復帰を認めないことになり、したがつて緊急命令に違反するものといわなければならない。

五 そこで、前記委員会は、昭和五四年五月一〇日福岡地方裁判所に対し、前記の不履行を通知した。同裁判所は、昭和五四年九月二〇日決定をもつて前記労働委員会の救済命令は、「解雇がなかつたと同様に取扱わなければならない。」との意味であることを認めながらも救済命令の前記文言がやや適切さと明確さを欠き、したがつて前記緊急命令をもつて履行すべき旨命じた救済命令が、夏期一時金の支払についても他の在勤者と同様にすべきことを命じているものか否かにつき、不明確の点があり、この点につき履行義務者が別異の解釈をしたことについて相応の理由もあり、ことさら右命令に違反した節は見当らないとの理由でこの点に関する履行義務者の違反については処罰しないこととした。

六 前項の昭和五四年九月二〇日の決定は、原職復帰に関する履行義務者の不履行を処罰しなかつたけれども、中島、横田両名に対する夏期一時金の支払については、昭和五二年一二月一日より、同五三年三月一三日までの期間をも、また原職にあつたものとして取扱うべきものと認めているので、右履行義務者は、この決定を受けた後においては、もはや別異の解釈をなす余地はなく、したがつて、その後の不履行はことさらに命令の履行をなさないものといわなければならない。しかるに、履行義務者は、その後もその履行をなさないのみか、中島、横田両名の履行請求にも応ぜず、昭和五六年一月二六日には前記労働委員会の担当公益委員より口頭をもつてその履行の勧告を受けたにも拘らず、これに応ぜず、更にまた、昭和五六年二月二三日前記労働委員会の文書に基づく履行勧告にも応ぜずして今日に至つている。したがつて、昭和五四年九月二〇日福岡地方裁判所のなした不処罰決定の当時とは著しくその間の事情を異にするに至つたので、あけぼのタクシー労働組合の強い要請もあり、改めて緊急命令不履行に基づく相応の処罰をせられたく労働委員会規則第五〇条第二項に則りここに事実を通知するものである。

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