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福岡地方裁判所 昭和57年(ワ)21号 判決

以下は、判例タイムズに掲載された記事をそのまま収録しています。オリジナルの判決文ではありません。

【判旨】

一原告が建築工事を業とする株式会社であること、訴外石内両名が分譲マンション「ステーション萩」を建築する計画を有していたこと、被告名義の昭和五四年六月二九日付融資証明書が発行されていること及びその記載内容が原告主張のような内容も含んでいることは当事者間に争いがなく、<証拠>によれば、右融資証明書には、そのほかに「万一これらにより紛議が生じても当組合は一切責任を負いません。尚本証明書の有効期間は発行後三ケ月で融資実行が完了した場合は無効となります」との記載があることが認められる。

二原告は右融資証明書を信じて前記マンション建築工事を請負うとともに石内両名に代わり同証明書記載の条件をすべて履行したにもかかわらず、被告が石内両名に融資証明書記載の融資をしなかつたため、マンション工事代金相当の損害を被つたし、また、右融資証明書には虚偽の融資額が記載されていたのを知らず、これを正当なものと信じて前記工事を請負つたため、前同様の損害を被つた旨主張し、被告はこれらを争うので、まず、本件をめぐる事実関係から検討する。

<証拠>を総合すると次の事実が認められ、<反証排斥略>、他にこれに反する証拠はない。

1 石内明典、同睦子の両名は夫婦であるが、負債整理のため睦子所有の本件土地に分譲マンションの建築を思いたち、昭和五四年二月二〇日被告農協の組合員であり、中央不動産の商号で不動産業を営む藤原英雄の紹介により、被告農協に対し「分譲マンション建設計画、第一期計画として土地物件が他金融機関より借入れがあり、その返済の借入申込み、建築資金は後で申込む」として明典名義で五〇〇〇万円の借入れ申込をなしたこと、その申込には妻睦子、同女の母河野エツ、知人の河野誠慧の三名を保証人とし、本件宅地及び明典所有の土地、建物に設定された先順位担保を抹消して被告農協のため六〇〇〇万円の担保を設定すること、並びに右建物(四階建ビル)の家賃収入を被告農協に入れることが条件とされていたが、石内両名は同月二六日本件土地に六〇〇〇万円の根抵当権を設定しただけで被告農協より五〇〇〇万円の融資をうけたこと、当時、被告農協の組合員に対する融資額は五〇〇〇万円を限度としていたが、遠からず限度額変更が予想されたので石内両名は右の形で融資申込をなしたが、同年四月以降組合員一家族一億円までに融資限度額が引き上げられたので、今度は睦子名義で同年四月二六日被告農協に対し再び五〇〇〇万円の融資申込をなしたこと、

2 石内両名の分譲マンション建設の資金計画表によれば、明典名義の五〇〇〇万円の前記融資と睦子名義の五〇〇〇万円の融資(申込時には五月に融資実行を予定)の合計一億円を被告農協から借り受け、その他はマンション売却代金で賄う予定をたて、その旨を明典融資申込み当時から被告農協に申入れていたが、睦子融資申込には右の資金計画表を付してなしたこと、その資金計画表は原告の方にも後日提出されていること、それで被告農協としては合計一億円の融資により石内両名の分譲マンションの資金計画は充分と判断していたこと、睦子名義の融資申込には夫である明典と前記河野エツの両名を保証人としていたが、被告農協の担当者の意見として第三者保証人をつけさせると共に被告農協のため設定された前記六〇〇〇万円の根抵当権を第一順位にするため、いまだ完全には実行されていなかつた先順位担保の抹消が条件とされたこと、

3 睦子名義の融資申込は右条件に対応するため明典側の準備もあつて同年六月二七日被告農協の融資審査会に付議されたが、審査会でも融資担当者の意見を採用して、それらを条件とすることにきまつたこと、その頃には明典は分譲マンション工事の一部を下請する予定であつた小宮浩を被告農協の条件の一つである第三者保証人にあてるべく、同人の内諾も得ていたが、被告農協では小宮が被告農協の組合員ではなく、信用状態も不明であつたことから必ずしも賛成できないまま留保していたこと、これより先、同年五月に明典は原告福岡支店にマンション工事請負方を打診し、当初は難色を示されたりしたが、数次の交渉により結局、被告農協から一億円の融資証明書を持参すれば考えるということになつたので被告農協に一億円の融資証明書の発行を求めたこと、被告農協では、さきの条件が末解決であつたが、それを条件としてなら同証明書を発行してよかろうということになり、同年六月二九日担当係長が他の融資証明書の文例を殆んどそのまま参考にして原告主張の如き融資証明書を発行したこと、もつとも同証明書には原告主張の記載のほかに「万一これらにより紛議が生じても当組合は一切責任を負いません。尚本証明書の有効期間は発行後三ケ月で融資実行が完了した場合は無効となります」と記載されていたこと、被告農協の意向としては前叙のいきさつから明典名義の五〇〇〇万円の既融資分と睦子名義の五〇〇〇万円の融資申込み分の合計一億円についての証明書であり、後者については第三者保証も含めた条件の履行が先決問題であるとしていたことは間違がなく、そのため名宛人も石内両名としたこと、

4 同年七月中に原告側担当者は明典とともに被告農協を訪れて挨拶をし、条件をみたせば融資は実行する趣旨の話を聞いて帰り、同年八月二〇日起工式を行い、同月二二日原告は石内明典と工事請負契約を締結したが、その契約書では明典側保証人として中央不動産名義で藤原英雄が名をつらねていること、藤原は分譲マンションの販売を担当することになつていたので保証人になつたものであること、同月二七日原告は融資条件のひとつである先順位担保(登記)抹消の資金が石内両名にはなかつたため自ら一五〇〇万円を立替えて抹消し、翌二八日被告農協を訪れて、その旨を伝えると共に融資促進方を申入れていること、被告農協では前示の第三者保証人の問題が未解決のまま日時を経過したので、六〇日以上を経過したので、六〇日以上を経過した場合には新たに融資申込書を提出して貰うという内部規定により同月二九日再度睦子名義の融資申込書を徴しているが、それには第三者保証人として小宮浩の名が記載されていること、これに対する担当者意見としては、保証人一名の追加、融資保険の付保、資金の払出は工事請負契約の支払条件により支払う等の条件が付されて同年九月一二日の審査会に付議されたが、審査会においては、(イ)資金払出管理は藤原不動産の了諾で処理すること、(ロ)藤原英雄氏保証人追加の条件が付されて融資を決定し、同月一四日付で融資決定通知書が出されたが、それには(イ)資金払出管理は藤原不動産の了諾で処理する(ロ)保証人一名追加する(藤原英雄)、(ハ)融資保険に付保するという条件が付されたこと、

5 第三者保証人として被告農協が藤原の名を持ち出したのは小宮では被告農協の組合員ではないので資産、信用状態が明らかでないのに対し、藤原は組合員であり財産状態の把握も充分であるうえ本件の分譲マンションとは前示のとおりかかわりがあることが理由であつたこと、その頃になると明典は被告農協が小宮に難色を示し、藤原を保証人にして貰いたい意向をもつていることが解り、藤原が承諾しそうにないことを予想していたので融資の実行は難しいと覚悟せざるを得なくなつてきたが、貸付決定通知書を貰うと共に明典は原告にそれを伝え、こもごも藤原に保証人になつて貰うよう説得したが、保証人になるくらいなら事業主になるといわれて拒絶されたこと、かくて原告は同年一〇月に入つて工事を中止し、一〇月二〇日現在で石内側に工事精算書を示し精算を求めたこと、これに対して石内側では精算が出来る筈もないので原告の資金により工事を続行し、マンション建設を完成して貰いたいと要請し、交渉が繰りかえされた結果、被告農協が本件土地について有していた前示六〇〇〇万円の根抵当権を抹消して、これを原告に担保提供することになり、石内側は代り土地を担保に供するので本件土地のうちマンション敷地に当る大部分の土地につき根抵当権の一部解除を申入れて承諾を得、同年一二月五日被告農協の根抵当権設定登記を抹消し(根抵当権設定登記抹消の点は争がない)、同月二一日原告のため一億七〇〇〇万円の根抵当権設定請求権仮登記がなされたこと、これにあわせて原告は被告農協に対し分譲代金を原告が優先取得することに被告農協が同意する旨の同意書を作成して送付したりしたが、被告農協は同意していないこと、以上の経過ののち昭和五五年一月ようやく原告は工事再開に踏切り、同年八月末頃に工事は完成し、一部は分譲されたりしたが、大部分は販売できなかつたため、代物弁済の形で原告が取得したこと、

以上の事実が認められる。証人石内明典、同坂本浩二の各証言中右認定に反する部分とくに昭和五四年七月と八月二七日被告農協を訪れて融資担当者から先順位抹消の条件をみたせば確実に実行する旨の確約を得たし、先順位抹消後はすぐ融資を実行するとの確約を得たこと及びその額は新たに一億円の融資であるとする趣旨の供述部分は前掲各証拠にてらして到底信用できない。

けだし前認定の経過にてらせば、第三者保証人の条件は融資申込の時から問題にされているし、限度を越える貸付の許される筈のないことは被告農協の担当者自身一番よく知つている筈であり、原告側に提出されていない筈のない石内側の資金計画表によれば既に昭和五四年二月に五〇〇〇万円の融資がなされ、五月に五〇〇〇万円の融資の予定が記載され、両者を合わせて被告農協の融資総額は一億円であることが判明するのであるから、被告農協の融資担当者らが、そのような返事をする筈のないことは事柄の推移にてらして自ら明らかというしかないからである。

そうすると原告側が融資証明書の記載を信じたとしても、それは誤解か、石内明典の話に乗ぜられたとしか云いようがなく、被告農協に融資証明書の記載に違背するところはないといわねばならないから、その余の争点に言及するまでもなく、原告の請求は失当たるに帰する。 (麻上正信)

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