福岡地方裁判所 昭和57年(ワ)2818号 判決
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【説明】
本件は自動車任意保険の保険会社から、水道管工事による片側通行の交通整理にあたつていた工事施工会社と警備保障会社の各従業員の過失を根拠に使用者である両会社に対し、保険代位にもとづき損害賠償金の求償を求めた事案であるが、判決は加害者である自動車運転者の過失として交通整理員の過失(合図の不適切)を否定したものである。
【判旨】
右の事実から訴外吉原の過失について検討する。
(一) 訴外吉原は、その交通整理で占めていた位置、方向からして、藤崎、荒江線の信号に注意すべくもなく、弥生、西新線の車を停止させる注意義務があるとは認められないから、交差点の信号を無視して交通整理をしていたものではないと考えるのが相当である。
(二) 訴外吉原には、交通整理にあたる者として、自動車運転者に、自分が信号を無視して交通整理をしており、従つて信号を無視して通過してよいと誤信されるような挙動は避けるべき注意義務のあることは当然である。
そこで、前記訴外吉原の挙動を見るに、弥生、西新線の信号が赤であるにもかかわらず、藤崎方面に正対して立ち、右腕を水平にあげているという挙動は、交通整理の態度としては稚拙の感を免れないが、(1)訴外吉原は、交差点の別紙図面に立つていたのであり、このような所に立つている者に同交差点藤崎、荒江線を通る車に対し、停車の合図を送れないということは、一般的な自動車運転者として当然認識可能なことがらであり、そこに立つての訴外吉原の前記挙動は、信号を無視して通過してよいと一般の自動車運転者に誤信されるような挙動であるとはいえない。(2)訴外吉原は前記したように作業服に白いヘルメット姿であり、信号を無視して交通整理をすることができる警察官と誤認されるような服装でもなかつた。
以上によれば、訴外吉原の姿勢は、信号無視をしてまで片側通行の交通整理をしていると受けとられるようなものとはいえない。訴外野上は、交差点の荒江、藤崎線を右側から進行してくる車両の動静は工事用看板にさえぎられて全くわからず、しかも前方信号は赤信号であることを知りながら、これらの事情を全く顧慮することなく、従前の時速二五キロメートルのまま交差点に進入して事故を惹起したものであるが、元来、自動車を運転する以上、右のような事情のもとでは、たとえ信号と異る交通整理の指示があつたとしても左右の状況が判明するまで何時でも停止できるような速度で進行し、事故を未然に防止すべき義務のあることは当然のことであるのに、従前の速度のまま進行していることからすると(②点から衝突地点までの距離14.1メートルの進行時間は僅かに二秒余に過ぎない)訴外吉原の姿勢や挙動に影響されたというより前車につられてそのまま進行したとしか云いようがないもので、訴外吉原に過失があるとは解しえない。 (麻上正信)