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福岡地方裁判所 昭和57年(ワ)2872号

原告

清武吉光

訴訟代理人弁護士

小泉幸雄

田中利美

田中久敏

諫山博

小島肇

井手豊継

内田省司

津田聡夫

林田賢一

椛島敏雅

宮原貞喜

被告

西日本鉄道株式会社

代表者代表取締役

木本元敬

訴訟代理人弁護士

村田利雄

植田夏樹

國府敏男

主文

一  原告の請求をいずれも棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

(一)  原告が被告に対して労働契約上の地位を有することを確認する。

(二)  被告は、原告に対し、金一〇七万九六八一円及び昭和五七年九月一日以降毎月二三日限り日額金一万一九八七円の割合による金員を支払え。

(三)  訴訟費用は被告の負担とする。

(四)  仮執行宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

主文同旨

第二当事者の主張

一  請求原因

(一)  被告西日本鉄道株式会社(以下「被告会社」という。)は、自動車運送事業等を目的とする株式会社である。

(二)  原告は、昭和三五年一二月一日、被告会社に自動車運転士として雇用され、被告会社の雑餉隈自動車営業所に自動車運転士として勤務していた。

(三)  被告会社は、原告に対し、昭和五七年五月七日、就業規則八条(「社員が次の各号の一つに該当するときは、出勤または就業を禁止することがある。」)七号(「懲戒処分に該当する事由のあったとき。」)により無期限の出勤禁止を命じ(以下「本件出勤禁止」という。)、更に、同年八月二五日、就業規則六〇条(「社員が次の各号の一つに該当するときは、諭旨解雇または懲戒解雇に処する。ただし、情状により出勤停止にとどめることがある。」)一一号(「会社の現金、乗車券その他有価証券もしくは遺失物処理規則に定める遺失物を許可なく私用に供しまたは供そうとしたとき。」)により懲戒解雇する旨の意思表示(以下「本件懲戒解雇」という。)をした。

(四)  しかし、原告には就業規則の前記各号に該当する事由はなく、本件出勤禁止及び本件懲戒解雇はいずれも無効である。

(五)  原告は、被告会社から、毎月二三日限り賃金の支払を受けていたところ、原告の本件懲戒解雇当時における平均賃金は一日当たり一万一九八七円であった。原告は、被告会社から、昭和五七年五月七日以降同年八月三一日までの間の賃金合計一四〇万二四七九円(平均賃金日額一万一九八七円の一一七日分)のうち七九万八三三五円の支払を受けたが、残額六〇万四一四四円は未払である。

(六)  昭和五七年度夏期賞与は昭和五六年一〇月一日から昭和五七年三月三一日までを計算期間として同年七月九日に支給され、その支給率は基準賃金の二・二五か月分であった。原告の基準賃金は月額二一万一三五〇円であったから、原告の右賞与は四七万五五三七円になる。

(七)  よって、原告は、被告会社に対して、原告が労働契約上の地位を有することの確認を求めるとともに、昭和五七年五月七日以降同年八月三一日までの間の未払賃金及び昭和五七年度夏期賞与の総額一〇七万九六八一円並びに同年九月一日以降毎月二三日限り日額一万一九八七円の割合による賃金の支払を求める。

二  請求原因に対する認否

(一)  請求原因(一)ないし(三)は認める。

(二)  同(四)は争う。

(三)  同(五)、(六)は認める。

三  抗弁

(一)  被告会社においては、乗務を終了したワンマンバスの運転士は、その所属する営業所に帰着後、通常、点呼前に次のような手続によって運賃等の精算を行う。

1 運転士は、バスに設置の自動両替器付運賃箱から金庫(運賃及び整理券の収納箱であり、回数券販売代金及び両替済みの紙幣が収納される紙幣ボックスがその中に分離設置されている。)を取りはずし、売れ残った回数券とワンマン袋(予備の両替用として五〇円硬貨一枚、一〇円硬貨五枚合計一〇〇円の袋包みが一〇個入っている袋であり、乗務中は自動両替器付運賃箱の運転席側のフックに掛けてつるしておく。)などを持って運行管理室内に入り、金庫、回数券及びワンマン袋を精算台の上に置く。

2 精算担当助役は精算台をはさんで運転士と対峙しており、先ず運転士から乗務員用キー(金庫の取り付け、取りはずしなどのために用いる鍵。)を受け取り、運転士が乗務したダイヤに見合う所定の番号が記入された運賃袋を精算台下の運賃袋置場から取り出し、精算台の上に置く。

3 運転士は、運賃袋を精算台の上に設置されている漏斗の下部口の両側に一個ずつあるフックに掛け、運賃等が漏斗から運賃袋の中に流れ込むようにセットする。

4 精算担当助役は、金庫の蓋を開けて紙幣ボックスを取り出し、紙幣ボックス内の紙幣、硬貨を精算台の上に置いた後、金庫内の運賃(紙幣、硬貨)、回数券及び整理券等を同時に漏斗の中に流し込んで運賃袋の中に投入する。

5 精算担当助役は、金庫の側面にある両替カウンターの数字を見て運転士とともに五〇〇円両替の回数を確認してそれを受渡記録表に記入し、更に、運転士に回数券の販売数を券種別に聞いてそれを受渡記録表に記入する。

6 精算担当助役は、先に精算台の上に置いていた紙幣ボックス内の紙幣、硬貨を回数券の販売数に応じた金額と五〇〇円両替の回数に応じて金額とに仕分けして、回数券の販売代金は所定の引出しに収納し、両替済み紙幣は重ねて二つ折りにして輪ゴムでとめ漏斗から運賃袋の中に投入する。

7 運転士は、漏斗から運賃袋をはずして精算台の上に置き、付属の紐で袋の口を締めて、その上を所定の紙テープを用いて封印する。その間、助役は、回数券と予備両替金が収納されたワンマン袋の重さを精算台の上にある検量器で計り、その後、ワンマン袋及び運転士により封印された運賃袋をそれぞれの収納箱の中に納める。

8 運転士は、精算台上の金庫を壁に設置された金庫置場の所定の番号の位置に置く。

(二)  原告は、昭和五七年四月当時雑餉隈自動車営業所に所属する運転士兼車掌としてワンマンバスの運転業務に従事していたものであるが、同月一三日は板付線五Bダイヤ(午後一時五五分に出勤して同一一時一〇分に退勤)に乗務し、午後一〇時五三分に右営業所に帰着して、運賃等の精算を行うことになった。

(三)  原告は、雑餉隈自動車営業所運行管理室において、精算を担当していた貝田亮輔助役の面前で前記手続に従って精算を行っていたが、貝田助役が運賃、回数券、回数券販売代金、両替済み紙幣等を運賃袋の中に投入し、運賃袋を漏斗からはずした際、右手で運賃袋を持って左に傾けたうえ左手を袋の中に入れ、紙幣束(両替済みの一〇〇〇円札七枚、五〇〇円札四枚合計一一枚九〇〇〇円を重ねて縦に二つ折りにし輪ゴムでとめたもの。以下「本件紙幣束」という。)を素早く抜き取り、これをズボンの左ポケットの中に入れた。

これを目撃した貝田助役は、直ちに運賃袋を引き寄せて中を改めたところ、先に同助役が原告とともに確認したうえで輪ゴムでとめて運賃袋に投入した本件紙幣束がなかったため、原告に対し、ズボンの左ポケットに入れた本件紙幣束を出すように指示した。原告は、ズボンの左ポケットの中から本件紙幣束を取り出したものの、ズボンのポケットに入れたことを頑強に否定して貝田助役と言い争いながら、執拗に本件紙幣束を運賃袋の中に戻そうとした。しかし、貝田助役にこれを阻止されたため、原告は、遂にやむなく精算台の上に本件紙幣束を置いた。

(四)  以上の事実によると、原告は、運賃等の精算手続を行うに際し、運賃袋から合計九〇〇〇円の本件紙幣束を抜き取ってズボンの左ポケットに入れ、もって、これを私用に供し又は私用に供そうとしたのである。この行為は、被告会社の就業規則六〇条一一号に該当する。

(五)1(1) そこで、被告会社は、就業規則八条七号に基づき原告に対し昭和五七年五月七日以降の出勤禁止を命じ、更に、同年八月二五日、原告が所属する西日本鉄道労働組合(以下「組合」という。)から原告を懲戒解雇に処する旨の被告会社の提案について、その承認を得たうえ同日付で原告を懲戒解雇に処したものである。

(2) よって本件懲戒解雇は有効である。

2 賃金及び賞与について

(1) 給与規則四二条には、就業規則八条により社員の出勤又は就業を禁止したときは、その期間中、平均賃金の一〇〇分の六〇を保障する旨の規定があり、組合との間の労働協約一七二条にも同様の規定があるところ、被告会社は、原告に対し、昭和五七年五月七日から同年八月二五日までの出勤禁止期間中の平均賃金合計一三三万〇五五七円(平均賃金日額一万一九八七円の一一一日分)のうち六割に当たる七九万八三三五円(円未満は切り上げ)を支払った。

(2) 被告会社から組合に解雇が提案されている者に対する賞与の取扱いについては、「解雇提案中の者に対する臨時給与の取扱い」協定により、「支給日には支給を一時差止める。懲戒解雇、諭旨解雇に決定したときは支給しない。ただし、就業規則六〇条九号、一一号もしくは一三号によるもの以外の場合で特に情状があるときは労使協議により支給することがある。」と定められている。

昭和五七年度夏期賞与は支給日が同年七月九日であり、その時、原告については被告会社が組合に対して解雇提案中であったから、被告会社は、前記協定に基づき原告に対する右賞与の支給を一時停止したのであるが、前述のとおり後日原告の本件懲戒解雇が決定するに至った。

(3) よって、被告会社には原告に対する賃金及び昭和五七年度夏期賞与の支払義務は存しない。

四  抗弁に対する認否

(一)  抗弁(一)、(二)は認める。

(二)  同(三)のうち、原告が雑餉隈自動車営業所運行管理室において貝田助役の面前で精算手続を行っていたことは認めるが、その余の事実は否認する。

貝田助役が漏斗の上部口から運賃等を運賃袋の中に投入したので、原告は、その運賃袋を漏斗からはずして下方に下げながら手前に引いたが、その際、本件紙幣束が運賃袋の入口の部分からはみ出していたため、原告は、これを運賃袋の中に入れようとして右手で運賃袋を持ったまま左手で上から本件紙幣束を握ったにすぎないのであって、本件紙幣束をズボンのポケットの中に入れた事実は全くない。

(三)  同(四)は争う。

(四)  同(五)のうち、1の(1)及び2の(1)、(2)は認めるが、その余は争う。

第三証拠(略)

理由

一  請求原因(一)ないし(三)の各事実は、当事者間に争いがない。

二  そこで、本件懲戒解雇の効力につき検討する。

(一)  被告会社に勤務するワンマンバスの運転士は、乗務を終了して所属営業所に帰着後、通常、被告会社主張のような手続(抗弁(一))に従って運賃等の精算を行なうこと、雑餉隈自動車営業所に所属しワンマンバスの運転業務に従事していた原告が、昭和五七年四月一三日板付線五Bダイヤに乗務した後、午後一〇時五三分に同営業所に帰着し、運行管理室において貝田助役の面前で精算手続を行っていたことは、いずれも当事者間に争いがない。

(二)  (証拠略)を総合すると、原告は、精算手続の途中で一旦点呼台の前に行き乗務記録表及びタコグラフを点呼台上に置き(精算室が偶々営業所に帰着した運転士で混み合い精算手続に暇がかかるといった状況にある場合、順番待ちをしている運転士が先に点呼室へ行って点呼手続を済ませるということはあっても、そのような状況の全く存しない本件のような事例にあって、精算手続を行っている当該運転士がその途中で点呼室へ行くということは、今までになかったことである。)、再び精算室へ戻って精算手続を続行したこと、貝田助役が運賃、回数券、回数券販売代金、本件紙幣束等を運賃袋の中に投入した後、原告は、その運賃袋を漏斗からはずしたが、その際、右手で運賃袋を持って左に傾けたうえ左手を袋の中に入れ、本件紙幣束を素早く抜き取り、これをズボンの左ポケットの中に入れたこと、これを目撃した貝田助役が、直ちに運賃袋を引き寄せて中身を改め、本件紙幣束が入っていないことを確めたうえ、原告に対し、「左ポケットの中のものは何か。出しなさい。」と大声で一喝して、原告がズボンの左ポケットの中に入れた本件紙幣束を出すよう命じたところ、原告は一瞬ギクリとして顔色を蒼冷め、ズボンの左ポケットの中から左手の掌で隠すようにしながら本件紙幣束を取り出し、急いで運賃袋の中に戻そうとして、これを阻止しようとする貝田助役と争ったが、同助役が右手で原告の左手首を固く掴み、左手で原告の右手に握られて運賃袋を奪い取るようにして手許に引寄せたため、原告は、遂にその目的を達せず、やむなく諦めて本件紙幣束を精算台上に置いたこと、他方、当日点呼担当助役を勤めていた安岡素直が、精算手続の途中から点呼室へ来た原告から乗務記録等を受取り、その点検、整理を終えた直後、精算室から聞こえて来た貝田助役の叱声で、同室に視線を送った時、原告がズボンの左ポケットから左手を出しているところを目撃し、更に、貝田助役に求められて、精算室へ馳せつけた際、同助役が右手で本件紙幣束を握っている原告の左手首を掴み、左手で運賃袋を手許に引寄せる状態で争っているところを現認していること、そして原告が蒼白い顔で口許を震わせながら、本件紙幣束を握り締めている左手を胸の高さまで上げ、安岡助役に対し、「安岡さんポケットには入れとらんだったでしょうが。」と大声で言い、暗に同助役の同調を求めたが、同助役は、先刻目撃した原告の動作を身振りで示しながら「あんたはポケットから出したじゃないか。」と答えて原告をたしなめたこと、以上の事実が認められる。

(三)  この点につき、原告は、その主張や本人尋問、陳述書(<証拠略>)等において、貝田助役が漏斗の上部口から運賃等を運賃袋の中に投入したので、その運賃袋を漏斗からはずして下方に下げながら手前に引いたところ、本件紙幣束が運賃袋の入口の部分からはみ出していたため、これを運賃袋の中に入れようとして右手で運賃袋を持ったまま左手で上から本件紙幣束を握ったにすぎないのであって、本件紙幣束をズボンのポケットの中に入れた事実は全くない旨ほぼ終始一貫して無実の弁解を続けてきていることが認められる。

しかしながら、貝田助役による現認は、運転士による精算時の非違行為を防止するためという精算担当助役としての職務上の行為に基づくものであって、その性質上正確であると思われるし、安岡助役の目撃も貝田助役の右現認を十分裏づけている。そして、両助役には、日頃原告に対し、公的又は私的に恨みを抱き、無実の原告を故意に罪に陥し入れて失職せしめる程の強い動機や事情は全く見当らない。更に、(証拠略)を総合すると、本件紙幣束を精算台上の漏斗を通して、所定の状態で漏斗に掛けている運賃袋の中に投入した場合には、本件紙幣束が落下する前に運賃袋を漏斗からはずす等特段の事由がない限り、通常の過程においては、本件紙幣束は運賃袋の中に完全に入り、運賃袋の中からはみ出すことは全くないことが昭和五七年四月一四日午前零時二〇分頃から午前一時一五分頃まで一〇回、同日午前七時二〇分頃から同四〇分頃まで五五回と二度に亘る実験の結果から、明らかとなっている。

以上の点からみて、本件紙幣束が運賃袋からはみ出したものを元に戻そうとしたに過ぎない旨の原告の弁解は、根拠のないものであって、原告が運賃袋の中から本件紙幣束を抜き取ってズボンの左ポケットの中に入れたとの前記認定を左右するものではない。

そのほかにも、原告は、自家は比較的裕福な農家であって、僅か九〇〇〇円の金に目が昏む程経済的に逼迫してはいなかったとか、集中計算所で自己の犯跡が即刻判明することが明白であるのにしかも看視者のいる面前で自分の一生を棒に振るような暴挙に出る道理はないなど弁解めいた主張を準備書面等で述べているが、(証拠略)からも明らかなように集中計算所では、必ずしも原告が右に主張するような仕組みにはなっていないし、そもそも犯罪をおかす者の犯行時における心理は、冷静な精神状態に在る第三者には、到底納得のゆく客観的合理的な説明ができない程異常不可解な状態に在ることが多いことも経験則上明らかであって、右の弁解も前記窃取の認定を左右するものとは認め難い。また(人証略)も同認定を左右するに至らず他に右認定を覆えし、原告の弁解を支持するに足る証拠もない。

(四)  以上の事実によると、原告は、運賃等の精算手続を行うに際し、運賃袋から合計九〇〇〇円の紙幣束を抜き取ってズボンの左ポケットに入れ、もって、これを私用に供し又は私用に供そうとしたものと認められ、右行為は、就業規則六〇条一一号に該当する。

右就業規則六〇条本文は、このような場合には諭旨解雇、懲戒解雇又は出勤停止にされると規定されているが、本件は、現金を取り扱うワンマンバスの運転士が両替金を精算手続中に領得しようとした事案であって、その性質、態様において悪質であり、被告会社が懲戒解雇を選択することもやむを得ないといわねばならない。したがって、同条に基づいて行われた本件懲戒解雇は有効である。

三  賃金及び昭和五七年度夏期賞与について

(一)  本件懲戒解雇が行われた後の賃金については、前記のとおり本件懲戒解雇が有効であり、原告は、被告に対し労働契約上の権利を有する地位を失ったのであるから、賃金請求権を有しないことは明白である。

(二)  次に、昭和五七年五月七日以降原告が右の地位を失った日である同年八月二五日までの間の賃金及び昭和五七年度夏期賞与について検討する。

1  次の各事実は、当事者間に争いがない。

(1) 原告は、被告から、毎月二三日限り賃金の支払を受けていたところ、原告の本件懲戒解雇当時における平均賃金は一日当たり一万一九八七円であった。

(2) 給与規則四二条には、就業規則八条により社員の出勤又は就業を禁止したときは、その期間中、平均賃金の一〇〇分の六〇を保障する旨の規定があり、組合との間の労働協約一七二条にも同様の規定があるところ、被告は、原告に対し、昭和五七年五月七日から同年八月二五日までの出勤禁止期間中の平均賃金合計一三三万〇五五七円(平均賃金日額一万一九八七円の一一一日分)のうち六割に当たる七九万八三三五円(円未満は切り上げ)を支払った。

(3) 昭和五七年度夏期賞与は、昭和五六年一〇月一日から昭和五七年三月三一日までを計算期間として同年七月九日に支給された。

(4) ところが、被告から組合に解雇が提案されている者に対する賞与の取扱いについては、「解雇提案中の者に対する臨時給与の取扱い」協定により、「支給日には支給を一時差止める。懲戒解雇、諭旨解雇に決定したときは支給しない。ただし、就業規則六〇条九号、一一号もしくは一三号によるもの以外の場合で特に情状があるときは労使協議により支給することがある。」と定められている。

(5) 被告会社は、昭和五七年度夏期賞与の支給日であった同年七月九日、原告につき組合に対して解雇提案中であったから、前記協定に基づいて原告に対する右賞与の支給を一時停止し、後に原告の本件懲戒解雇を決定した。

2  以上の各事実に基づいて判断するに、前記二において認定したとおり、原告には就業規則六〇条一一号に該当する懲戒解雇事由があったのであるから、被告会社が原告に対して行った本件出勤禁止は有効である。

したがって、昭和五七年五月七日以降同年八月二五日までの間の賃金については、原告は被告会社に対し右期間中の平均賃金合計額の六割を請求しうるにすぎないところ、被告会社は原告に右金員を既に支払っているのであるから、賃金の未払分は残存しない。

また、昭和五七年度夏期賞与についても、結局、本件懲戒解雇が有効である以上、前記「解雇提案中の者に対する臨時給与の取扱い」協定に従い発生しないものと解する。

四  よって、原告の本訴請求はいずれも理由がないからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき民訴法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 藤浦照生 裁判官 草野芳郎 裁判官古賀輝郎は、転補につき、署名捺印することができない。裁判長裁判官 藤浦照生)

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