福岡地方裁判所 昭和58年(ワ)2113号 判決
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【判旨】
<証拠>を総合すると、次の事実が認められる。
1 本件土地は深江地区にある合計一九八筆、面積三四万三〇〇〇平方メートルに及ぶ広大な土地で、その七〇パーセントが山林、三〇パーセントが宅地であること、登記簿によると明治三九年三月一二日の売買を原因として同月一四日進藤英太郎ほか三一六名の共有名義に登記されているが、その維持管理は区有地として深江区各部落の割宛制でなされ、公租公課は区費から支出されてきたこと、共有登記名義人である三一七名は本件土地買受当時区費を納入していた区民の全員であり、当時区の有力者名義にしておくと勝手に処分されるおそれがあるということで共有名義にしたといわれており、現在では誰も本件土地が区有地であることを疑うものはいないこと、
2 終戦後区は二丈町の要請をうけて本件土地の一部を町営住宅の敷地として町に売却し、代金の決済も済んでいるが、その後町営住宅が払下げられ、その払下げをうけた者から町を介して敷地所有権移転登記の要求が強くなつたこと、本件土地については既に当初の共有名義人三一七名は死亡し、現在では三代目、四代目に当り、その数も約一四〇〇名に及んでおり、居住地も様々であるため、区では登記名義を区の代表者五名の共有に整理したうえ、前記移転登記の要求に応ずべく、昭和五六年四月二九日区民総会を開いて原告ほか四名の代表者に登記名義人となつて貰うよう決議したこと、ところが被告のように今迄知らなかつたのに移転登記の交渉からこれを知り、登記名義の存することを奇貨として区有地であることを知りながら法外な要求をするものが一七、八名はいること、
3 本件土地については登記簿上三一七名の共有登記がなされているだけで区所有を裏付ける資料は大正一一年以降分しかなく、それ以前のものはないが、明治四二年七月一五日生れの原告の物心のついた頃からの記憶でも深江区所有として区の各部落の割宛制で維持監理がなされてきたこと
以上のとおり認められ、他にこれに反する証拠はない。
右認定の事実によると、本件土地は被告の祖父ら三一七名の共有にはなつているが、明治三九年三月一二日の売買以降区は所有の意思をもつて善意、無過失に占有をはじめ、以後平穏且つ公然に占有を継続したものと推認するのが相当であり、したがつて区は以後一〇年を数える大正五年三月一二日の経過とともに本件土地の所有権を時効取得したものというべきである。
しかるところ権利能力なき社団である深江区名義で所有権移転登記をうけるすべはないから、受託者である原告名義で本件土地につき明治三九年三月一二日に遡り時効取得を原因として被告に対し所有権(持分)移転登記手続の履行を求める原告の本訴請求はその余の争点に言及するまでもなく、正当である。 (麻上正信)