福岡地方裁判所 昭和59年(わ)977号 判決 1984年10月23日
本店の所在地
北九州市八幡西区本城東三丁目一番二三号
法人の名称
株式会社山本組
代表者の住居
北九州市八幡西区鷹見台四丁目四番五号
代表者の氏名
山本忠義
代表者の住居
北九州市八幡西区鷹見台四丁目一番一七号
代表者の氏名
永野刀男
本籍
北九州市八幡西区鷹見台四丁目四番
住居
北九州市八幡西区鷹見台四丁目四番五号
会社役員
山本忠義
大正一四年四月一三日生
右株式会社山本組及び山本忠義に対する各法人税法違反被告事件につき、当裁判所は、検察官當山孝保出席のうえ審理し、次のとおり判決する。
主文
被告会社株式会社山本組を罰金二、三〇〇万円に、被告人山本忠義を懲役一年六月に処する。
被告人山本忠義に対し、この裁判確定の日から三年間その刑の執行を猶予する。
理由
(罪となるべき事実)
被告会社株式会社山本組は、北九州市八幡西区本城東三丁目一番二三号に本店を置き、土木建築工事の請負等を目的とする資本金五、〇〇〇円の株式会社であり、被告人山本忠義は、被告会社の代表取締役会長としてその業務全般を統括しているものであるが、被告人山本は、被告会社の総務部長である本村安識と共謀の上、被告会社の業務に関し、法人税を免れようと企て、建設原価のうち外注費の一部を架空に、もしくは水増しして計上し、あるいは未完成工事原価を完成工事原価へ振り替えるなどして、簿外預金を蓄積するなどの方法により所得を秘匿した上
第一 昭和五五年六月一日から同五六年五月三一日までの事業年度における被告会社の実際所得金額が一億四、二六五万七八円であったのにかかわらず、同五六年七月三一日、同市八幡東区西本町四丁目一四番一六号所在の所轄八幡税務署において、同税務署長に対し、その所得金額が八、二四七万九、六八四円で、これに対する法人税額が三、一一一万二、六〇〇円(但し、法人税法六七条による留保金課税分を除いて三、〇八一万六〇〇円と認める。)である旨の虚偽の法人確定申告書を提出し、もって不正の行為により被告会社の右事業年度における正規の法人税額五、六〇七万八、一〇〇円と右申告税額との差額二、五二六万七、五〇〇円を免れた
第二 昭和五六年六月一日から同五七年五月三一日までの事業年度における被告会社の実際所得金額が一億七、二七九万一、三一三円であったのにかかわらず、同五七年七月三一日、前記八幡税務署において、同税務署長に対し、その所得金額が八、七六一万五四九円で、これに対する法人税額が三、一九六万七、九〇〇円である旨の虚偽の法人税確定申告書を提出し、もって不正の行為により被告会社の右事業年度における正規の法人税額六、七七四万九〇〇円と右申告税額との差額三、五七七万三、〇〇〇円を免れた
第三 昭和五七年六月一日から同五八年五月三一日までの事業年度における被告会社の実際所得金額が一億一、九八九万七、七三八円であったのにかかわらず、同五八年八月一日、前記八幡税務署において、同税務署長に対し、その所得金額が七、三五三万六、七〇〇円で、これに対する法人税額が二、六三三万五、七〇〇円である旨の虚偽の法人税確定申告書を提出し、もって不正の行為により被告会社の右事業年度における正規の法人税額四、五八〇万四、四〇〇円と右申告税額との差額一、九四六万八、七〇〇円を免れた
ものである。
(証拠の標目)
判示全部の事実について
一 被告人山本忠義の当公判廷における供述
一 被告人山本忠義の検察官(二通、検四四、四五号)及び大蔵事務官(五通、検三九ないし四三号)に対する各供述調書
一 本村安識の検察官(四通、検三五ないし三八号)及び大蔵事務官(一四通、検二一ないし三四号)に対する各供述調書
一 吉田浩万(四通、検一四ないし一七号)、笠置政治(検一八号)及び原口嵩(検一九号)の大蔵事務官に対する各供述調書
一 大蔵事務官作成の脱税額計算書説明資料(検七号)
一 唐川秀生作成の報告書(検三号)
一 本村安識作成の各上申書(三通、検八ないし一〇号)
一 登記官谷太三郎作成の登記簿謄本(検二号)
判示第一の事実について
一 大蔵事務官作成の脱税額計算書(検四号)
判示第二の事実について
一 大蔵事務官作成の脱税額計算書(検五号)
判示第三の事実について
一 大蔵事務官作成の脱税額計算書(検六号)
(法令の適用)
一 被告会社の判示第一ないし第三の各所為はそれぞれ法人税法一六四条一項、一五九条一項に該当するところ、情状により各罪につき同法一五九条二項を適用して罰金額は五〇〇万円をこえその免れた法人税の額に相当する金額以下とすることとし、以上は刑法四五条前段の併合罪であるから、同法四八条二項により各罪の所定の罰金の合算額の範囲内で被告会社を罰金二、三〇〇万円に処する。
二 被告人山本忠義の判示第一ないし第三の各所為はいずれも刑法六〇条、法人税法一五九条一項に該当するところ、各所定刑中いずれも懲役刑を選択し、以上は刑法四五条前段の併合罪であるから、同法四七条本文、一〇条により最も犯情の重い判示第二の罪の刑に法定の加重をした刑期の範囲内で被告人山本を懲役一年六月に処し、情状により同法二五条一項を適用してこの裁判の確定した日から三年間右刑の執行を猶予することとする。
(量刑の理由)
本件犯行は、不況時に備えて被告会社の信用と安泰を図るため、被告会社代表取締役会長である被告人山本忠義が、同社総務部長で同社の経理全般を総括している本村安識と共謀の上、外注費の一部を架空に、もしくは水増しして計上し、あるいは未完成工事原価を完成工事原価へ振り替え、簿外預金を蓄積するなどの方法で、継続的に所得を秘匿し、虚偽の法人税確定申告書を所轄税務署長に提出して、不正に法人税を免れた事実であるが、被告人は、かつて経営方針を誤って会社を事実上倒産させ、その後負債を整理しつつ会社の再建を図るのに苦慮した経験があるため、会社の財務体質の強化を企図して本件各犯行に及んだものであって、被告人山本の目的はともあれ、その目的の実現を合法的手段によらず、短絡的に不正経理による脱税という手段により実現しようとしたものであって、本件犯行の動機については情状汲むべき余地が全くないこと、本件各犯行に用いられた手段は、各企業を信頼してその企業自体に正しい所得を申告させて税額を確定しようとする申告納税制度を悪用したもので悪質な犯行といえること、免れた法人税額も多額にのぼること、被告会社は昭和四七年ころ以来、繰り返して脱税行為を行い、その都度所轄税務署の特別税務調査を受け、国税局の査察により厳重に注意されたこともあるのに、なお、脱税行為を繰り返して本件犯行に及んだこと、被告会社としては会社内の監督体制を整備し、代表取締役たる被告人山本の前記のような不正行為を未然に阻止すべきであったのにそのような措置がなんら講ぜられていなかったことを考えると、被告会社及び被告人山本の本件法人税法違反の罪責には軽からざるものがあるというべきであるが、他面、被告会社は本件犯行によつて免れた法人税額をすでに全額納付していること、被告人山本には前科前歴はまったくないこと、本件について被告人山本は深く反省し再びかかる犯行を行わない旨誓っていること、被告人山本は被告会社においてその中心的存在として余人をもって代えがたい地位にあることなど、被告会社及び被告人山本に有利な事情も認められるので、以上の諸般の事情を総合考慮し、被告会社及び被告人山本に主文のとおりの刑を量定した上で、被告人山本に対しては社会内において更正する機会を与えることとした次第である。
よって、主文のとおり判決する。
(裁判官 早舩嘉一)