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福岡地方裁判所 昭和59年(行ウ)8号 判決 1985年7月18日

主文

一  被告が昭和五八年一月二七日原告に対してした別紙目録記載の土地に係る特別土地保有税の納税義務の免除否認処分を取り消す。

二  訴訟費用は被告の負担とする。

事実

第一  当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

主文同旨

二  請求の趣旨に対する答弁

1  原告の請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

第二  当事者の主張

一  請求原因

1  本件処分に至る経緯

(一) 原告は、昭和五五年四月三日、福岡市早良区有田五丁目(当時、西区大字有田字高田)五八四番三宅地九八九平方メートルを取得し、同年六月三日、これを同番三及び七ないし一三に分筆した。

(二) 原告は、同年八月二九日、当時の西区長に対し、右土地の取得について特別土地保有税の申告をし、同年九月二四日、右申告の一部修正を行うとともに、西区の別土地合計一二二六平方メートルと一括して右土地を非課税土地として使用することについて認定を求める申請をした。

西区長は、同年一〇月一六日、原告に対し、右申請に基づき、納税義務の免除に係る期間を同年八月二九日から昭和五七年八月三一日までとする非課税土地認定をした。

(三) 原告は、昭和五七年七月三〇日、被告に対し、別紙目録記載の土地(以下「本件土地」という。)について非課税土地確認申請をした。

被告は、昭和五八年一月二七日、原告に対し、本件土地について特別土地保有税に係る納税義務の免除を否認する処分をした。

2  本件処分の違法性

しかしながら、被告の右処分は、次の理由で違法である。

(一)(1) 原告は、前記分筆に係る各土地上に建物を建築して、これを分譲することを企画し、昭和五五年四月一〇日、三研住宅株式会社(以下「三研」という。)と住宅販売提携契約を締結した。

(2) 右契約に基づき原告は、同年六月一〇日、三研との間で、本件土地上に建物を建て、これを土地と一括して代金二九九四万九六〇〇円で売る旨の「不動産売買契約」を締結し、三研は、同日、日立家電販売株式会社(以下「日立」という。)との間で、右物件を代金三二二〇万円で売る旨の「不動産売買契約」を締結した。

原告は、同年七月二三日、日立に対し、本件土地の所有権移転登記手続をした。

(3) 右建物は、同年一〇月二〇日ころ完成し、そのころ三研から日立に引渡され、一〇月二五日、日立名義で所有権保存登記がされた。

(二)(1) 本件売買は、土地建物一体のいわゆる「建売り」であるから、土地建物の登記名義がそろつて買主名義となつた時に土地建物の所有権が買主に移転するものと解すべきである。

そうすると、本件土地の所有権は、本件建物の所有権保存登記がされた一〇月二五日に移転したことになり、原告は、前記納税義務の免除に係る期間中に本件土地を住宅用地として使用したというべきである。

(2) 本件土地の所有権の移転時期を土地の所有権移転登記の時と考えても、本件建物は、間もなく建築され引渡されたのであるから、実質上、本件「不動産売買契約」の段階で、原告は、既に住宅用地として本件土地の使用を開始したとみるべきである。

よつて、原告は、本件処分の取消を求める。

二  請求原因に対する認否

1  請求原因1の(一)ないし(三)の事実はすべて認める。

2  同2の(一)の(1)ないし(3)の事実は不知。ただし、各登記の点及び本件建物が土地の所有権移転登記後に建築されたことは認める。

(二)の(1)、(2)は争う。原告は、本件土地の所有権移転登記がされた段階でその所有権を喪失したものであり、本件建物はその後建築されたのであるから、原告が本件土地を住宅用地として使用しなかつたことは明らかである。よつて、本件処分は適法である。

第三  証拠(省略)

理由

一  請求原因1の(一)ないし(三)の事実は、すべて当事者間に争いがない。

二  そこで、本件処分が違法であるか否かについて判断する。

1  成立に争いのない乙第二号証の二、第七号証、弁論の全趣旨により真正に成立したものと認められる甲第三号証、原告代表者の供述により原本が真正に成立したものと認められる甲第一号証(原本の存在は、当事者間に争いがない。)、及び原告代表者の供述によれば、次の事実が認められ、右認定を覆すに足りる証拠はない。

(一)  原告は、本件土地を含む前記分筆前の五八四番三宅地九八九平方メートルに建物を建築して分譲することを企図し、その方法として、昭和五五年四月一〇日、三研との間で、原告は三研に土地建物を卸価格で販売すること、三研は建物の設計及び管理を行い、宣伝広告をしてユーザーに販売すること、原告が客付けしたときは、直ちに三研に報告し、その購入予定者を三研に移管することなどを内容とする住宅販売提携契約を締結した。

(二)  右契約に基づき、原告は、同年六月一〇日、三研との間で、本件土地及び建築予定の地上建物を代金二九九四万九六〇〇円で売り渡す旨の「不動産売買契約」を締結し、三研は同日、日立に対し、右物件を代金三二二〇万円で売り渡す旨の「不動産売買契約」を締結した。

そして、三研は、右住宅販売提携契約に基づき、建築業者をして本件土地上に木造セメント瓦・亜鉛メツキ鋼板葺二階建居宅店舗一棟を建築させ、同年一〇月二〇日ころ、これを日立に引渡した。

2(一)  以上の事実によると、原告と三研との間の法律関係は、法形式は売買であるが、実質は建物の建築及び土地建物の販売の仲介委託と解される。したがつて、右1の(二)の原告・三研間の「不動産売買契約」によつて原告が本件土地の所有権を喪失したと考えるべきではない。

(二)(1)  三研と日立との間の「不動産売買契約」は、建築工事完成前の建物とその敷地を一括して売買するというものであり、いわゆる「建売り」の一つの典型である。

このような契約の場合は、土地建物の所有権移転時期について明示の特約をするのが通常であろうが、これがなくても、原則として、目的の土地建物を不可分一体のものと考えるのが当事者の合理的な意思と解されるから、特に反対の趣旨の合意がない限り、右土地建物の所有権は建物が完成しこれが引渡された時に一体として売主から買主に移転する旨の黙示の合意があるものと解するのが相当である。

(2)  そこで、右反対趣旨の合意の有無について検討する。

前掲甲第一号証、第三号証及び原告代表者の供述によれば、右「不動産売買契約」に際し、日立は、三研に手付金三一〇万円を支払つたこと、そして、三研と日立は、地上建物の完成前にさらに中間金一八四〇万円を授受し、その際、本件土地について所有権移転登記手続をすることを約したこと、右約定に基づき、日立は、同年七月二三日、三研に中間金一八四〇万円を支払い、同時に、本件土地について原告から直接所有権移転登記を得たこと(右登記がされたことは、当事者間に争いがない。)が認められる。また、前掲乙第七号証によると、原告と三研との間の前記住宅販売提携契約における土地建物の卸価格は、土地が坪単価四〇万円で、建物が坪単価三一万円であつたことが認められる。

しかしながら、原告代表者の供述によると、本件土地の地上建物は、契約当初から、日立の希望による設計変更によつて完成が通常より遅くれる見込みであつたこと、これに対し、日立は、建物完成前に右額の中間金を支払うことを申し出たこと、本件土地についての右所有権移転登記は、右のような状況の下で、結果として高額の前金が授受されることに対する権利保全措置として、いわば所有権移転請求権保全の仮登記の趣旨で経由することが約され、かつ、実行されたことが認められる。したがつて、右支払済みの代金が本件土地の対価部分に相当すると否とにかかわりなく、先の認定事実から、三研と日立との間で、本件土地の所有権を特に建物の所有権に先立つて移転する旨の合意があつたことを認めることはできない。他に右合意の成立を認めるに足りる証拠はない。

(3)  そうだとすると、本件土地の所有権は、原則どおり、本件建物が完成した同年一〇月二〇日ころ、右建物の引渡により、その所有権とともに日立に移転したものというべきであり、したがつて、原告は、本件土地を所定の期間中に非課税土地として使用したものと解するのが相当である。

このように解しても、本件土地建物と同旨の「不動産売買契約」による取引に基づき非課税土地の確認を得た他の分譲地(枝番三、一一、一二、一三)の場合とくらべて、原告が不当に利益を得たことにはならないし、また、特別土地保有税の納税義務の免除を認めている法の趣旨に反することもない。

よつて、本件処分は違法である。

三  以上によれば、本訴請求は理由があるからこれを認容し、訴訟費用の負担について行訴法七条、民訴法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

別紙

目録

福岡市早良区有田五丁目五八四番七

宅地   一五九平方メートル

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