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福岡地方裁判所 昭和60年(ワ)2249号 判決 1986年5月06日

原告

株式会社ヂーエス商事

右代表者代表取締役

豊永和昭

右訴訟代理人弁護士

岩崎明弘

丸山隆寛

牟田哲朗

被告

大成電機株式会社

右代表者代表取締役

幾度守隆

右訴訟代理人弁護士

松岡益人

主文

一  被告から原告に対する福岡高等裁判所昭和五三年(ネ)第七〇二号、第七七四号物件引渡・違約金請求控訴、同附帯控訴事件の判決の執行力ある正本に基づく強制執行は、これを許さない。

二  訴訟費用は被告の負担とする。

三  本件について当裁判所が昭和六〇年一〇月一日にした強制執行停止決定はこれを認可する。

四  前項に限り仮に執行することができる。

事実

第一  当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

主文一、二項同旨

二  請求の趣旨に対する答弁

1  原告の請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

第二  当事者の主張

一  請求原因

1  原被告間には、福岡高等裁判所昭和五三年(ネ)第七〇二号、第七七四号物件引渡・違約金請求控訴、同附帯控訴事件についての確定判決(以下本件判決という。)があり、右判決は、原告に対し、被告が原告に売渡したコンフレッカー九台の引渡ができないときの代償請求権(以下本件代償請求権という。)として金七二八万九〇〇〇円及びこれに対する昭和四八年九月一八日から支払ずみまで年六分の割合による金員を被告へ支払うよう命じ、かつ訴訟費用を第一、二審を通じて三分し、その二を原告の負担としている。

2  しかして、原被告間には、原告から訴外クスダ事務機株式会社(以下クスダ事務機という。)、同日本電卓株式会社(以下日本電卓という。)及び被告に対して提起した福岡地方裁判所昭和五〇年(ワ)第三一九号、同五三年(ワ)第四二三号、一四六四号、同五四年(ワ)第五五五号事件(以下福岡地裁昭和五〇年(ワ)第三一九号ほかの事件という。)について昭和六〇年九月六日に次の内容の裁判上の和解(以下本件裁判上の和解という。)が成立した。

(一) クスダ事務機及び日本電卓は連帯して、原告に対し、和解金四〇〇〇万円の支払義務あることを認め、これを昭和六〇年一二月二五日限り支払う。

(二) クスダ事務機及び日本電卓が右1の支払を怠つたときは、原告に対し昭和六〇年一二月二六日以降完済に至るまで年一四パーセントの割合による遅延損害金を付加して支払う。

(三) 原告は被告に対する各訴を取下げ、被告はこれに同意する。

(四) 原告のその余の請求を放棄する。

(五) 当事者双方は、本条項に定めるもののほか、何らの債権債務がないことを相互に確認する(以下本件清算条項という)。

(六) 訴訟費用は各自の負担とする。

3  右裁判上の和解、ことに本件清算条項により、被告は、原告に対し、本件代償請求権を放棄した。

4  よつて、原告は、前記債務名義の執行力の排除を求める。

二  請求原因に対する認否

請求原因1及び2の各事実は認めるが、同3の事実は否認する。

三  被告の主張

被告は本件裁判上の和解により、原告に対する本件代償請求権を放棄したものではない。すなわち、

1  被告は、福岡地裁昭和五〇年(ワ)第三一九号ほかの事件について昭和六〇年一月一七日弁論の分離を上申していたところ、同分離決定はなされなかつたものの、本件裁判上の和解においては、原告は被告に対する各訴を取下げることとされ、被告はこれに同意した。

しかして、右訴の取下により本件訴は被告に対し、初めより係属しなかつたものとみなされるから、本件清算条項は被告には適用されない。

2  被告訴訟代理人弁護士松岡益人は、福岡地裁昭和五〇年(ワ)第三一九号ほかの事件において、被告から本件代償請求権を処分する代理権を与えられていない。従つて本件裁判上の和解において、右代償請求権を放棄するはずがない。

3  清算条項は、当事者間に未発見の権利関係について後日債権債務関係があることが発見されても再度持出すことをしないという形成的意義をもつ確認的効果があるが、本件判決は本件裁判上の和解成立時において既に確定しており、未発見であるとはいえないし、福岡地裁昭和五〇年(ワ)第三一九号ほかの事件において本件代償請求権の存否が争いの対象となつたことはない。従つて、本件清算条項によつて本件代償請求権について前記確認的効果が生ずることはない。

4  本件請求権は、福岡地裁昭和五〇年(ワ)第三一九号ほかの事件とは訴訟物を異にするところ、訴訟物以外の権利若しくは法律関係を付加して裁判上の和解が成立した場合和解の効力の及ぶ範囲を明らかにするため和解の対象となつた権利若しくは法律関係を表示しなければならないが、本件裁判上の和解には右表示がなされていないので、本件代償請求権は和解の対象になつていない。

四  被告の主張に対する原告の反論

1  被告の主張1について

原告の被告に対する訴の取下は、本件裁判上の和解中の訴取下条項によりなされたものであり、右和解条項の意味内容を統一的に把握するとその効力は他の和解条項と同時に発生したものと解すべきである。

2  被告の主張2について

松岡弁護士は、被告から福岡地裁昭和五〇年(ワ)第三一九号ほかの事件において、訴訟上の和解をする権限も与えられており、訴訟上の和解においては訴訟物以外の権利若しくは権利関係を付加できるのであるから、同弁護士は本件代償請求権を放棄する権限を有していたというべきである。

3  被告の主張3について

当事者間において、裁判上の和解がなされ、同和解条項中に清算条項がある場合には、特段の事情がない限り、和解条項に盛り込まれている以外の事項に関する債権は全て放棄したうえ、その不存在を確認したものと解すべきである。

4  裁判上の和解において、その和解条項に訴訟物以外の権利若しくは法律関係を新たに付加する場合には付加された権利若しくは法律関係を表示しなければならないであろうが、本件のように既に存在する権利については特にこれを表示しなくても清算条項によつてこれを消滅させることは可能である。

第三  証拠<省略>

理由

一請求原因1及び2の各事実は当事者間に争いがない。

二そこで請求原因3の事実について判断する。

1  右当事者間に争いのない事実と<証拠>によれば、次の事実が認められる。

本件判決の原審判決(昭和四九年(ワ)第二二二号物件引渡請求事件、同年(ワ)第八八五号違約金請求事件)は、昭和五三年九月一二日に言渡され、その控訴審判決である本件判決は、昭和五六年一二月二五日に言渡され、同五八年二月一〇日確定したものであるが、その訴訟物は、被告を売主、原告を買主として昭和四八年二月七日に締結された電子計算機用発電機であるコンフレッカーの継続的売買契約の解除に基づく、被告から原告に対する右機械九台の引渡と、これができない場合の代償請求権(控訴審において新たに追加された予備的請求)金一三二〇万円の支払請求権及び原告の被告に対する右機械の納期遅延損害金二億一九三〇万九五〇〇円の支払請求であり、本件判決は、右代償請求権のうち、金七二八万九〇〇〇円の支払を命じたが、原被告のその余の請求はいずれもこれを棄却したものであること、(もつとも、同判決においては昭和四八年三月から六月までの分の納期遅延損害金五九一万一〇〇〇円が発生したが、前記代償請求権との相殺により消滅したものとされた。)また、福岡地裁昭和五〇年(ワ)第三一九号ほかの事件(併合訴訟)のうち、右第三一九号事件は、原告が被告から前記継続的売買契約に基づいて購入したコンフレッカーをクスダ事務機及び日本電卓に専属的に卸売りする契約をなしていたのに、右両社は、原告を排除して被告との間に直接取引を行なつたことから、原告において、右両社及び被告に対し、各自債務不履行又は共同不法行為に基づいて昭和四九年三月末日までの逸失利益及び慰謝料合計金四四九八万円の損害賠償を求めたものであり、また福岡地裁昭和五三年(ワ)第四二三号事件は、前記クスダ事務機及び日本電卓が原告との前記専属的卸売契約に違反してコンフレッカー九台を受取拒否し、また前記同様被告と直接取引を行なつた(前記第三一九号事件とは別の機械)ことから、原告において右両社に対し、各自保管料金一六三万五〇〇〇円及び逸失利益金一五四四万円の支払を求めたものであり、福岡地裁昭和五三年(ワ)第一四六四号事件は、前記クスダ事務機及び日本電卓が前記同様被告と直接取引を行なつたことから、原告において右両社及び被告に対し、各自共同不法行為及び債務不履行に基づいて昭和四九年四月一日から同五三年三月三一日までの逸失利益金一億六〇五〇万円の損害賠償を求めたものであり、福岡地裁昭和五四年(ワ)第五五五号事件は、被告が原告に対するコンフレッカー納入を遅滞したのは、被告とクスダ事務機及び日本電卓の共謀によるものであるとし、右両社及び被告に対し、各自昭和四九年四月一日から同五〇年三月三一日までの納期遅延損害金五億七三〇五万円の支払を求めたものであること、しかして福岡地裁昭和五〇年(ワ)第三一九号ほかの事件について昭和六〇年九月六日請求原因2の通りの内容を有する裁判上の和解が成立したことが認められる。

2 しかして、本件裁判上の和解条項中には、「当事者双方(被告が右事件の当事者であることは明らかである。)は、本条項に定めるほか、何らの債権債務がないことを相互に確認する。」との条項が存するところ、右条項は、原、被告並びにクスダ事務機及び日本電卓との間にコンフレッカーの売買取引をめぐつて発生した紛争を最終的に解決しようとしたものであり、そのために和解当事者らは本件和解条項に盛り込まれている以外の事項に関する請求権は、特段の事情がない限り、これを放棄したものと解するべきである。

3 しかして、被告は前記の主張をなすが、以下順次検討する通り、これによつて、右特段の事情を認めるに足りないから本件代償請求権は、本件裁判上の和解に際し、これを放棄したものと解するのが相当である。すなわち、

(一) <証拠>によれば、被告は、福岡地裁昭和五〇年(ワ)第三一九号ほかの事件について昭和六〇年一月一七日他の被告らとの口頭弁論を分離されたい旨の上申書を提出したことが認められるが、右分離がなされないまま本件裁判上の和解が成立したものであり、同和解条項中には「原告は被告に対する各訴を取下げ、被告はこれに同意する」旨の条項があるが、これは、本件和解の内容をなすものであつて、原被告間で訴訟を終了させる旨の合意をなしたものと解される。従つて、原告の被告に対する訴が初めより係属しなかつたものと解する余地はなく、被告の主張1は採用できない。

(二) <証拠>によれば、被告訴訟代理人松岡益人弁護士は、福岡高等裁判所昭和五三年(ネ)第七〇二号、第七七四号及び福岡地裁昭和五〇年(ワ)第三一九号ほかの事件においていずれも被告から訴訟委任を受けており、右後者の事件においては裁判上の和解をなす権限も与えられていたものであるところ、訴訟代理人は訴訟物のみならず、それ以外の権利又は法律関係についても合わせて和解をなす権限を有すると解せられる。従つて、被告の主張2も採用できない。

(三) 前記のとおり、本件裁判上の和解は、原、被告並びにクスダ事務機及び日本電卓との間にコンフレッカーの売買取引をめぐつて発生した紛争(本件代償請求権も同紛争から派生したものである。)を最終的に解決しようとしたものと認められるところ、本件裁判上の和解においては本件代償請求権についてその支払方法等に関し、何らの合意もなされていないことからすれば、当事者の意思は本件清算条項により右代償請求権を消滅させるにあつたと解するのが相当である。従つて、被告の主張3も採用できない。

(四) 前記のとおり、訴訟代理人は、訴訟物以外の権利又は法律関係についても合わせて和解をなすことができるが、当事者間において和解条項に定める外、一切の権利又は法律関係を消滅させる場合には、必ずしもこれを和解条項中に表示しなければならないものではない。従つて被告の主張4も採用できない。

三以上によれば、原告の請求は理由があるからこれを認容することとし、訴訟費用の負担につき民訴法八九条、強制執行停止決定の認可とその仮執行の宣言につき、民執法三七条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官吉田 肇)

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