福岡地方裁判所久留米支部 昭和53年(ワ)168号 判決 1981年3月02日
原告
千徳キヨカ
ほか二名
被告
杉山道則
ほか二名
主文
一 被告杉山正浩は、原告千徳キヨカに対し金五八一万九三五〇円、同千徳千賀子、同千徳正樹に対しそれぞれ金五四三万九三五〇円及びこれらに対する昭和四八年一一月二日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。
二 原告らの被告杉山道則、同杉山義則に対する請求及び同杉山正浩に対するその余の請求をいずれも棄却する。
三 訴訟費用中、原告らと被告杉山正浩との間に生じた分はこれを五分し、その二を原告らの、その余を被告杉山正浩の負担とし、原告らとその余の被告らとの間に生じた分は、原告らの負担とする。
四 この判決は、第一項に限り、仮に執行することができる。
事実
第一当事者の求めた裁判
一 請求の趣旨
1 被告らは各自、原告千徳キヨカに対し九一二万一九〇三円、同千徳千賀子、同千徳正樹に対しそれぞれ八七四万一九〇三円及びこれらに対する昭和四八年一一月二日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。
2 訴訟費用は被告らの負担とする。
3 この判決は仮に執行することができる。
二 請求の趣旨に対する答弁(被告ら)
1 原告らの請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告らの負担とする。
第二当事者の主張
一 請請原因
1 事故の発生
次の交通事故により、亡千徳治義(以下、亡治義という)は死亡した。
(一) 日時 昭和四八年一一月一日午前一一時ごろ
(二) 場所 久留米市津福本町一九二七番地先路上
(三) 加害車 大型貨物自動車(鹿一一さ三〇五四号)
運転者 坂ノ上哲郎
(四) 被害車 原付自転車(久留米市か八二一〇号)
運転者 亡治義
(五) 態様 前記場所を柳川市方面から久留米市方面に向つて進行していた被害車に、その後方を進行してきた加害車が追突し、亡治義は同日午後八時九分頭部打撲挫創、脳挫傷により死亡した。
2 被告らの責任
被告らは、肩書地において杉山運送という商号で運送業を共同経営しており、坂ノ上哲郎を運転手として雇用し、加害車の運行に当らせ自己のために運行の用に供していたものであるから、自賠法三条により原告らの蒙つた損害を賠償する責任がある。
3 損害
(一) 亡治義の逸失利益
(1) 亡治義は事故当時三八歳の健康な男子であり、クリーニング業を営んでおり、少なくとも平均賃金以上の収入を得ていた。そして、本件事故で死亡しなければ、同人は満六七歳まで二九年間稼働しえたものである。
そこで、生活費として三〇パーセントを控除して右稼働期間の逸失利益の現価を算出すると二四六〇万五七〇九円となる。
(昭和四八年度賃金センサスの産業計企業規模計男子労働者の三五歳―三九歳の平均賃金による。)
イ 昭和四八年一一月から昭和五三年九月まで四年一一ケ月。
一二万二八〇〇円×一二+四〇万四六〇〇円=一八七万八二〇〇円
一八七万八二〇〇円-五六万三四六〇円(生活費)=一三一万四七四〇円(年収)
一三一万四七四〇円×四年一一ケ月=六四六万四一三八円
ロ 昭和五三年一〇月から六七歳になる昭和七七年まで二四年間。
ライプニツツ方式 係数一三・七九八六
一三一万四七四〇円×一三・七九八六=一八一四万一五七一円
合計 二四六〇万五七〇九円
(2) 原告らは亡治義の相続人であり、法定相続分にしたがい、各八二〇万一九〇三円宛相続した。
(二) 原告らの慰藉料
原告キヨカの夫であり、原告千賀子、同正樹の父である亡治義の死亡によつて原告らの蒙つた精神的苦痛は筆舌に尽しがたく、これを金銭に見積ると原告らに各三〇〇万円が相当である。
(三) 葬儀費用
原告キヨカは、亡治義の死亡により葬儀に伴う諸費用として金四〇万円を支出した。
(四) 弁護士費用
原告らにつき各四〇万円 計一二〇万円
4 損害の填補
原告らは、亡治義の死亡に関し自賠責保険金八〇〇万円及び坂ノ上哲郎から六〇万円計八六〇万円を受領した。
その充当関係は次のとおりである。
原告キヨカ 二八八万円、原告千賀子、同正樹 各二八六万円
5 よつて、被告らは各自、原告キヨカに対し九一二万一九〇三円、同千賀子、同正樹に対しそれぞれ八七四万一九〇三円及びこれらに対する本件事故発生の翌日である昭和四八年一一月二日から支払ずみまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。
二 請求原因に対する認否
1 請求原因1の事実は不知。
2 同2の事実中、被告杉山義則が杉山運送という商号で運送業を営んでいたことは認め、その余の事実は否認する。
3 同3の事実は不知。
4 同4の事実は不知。
5 同5は争う。
第三証拠〔略〕
理由
一 成立に争いのない甲第一、第二号証及び弁論の全趣旨によれば、請求原因1の事実は認められる。
二 責任原因について
証人坂ノ上哲郎、同有馬正幸、同千徳信義の各証言を総合すると、
被告正浩は、杉山商店という商号で運送業を経営していたものであるが、昭和四七、八年頃、有馬正幸が運送業をやめたので残代金の支払を引継ぐとの条件で本件加害車両(有馬正幸が昭和四八年一月頃弟有馬正人の名義で所有権留保付で購入したもの)を有馬から買受けたこと、そして右有馬に雇用され、本件加害車両の運転に従事していた坂ノ上哲郎もその頃以後は事実上杉山商店の仕事をするようになり、給料も被告正浩から受け取るようになつたことが認められ、右認定を左右するに足る証拠はない。
右認定の事実によれば、被告正浩は杉山商店という商号で坂ノ上哲郎を運転手として雇用し、加害車両の運行に当らせ、加害車両を自己のために運行の用に供していたものというべきであるから、被告正浩は自賠法三条により原告らの蒙つた損害を賠償する責任がある。原告らは、被告道則、同義則も共同経営していた旨主張するが本件全証拠によつても右事実を認めることが出来ず、被告道則、同義則が自賠法三条の責任を負うとの原告らの主張は理由がない。
三 損害について
1 亡治義の逸失利益
(一) 原告千徳キヨカ本人尋問の結果及び弁論の全趣旨によると、亡治義は本件事故当時三八歳で、職人一人、パートの女性一人を雇い、本人は外交を担当してクリーニング業を営んでいたことが認められ、同人の死亡当時の営業上の収益は必ずしも明らかでないが、成立に争いのない甲第三号証及び右本人尋問の結果によると、同人死亡後は妻である原告キヨカが前記職人をひきつゞき雇用してクリーニング業を経営しているものの外交を担当するものがなく仕事量が半分に減り、その結果昭和四九年度分の原告キヨカの営業所得は七二万円となつたことが認められ、右事実及び前記治義死亡当時の営業規模など諸般の事情を考慮すれば亡治義の右営業上の収益は少くとも年額一五〇万円であつたと解するのが相当である。
ところで死亡時三八歳の亡治義は、本件事故に遭わなかつたならば、満六七歳まで二九年間クリーニング業を営み、毎年少なくとも右同額の利益をあげえた筈である。そこで、生活費として三〇パーセントを控除し、ライプニツツ式計算法により年五分の割合の中間利息を控除して本件事故当時におけるその現価を算出すると一五八九万八〇五〇円となる。
{一五〇万円-四五万円(生活費)}×一五・一四一(ライプニツツ係数)=一五八九万八〇五〇円
(二) 原告キヨカ本人尋問の結果によると、原告らは亡治義の妻及び子であることが認められ、亡治義の右1の被告正浩に対する損害賠償請求権を各三分の一(五二九万九三五〇円)宛相続したものというべきである。
2 原告らの慰藉料
本件事故の態様と結果等諸般の事情を考慮すると、夫であり、父である亡治義を失つた原告ら各人の精神的苦痛を慰藉すべき金額としては、原告ら各人につき二七〇万円をもつて相当と認める。
3 葬儀費用
証人千徳信義の証言及び原告千徳キヨカ本人尋問の結果によれば、原告キヨカは亡治義のため葬儀を執行したことが認められ、四〇万円の葬儀費用を要したと推定できる。
四 損害の填補
原告ら各人の以上推定額は、原告キヨカにおいて八三九万九三五〇円、同千賀子、同正樹において各七九九万九三五〇円となるところ、原告らが本件事故により強制保険金八〇〇万円、坂ノ上哲郎から六〇万円を原告キヨカ二八八万円、同千賀子、同正樹各二八六万円宛受領したことはその自陳するところであるから、これを原告らの右損害に充当する。
五 弁護士費用
以上のとおり、被告正浩に対して、原告キヨカは五五一万九三五〇円、同千賀子、同正樹は各五一三万九三五〇円を請求しうるところ、前記千徳信義の証言、原告キヨカ本人尋問の結果及び弁論の全趣旨によれば、被告正浩は任意の弁済に応じないため、原告らは本件訴訟代理人に対して訴訟提起を委任し、その報酬等として相当の出費がなされることが認められるところ、そのうち本件事故と相当因果関係ある損害としては原告ら各三〇万円をもつて相当と認める。
六 結論
よつて、被告らに対する原告らの本訴請求は、被告正浩に対し、原告キヨカにおいて五八一万九三五〇円、同千賀子、同正樹において各五四三万九三五〇円及びこれらに対する本件事故発生の翌日である昭和四八年一一月二日から支払ずみまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める限度で理由があるから認容し、その余は失当であるから棄却し、訴訟費用の負担につき民訴法八九条、九二条、九三条を、仮執行の宣言につき同法一九六条をそれぞれ適用して主文のとおり判決する。
(裁判官 岡村道代)