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福岡地方裁判所久留米支部 昭和56年(ワ)10号 判決 1982年9月22日

原告

一木フサコ

ほか五名

被告

九州牛乳輸送株式会社

主文

被告は原告一木フサコに対し金四一三万二、九〇〇円、原告一木光、同一木広美、同一木夏枝、同一木悦夫、同一木淳子に対し各金一三三万三、一六〇円、および右各金員に対する昭和五五年二月一三日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

原告らのその余の請求を棄却する。

訴訟費用はこれを二分しその一を原告らの負担とし、その余を被告の負担とする。

この判決の原告ら勝訴部分は仮に執行することができる。

事実

一  当事者の申立て

1  原告らが求める裁判

(一)  被告は原告一木フサコに対し金八〇六万一、三五七円、原告一木光、同一木広美、同一木夏枝、同一木悦夫、同一木淳子に対し各金二五〇万四、五四三円宛、および右各金員に対する昭和五五年二月一三日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

(二)  訴訟費用は被告の負担とする。

との判決、並びに仮執行の宣言

2  被告が求める裁判

(一)  原告らの請求を棄却する。

(二)  訴訟費用は原告らの負担とする。

との判決

二  原告らの請求原因

1  交通事故の発生

昭和五五年二月一三日午後一時三四分ころ、久留米市津福本町二三五番地先道路上で榎田貢運転の大型貨物自動車(相模一一か三五二四、以下被告車という)と一木勲が乗つていた足踏自転車が接触し、一木勲は脳挫傷の傷害を受けて即死した。

2  責任原因

被告は被告車を所有し、自己のために運行の用に供していたものであるから、自賠法三条により一木勲に生じた後記の損害を賠償する責任がある。

3  損害

(一)  逸失利益

一木勲は死亡時満三五歳であり、三和地下工業株式会社に勤務し、月平均金一四万四、三八七円の収入を得ていた。

就労可能年数を三二年、生活費を三〇パーセントとして、ホフマン式によりその逸失利益を算出すれば金二、二八〇万八、八七二円(円未満切拾て)となる。

144,387×12×18,806×0.7=22,808,872

(二)  葬儀費用

金七〇万円が相当である。

(三)  慰藉料

一木勲には原告ら六名の家族があり、死亡時の年齢が働き盛りの三五歳であつたこと、一方、被告は本件事故の原因は勲の自殺行為であるなどと暴言を吐き、その責任を回避しようとしていること等を考えると、その慰藉料は金一、五〇〇万円が相当である。

4  損害の填補

以上の損害合計金三、八五〇万八、八七二円のうち自賠責保険により金一、九七二万四、八〇〇円が填補されたので、残額は金一、八七八万四、〇七二円となる。

5  相続

原告一木フサコは勲の妻、その余の原告らはいずれも勲の子で、以上が勲の相続人の全員であり、それぞれ法定相続分に応じて勲の被告に対する損害賠償請求権を左のとおり承継した。

原告一木フサコ(三分の一) 金六二六万一、三五七円

その余の原告ら(各一五分の二)金二五〇万四、五四三円宛

6  弁護士費用

原告一木フサコは、本訴の提起とその追行を弁護士有馬毅に委任し相当額の報酬支払を約した。その額は金一八〇万円が相当である。

7  結論

よつて被告に対し、原告一木フサコは右弁護士費用を併せ金八〇六万一、三五七円、その余の原告らは各金二五〇万四、五四三円、並びに右各金員に対する不法行為の日である昭和五五年二月一三日から支払ずみまで、民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

三  被告の答弁

1  請求原因1の事実を認める。

2  同2は、被告が被告車の運行供用者であることを認める。

3  同3は争う。

4  同4の事実を認める。

5  同5は争う。

6  同6も争う。

四  被告の抗弁

1  免責

(一)  本件事故は一木勲の一方的過失によつて生じたものである。被告車は、牽引車両と被牽引車両からなる大型貨物自動車であり、榎田貢はこれを運転し、秒速二・七ないし四メートルの低速で本件事故地点に差しかかつた。右事故地点の道路左側にはスーパーマーケツト松屋店があり、路上にはみ出して商品台(長さ一・八メートル、幅〇・九八メートル、高さ〇・八二メートル)が置かれていた。一木勲は低速で進行中の被告車の左側を自転車で追いついて来て、被告車と右商品台の狭い部分を通過し、または通過しようとして、自転車のハンドル操作等の操縦を誤り、ハンドルを右にきるような状態で被告車の被牽引車両に接触するかまたは牽引車両と被牽引車両の間に入り込んで本件事故が発生した。

(二)  榎田貢および被告が被告車の運行に関し注意を怠つたことはなく、かつ被告車に構造上の欠陥および機能上の障害はなかつた。

2  過失相殺

仮に免責の主張が認められないとしても、本件事故の情況からみて、被害者一木勲の過失は榎田貢のそれに比して大きく、その割合は少なくとも七割とみるべきであるから、損害賠償の額を定めるにつき、これを斟酌すべきである。

3  弁済

被告は原告らの自認する損害填補額のほかに、原告らに対し金二七万六、五〇〇円を支払つた。

五  原告の答弁

1  抗弁1、2、は争う。榎田貢はサイドミラーによつて被告車の左側を進行していた一木勲の自転車を十分確認することができたのに、左側方に対する注視を欠き、これを確認しなかつた。

2  抗弁3の事実を認める。

六  証拠関係〔略〕

理由

一  交通事故の発生と被告の責任原因

本件交通事故の発生、および被告が被告車を所有し、これを自己のため運行の用に供していたものであることは原告主張のとおりで争いがない。

二  事故の状況と免責の抗弁について

1  いずれも成立に争いのない乙第二号証の一ないし四、同第三号証の一、二、同第五号証の一、二、同第六号証の一、二、同第七号証の一、二、同第八ないし一二号証、いずれも被告主張どおりの写真であることに争いのない同第一号証の一ないし五、同第一三号証の一ないし四、証人武田民雄、同榎田貢、同堀内正博の各証言を総合するとつぎの事実が認められ、これを覆えすに足りる証拠はない。

(一)  本件事故現場は南から北へ通ずる平坦なアスフアルト舗装道路で幅員約九・二メートル、車道の幅は六・四メートル、その両端には路側帯が設けられ、西側の路側帯幅は一・二メートルである。附近は店舗や人家が建ち並び、車両の交通量も多い市街地で、最高指定速度毎時四〇キロメートル、駐車禁止、追い越しのための右側部分はみ出し禁止等の交通規制がなされている。

(二)  被告車は車長一〇・三八メートルの牽引車と同六・〇五メートルの被牽引車からなる大型貨物自動車で、牽引車と被牽引車は車幅がいずれも二・四九メートルで、牽引装置で連結されているが、その間隔は一・五メートルであり、全長は一七・九三メートルに及び、積載総重量は一八トンである。

(三)  榎田貢は左側助手席に同僚の堀内正博を乗せて被告車を運転し、前記道路を北進して本件事故現場に差しかかつた。被告車は中央線寄りに進んだがその車幅は前示のとおり二・四九メートルであり、進行する左側車道の幅は三・二メートルであつたから、左側路側帯との間には〇・七メートルぐらいを余すのみであつた。なお事故地点における被告車の前方には踏切があり、被告車の速度は毎時一五キロメートル程度に減速されていた。

(四)  事故地点左側にはスーパーマーケツト「松屋」があり、当時その前面路上の路側帯に長さ一・八メートル、幅〇・七八メートル、高さ〇・八二メートルの同店の商品販売台が置かれていたので、その部分の路側帯の幅は約〇・四メートルに狭められた状態となつていた。

本件事故は被告車の牽引車部分が右販売台前を通過した直後に発生したものであり、その際の両者の間隔は約一メートルである。なお榎田は事故発生前被告車が「松屋」前に差しかかつた時点で、右販売台があることを現認していた。

(五)  榎田は左側サイドミラーに人影が映つたように感じて被告車を停止させたのであるが、同時に通行人から後方を指さされ、事故の発生を知らされて下車した。

被告者一木勲は被告車の左側最後輪の後部に自転車と共に倒れていた。同人の頭部は被告車の被牽引車左後輪の後端にほぼ接し、脚部はその南側に位置し、うつ伏せの状態で倒れており、着衣の背部にはタイヤ痕が印され、頭部からは脳漿が流出していた。自転車は同人の左後側方にあり、その車長一・六メートル、車幅〇・四メートルで、前後輪、ハンドル、後部荷台等が曲つていた。

被告車の牽引装置の左側部には前方から後方にかけて順次塗膜剥離、擦過痕、払拭痕が、被牽引車左外側前輪タイヤ(被牽引車の車輪はいずれもダブルタイヤである)には血痕の付着と擦過痕が、同左後輪外側のタイヤとその後方の泥よけの内側(タイヤ側)にも、それぞれ血痕の付着が見受けられた。なお、右の各痕跡は本件事故前にはなかつたものである。

2  右認定の事実によれば、一木勲は事故直前被告車の左側に位置していて、被告車の被牽引車の左前後輪によつて頭部と背部を轢過されたものと認められ、なお諸般の事情からみて、その際同人は自転車に乗つていたものと推認される。その進行方向については、これを確定すべき直接の証拠はないけれども、前掲乙第五号証の一、原告一木フサコ本人尋問の結果によると、一木勲は事故当日、電話料金支払のため、妻フサコから一万円札一枚を受取り、自宅から電報電話局へ自転車に乗つて出かけたこと、一木勲方から同局へ行くには本件道路を北進することとなること、同人は事故時において電話料の支払をすませておらず、ズボンのポケツトに右一万円札を料金督促票と共に所持していたことが認められ、これらの事実および前認定の事故後の状況、証人堀内正博、同武田民雄の各証言を総合すれば、一木勲は自転車に乗つて事故現場付近道路左側端を北進し、前記「松屋」の販売台前を通過した直後に、その右側を進行する被告車と接触したものと認められる。以上の認定を覆えすに足りる証拠はない。

3  前記1の事実認定に供した証拠によると、被告車を運転していた榎田は、右事故の発生に至るまで、自車の左側方を通行する自転車に全く気づかなかつたことが認められるのであるが、成立に争いのない乙第四号証の一ないし三によれば、被告車の左前側部には三個の後写鏡が取付られており、これらによつて運転席から左側方の確認は、被牽引車の後部側方の下方に至るまで十分可能であることが認められる。

4  以上によれば、被告車の運転者榎田に、自車左側方の安全確認を怠つた過失があつたものというべきであるから、被告の免責の抗弁は理由がない。

四  損害 金三八五〇万八、八七二円

1  逸失利益 金二二八〇万八、八七二円

(一)  いずれも成立に争いのない甲第四号証、乙第一〇号証、原告一木フサコ本人尋問の結果、およびこれにより原本と共に真正に成立したものと認められる同第三号証(原本の存在に争いはない)によれば、一木勲は死亡時満三五歳の健康な男性で三和地下工業株式会社に勤務し、年収一七三万二、六四四円を下らない賃金を得ていたことが認められ、これに反する証拠はない。

(二)  右の事実によれば、一木勲の逸失利益は就労可能年数を三二年とし、生活費を三〇パーセントとして、算定するのが相当であり、ホフマン方式によりその現価を求めれば原告主張のとおり金二、二八〇万八、八七二円となる。

2  葬儀費用 金七〇万円

金七〇万円を相当と認める。

3  慰藉料 金一五〇〇万円

前掲甲第四号証、原告一木フサコ本人尋問の結果によれば、一木勲は妻である原告フサコのほか原告光(昭和四三年一月二二日生)、同広美(昭和四五年六月一〇日生)、同夏枝(昭和四六年五月二三日生)、同悦夫(昭和五〇年一月九日生)、同淳子(昭和五一年六月一二日生)ら五名の未成年子を有し、その支柱として働いていたことが認められ、弁論の全趣旨によれば、一木勲は家庭ともども平穏な生活を送つていたものと推認されるのであり、これらの事実に照らせば、同人の死亡による慰藉料は金一、五〇〇万円を相当と認める。

五  過失相殺

1  さきに認定したところによれば、被告車の牽引車と被牽引車の間隙の牽引装置付近に一木勲の自転車が接触したものと一応認められるのであるが、相互の速度の遅速関係、事故直前の状態から接触に至るまでの経過、接触状況等、その具体的態様は証拠によるも必ずしも明らかでなく、確定し難いところであるが、さきに認定した諸事実に証人武田民雄の証言を総合すれば、一木勲が前記「松屋」前路上の販売台の側方を通過するとき、すでに被告車はその右方を進行中であり、一木勲は右販売台と被告車間の約一メートルの狭い道路部分を安全度の低い自転車で通過して被告車と接触したとも考えられ、これを否定できないところである。そうであれば一木勲においても停車して被告車の通過を待つべきであつたといえるのであり、諸般の事情からみて、損害の公平な分担をはかるため、損害賠償の額を定めるにつき、これを斟酌することとする。

2  ところで、榎田貢の過失の程度について考えるに、同人は被告車のような長大かつ、牽引車と被牽引車間に一・五メートルもの間隔のある危険度の極めて高い大型貨物自動車を運転していたのであるから、職業運転手として(このことは証人榎田貢、同堀内正博の証言によつて認める)、当時の前示道路状況に鑑み、左側方の安全には格段の注意を払い、後写鏡によつてその安全を確認し、または助手席の堀内正博をしてこれを確認させて、事故の発生を未然に防止すべきであつたというべきところ、その注意を欠き事故発生に至るまで左側方の一木勲の自転車に全く気づかないで事故の発生をみたのであるから、その過失は大きいものといわなければならない。

そうであれば過失相殺としては一木勲に生じた損害額の二割程度を減ずるにとどめるのが相当である。

3  そこで、一木勲の損害合計金三、五八〇万八、八七二円をその八割弱に減額した金三、〇〇〇万円をもつて過失相殺後の金額とする。

六  損害の填補

右損害のうち、自賠責保険により金一、九七二万四、八〇〇円、被告より二七万六、五〇〇円が支払われたことは当事者間に争いがないので、これらの金額を前示金三、〇〇〇万円から控除すれば、残額は金九九九万八、七〇〇円となる。

七  相続

前掲甲第四号証、原告一木フサコ本人尋問の結果によると、一木勲と原告らの身分関係、相続関係について原告ら主張のとおり認められ、これに反する証拠はない。

そうすると、原告らは法定相続分に応じて左のとおり一木勲の被告に対する損害賠償請求権を承継したこととなる。

原告一木フサコ(三分の一) 金三三三万二、九〇〇円

その余の原告ら(各一五分の二)金一三三万三、一六〇円宛

八  弁護士費用

以上のとおり、被告は原告らに対し損害賠償の義務があるが、原告一木フサコ本人尋問の結果によれば、被告が任意の支払をしないので、原告一木フサコは原告らのため本訴の提起とその追行を弁護士有馬毅に委任し、相当額の報酬支払を約したことが認められるところ、本件事案の内容、弁論の経過、認容額等諸般の事情を考慮すれば、被告が本件事故と相当因果関係のある弁護士費用として、同原告に支払うべき金額の不法行為時の現価は金八〇万円をもつて相当とする。

九  むすび

そうすると、被告は原告一木フサコに対し、右弁護士費用を併せ金四一三万二、九〇〇円、その余の原告らに対し各金一三三万三、一六〇円宛、および右各金員に対する不法行為の日である昭和五五年二月一三日から支払ずみまで、民法所定年五分の割合による遅延損害金支払の義務がある。

よつて、原告らの本訴請求は右の限度で理由があるのでこれを正当として認容し、その余は理由がないので失当として棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、九二条本文、九三条一項本文を、仮執行の宣言につき同法一九六条一項を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 仲吉良榮)

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