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福岡地方裁判所大牟田支部 昭和45年(ワ)91号 判決 1972年3月15日

主文

被告は原告に対し、金三、八四七、三九五円およびうち金三、四四四、六五六円に対する昭和四六年八月一二日から支払済まで年六分の割合による金員を支払え。

原告その余の請求を棄却する。

訴訟費用はこれを四分し、その一を原告、その三を被告の各負担とする。

この判決の第一項は、原告が金八〇万円の担保をたてることを条件に仮に執行することができる。

事実

第一、当事者の求めた裁判

(原告)

被告は原告に対し金五、二七一、七七九円およびうち金三、四四四、六五六円に対する昭和四六年八月一二日から支払済まで年六分の割合による金員を支払え。

訴訟費用は被告の負担とする。

との判決ならびに担保を条件とする仮執行の宣言

(被告)

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

との判決

第二、当事者の主張

(原告の請求原因)

一、原告は訴外株式会社まるかに対し昭和三九年五月一六日に弁済期を同年六月一四日とし一〇〇万円を、同年五月一八日に弁済期を同年六月一七日とし二〇〇万円を、同年五月二〇日、同月三〇日にそれぞれ弁済期を同年六月一八日、同月三〇日とし各一〇〇万円を貸付け、被告はそれぞれその連帯保証をした。

二、株式会社まるかおよび被告は右貸借を明かにしかつ支払を確保するため原告に対し左記四通の約束手形を共同振出した。

<省略>

<省略>

三、原告は、被告が第一項の貸金五〇〇万円を弁済したと自白したが、それは真実に反する陳述で錯誤に基いてしたものであるから、その自白を撤回する。株式会社まるかが昭和三九年六月一二日右五〇〇万円を原告に支払つて弁済した。

四、ところで、株式会社まるか(以下破産会社という)は昭和四〇年七月一〇日当庁において破産宣告を受け、破産会社の破産管財人は原告に対し前項の破産会社の弁済の否認ならびに否認による弁済金返還請求の訴(当庁昭和四二年(ワ)第一〇一、一〇二、一〇六号事件)(以下別訴という)を提起し、昭和四三年一〇月二九日破産管財人勝訴の判決があり、原告は上訴したが昭和四四年一二月一六日破産管財人勝訴の判決が確定した。

五、そこで原告は、昭和四五年四月一八日破産管財人に対し破産会社から弁済を受けた貸金五〇〇万円とこれに対する昭和四二年九月二六日から昭和四五年三月二五日までの年六分の割合による遅延損害金七五万円および訴訟費用三六、六一五円を支払つたので、同日原告に対する破産会社の右貸金債務および被告の連帯保証債務は破産法七九条により復活した。

六、そこで原告は破産会社に対し有する左記貸金債権およびこれに対する破産宣告の前日である昭和四〇年七月九日までの年六分の割合による遅延損害金、即ち

(イ) 昭和三九年五月一六日貸付の一〇〇万円およびこれに対する同年六月一五日から昭和四〇年七月九日までの遅延損害金六四、一〇九円

(ロ) 昭和三九年五月一八日貸付の二〇〇万円およびこれに対する同年六月一八日から昭和四〇年七月九日までの遅延損害金一二七、二三二円

(ハ) 昭和三九年五月二〇日貸付の一〇〇万円およびこれに対する同年六月一九日から昭和四〇年七月九日までの遅延損害金六三、四五二円

(ニ) 昭和三九年五月三〇日貸付の一〇〇万円およびこれに対する同年七月一日から昭和四〇年七月九日までの遅延損害金六一、四七九円

以上貸金合計五〇〇万円および遅延損害金合計三一六、二七二円につき破産管財人に対し破産債権の届出をしていたところ、昭和四六年八月一一日一、八七一、六一六円の配当を受けた。原告は右配当金のうち三一六、二七二円を前記破産宣告の前日までの遅延損害金に充当し、残額一、五五五、三四四円を貸金五〇〇万円の内金として充当した。したがつて貸金残額は三、四四四、六五六円である。

七、よつて、原告は本件貸金債務の連帯保証人である被告に対し三、四四四、六五六円およびこれに対する前記配当日の翌日である昭和四六年八月一二日から支払済まで商法所定の年六分の割合による遅延損害金ならびに貸金五〇〇万円に対する破産宣告の日である昭和四〇年七月一〇日から配当日である昭和四六年八月一一日まで商法所定の年六分の割合による遅延損害金一、八二七、一二三円の支払を求める。

(被告の答弁および抗弁)

一、請求原因一の事実中本件貸金債務の主たる債務者が破産会社であり、その連帯保証人が被告である点は否認し、その他の事実は認める。主たる債務者は被告である。

同二の事実は認める。

同三の事実中、自白を援用し、原告の右自白の撤回には同意しない。

同四の事実は認める。

同五の事実中、原告が昭和四五年四月一八日破産管財人に合計五、七八六、六一五円を支払つたことは認める。破産法七九条により主たる債務が復活しても、連帯保証債務は復活しない。そうでないとしても弁済行為が否認されたのは原告が過失により自己に詐害の意思がなかつたとの抗弁をしなかつたからであり、したがつて主たる債務が復活しても、連帯保証債務は復活しない。

同六の事実は認める。

同七の事実中貸金五〇〇万円についての遅延損害金の起算日が破産宣告の日である点は否認する。原告が破産管財人に返還した昭和四五年四月一八日が本件貸金債務の弁済期日である。

二、原告は別訴において、本件貸金債務の主たる債務者は被告であると終始主張立証して来たが、右主たる債務者は破産会社である旨判示されるや、にわかに主たる債務者は破産会社であり、被告はその保証人であると主張を転換するに至つた。かかる主張は信義誠実ならびに禁反言の法理に反するものである。

三、被告が破産会社と共同振出した前記約束手形四通に関する手形金債務は、遅くとも満期から三年を経過した昭和四二年六月三〇日には時効消滅した。

四、原告が弁済を受けた金員を破産管財人に償還したことによつて、連帯保証債務が復活したとしても、その復活は原告が別訴において、過失により自己に詐害の意思がなかつたとの抗弁およびその立証を怠つたため、原告は敗訴し破産会社の弁済行為が否認されたからである。原告の過失がなければ連帯保証債務は復活することなく被告は右復活による債務金支払の不利益を受けることはなく、被告は原告の過失により権利を侵害され、原告の請求額と同額の損害を蒙つたものである。そこで被告は原告に対し、原告の請求額と同額の損害金債権を有するので、昭和四六年二月一〇日の口頭弁論期日において、相殺の意思表示をする。

五、原告は昭和三九年六月一二日破産会社から本件貸金債務の弁済を受け、昭和四五年四月一八日破産管財人に償還するまで、少くとも年六分の割合による利息相当の利得があつたものであり、この利得は益金として原告主張の損害金額から控除されるべきである。

(原告の抗弁に対する答弁)

抗弁事実中、原告が別訴において本件貸金債務の主たる債務者は被告であると主張立証したことは認めるが、その他の事実は否認する。

別訴において原告は被告からの弁済であつて、破産会社からの弁済ではないから、右弁済は否認の対象にはならないと主張したが、右弁済は破産会社からの弁済であり、被告は連帯保証人にすぎないと判示され、原告敗訴の判決が確定したので、原告は右判示に従い、被告を連帯保証人として本訴を提起したものであつて、信義則ならびに禁反言の法理には反しない。

復活した手形債務の消滅時効は復活した日から起算するものであり、原告は本訴において手形金を請求しているのではなく、金銭消費貸借につき連帯保証人である被告に対し貸金の支払を請求しているものである。

原告は本件貸金債務の主たる債務者は被告であり、被告が右債務を弁済したと信じていたので、善意の抗弁を出す必要がなかつたのであるが、破産会社が右弁済をしたと判示されれば破産会社の斜め前に居住し、右会社の店舗閉鎖を目撃し、人の話、新聞記事等で破産会社の倒産を知つていた原告としては、いずれも弁済期前の合計五〇〇万円の債権について店舗閉鎖後に支払を受けることは、他の破産債権者を害する結果になるとの判断がついていたので、善意の抗弁は出さなかつたのである。また被告は別訴において証人として証言し本件貸金債務の連帯保証人であることを自認しており、利害関係人として別訴に補助参加すべきであるのにこれを怠つたのであつて、原告の過失を主張するのは全く当らない。

第三、証拠(省略)

理由

一、請求原因二の事実は当事者間に争いはなく、右事実および成立に争いのない甲第一ないし第五、第八号証によると、請求原因一の事実を認めることができる。

二、請求原因四の事実は当事者間に争いはなく、右事実、成立に争いのない甲第五号証および弁論の全趣旨によれば、請求原因三の事実中原告の自白は真実に反し錯誤に基いてしたものと認められるから、右自白の撤回は効力があり、破産会社が昭和三九年六月一二日本件貸金債務五〇〇万円を原告に支払つて弁済したことが認められる。

三、請求原因五の事実は当事者間に争いがない。破産者が貸金債務の弁済をした場合に、この弁済が否認され、相手方がその受けた給付の価額を破産管財人に償還したときは、相手方に対する貸金債務が復活するとともに、右弁済により一旦消滅した連帯保証債務も当然復活すると解するのが相当である。したがつて、昭和四五年四月一八日原告が破産管財人に対し破産会社から弁済を受けた貸金および遅延損害金、訴訟費用合計五、七八六、六一五円を支払つたことにより、原告に対する破産会社の貸金債務および被告の連帯保証債務は復活したのである。

請求原因六の事実は当事者間に争いはない。

四、原告が別訴において本件貸金債務の主たる債務者は被告であり、被告が右貸金債務を弁済したものであると主張立証したことは当事者間に争いはなく、成立に争いのない甲第一ないし第五、第八、第一一号証、同じく乙第一号証の二および四、第二号証の一、第三号証の一ないし三、第五号証、証人宮崎善蔵の証言を総合すれば次の事実が認められる。

(1)  破産会社は被告および被告の近親者をもつて昭和三八年四月頃設立された資本金五〇〇万円の株式会社で、当初から被告が代表取締役に就任しており、昭和三九年初頃より資金不足から経営が苦しくなり、破産会社所有の不動産には数順位の担保権が設定されていたため、被告が主たる債務者となるか、被告の保証なくしては経営資金の確保が困難な状態になつていた。

原告が理事をしていた大牟田質屋協同組合においても、昭和三九年二月頃、破産会社より融資の申込があつたが前記状況からこれを拒否し、原告の紹介により被告所有の不動産に担保権を設定して被告に五〇〇万円を貸付け、原告も同様にして被告に金員を貸付けていた。本件貸金債務については、借用証書を作成しておらず、破産会社および被告が四通の約束手形を共同振出していて別訴においては本件貸金債務の主たる債務者が破産会社であるのか被告であるのか、本件貸金債務の弁済はいずれが行つたものかが一争点であつた。以上の事実からみて、原告が別訴の判決後その判示に従い、被告に対し本件貸金債務の連帯保証人として請求しても、信義誠実ならびに禁反言の法理に反するものであるとは言えない。

(2)  原告は、別訴において前記(1)の事実から本件貸金債務の主たる債務者は被告であると信じていたので、善意の抗弁を出さなかつたのであるが、破産会社が主たる債務者であつて本件貸金債務を弁済したものと認定されれば、破産会社の近所に居住し、右会社の店舗閉鎖を目撃し、人の話、新聞記事等で破産会社の倒産を知つていた原告としては、いずれも弁済期前の合計五〇〇万円の債権について店舗閉鎖後に支払を受けることは他の債権者を害することになるとの判断がついていたので善意の抗弁を出し得なかつたのである。前記破産会社の経営内容、破産会社と被告との関係からみて原告が本件貸金請務の主たる債務者が被告であり、被告が弁済をしたと信じても無理からぬ点があり、原告が善意の抗弁を出し得ず敗訴に終つてもこれをもつて原告に過失ありとすることはできない。

また保証債務は主たる債務とは同一内容ではあるが別個の債務であつて、主たる債務者の弁済により一旦消滅した保証債務が、右弁済行為の否認により主たる債務とともに復活し、保証人が債権者から請求された場合、それは保証人が負担していた債務の履行であつて、何ら保証人の権利を侵害したことにはならないと解すべきである。したがつて、破産会社の弁済により一旦消滅した被告の連帯保証債務が、右弁済行為が否認された結果本件貸金債務とともに復活し、連帯保証人である被告が債権者である原告から請求された場合、それは被告が本来負担していた連帯保証債務の履行にすぎないのであつて、何ら被告の権利を侵害したことにはならない。

五、原告は本訴において手形金債権を請求したものではなく、消費貸借契約に基づく金銭債権を請求したものであり、本件貸金債務は弁済期を徒過しているが原告は昭和三九年六月一二日破産会社から弁済を受け、昭和四五年四月一八日破産管財人に支払つて償還するまで、少くとも年六分の割合による利息相当の利得があつたのであるから、被告に対しその間の損害金を請求すべき理由はない。

六、よつて、原告は被告に対し貸金残三、四四四、六五六円およびこれに対する前記配当日の翌日である昭和四六年八月一二日から支払済まで商法所定の年六分の割合による遅延損害金ならびに、貸金五〇〇万円に対する償還日である昭和四五年四月一八日から配当日である昭和四六年八月一一日までの商法所定の年六分の割合による遅延損害金四〇二、七三九円の支払を求める範囲内において、原告の本訴請求は理由があるのでこれを認容し、その余の部分は理由がないのでこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、九二条、仮執行の宣言につき同法一九六条を適用し、訴訟費用については必要がないので仮執行の宣言を付さないこととし、主文のとおり判決する。

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