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福岡地方裁判所大牟田支部 昭和46年(ワ)106号 判決 1976年10月25日

原告

古賀忠文

被告

株式会社清水屋

ほか一名

主文

1  被告らは、各自、原告に対し、金四〇三万三、五五三円及び内金三六七万三、五五三円に対する昭和四三年五月一一日から、内金一二万円に対する昭和四六年一〇月一日から、内金二四万円に対する昭和五一年一〇月二五日から、それぞれ支払ずみに至るまで年五分の割合による金員を支払え。

2  原告のその余の請求を棄却する。

3  訴訟費用はこれを一〇分し、その一を原告の負担とし、その余を被告らの負担とする。

4  この判決は、原告勝訴の部分に限り、仮に執行することができる。ただし、被告らにおいて金一三〇万円の担保を供するときは、その担保を供した被告は右仮執行を免れることができる。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  原告

1  請求拡張前の請求の趣旨

「被告らは連帯して原告に対し金三〇〇万円及びこれに対する昭和四三年五月一一日から完済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。訴訟費用は被告らの負担とする。」との判決並びに仮執行の宣言

2  請求拡張後の請求の趣旨

原告訴訟代理人は、昭和四七年一〇月一一日の第五回口頭弁論期日において、次のとおり請求を拡張した(拡張後の合計請求)

「(一) 被告らは原告に対し連帯して金四三九万三、五五三円及び

(1) 内金三九七万三、五五三円に対する昭和四三年五月一一日から、

(2) 内金一二万円に対する昭和四六年一〇月一日から、

(3) 内金三〇万円に対する本判決言渡の日から

各完済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。

(二) 訴訟費用は被告らの負担とする。」

との判決並びに右(一)項につき仮執行の宣言

二  被告ら

「原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とする。」

との判決。被告株式会社清水屋は、右に加えて、敗訴の場合は担保を条件とする仮執行免脱の宣言

第二当事者の主張

一  請求原因

1  請求拡張前の請求原因

(一) 被告株式会社清水屋(以下「被告会社」という)は、肩書地でいわゆるスーパー小売店を経営し、自己のために小型貨物自動車(福岡ひ八八一号、以下甲車という)を運行の用に供しており、被告広松修は被告会社の被用者である。被告会社は自賠法三条により、原告の蒙つた後記損害を賠償する責任がある。

(二) 被告広松は昭和四三年五月一一日午後二時四〇分ころ大分県日田市方面から福岡県久留米市方面へ向け甲車を運転中、福岡県浮羽郡田主丸町大字志塚島一四八番地の四先道路において、漫然と運転した業務上の過失により、甲車をして中央線を突破せしめ、折から、反対方向から進行して来た軽四輪乗用自動車(以下乙車という)に衝突させた(以下「本件事故」という」ため、乙車に同乗していた原告に対し、脳震盪症兼頭蓋底骨折の傷害(以下「本件傷害」という)を与えた。被告広松は、民法七〇九条により、原告の蒙つた次の損害を賠償すべき責任がある。

(三) 損害

(1) 慰藉料 一五五万円

<1> 原告は、本件傷害の治療のため、

(ア) 久留米大学医学部附属病院に、

(a) 昭和四三年五月一一日から同年六月四日まで二五日間、同年七月一二日から同月二四日まで一三日間、合計三八日間入院し

(b) 昭和四三年六月五日から昭和四五年三月一六日まで六五〇日間(うち実治療日数一六日)通院し、

(イ) 大川市大字一木の高宮医院に昭和四三年六月五日から昭和四四年一一月二六日まで一七五日間(うち実治療日数一一七日)通院し、

昭和四五年三月一六日症状固定し、そのため後遺症一二級一二号の認定を受けて治療を打切つた。

<2> よつて、入院中月額一〇万円、通院中月額五万円、後遺症相当額三五万円として、合計一五五万円相当の精神的苦痛を受けた。

(2) 逸失利益 一六九万六、三七九円

原告は、昭和四二年五月ころから、肩書地において、古買家具店の商号で、食器ケースを主とする家具の製造業を営んでいたものであり、別紙逸失利益計算書(1)記載のとおり、

<1> 本件事故直前の過去六ケ月間(昭和四二年一一月一一日から昭和四三年四月三〇日まで)に

金八〇万一、五五三円の純益

をあげ

<2> 本件事故がなければ、昭和四三年五月一日から症状固定の昭和四五年三月三一日までの間に、

金三五四万一、五二六円の純益

をあげうべかりしところ、本件事故に遭つたため、

その純益は金一八四万五、一四七円にとどまり、

その差額金一六九万六、三七九円

の利益を逸失した。

2  請求拡張後の全請求についての請求原因

(一) 前記1の(一)のとおり。

(二) 前記1の(二)のとおり。

(三)(1) 前記1の(三)(1)のとおり。

(三)(2) 逸失利益 三五六万九、五五三円

<1> 原告の営業による純益の推移内容は、別紙逸失利益計算書(2)記載のとおりであり、

<2> 本件事故がなければ、原告は、昭和四三年五月一日から昭和四七年四月三〇日までの間に(昭和四三年五月一日から本件事故の同月一一日までの分を加える原告の不利益は原告において放棄する)、

金九五八万二、七〇一円の純益

をあげうべかりしところ、本件事故に遭つたため、

その純益は金六〇一万三、一四八円にとどまり、

その差額金三五六万九、五五三円

の利益を逸した。

仮に逸失利益に関する原告の右推定が相当でないとしても、左のとおり、原告には合計金五八一万一、七九八円の逸失利益の損害がある。

(a) 症状固定の昭和四五年三月一六日までの逸失利益金一二六万一、四九四円(別紙計算書(3)のⅠのとおり)

(b) 昭和四五年三月一七日からの後遺症相当逸失利益金四五五万〇、三〇四円(別紙計算書(3)のⅡのとおり)

(3) 弁護士費用

被告らが原告の本件請求に応じなかつたため、原告はやむなく本訴を提起し、且つ本件訴訟代理人左記の約定で訴訟委任し、金四二万円の支出を余儀なくされ、同額の損害を蒙つたので、昭和四六年一〇月一日支払つた着手金等一二万円についてはその支払の日から、未払分の成功謝金については本件判決言渡の日から、いずれも完済に至るまで民事法定利率年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

<1>着手金及び旅費日当 金一二万円

<2>成功謝金 勝訴額の一二%相当額の金三〇万円

(4) 以上、原告の損害は、慰藉料一五五万円、逸失利益三五六万九、五五三円、弁護士費用四二万円の合計五五三万九、五五三円である。

(四) 一部弁済(損害の一部填補)

原告は、

(1) 自賠責保険から、後遺症相当の慰藉料として、金三一万円

(2) 被告会社から、逸失利益の内金として、金八三万六、〇〇〇円

の合計一一四万六、〇〇〇円の支払を受けた。

(五) よつて、(三)(4)の五五三万九、五五三円から(四)の一一四万六、〇〇〇円を差引いた残額四三九万三、五五三円及び拡張後請求の趣旨記載のとおりの各遅延損害金の支払を求める。

二  請求原因に対する被告会社の答弁

1  請求原因1(2も同じ)の(一)及び(二)は認める。

2  同1の(三)、同2の(三)の各損害額は、いずれもこれを争う。

逸失利益の算定にあたり、原告は企業利益を含めて一切の損害を請求しているが、原告の寄与率を考慮して、一般的に労働力に相応する賃金をもつて算定するのが妥当である。

三  請求原因に対する被告広松の答弁

1  請求原因1(2も同じ)(一)は認める。

2  同1(2も同じ)の(二)については、原告主張の日時・場所において交通事故が発生し、原告が傷害を受けたことは認めるが、被告広松が漫然と甲車を運転したことが右事故発生の原因であるとの主張事実は否認する。

(本件事故発生の主因)

被告広松は、被告会社の得意先への商品運搬からの帰途本件事故を起こしたものであるところ、その主因は、被告会社の車両管理員の整備過誤にある。すなわち、甲車の前輪の右と左とが規格の異なる(直径の違う)車輪であつたので、それが右事故発生の主因をなしたものである。

3  請求原因1の(三)、同2の(三)の各損害額については、いずれも争う。

四  被告会社の主張

1  本件事故現場の道路は、別紙略図のように、幅員が約一二メートルあり、付近に横断歩道と丁字型の交差点があつたので、被告広松はその手前で減速徐行のためブレーキをかけたところ、当時小雨が降つていて、アスフアルトの路面がぬれていたため、その反動で甲車はスリツプし、車体が右に向きセンターラインをこえて三〇メートルぐらい進行しながら停止した。

訴外古賀秀範は、乙車(スバル三六〇cc、前部トランク型、後部エンジン式)を運転し、運転席後部に横田秀幸、助手席に石橋俊春、助手席後部に原告を同乗させて、青年団の慰安旅行のため大分県天ケ瀬方面に行くところであつたが、同所は直線道路で見通しはよく、且つ当時は交通閑散で甲車以外には対向車もなかつたのであるから、甲車が前記のような状態で進行して来るのを視認していた。

ところで、相手方に違反の状態があつても、事故発生の具体的危険があり、その回避の可能性があれば、それを予見し且つ予防する義務があるのは人命尊重の見地から当然である。

したがつて、前記事情のもとにあつては、乙車の運転者は甲車が速やかにセンターラインの内側にもどるかどうかに注意してその進路を見きわめ、これに対応して、徐行、停止するか又は自車の進路をセンターライン寄りに避譲させるなど適宜の措置をとり、衝突事故等の発生を未然に防止すべき注意義務があるものといわなければならない。

しかるに、乙車運転者は、何ら衝突を回避する措置を講ぜず、漫然進行したため、その前部を甲車の左頭部角に衝突させたものであるから、原告にも過失がある。

また、原告は衝突寸前に下を向いて乗車しており、乗車姿勢が悪かつたから損害が他の同乗者にくらべて拡大したものであり、この点原告に過失があるので、過失相殺されるべきである。

2  消滅時効の援用

原告の請求のうち、請求拡張による拡張部分(請求原因2の(三)の損害のうち請求原因1の(二)記載をこえる部分)については、遅くとも原告が準備書面により拡張請求した昭和四七年一〇月一一日までには三年間の消滅時効が完成しており、これを援用する。

五  被告広松の主張(消滅時効の援用)

被告広松は、原告の入院(昭和四三年五月一一日)後、連日のように病院に見舞に行つたが、同月一八日午後二時ごろ初めて原告に面接することができ、そのとき原告の母が原告に対し「この人が事故車の運転者だよ」と被告広松を紹介し、原告は同被告の謝罪に対してうなずいていた。同被告は原告の退院(同年七月二四日)の際も手伝い、同年九月同被告が被告会社を退社するまで原告を見舞い続けた。また、同年七月一〇日には吉井警察署長から本件事故の事故証明書が原告に交付されている(甲第一号証)。

以上の事実により、原告が本件事故による損害及び加害者(被告広松)を知つた「時」は昭和四三年五月一八日であり、遅くとも同年七月一〇日である。よつて、右の日から三年を経過した昭和四六年五月一七日、遅くとも同年七月九日に、本件事故による損害賠償請求権は時効によつて消滅した(民法七二四条)。被告広松は右時効を援用する。

六  被告らの主張に対する原告の答弁及び再抗弁

1  本件事故の発生につき原告にも過失があるとの被告会社の主張事実は否認する。

2  被告らの消滅時効の主張事実は否認する。

3  (再抗弁) 被告広松は本件事故による損害賠償についての原告との交渉の一切を被告会社に委任していたものであるところ、原告(代理人古賀豊)は、被告会社に対し、昭和四六年四月一五日から同年五月三〇日までの間前後五回にわたり、本件損害賠償請求の交渉をし、そのころ口頭をもつて賠償請求の意思表示をし、時効完成前の交渉の日である昭和四六年五月一一日から向六ケ月以内である同年六月一〇日、原告は本件訴えを提起したので、同日をもつて消滅時効は中断された。

七  原告の再抗弁に対する被告広松の答弁

原告の再抗弁事実は争う。

第三証拠関係〔略〕

理由

一  請求原因1の(一)の事実は、全当事者間に争いがない。

請求原因1の(二)については、原告と被告会社との間では争いがなく、原告と被告広松との間では同被告の過失が本件事故の発生原因であるとの点を除き争いがない。そこで、同被告と原告との間で、本件事故の発生原因について判断するに、成立に争いのない甲第一号証、証人古賀秀範、同池田茂の各証言、原告及び被告広松各本人尋問の結果によると、請求原因1の(二)記載のとおりの原因により同記載のとおりの態様で本件事故が発生し、乙車に同乗していた原告が本件事故により同記載のとおりの傷害を受けたことが認められる。

被告広松は、本件事故発生の主因は、甲車の左右の両前輪が直径の異なる車輪であつたことにあると争つている。証人川浪一昭の証言によると甲車の左と右の前輪の直径が異なつていたというのであるが、証人池田茂の証言によると、右池田茂は、本件事故発生時甲車に同乗していた者であるほか、事故日の午前中甘木市までの往路は右池田が運転して行つたものであるところ、同人は左右前輪の直径が違うという感じは受けないまま安全に目的地まで運転できたことが認められ、被告広松本人の供述によると、同被告も甲車の左右前輪の直径の相違の事実を知らず、確かめないまま運転したこと、直径相違のことは本件事故の翌々日川浪から聞いて初めて知つたものであること、同被告も本件事故現場に至るまでは「片ぎき」など調子がおかしいという感じもなく運転してきたこと、同被告としては結局車輪の相違についてはわからないことが認められ、左右前輪の直径が相違していたとの前記証言はにわかに措信しがたい。仮に右相違がいくらかあつたとしても、前掲川浪証人の証言によるとその相違は極く僅かであることが認められ、本件事故発生の原因を成したものではないとみられる。

二  被告会社は、本件事故の発生につき乙車の運転者にも過失があつたから、原告の損害額の算定につき過失相殺されるべきである旨主張する。なるほど、被告会社のいうように、相手方に違反の状態があつても、事故発生の具体的危険があり、その回避の可能性があれば、結果発生を回避すべき義務が自動車運転者たるものに存することはいうまでもないが、本件についてみるに、原告本人尋問の結果によると本件事故直前の乙車の速度は時速約六〇キロメートルであつたこと及び証人古賀秀範の証言によれば同証人の前方約三〇メートルの距離になつたとき甲車が中央線を突破して来るのが見えたことがそれぞれ認められ、本件のごとき直線道路で右のごとき速度で進行している車両の運転者としては、右異常事態発生前においては対向車が中央線をこえて進出して来るかも知れないことまで予想すべき注意義務はないうえに、右の異常事態が発生した時点ではもはや結果回避の可能性はなかつたものと認められる。なお、仮に幾分か乙車運転者に過失があつたとしても、同人の過失をもつて原告に生じた損害につき過失相殺すべきではないものというべきである(好意同乗の場合にして同僚友人の関係にあつても、そのうちの一名について過失があるからといつてこれを「被害者側の過失」として他の被害者につき過失相殺の理論を適用することはできないであろうというのが多くの裁判例の示すところである)。

また、被告会社は、原告が衝突寸前に下を向いて乗車していたことにも原告に過失があると主張するけれども、乙車の助手席後部に座していた原告(このことは原告本人尋問の結果認められる)としては、その進行中或いは横を向くこともあれば或いは下を向くこともあることは別段異とするに足りない極めて自然のことに属し、本件事故の発生を何ら予見できなかつた原告が下を向いていたからといつて(そのため客観的には治療が長びいて損害が拡大したとしても)、そのことをもつて過失相殺するほどの落ち度ということはできないものというべきである。

三  そこで、進んで原告の損害について検討する。

(一)  慰藉料

証人吉村恭幸の証言によつて成立の認められる甲第三、第四号証、証人古賀豊の証言によつて成立の認められる甲第二、第五号証、右両証人の各証言、原告本人尋問の結果によれば、請求原因(三)の(1)の各事実が認められ、これを妨げる証拠はない。ところで、右認定のうち(b)の通院は六五〇日間ではあるが、実治療日数が一六日であることにかんがみ、慰藉料算定上はその通院期間を一〇ケ月間程度に相当するものとして計算することとし、入院期間をも含めた治療期間中の慰藉料としては傷害程の度をも考慮して金九〇万円をもつて相当と認め、後遺症に対する慰藉料としては、後遺症の内容・程度等並びに本件事故発生の時期等を考慮して金三五万円をもつて相当と認める。右慰藉料の合計額は金一二五万円である。

(二)  逸失利益

原告主張の逸失利益の主位的主張について判断するに、証人古賀豊の証言によつて成立の認められる甲第六ないし第一四号証、第一七ないし第二一号証、第二二号証の一、二、第二三ないし第二六号証、証人松枝弘の証言によつて成立の認められる甲第一五号証並びに右両証人の各証言及び原告本人尋問の結果によれば、原告が営んでいる木工業営業の本件事故前の実績、事故等の実績、事故後の純益の推定(ただし、その期間は昭和四三年五月一日から昭和四七年四月三〇日まで)は別紙逸失利益損益計算書(2)記載のとおりであり、且つ本件事故のため原告が右期間中損失を受けたものと認められ、右認定をくつがえすに足りる証拠はなく、しかるときは右期間の原告の営業の逸失利益は金三五六万九、五五三円である。

ところで、企業主が身体を侵害されたため、その企業に従事することができなくなつたことによつて生ずる財産上の損害額は、企業収益中に占める企業主の労務その他企業に対する個人的寄与に基づく収益部分の割合によつて算定すべきところ、現実的には被害者が事故前取得していた収益全額をもつて損害とすべきではなくして、事故後幾分でも営業収益があればこれを差引いた額と推定すべきものと解されるところ(最判昭和四三年八月二日集二二巻八号一五二五頁)、原告の計算方法による右損害額金三五六万九、五五三円は、右と同じ考え方に基づくものといえるから相当である。

四  逸失利益のうち、原告が昭和四七年一〇月一一日の第五回口頭弁論期日において請求拡張した拡張部分につき、被告会社は消滅時効を主張する。しかしながら、本件の審理の経過に徴すれば、原告は訴状において特に一部請求であることを明示して請求しているのではないので、右訴提起により本件事故に生じた損害賠償請求権の全体について時効中断の効力を生じたものと解すべきである。けだし、不法行為の結果発生すべき損害額というものは、当事者としても審理の途中でそれを確知できる場合が多いため、審理の過程で請求を拡張する場合のあることは当然であり、したがつて、訴状において原告が特に一部請求であることを明示していない限り、原告は(除外する旨明示した部分を除くほか)損害賠償請求権の全てを求める趣旨を暗に表示したものと解され、後に請求を拡張した部分についても、訴提起の時にすでに「裁判上の請求」がなされたものと解するのが相当である。よつて、被告会社の右主張は採用しない。

五  なお、ここで被告広松の消滅時効の主張について判断するに、被告広松本人尋問の結果によると、同被告の主張(事実欄第二の五)の前段の事実が認められるけれども、原告本人尋問の結果によれば原告の再抗弁事実(事実欄第二の六の3)が認められ、これに反する被告広松本人の供述部分は措信しがたく、他に右認定をくつがえすに足りる証拠はないから再抗弁は理由があり、結局被告広松の前記消滅時効の抗弁は理由がない。

六  今までに認定した原告の損害額すなわち慰藉料金一二五万円と逸失利益三五六万九、五五三円との合計は、金四八一万九、五五三円である。

七  損害の填補

原告が自賠責保険から金三一万円及び被告会社から金八三万六、〇〇〇円、合計金一一四万六、〇〇〇円の支払を受けたことは原告の自認するところ(被告らにおいても明らかに争わない)、これを七の金四八一万九、五五三円から差引くと、残額は金三六七万三、五五三円となる。

八  弁護士費用

原告が本件訴訟を提起後まもなく同訴訟の追行を原告代理人に委任したことは本件記録上明らかであり、その際その主張のごとき約定をなしたことは原告本人尋問の結果によつて認められ、証人古賀豊の証言によつて成立の認められる甲第二七号証及び右証言によつて認められる本件訴訟提起に至るまでの原告側と被告ら側との交渉の経過並びに前記八の認容額等を考慮し、本件において被告らに負担させるべき原告の弁護士費用は金三六万円をもつて相当と認める。前記金三六七万三、五五三円に金三六万円を加えると、金四〇三万三、五五三円となる。

一〇  以上のとおりであつて、原告の本訴請求は、右金四〇三万三、五五三円並びにその内金三六七万三、五五三円に対する本件事故日たる昭和四三年五月一一日から、内金一二万円に対する昭和四六年一〇月一日から、内金二四万円に対する昭和五一年一〇月二五日から各支払ずみに至るまで年五分の割合による金員の各自支払を被告らに対して求める限度で認容し、その余は失当としてこれを棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法九二条本文、仮執行の宣言及び同免脱の宣言につき同法一九六条を各適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 久保園忍)

逸失利益計算書 (1)

1 過去6ケ月間の純益(自42.11至43.4)

(1) 売上 2,630,500円

(2) 仕入 1,578,570円(注)

(3) 経費 250,377円

(4) 純益 801,553円

注 当期仕入は1,378,570円であるが、これに期首棚卸の40万円を加え、期末棚卸の20万円を減じたもの。

2 自43.5至45.3の推定と実績

1)推定<1> 過去6ケ月の純益801,553円の年間換算推定額1,603,106円

<2> 前期比当期推定上昇率10%

<3> 故に推定純益は

自43.5至44.4は

1,603,106円×1.1=1,763,416円

自44.5至45.3は

1,763,416×1.1×11/12=1,778,110円

合計 3,541,526円・・・・・・・A

2)実績

(1) 売上 7,908,130円

(2) 仕入 4,744,505円 (注)

(3) 経費 1,318,478円

(4) 純益 1,845,147円・・・・・・・B

注 当期仕入は4,765,505円であるが、これに期首棚卸の20万円を加え、期末棚卸の221,000円を減じたもの。

3 逸失利益(A―B)

3,541,526円-1,845,147円の 金1,696,379円

逸失利益計算書 (2)

Ⅰ 事故前の実績(自42.11至43.4) (注1)

1 売上 2,630,500円

2 仕入 1,578,570円 (注2)

3 経費 250,377円 (注3)

4 純益 801,553円・・・・・・・A

(注1) 原告は昭和42年5月から家具製造業を営んでいるが、昭和42年11月から実弟を従業員に雇傭し、経営規模が変つたので、同時点からの6ケ月間とした。

(注2) 当期の実際の仕入は、1,378,570円であるが、これに推定による期首棚卸の40万円を加え、同じく期末棚卸の20万円を減じて当期の仕入とした。なお、推定方法は(注3)と同じ。

(注3) 経費は、大川市の同規模同業者の経費率等により推定した。

Ⅱ 事故後の実績(自43.5至47.4)

1 売上 21,456,820円

2 仕入 12,346,401円 (注4)

3 経費 3,097,271円 (注5)

4 純益 6,013,148円・・・・・・・B

(注4) 当期の実際の仕入は、12,247,401円であるが、これに推定による期首棚卸20万円を加え、同じく期末棚卸の101,000円を減じて当期の仕入とした。なお、推定方法は(注3)と同じ。

(注5) 一部推定であり、推定方法は(注3)と同じ。

参考

<省略>

Ⅲ 事故後の純益の推定(自43.5至45.4)

1 事故前純益の年間換算額(42年)

A×2=1,603,106円

2 生産高の前年比平均上昇率 (注6)

<省略>

(注6) 大川市統計年報製造業業種別事業所数生産高(家庭用家具の部)の統計により、1事業所当りの生産額を算出し前年比を求め、小規模分はその0.8相当と推定した。

3 事故後の純益の推定

<省略>

推定純益の合計9,582,701円・・・・・・・C

Ⅳ 逸失利益(自43.5至47.4)

O―B即ち9,582,701円-6,013,148円=3,569,553円

計算書 (3)

Ⅰ 症状固定の日までの逸失分

1 事故前の実績(自42.11至43.4)

純益 801,553円(47.10.11付準備書面参照)

2 事故後の純益(自43.5至45.2)

(1) 自43.5至44.4分

3,346,050円-(2,132,021円+540,754円)=673,275円

(2) 自44.5至45.3月分

5,105,770円-(3,059,799円+840,861)×10/12=1,004,258円

(3) 合計 1,677,533円

3 事故前の実績にもとずく推定

<省略>

4 逸失額

2,939,027-1,677,533=1,261,494円

Ⅱ 後遺症喪失額

1 年純益 1,603,106円

2 喪失割合 12級 14%

3 本件事故日の年齢 27歳

4 就労可能年数 36年

5 同上新ホフマン係数 20.2745

∴ 1,603,106円×0.14×20.2745=4,550,304円

略図

<省略>

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